Advertisement第117回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第123巻第8号

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連載 ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ
各論⑤
身体的苦痛症または身体的体験症群
山田 和男
東北医科薬科大学病院精神科
精神神経学雑誌 123: 515-520, 2021

 「身体的苦痛症または身体的体験症群」は,患者の身体面における障害を経験することによって特徴づけられる疾患群である.身体的苦痛症または身体的体験症群は,その下位疾患として,「身体的苦痛症」「身体完全性違和」「身体的苦痛症または身体的体験症,他の特定される」「身体的苦痛症または身体的体験症,特定不能」に分類される.身体的苦痛症は,患者が苦痛を感じ,過度の注意が向けられる身体症状を伴う.身体的苦痛症は,ICD-10の身体表現性障害に対応するものと考えられる.しかし,身体的苦痛症を診断するさいには,身体化症状の存在の有無ではなく,患者の身体症状に過度の注意が向けられていることに重点をおく点が,身体表現性障害とは異なる.身体完全性違和は,持続性の不快感を伴うある特定の身体障害をもちたいという欲求,または身体障害のない現状の身体構造に関連する強い不適切感を特徴とした疾患である.ICD-11で新設された,ICD-10にもDSM-5にもない疾患概念である.

索引用語:身体的苦痛症または身体的体験症群, 身体的苦痛症, 身体完全性違和, 身体表現性障害, 身体症状症>

はじめに
 ICD-114)「精神,行動,神経発達の疾患」の各章の疾患分類や疾患名の多くが,ICD-103)のそれらを踏襲している(一部に,新たな診断名を追加している)のに対し,本章の疾患群(「身体的苦痛症または身体的体験症群」)における診断名は,ICD-10とICD-11との間に大きな隔たりを認める.また,ICD-11の他の章における診断名は,DSM-51)の影響を色濃く受けていると思われるのに対して,身体的苦痛症または身体的体験症群の下位診断名はDSM-5のそれと異なっている.
 ICD-11の身体的苦痛症または身体的体験症群の下位診断名である「身体的苦痛症」は,ICD-103)の「身体表現性障害」を踏襲する疾患カテゴリーであると考えられる.しかし,両者の最も大きな違いは,身体表現性障害の主な病像であった「所見は陰性が続き症状にはいかなる身体的基盤もない」という条件が,身体的苦痛症では必須ではないという点であろう.DSM-51)では,「身体症状症」が身体的苦痛症とほぼ同義と考えてよいと思われるが,診断をするさいの持続期間(身体的苦痛症は3ヵ月以上,身体症状症は6ヵ月以上)などに若干の相違がみられる.身体的苦痛症または身体的体験症群のもう1つの下位診断名である「身体完全性違和」は,ICD-10,DSM-5のいずれにも,該当すると思われる独立した診断名は見あたらないことから,ICD-11において新設された疾患概念であると考えられる.

I.身体的苦痛症または身体的体験症群に含まれる疾患
 身体的苦痛症または身体的体験症群(Disorders of bodily distress or bodily experience)は,患者の身体面における障害を経験することによって特徴づけられる疾患カテゴリーである.
 解離性神経学的症状症(Dissociative neurological symptom disorder)と体の外見に関する懸念(Concern about body appearance)は,身体的苦痛症または身体的体験症群から除外される(除外診断).
 身体的苦痛症または身体的体験症群は,その下位疾患として,身体的苦痛症(Bodily distress disorder),身体完全性違和(Body integrity dysphoria),「身体的苦痛症または身体的体験症,他の特定される(Other specified disorder of bodily distress or bodily experience)」に分類される(表1).また,身体的苦痛症は,さらに「軽度(Mild)」「中等度(Moderate)」「重度(Severe)」に分類される(表1).

