Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第124巻第5号

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特集 子どもの自殺を防ぐために精神科医ができること
子どもの自殺防止―自殺企図による救急受診後のケース・マネジメント介入について―
立花 良之1)2), 辻 聡3), 岩田 遼4)5), 河西 千秋6)
1)国立研究開発法人国立成育医療研究センターこころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科
2)信州大学医学部周産期のこころの医学講座
3)国立研究開発法人国立成育医療研究センター総合診療部救急診療科
4)国立研究開発法人国立精神神経・医療研究センター第一精神診療部
5)国立研究開発法人国立精神神経・医療研究センター精神保健研究所児童・予防精神医学研究部
6)札幌医科大学医学部神経精神医学講座
精神神経学雑誌 124: 315-322, 2022

 小児救急において自殺念慮を有する患者が受診したり,自殺企図後の患者が搬送されたりすることがあるが,そのような患者への対応のシステムは確立していない.本稿では,自殺企図による救急受診後のケース・マネジメント介入のあり方について考察する.まず,国立成育医療研究センターで自殺念慮・自殺企図のために救急診療部を受診した患者14例についてケース・マネジメント介入の観点から検討した.これら14例では,他院で加療を受けている場合を除いて継続支援が行われたが,受診後6ヵ月間の自殺企図による同院の受診はなかった.児童精神科領域でもケース・マネジメント介入による継続支援を行うことで,自殺再企図防止に有効である可能性が考えられる.次に,国内外の自殺企図者に対するケース・マネジメント介入についてのランダム化比較対照試験を取り上げ考察した.ケース・マネジメント介入が自殺再企図率を下げることについては,研究によって有効性の有無に違いがあり,一貫していない.一方で,フォローアップ率や精神症状の改善には有効性が示されており,児童・思春期の自殺念慮・自殺企図症例への介入を考えるうえでこれらをアウトカムとして留意するとよいと考えられる.ケース・マネジメント介入において医療関係者が社会資源を導入して子どもや家族をサポートするために,連携する教育・保健・福祉の相談窓口を把握しておくことは大切である.医療機関が関係機関と連絡調整を行う場合,当該ケースについてどの機関がイニシアチブをとり,どの機関にどのような役割を担ってもらうことを期待するか,ある程度の方向づけについて相談するとよい.子どもの自殺防止のために,自殺企図による救急受診後のケース・マネジメント介入を行ううえで,教育・保健・福祉・医療が連携して子どもや家族をサポートすることが重要と考えられる.

索引用語:自殺予防, 救急医療, 救急治療室, ケース・マネジメント, 多職種連携>

はじめに
 小児救急において自殺念慮を有する患者が受診したり,自殺企図後の患者が搬送されたりすることがある.自殺完遂の一番のリスクは自殺企図歴とされ,自殺再企図防止は自殺対策上重要である4).とりわけ救急現場は自殺再企図防止を行うための介入を行う機会を有しており,自殺予防のために重要な場所であるとされている12).しかし小児領域で,自殺念慮や自殺企図のために救急医療を受診した患者への対応のシステムは確立していない.本稿では,まず,国立成育医療研究センターの救急外来を自殺念慮・自殺企図で受診した患者の実態を取り上げる.また,児童・思春期の自殺企図者へケース・マネジメント介入を行っている海外の研究を紹介し,日本の救急医療における適用の可能性について検討する.さらに,児童・思春期の自殺防止のための救急医療と精神科医療や地域関係機関の連携について検討する.

