Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第124巻第9号

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連載 ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ
カタトニア
針間 博彦
東京都立松沢病院
精神神経学雑誌 124: 649-650, 2022

 ICD-112)ではDSM-51)と同様に,「カタトニア(Catatonia)」というカテゴリーが新設されている.この語は従来「緊張病」と訳されたが,現在はKaulbaum, K.が疾患単位として提唱したKatatonieとは異なり,状態像ないし症候群を示すことから,「カタトニア」という訳語が提出されている.このカテゴリーはDSM-5では「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」内に位置づけられているが,ICD-11では「統合失調症又は他の一次性精神症群」から独立した別の群をなしている.

1.定義と要件
 「カタトニア」は「一次的に精神運動性の諸障害からなる症候群」と定義され,精神運動活動性の低下(凝視,両価傾向,拒絶症,昏迷,無言症),亢進(理由のない極度の過活動または焦燥,衝動性,戦闘性),異常(しかめ顏,衒奇症,常同姿勢,硬直,反響現象,語唱,蝋屈症,カタレプシー)のうち,複数の症状が同時に出現することによって特徴づけられる.「カタトニア」の診断は,これらの症状のうち3項目以上の存在が要件である(精神運動活動性の亢進の症状は,複数あっても1つと数える).神経系の疾患による一次性の運動障害によって十分に説明されるものは,除外される.

2.分類
 「カタトニア」の群には,「6A40 他の精神の疾患に関連するカタトニア(Catatonia Associated with Another Mental Disorder)」「6A41 物質又は医薬品誘発性カタトニア(Catatonia Induced by Substances or Medications)」「6E69 二次性カタトニア症候群(Secondary Catatonia Syndrome)」「6A4Z カタトニア,特定不能(Catatonia,unspecified)」が含まれる.DSM-5との対応を表に示す.これらの診断は,残遺カテゴリーである「カタトニア,特定不能」を除けば,単独に用いられるのではなく,関連する,あるいは原因となる他の診断に併記して用いられる.すなわち,「他の精神の疾患に関連するカタトニア」は,統合失調症又は他の一次性精神症,気分症,神経発達症,特に自閉スペクトラム症など,他の精神の疾患を背景にして生じる場合に用いられる.「物質又は医薬品誘発性カタトニア」は,精神作用物質(フェンシクリジン,大麻,メスカリンやLSDなどの幻覚薬,コカイン,MDMA又は関連薬物など)による中毒や離脱の間やその後まもなく,または医薬品(抗精神病薬,ベンゾジアゼピン,ステロイド,ジスルフィラム,シプロフロキサシンなど)の使用中に生じる場合に用いられる.「二次性カタトニア症候群」は,「精神,行動又は精神発達の疾患群」に分類されない医学的状態(糖尿病性ケトアシドーシス,高カルシウム血症,肝性脳症,ホモシスチン尿症,新生物,頭部外傷,脳血管疾患,脳炎など)の直接の病態生理学的結果として生じる場合に用いられる.「二次性カタトニア症候群」のプライマリーペアレントは「他に分類される障害又は疾患に関連する二次性精神又は行動の症候群」であり,ここではセカンダリーペアレントである.この扱いはDSM-5とは異なる().

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3.特定用語
 併存する医学的状態によって十分に説明されない自律神経異常に対して,特定用語として次の症状コードを用いることが推奨されている:「MG26 他の原因による熱又は不明熱」「MG28 環境の低い温度に関連しない低体温」「MC80.0 高血圧の診断を伴わない血圧値の上昇」「MC80.1 非特異的な低い血圧値」「MC81.0 頻脈,特定不能」「MC81.1 徐脈,特定不能」.これらの症状が存在する場合,神経遮断薬悪性症候群やセロトニン症候群との鑑別が必要である.

4.カタトニア症状の扱い
 「カタトニア」の要件を満たすか否かにかかわらず,個別のカタトニア症状(catatonic symptoms)は,「統合失調症」の診断要件の1項目として,また「一次性精神症における精神運動症状」の一部としても取り扱われる.
 統合失調症の診断要件となる7つの症状項目のうち,1つは「カタトニア性の落ち着きのなさまたは焦燥,常同姿勢,蝋屈症,拒絶症,無言症,昏迷などの精神運動障害」である.「統合失調症」と「カタトニア」の両方の診断要件を満たす場合,「統合失調症」と「他の精神の疾患に関連するカタトニア」の診断が併記される.すなわち,この場合に限ってカタトニア症状は2つの診断の要件として用いられる.
 ICD-11ではDSM-5と同様に,「統合失調症又は他の一次性精神症」と診断される人の現在(最近1週間)の臨床症状を示すために,「一次性精神症の臨床症状(Symptomatic manifestations of primary psychotic disorders)」という特定用語尺度が用意されている.これは陽性症状,陰性症状,抑うつ気分症状,躁気分症状,精神運動症状,認知症状という6つの領域について,それぞれの重症度をコードするものである.そのうち「一次性精神症における精神運動症状」には,(i)通常は無目的な行動として表れる精神運動性焦燥または過度の運動活動性,(ii)精神運動性制止または運動と発話の全般的緩慢化,(iii)興奮,常同姿勢,蝋屈症,拒絶症,無言症または昏迷など,カタトニア症状が含まれている.
 したがって,カタトニア症状がみられる場合,ICD-11では「統合失調症」あるいは他の診断の要件を満たすかというカテゴリー診断,「カタトニア」の要件を満たすかという状態像診断,および「一次性精神症における精神運動症状」を用いたカタトニア症状の重症度評価という3つの水準での診断が行われることになる.

 なお, 本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). American Psychiatric Publishing, Arlington, 2013 (日本精神神経学会 日本語版用語監修, 髙橋三郎, 大野 裕監訳: DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014)

2) World Health Organization: ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics, Version: 02/2022. (https://icd.who.int/browse11/l-m/en) (参照2022-06-21)

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