Advertisement第121回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第126巻第11号

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特集 次世代の精神医学研究のあり方―知の統合による課題解決に向けて―
精神疾患におけるシナプス病理の因果関係をマルチスケールに解明する
林(高木) 朗子
理化学研究所脳神経科学研究センター多階層精神疾患研究チーム
精神神経学雑誌 126: 724-730, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-117

 精神疾患の原因解明が困難をきわめているのは周知のとおりであるが,その大きな理由としては,患者サンプルを用いたナノスケールのゲノム解析と,これとは全く対極のマクロスケールであるfMRIなどの脳画像研究が二極化した状態で進行していること,さらに倫理的な制約から脳組織を生検などで直接検証することが通常は不可能であるためである.したがって,病態生理や治療標的の中核となりうるマイクロメートルスケール,すなわちシナプス・細胞レベルの病態を解明する手法がきわめて限られていた.一方で,精神疾患モデル動物や死後脳を用いた研究により,精神病態の責任となりうる候補因子,例えば,統合失調症におけるシナプス病理などが示唆されてきた.しかしながら,これら知見はまだ観察レベルの記述的記載の側面が強く,これらのナノ・マイクロレベルの階層が,より上位のマクロレベルの階層へ,いかなる相互作用を惹起しながら最終的に認知や行動の変容を引き起こすのか不明である.スケールが大きく異なる複数の相互作用が本質的に重要な役割を果たすことを「マルチスケール現象」と物理学では定義するが,高次脳機能はまさに本質的にマルチスケール現象であり,ナノスケールからマクロスケールまでの各階層が,原因であり結果でもある複合相関システムとして高次脳機能を実証しなければ,真の理解に到達することはできないと考えた.そこで,脳機能やその変容としての精神疾患に関して,階層を跨いだ因果関係の解明をめざしたマルチスケール精神疾患研究の有用性について概観する.

索引用語:マルチスケール, 因果関係, シナプス, 2光子励起顕微鏡, グルタミン酸シナプスアンケージング>
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