Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第124巻第11号

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連載 ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ
PMDD in ICD-11
山田 和男
東北医科薬科大学病院精神科
精神神経学雑誌 124: 815-816, 2022

 月経前不快気分症/月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder:PMDD)が,『精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)』で正式に採用になったのは第5版(DSM-5)(2013年)1)からである.しかし,すでにDSM-III-R(1987年)において,DSM-III(1980年)に入れるように提案されていた診断として,「黄体期後期の不機嫌性障害(late luteal phase dysphoric disorder:LLPDD)」という診断名と診断基準が,巻末の「付録A」の「提案中の診断カテゴリーで今後の研究を要するもの」として掲載されていた3).LLPDDは,DSM-IV(1994年)においてはPMDDと改称され,「特定不能のうつ病性障害」の1つに分類された.また,診断基準にあたる研究用基準案が,巻末の「付録B」の「今後の研究のための基準案と軸」に掲載されたが,正式な採用には至っていなかった3)
 『国際疾病分類(International Classification of Diseases)』では,少なくとも前版である第10版(ICD-10)(1992年)の第V章「精神および行動の障害」には,LLPDDやPMDDに該当すると思われる疾患名は見あたらない.ただし,ICD-10の「反復性短期うつ病性障害(F38.10)」の鑑別診断の項に,「もし,うつ病エピソードが月経周期に関連してのみ起こるのであれば,その基礎にある原因のための二次コード(N94.8“女性の生殖期と月経周期に関連した他の特殊な状態”)とともに,“他の特定の気分(感情)障害(F38.8)”を用いるべきである」という記載がある3).しかし,女性の生殖期と月経周期に関連した他の特殊な状態と他の特定の気分(感情)障害を併記したものが,PMDDをさしているのか否かは定かではない3).また,第章の「腎尿路生殖器系の疾患」に,「月経前緊張症候群(N94.3)」という疾患名があり,PMDDもここに含めていたのかもしれない3)
 ICD-112)においては,PMDD(「月経前不快気分障害」と訳される予定)という疾患名が新たに追加された.これにより,PMDDをどこに分類するのかというICD-10以前の問題は解消した.この点は慶賀すべきことであろう.なお,PMDDがICD-11のどこに分類されているかというと,プライマリー・ペアレントは第6章の「精神,行動又は神経発達の疾患群」ではなく,16章の「尿路性器系の疾患」である.ICD-11のホームページ2)をみると,混合抑うつ不安症(6A73)の下に薄い字でPMDDが配置されており,一見,PMDDは抑うつ症群の1つのようである.しかし,PMDDに付与されたコードは「GA34.41」であり,プライマリー・ペアレントは月経前の障害(GA34.4)で,抑うつ症群はセカンダリー・ペアレントとなっている.すなわちPMDDは,月経前緊張症候群(GA34.40)とともに,月経前の障害の下位分類であり,ICD-11においてPMDDは,精神の疾患ではなく,尿路性器系疾患(いわゆる婦人科疾患)と認識されていると考えられる.
 疾患概念に関していえば,ICD-112)のPMDDの項の説明を読む限りでは,DSM-51)のPMDDとほぼ同一であると思われる.診断基準の内容もまた,DSM-5を意識した内容(過去1年間のほとんどの月経周期での存在や,2回以上の前方視的記録の必要性の件も同じ)であり,ICD-11のPMDDとDSM-5のPMDDは,ほぼ同一のものと考えてよいであろう.
 ICD-112)では鑑別疾患として,月経前緊張症候群,月経困難症,ホルモンの効果を挙げているが,DSM-51)においても,月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS),月経困難症,双極性障害,うつ病,および持続性抑うつ障害(気分変調症),ホルモン療法の使用を挙げており,双極性障害,うつ病,および持続性抑うつ障害(気分変調症)を除けば,まったく一致している.
 ちなみに,ICD-112)で近接する疾患としてPMDDに並んで挙げられている「月経前緊張症候群(Premenstrual Tension Syndrome)」であるが,現在,世界的にこの用語は(医学的にも一般にも)ほとんど用いられていない(PMSが一般的である)3).ICD-10との連続性や整合性をとるためにこの死語を残したのかもしれないが,ここはPMSにできなかったものかと,個人的には思っている.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). American Psychiatric Publishing, Arlington, 2013 (日本精神神経学会 日本語版用語監修, 髙橋三郎, 大野 裕監訳: DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014)

2) World Health Organization: ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics (https://icd.who.int/browse11/l-m/en) (参照2022-05-17)

3) 山田和男: 月経前不快気分障害 (PMDD)―エビデンスとエクスペリエンス―. 星和書店, 東京, 2017

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