1.身体的苦痛症(6C20)
 身体的苦痛症(Bodily distress disorder)は,患者が苦痛を感じ,過度の注意が向けられる身体症状を伴うという特徴をもつ疾患である.
 診断に必須の特徴としては,本人にとって苦痛に感じられる複数(典型的)または単一(痛み,疲労であることが多い)の身体症状が出現していること,過度の注意がその症状に向けられていること,その注意は適切な症状への情報提供や医療者による保証によっても軽減されないこと,身体症状が持続する(例えば,3ヵ月以上)ことが挙げられている.
 過度の注意には,症状の重症度やそれらの否定的な結果への固執を含み,医療的に必要とみなされる範囲をはるかに超えて,身体症状に関連する医療機関を何度も受診する行為に表れることがある.症状を引き起こしたり,寄与したりしうる身体疾患(医学的状態)がすでに確定している場合には,症状に向けられる注意の程度が,その身体疾患の性質や重症度に鑑みて明らかに過剰となる.
 また,ICD-114)では,身体的苦痛症を軽度,中等度,重度の3つの重症度に分ける.いずれも,身体的苦痛症の診断に必須の特徴がすべて存在することが条件である.
 軽度では,身体症状やその結果に向ける注意は過度であり,そのために頻回に医療機関を受診しているかもしれないが,症状にとらわれてはいない.目安として,症状に集中する時間は1日1~2時間を超えない.また,社会機能には著しい機能障害は認められない.中等度では,とらわれが持続(症状に集中する時間が1日数時間)しており,中等度の社会機能障害をもたらしている.重度では,医療機関への受診が患者の生活の中心となり,身体症状やその否定的な結果がほぼ唯一の関心事となる.また,就労できない,友人・家族と疎遠になる,対人交流や余暇活動をやめてしまうなどの,重大な社会機能の障害を認める.
 ICD-11の診断ガイドラインには,身体的苦痛症の付加的特徴として,以下のことが書かれている.
 身体的苦痛症に関連して最もよくみられる身体症状は,痛み(例えば,筋骨格痛,腰痛,頭痛),疲労,胃腸および呼吸器症状であるが,それ以外のどのような身体症状であっても,患者にとってとらわれの対象となりうる.患者は,症状をかなり具体的に述べる場合が多いが,臨床医がその症状を解剖学的あるいは生理学的用語で説明することは困難なことがある.患者はしばしば自身の身体症状を過度に解釈し,最も極端な否定的結果について思い悩む.例えば,より重度の例では,その思い込みには医学的根拠がないにもかかわらず,痛みや疲労があまりに強いと知覚されるため,正常な活動を妨げる.しばしばこれは,さらなる痛みを引き起こしたり,他の症状を悪化させたりするのではないかという恐怖を伴う.この恐怖は,活動の過度の回避につながり,それが今度は活動量低下に伴う他の症状を引き起こすことがある(例えば,こわばりと筋力低下,わずかな労作後の筋肉痛).患者は自らの症状について,心理的・身体的説明など,さまざまな理由づけを行うことがある.重症度が増すにつれて,心理学的な説明を拒絶しやすくなる.身体的苦痛症の一部の患者は,身体症状は,発見されていない基礎身体疾患や傷害を示していると思い込んでいる(疾病確信).症状が未診断の疾病や傷害によって引き起こされていると主張し,そのため何度も医学的検査や処置を受けることがある.このパターンは重度の身体的苦痛症の人に最もよくみられ,プライマリケアと専門医療機関の両方を含む,長く複雑な受診歴が存在する場合がある.この期間中,さまざまな身体器官について何度検査をしても結果が陰性であったり,不必要な手術が行われていたりすることがある.身体的苦痛症の患者は精神医療よりもむしろ身体医療の場に現れることが多い.抱えている問題に心理的要因があると認めたがらない場合があり,精神医療専門家への紹介を勧められると否定的な反応をすることがある.患者はしばしば,以前に受けた医療に対する不満を表明し,受診先を頻繁に変えることがある.
 しばしば問題となるのは,正常との境界である.身体症状を体験し,それについて時折心配することは,正常である.身体的苦痛症の患者では,その身体症状の性質に対して相応とみなされるレベルを超える強い苦痛を訴え,その過度の注目は,適切な臨床検査と症状への情報提供を受け,医療者から保証されても軽減されない.症状を引き起こしている,あるいはその一因となっている身体疾患を実際に有する身体的苦痛症の患者は,性質と重症度が同程度の身体疾患を有するが身体的苦痛症を併発していない患者に比べて,より大きな症状へのとらわれと機能低下を示す.
 身体的苦痛症の鑑別診断として,気分症群の疾患,全般不安症,パニック症,心気症,「作為症,自らに負わせるな」どが挙げられる.
 トゥレット症候群(Tourette syndrome),抜毛症(Hair pulling disorder),解離症群(Dissociative disorders),抜毛(hair-plucking),心気症(Hypochondriasis),身体醜形症(Body dysmorphic disorder),皮膚むしり症(Excoriation disorder),性別不合(Gender incongruence),性機能不全群(Sexual dysfunctions),チック症群(Tic disorders),症状の詐称(Feigning of symptoms),性疼痛・挿入困難症(Sexual pain-penetration disorder)は,身体的苦痛症から除外される(除外診断).