I.国立成育医療研究センターの救急医療における自殺念慮・自殺企図による受診の実態
 小児病院救急を自殺念慮や自殺企図で受診した患者の実態を把握することを目的とした調査を行った.国立成育医療研究センター救急外来を2017(平成29)年1月1日から2019(令和元)年12月31日までに受診した患者のなかで,自殺もしくは自殺念慮に関する評価判断が行われた事例について,電子カルテで後方視的に検討した.本研究実施にあたり,同センター研究倫理審査委員会の承認を得た.本実態調査は,別論文で報告しているので,詳細はそちらを参照されたい19).本稿では,その概要についての言及にとどめる.
 対象となったのは14例(男児3例,女児11例)で,年齢中央値は15歳(4分位範囲12.8~17歳)であった(表1).14例中8例に精神科通院歴(うち国立成育医療センター通院歴が6例)があり,6例は精神科通院歴がなかった.自殺企図での受診後,精神科受診歴のない症例については,国立成育医療研究センターこころの診療部でフォローアップされた.受診動機は過量内服が6例,自傷行為が2例で,他に自殺念慮を伴うパニック発作と解離症状が各1例,縊頸が2例であった.転帰として死亡事例はなく,縊頸の1例のみで心肺蘇生後の全身管理を要した.今回の国立成育医療研究センターを受診した自殺企図・自殺念慮の14例では,他院で加療を受けている場合を除いて継続支援が行われた.その結果,受診後6ヵ月間の自殺企図による同院の受診はなかった.受診後6ヵ月間の自殺企図による他院の受診については調査していない.
 自殺者の約90%に何らかの精神疾患を認めるという報告がある3)5)が,今回の国立成育医療研究センターの調査でも全例が精神疾患を有していると考えられた.それら精神的問題を背景とした自殺念慮・自殺企図などでの救急医療受診は,自殺再企図防止のための介入の起点となりうる1)11).国立成育医療研究センターでは,自殺念慮・自殺企図で患者が救急受診した際,救急医が身体評価を行い,そこで身体的に問題がなく精神科対応が必要とされた場合に児童精神科医が対応する.児童精神科医は心理的危機介入を行い,さらに,適宜他機関と連携して社会資源を導入しつつフォローアップしている.河西らの行った「自殺対策のための戦略研究(ACTION-J)」では,成人の自殺企図者に対しケース・マネジメント介入を行うことで自殺企図後6ヵ月間の再企図を防ぐことの有効性が実証されている7).本研究では救急受診後6ヵ月間の自殺企図による他院の受診の有無については調べていないものの,今回の国立成育医療研究センターを受診した自殺企図・自殺念慮の14例では,他院で加療を受けている場合を除いて,継続支援を行ったことで受診後6ヵ月間の自殺企図による同院の受診はなかったことから,児童精神科領域でもケース・マネジメント介入による継続支援を行うことで,自殺再企図防止に有効である可能性が示唆される.
 また,一医療機関の精神科だけで未遂者継続支援を行うことには限界があり,院内・院外の多職種チームで未遂者ケアを行う地域の体制づくりが必要であると考えられる.海外では,児童・思春期領域で,ケース・マネジメント介入の手法を用いた自殺予防研究が行われているので,次項で考察することとする.

