Advertisement第121回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第127巻第2号

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総説
精神保健における障害の社会モデルの重要性
熊谷 晋一郎
東京大学先端科学技術研究センター
精神神経学雑誌 127: 65-73, 2025
https://doi.org/10.57369/pnj.25-014
受付日:2024年3月30日
受理日:2024年9月17日

 障害を,少数派の心身の中に宿る特性を意味する機能障害と区別し,多数派向けに偏ってデザインされた社会によって機能障害を有する人々が被る不利益として認識する枠組みである「障害の社会モデル」は,社会の偏りを発見する概念装置として今なお有効である.特に,精神保健サービスを利用する人々の不利益を社会モデルに基づいて記述するためには,社会を構成する重要な公共財である言語さえもが多数派向けにできていることを意味する「解釈的不正義」や,偏見によって精神障害のある人々の証言が信用されないものとして無効化される「証言的不正義」の視点をもつ必要がある.これらの不正義を自伝的記憶研究に接続することで,マイノリティ-マジョリティ間の権力格差や不平等が,経験を語るという行為や,ウェルビーイングに与える影響を議論することができるとともに,解釈的不正義を是正するために,少数派が,自らの経験を表す独自の概念やフレーズを生み出し流通させる当事者研究のような活動が,社会正義,知の創造,個人のウェルビーイング向上という3つの意義を有することを理解できる.現状では,精神障害や発達障害に関する解釈資源の産出はいまだにその多くをアカデミアが独占している状況にあるが,今後は,当事者コミュニティと専門家コミュニティが,謙虚かつ対等に共同し,認識的コミュニティとしての包摂的なアカデミアの構築をめざして連携していく必要がある.

索引用語:障害の社会モデル, 解釈的不正義, 自伝的記憶, 認識的コミュニティ, 共同創造>
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