2.身体完全性違和(6C21)
 身体完全性違和(Body integrity dysphoria)は,自分の現在の身体の形状や機能に関する持続性の不快感や強烈な否定的感情を伴う,ある特定の身体障害をもちたいという強烈な持続性の欲求によって明らかにされる.
 診断に必須の特徴としては,現在の(健康な)身体機能に対する持続的な不快感または強烈な否定感情を伴う,手や足の切断,対麻痺,失明といった有意な方法によって身体障がい者になることへの,強烈な持続性の欲望の存在が挙げられる.それによって,有意な社会機能の障害を認めるか,患者本人の健康や生命を有意な危機にさらす場合,身体完全性違和と診断される.
 発症時期は思春期早期までとされる.障害は,統合失調症など他の精神疾患や詐病では十分に説明されず,症状や行動は,性別不合,神経系の疾患,他の医学的状態によっても十分に説明されない.
 一部の小児と青年では,一過性に,障がい者として生きることがどんなことなのかという好奇心から,失明などの障害をもっているふりをすることがある(これは正常範囲内である).しかし,正常な場合には,身体完全性違和の患者のように,障がい者になりたいという持続性の欲望や,身体完全性違和に伴う有害な結果を体験することはない.
 身体完全性違和の鑑別診断として,統合失調症や精神症症状を伴う他の疾患,強迫症,身体醜形症,単独で行う,または同意する者を対象とするパラフィリア症,作為症や詐病,神経系の疾患群などが挙げられる.