表1画像拡大

II.小児領域での自殺再企図防止のケース・マネジメント介入―国内外の介入研究の知見より―
 ケース・マネジメントとは,当事者の個別性に合わせて行われるケアである.前述のACTION―Jでは救急医療現場で自殺未遂者に対し心理的危機介入をし,精神医学的なアセスメントを実施した後に,それを踏まえてケース・マネジメントを継続することで,自殺再企図や自傷行為を一定期間抑止するのに有効であることが科学的に実証されている6)7).ACTION―J介入モデルにおけるケース・マネジメントは,以下の要素から成り立つ.
 (i)適切なコミュニケーション法を用いた心理的危機介入
 (ii)正確な精神医学的評価と心理社会的評価(自殺念慮の確認を含む)
 (iii)(ii)に基づく心理教育
 (iv)精神科医療へのアドヒアランスを軸とする,患者の個別性に配慮した継続的なケース・マネジメント
 ケース・マネジメント介入については,母子保健の領域でも有効性が示されている17)18).海外では児童・思春期の自殺再企図防止のためのケース・マネジメントについてのさまざまな介入研究が行われているが,ここでは,そのなかでエビデンスレベルの高いランダム化比較対照試験の研究を取り上げ,日本の救急医療におけるケース・マネジメント介入の適用について考察する.
 Spirito, A.らは,治療コンプライアンスを強化するような介入(standard disposition planning plus compliance)を,従来の治療(standard disposition planning)と比較した15).この研究で,介入群は従来の精神科入院治療を受けて退院後,外来治療のなかで,1・2・4・8週後にケース・マネージャーが電話でコンタクトした.電話による支援活動は構造化されていて,サポートを提供し,問題解決を促し,ケアを受けることに対する障壁を取り除く手助けをする内容であった.それに加え,適宜,情報提供や,感情表出の促し,必要に応じた問題解決のための対応方法の提供,問題に対する認知再構成,援助希求へのサポートの介入があった.3ヵ月後のフォローアップ率の効果はみられなかったものの,コミュニティサービスの受療率の共変を調整した結果,フォローアップ率の向上効果を示した.
 Asarnow, J. R.らは,フォローアップ治療の動機づけのために家族に対する心理的危機介入のセッションと退院後の電話によるフォローアップを行った(family intervention for suicide prevention:FISP)2).心理的危機介入のセッションでは,自殺企図が子どもにとってのSOSであるという認知再構成を行い,外来での精神科治療の重要性を伝え,危険行動につながるような手段を遠ざけること,今後危機的状況に陥った際には安全な対処手段を用いることを約束してもらった.また,家族のサポートを強め,「つらさと支障の寒暖計」を用いて自殺につながるような引き金となるものが何かを話し合い,危機的な状況で「つらさと支障の寒暖計」の温度が下がるような安全な対処法を考え,実行した.また,「安全な対処法カード」をつくり,危機的状況の際に本人がそれをみて安全な対処法を実行するためのリマインダーとして利用した.このプログラムは,外来治療コンプライアンスの向上効果を示した.
 Morthorst, B.らは,自殺企図後の積極的なアウトリーチの介入が従来治療に比べ,自殺関連行動の頻度を減らす効果があるかどうかを検証した.介入群のプログラムでは,自殺企図児に対し心理的危機介入を行い柔軟な問題解決を支援し,積極的なアウトリーチを行った12).アウトリーチのなかでは,治療への動機づけを行うようなサポートと,外来予約受診を積極的にサポートし,救急対応後の治療コンプライアンスを行った.この介入では,従来の治療に加え,6ヵ月以上の間,専門看護師(ケース・マネージャー)による8~20回もの柔軟なアウトリーチによる相談が行われた.相談は,患者の希望により自宅かカフェで,関係支援者と適宜一緒に行われた.ケース・マネージャーは家族の相談にも対応し,また,その他の支援者も相談対応に加えることを提案した.このプログラムでは自殺再企図率を低下させる効果は示されなかった.
 Rengasamy, M.らは,自殺企図で児童思春期精神科病棟に入院した児童に対し,退院後,電話による介入を行った13).介入群は,ケース・マネージャーが退院1・7・14・30・60・90日後に10~20分ほど本人と保護者に電話をかけた.保護者への電話は一般的に自殺再企図への心配やフォローアップ治療への心配についての相談であった.本人への介入は,質問票(コロンビア自殺重症度評価スケール)を用いた自殺念慮の評価と自殺念慮が強まったときの安全な対処法についての話し合いであった.さらに,安全な対処法を自分で実行できるかどうかに関する本人の自信,短期的・長期的なゴール,介入に対し役立っていると思えているかどうか,生きることを選ぶ力を評価した.また,本人・保護者に対し,生活全体の健康度,薬物療法や銃器の安全,介入が役立っていると思えているかを評価した.プログラムにより,90日後の自殺行動の低下や,安全な対処法を実行できるという本人の自信が向上した.
 以上,いくつかのランダム化比較対照試験を紹介したが,ケース・マネジメント介入が自殺再企図率を下げることについては,研究によって有効性の有無に違いがあり,一貫していない.一方で,フォローアップ率や精神症状の改善には有効性が示されている.自殺再企図防止の観点でも治療コンプライアンスの向上やメンタルヘルスの改善は重要であり,それらに留意して,自殺企図のあった子どもをフォローアップしていくことは重要と考えられる.上記の介入プログラムでは,いずれも自施設・地域の社会資源でフォローアップを行っている.ケース・マネジメントにおいては,社会資源を適宜導入しつつフォローアップすることになるが,自施設に児童精神科医・臨床心理士・ソーシャルワーカーなどのスタッフがおらず,ケース・マネジメント対応が難しいこともあろう.自施設にそのような社会資源がない場合に地域の社会資源を使って,自殺再企図防止のために地域と連携してどのように対応するかについて次項で考察する.