表1画像拡大

II.考察
 ICD-114)の身体的苦痛症または身体的体験症群という診断カテゴリーに属する疾患のうち,身体的苦痛症は,ICD-103)の身体表現性障害に対応するものと考えられる(図1).
 身体的苦痛症または身体的体験症群のうちの身体的苦痛症は,ICD-10の身体化障害,鑑別不能型[分類困難な]身体表現性障害,身体表現性自律神経機能不全,持続性身体表現性疼痛障害などが該当すると思われる.ただし,身体疾患の存在の有無に関する規定については曖昧で,問題となる症状を引き起こしている身体疾患があったとしても,苦痛を伴う身体症状に向けられる注意の程度が明らかに過剰であれば,身体的苦痛症と診断することが可能と考えられる(身体表現性障害では,基本的に器質的な異常がないことが診断の前提となっている).ICD-10の心気障害の一部も身体的苦痛症に該当するかもしれないが,ICD-11では,強迫症または関連症群のなかに「心気症(Hypochondriasis)」という診断名があることより,多くはこちらに該当するものと思われる(図1).
 また,ICD-11の身体的苦痛症は,DSM-51)の身体症状症に相当すると考えられるが,2つの疾患概念における相違点は,診断をするさいの持続期間を除けば,現在のところあまり明らかになっていないような印象を受ける(図2).DSM-5では心気症という診断名はなく,DSM-IV-TRで心気症と診断されていた患者の75%が身体症状症に組み込まれ,25%が病気不安症に組み込まれることが本文中に明記されている.しかし,上述のように,ICD-11には心気症の診断名が,強迫症または関連症群の下位疾患として残っていることから,身体的苦痛症(ICD-11)が身体症状症(DSM-5)と同一というわけではなさそうである.
 かつての身体表現性障害(ICD-10,DSM-IV-TR)は,身体化(somatization)という概念が1つのキーワードであったが,ICD-11の身体的苦痛症を診断するさいに,身体化症状の有無は問われない.同様のことはDSM-5の身体症状症にもあてはまり,こちらはDSM-51)の本文中に,身体症状症が,身体症状に対して医学的説明ができないことよりもむしろ陽性の症状および徴候(苦痛を伴う身体症状に加えて,そうした症状に対する反応としての異常な思考,感情,および行動)に基づく診断名であることが強調されており,DSM-IV(-TR)の身体表現性障害の再構成をもとに再概念化された新しい診断カテゴリーである旨が書かれている.同時に,身体化という用語そのものが,DSM-5では廃止されている.
 それゆえ,身体表現性障害と同様に,身体化症状の有無を診断のさいの判断材料にすることにより,本来であれば身体的苦痛症(または身体症状症)と診断すべき患者を見落とす危険があるので,注意が必要である.身体的苦痛症(または身体症状症)は,身体表現性障害の後継となる診断名であるものの,疾患概念はまったく異なるものであるという認識が必要となろう(図3).
 身体完全性違和は,身体完全同一性障害(body integrity identity disorder:BIID)とも呼ばれ,小児期早期に発病する,極めて稀な疾患とされる2).身体完全性違和は,該当する診断名がICD-10には見あたらず,ICD-11において新規に採用となった診断名である.また,DSM-5には,身体完全性違和に該当する独立した疾患はない.身体完全性違和は,ICD-11のみにおいて用いられる診断名のようである.これまでは,一部の医療者にしか知られていなかった疾患概念であり,発症頻度も極めて稀であるとされていることから,診断する機会は,さほど多くはないであろうと考えられる.

図1画像拡大
図2画像拡大
図3画像拡大
表2画像拡大

おわりに
 身体的苦痛症は,ICD-103)の身体表現性障害を踏襲するものであると考えられるが,疾患概念には差異を認める.すなわち,診断のさいに,身体表現性障害では,患者の訴える症状が身体化症状である(身体症状に対する他覚所見がないか,あったとしても乏しい)ことに主眼がおかれていたのに対して,身体的苦痛症では,患者の身体症状に過度の注意が向けられていることに重点がおかれている(図3).身体的苦痛症は,DSM-51)では身体症状症にほぼ対応しているものと考えられる(ただし,まったく同一というわけではない).
 身体完全性違和は,ICD-114)で新設された疾患名であり,ICD-10にもDSM-5にもない疾患概念である.
 以上,ICD-11の身体的苦痛症または身体的体験症群という新しい疾患カテゴリーと,その下位診断である身体的苦痛症と身体完全性違和について概説した.ICD-11を用いてこれらの疾患を診断するさいの参考にされたい.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). American Psychiatric Publishing, Arlington, 2013 (日本精神神経学会 日本語版用語監修, 髙橋三郎, 大野 裕監訳: DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014)

2) Blom, R. M., Hennekam, R. C., Denys, D.: Body integrity identity disorder. PLoS One, 7 (4); e34702, 2012
Medline

3) World Health Organization: The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. World Health Organization, Geneva, 1992 (融 道男, 中根允文ほか監訳: ICD-10精神および行動の障害-臨床既述と診断ガイドライン-, 新訂版. 医学書院, 東京, 2005)

4) World Health Organization: ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics 2018 (https://icd.who.int/browse11/l-m/en) (参照2021-06-30)

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