III.児童・思春期患者の自殺再企図防止のための救急医療と精神科医療や地域関係機関の連携
1.児童・思春期の自殺念慮・自殺企図のケアにおける問題点
 児童・思春期患者の自殺再企図防止のための救急医療と精神科医療や地域関係機関の連携を考えるうえで,まず,子どもの自殺未遂者ケアの問題点について考察する.一般の救急医療機関に搬送されると,身体的対応のみが行われ,その後の心理社会的なケアがあまりなされないまま帰宅となってしまうことがある.また,救急医療を行う施設内で児童精神科対応のできる医療機関が少ない.児童精神科がない医療機関で対応した場合,その後の未遂者継続支援として,ソーシャルワーカーが近隣の児童精神科医療機関を探すことが望ましい.しかし,児童精神科医療機関の新患予約がとりづらく,フォローに結びつけることが困難であるというのが現実である.また,ソーシャルワーカーがいない医療機関もあり,救急担当医や看護師が児童精神科医療機関を探すのは困難である.地域の自殺未遂者対策を行っている市町村の保健師などがソーシャルワークを行うのが望ましいが,そのような体制は未整備な地域が多い.院内・院外の「つなぐ人」,そして,つないだ先の受け皿の社会資源の問題はあるが,地域の実情に合わせて,使える社会資源を最大限活用して,子どもやその家族をサポートすることが望まれる.

2.自殺再企図防止のためのケース・マネジメント介入
 児童・思春期患者の自殺再企図防止のための救急医療と精神科医療の連携について,ケース・マネジメント介入の観点で検討する.前記ACTION―Jにおけるケース・マネジメント介入では,自殺企図患者の心理的危機介入については救急搬送された医療機関のスタッフが行っている.さらに,精神医学的評価を行うが,その医療機関に精神科があれば,精神科スタッフが行うことになるであろう.その際に,自殺念慮の危険性,心理社会的状況(家族状況,学校での状況)などを評価する.また,相談機関への相談状況,医療サービスの受療状況を確認することも重要である.
 自殺再企図防止のために,心理社会面の評価として,危険因子・保護因子を同定し,危険因子については減らす・弱める,保護因子については増やす・強めることが重要とされている8).児童・思春期における自殺の危険因子・保護因子としては,表2のようなものが挙げられている8).さらに,自殺再企図防止のための心理教育を行うことも重要である10).ケース・マネジメント介入については,コメディカルスタッフが対応できるようであれば,ケース・マネージャーとなり社会資源の導入やフォローアップを行う.そのようなコメディカルスタッフがいない場合,担当医が外来フォローアップに加えてケース・マネジメントを行うとよい.
 児童・思春期領域のケース・マネジメント介入において,上記保護因子を増やす・強化する観点から,教育・保健・福祉などとの連携が重要である.このなかで,家族との関係はリスク因子とも保護因子ともなりうるため,家族への介入はきわめて重要である14)16).また,危険因子として,学校での友人関係の悩み,いじめ,学業の問題がある.それらに医療が介入することはできないため,教育との連携が重要となる.

3.ケース・マネジメント介入における教育・保健・福祉との連携
 ケース・マネジメント介入において医療関係者が社会資源を導入して子どもや家族をサポートするために,連携する教育・保健・福祉の相談窓口を把握しておくことは大切である.救急現場を起点としたケース・マネジメント介入では,のように地域の教育・保健・福祉と医療が連携することが重要と考えられる.以下に,それらの連携における相談窓口について述べる.
 教育との連携では,窓口となる副校長と連絡をとるとよい.このような場合には学校側に組織として対応してもらうことが重要であり,患者と個別に対応している担任や養護教諭などにまず連絡すると,組織としての学校対応が後手に回ることがありうる.副校長とコンタクトをとることで,その後の学校内関係者との連携がスムーズになると考えられる.
 保健との連携では,地域自治体保健センターの地区担当または精神担当の保健師や,子育て家庭総合支援拠点の子ども家庭支援員・心理担当支援員・保健師などと連絡をとるとよい.自殺対策基本法により都道府県・市町村においてそれぞれ都道府県自殺対策計画・市区町村自殺対策計画を定めることが義務化されている.しかし,地域連携のあり方は地域に設置されている社会資源によって異なる.基本的に市区町村保健センターが未遂者ケアの継続支援についても対応することになっているが,地域の保健体制によってどの部署が対応するか違うのが実情である.地区担当保健師・精神担当の保健師が担当する場合もあれば,子ども家庭総合支援拠点の子ども家庭支援員や心理担当支援員が担当となる場合もありうる.医療機関として保健センターとの連携をとるうえで,まずは,地域の保健センターや子ども家庭総合支援拠点に連絡をとり,対応する部署が違えば,どこに連絡するとよいかを聞いたうえで,その部署の担当者と相談するとよいであろう.管内のエリアマネージャーとして市区町村の地域自殺対策計画の策定・進捗管理・検証などを支援している地域自殺対策推進センターは,その地域の自殺防止対応の社会資源を把握している.同センターと連携しながら管内の地域保健と協働することも有益であろう.
 児童福祉の観点からは,児童虐待があれば児童相談所との連携が必要となる.児童相談所の機能は養護相談・保健相談・心身障害相談・非行相談・育成相談の5つに大別される9)が,「子どもの自殺防止の相談」が想定されていない.しかし,地域で子どもの安全を守る最後の砦のような役割を担っており,家庭の深刻な問題ゆえに自殺再企図が懸念されるような場合は,児童相談所との連携が必要な場合がありうる.過酷な小児逆境体験をもつ多くの児童を児童相談所は支援しているが,小児逆境体験は自殺ハイリスクとなることが明らかとなっている20).児童相談所は虐待対応業務で逼迫している現状はあるものの,自殺念慮をもつ児童のサポートのために,児童相談所が「子どもの自殺予防対応」を相談機能業務のなかに含むことが望まれる.

4.多職種連携の際の役割分担
 医療機関が関係機関と連絡調整を行う場合,当該ケースについてどの機関がイニシアチブをとり,どの機関にどのような役割を担ってもらうことを期待するか,ある程度の方向づけについて相談するとよい.医療機関と教育・保健・福祉機関で意見の相違もありうるが,関係機関が早い段階で役割意識をもつことで,ケースが関係機関の隙間に落ちたり,責任の所在が曖昧になったりすることを防げる.そのような場合,主担当機関がどこになるかを相談し,かかわる機関が共通認識に基づいて連携をとり本人・家族をサポートすることが重要である.

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おわりに
 本稿では,子どもの自殺対策について小児救急を起点として地域の関係機関が連携して子どもをサポートする体制について考察した.成人の自殺対策と同様に,児童・思春期領域でも自殺念慮・自殺企図症例に対しては,ケース・マネジメント介入による継続支援を行うことが自殺再企図防止に有効となる可能性がある.救急現場を起点とする子どもの自殺再企図防止において,ケース・マネジメント介入では,心理的危機介入・精神医学的評価・心理教育までは成人とほぼ同じであるものの,社会資源を適宜導入する部分は小児の特殊性に留意し,教育・保健・福祉などとの連携に留意することが重要と考えられる.児童・思春期領域のケース・マネジメント介入では,多機関がかかわるゆえの難しさがあり,今後,教育・保健・福祉・医療が連携した地域の子どもの自殺防止対策の仕組みの確立が望まれる.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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2) Asarnow, J. R., Hughes, J. L., Babeva, K, N., et al.: Cognitive-behavioral family treatment for suicide attempt prevention: a randomized controlled trial. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry, 56 (6); 506-514, 2017
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3) 飛鳥井 望: 自殺の危険因子としての精神障害―生命的危険度の高い企図手段を用いた自殺失敗者の診断学的検討―. 精神経誌, 96; 415-443, 1994

4) Bostwick, J, M., Pabbati, C., Geske, J. R., et al.: Suicide attempt as a risk factor for completed suicide: even more lethal than we knew. Am J Psychiatry, 173 (11); 1094-1100, 2016
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18) Tachibana, Y., Koizumi, N., Mikami, M., et al.: An integrated community mental healthcare program to reduce suicidal ideation and improve maternal mental health during the postnatal period: the findings from the Nagano trial. BMC Psychiatry, 20 (1); 389, 2020
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19) 辻 聡, 立花良之, 窪田 満: 小児期自殺企図事例の検討. 日本小児救急医学会雑誌, 21 (1); 8-12, 2022

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