Advertisement第117回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第123巻第5号

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ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ
各論②
統合失調症または他の一次性精神症群
杉原 玄一1), 村井 俊哉2)
1)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野
2)京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)
精神神経学雑誌 123: 287-293, 2021

 世界保健機関(WHO)は国際疾病分類第10版(ICD-10)の改訂を続けており,2018年にICD-11診断ガイドライン草案が公表された.本稿では,ICD-11草案における「統合失調症または他の一次性精神症群」に含まれる疾患について概観する.ICD-10からの変更,『精神疾患の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)』との比較を踏まえ,本章に含まれる疾患の診断要件,疾患の特徴,除外診断などを紹介する.

索引用語:統合失調症, 統合失調感情症, 妄想症, 操作的診断基準, ICD-11>

はじめに
 世界保健機関(World Health Organization:WHO)は国際疾病分類第10版(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, Tenth Revision:ICD-10)7)の改訂を続けており,2018年にICD-11診断ガイドライン草案が公表された.公表されている最新の情報はGCP.Network5)からアクセスできる.本稿では,2021年1月現在,同WEBサイトで公表されている診断ガイドライン草案の情報と2020年12月のWHO草案英語版をもとに「統合失調症または他の一次性精神症群」の章について概観する.なお,この草案はまだWHOの承認を受けていない.また,本稿において,日本語への翻訳はおおむね同WEBサイトの日本語版およびICD-11病名・索引用語和訳案によるが,一部変更を加えている.上記WEBサイトでは,psychotic disorderは「精神病性障害」と訳されているが,ICD-11病名・索引用語和訳案によれば「精神症」とされており,本稿では後者に従う.
 「統合失調症および他の一次性精神症群」の章に含まれる疾患は,統合失調症(コード番号6A20),統合失調感情症(6A21),統合失調型症(6A22),急性一過性精神症(6A23),妄想症(6A24),他の特定される一次性精神症(6A2Y)および統合失調症または他の一次性精神症群,特定不能(6A2Z)である.これらの疾患は,現実検討の有意な障害と行動の変化をその特徴とし,妄想,幻覚,思考形式の障害,解体した行動,精神運動性障害,陰性症状といった症状を呈する.そして,「一次性」精神症とされているのは,これらの症状が物質使用や他の身体疾患の直接的な影響によって生じているものではないということを示すためである.すなわち,本章に含まれる疾患は,「内因性」精神病と呼ばれていたもの,およびそのスペクトラムをなすもの(統合失調型症)から構成されている.なお本章は,二次性精神症症候群(6E61)および物質誘発性精神症群(6Cxx)がsecondary parentとなっている.

1.ICD-10との比較
 本章に含まれる疾患は,ICD-10のF2「統合失調症,統合失調型障害および妄想性障害」に含まれるものと同等である.しかし,にまとめたように,診断の数は著しく減り,単純化されている.また,各診断要件には「診断に必須の特徴」として,特徴をなす症状,診断に必要な症状が存在する期間,除外診断が簡潔に記載されている.これもICD-10に比べ,かなり単純化され,また構造化されている.いくつかの疾患では「特定用語」が設けられており,これにより経過(初回エピソード,複数回エピソード,持続性)や現在の状態(現在活動期,現在部分寛解,現在完全寛解)を同定する.ICD-10では診断名のみ挙げられていた鑑別すべき精神疾患(鑑別診断)や,正常との境界(診断閾値)は,2020年12月のWHOの草案では,それぞれ「他の疾患との境界」および「正常との境界」としてまとめられている.ICD-10では「診断ガイドライン」の前に記載されていた,その疾患によくみられるが診断に必須ではない特徴は,ICD-11では「付加的特徴」としてまとめられている.また,それぞれの疾患に対して,「経過の特徴」「発達的特徴」「文化的特徴」「性別に関連する特徴」が追加されている.ここで記載される事柄は,精神医学において一般的,教科書的な内容であるが,疫学的情報も充実しており,非常に有益である.
 ICD-11では,統合失調型症を除く精神症に対して,6つの症状領域(陽性症状,陰性症状,抑うつ気分症状,躁気分症状,精神運動性症状,認知症状)を設け,各々の重症度レベルがそれぞれ,症状なし,軽度,中等度または重度の4段階で特定でき,「症状特定用語評価尺度」としてまとめられている.このように,ICD-10と比較し,ICD-11では,診断は整理され,症状の記載も簡潔となり,また,全体はより構造化されている.
 ICD-11では,統合失調症の亜型は廃止されている.ICD-10では統合失調症の亜型の1つ(緊張型統合失調症)として扱われていたカタトニアは,ICD-11では「カタトニア」として別の疾患群として扱われる(本稿はじめに2.で後述).また,明らかな精神症症状を呈さず,進行性の陰性症状によって特徴づけられていたF20.6「単純型統合失調症」に関しては,ICD-11ではそのままの概念の受け皿となる診断はない.ICD-10で「単純型統合失調症」と診断されていた患者については,今後,患者ごとに再度ICD-11の診断要件を参照に診断を検討する必要がある.
 ICD-10のF20.4「統合失調症後抑うつ」も廃止されている.急性錯乱(Bouffée déliriante)や非定型精神病などの診断をICDに組み込んでいた3)「急性多形性精神病性障害」という用語はICD-11では用いられていない.しかし,ICD-11における急性一過性精神症でも,その多形性の特徴は強調されている(本稿I.4.で後述).
 診断のコード番号は,統合失調症が一番若く(6A20),同疾患が精神症の中心をなすという従来の考えは継承されている.このことは,本章のタイトル「統合失調症または他の一次性精神症群」にも表れている.しかし,WEBサイト(英語版)上での表記の順番は,統合失調型症が先頭にきている.これはICD-11では明示的に採用されなかったものの,「統合失調症スペクトラム」という考え方2)4)の名残りであるかもしれない.

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2.DSM-5との比較
 臨床現場や臨床研究において,ICDに並び最もよく用いられる精神科操作的診断基準である『精神疾患の診断と統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition:DSM-5)』1)の「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」の章と比較する.DSM-5とICD-11では,統合失調型障害<統合失調型症>,統合失調症,統合失調感情障害<統合失調感情症>,妄想性障害<妄想症>といった診断名は共通している.しかし,いくつかの相違点がある.統合失調型症は,DSM-5ではパーソナリティ障害の1つとして分類され,かつ,統合失調症スペクトラム障害の一部としても挙げられているのに対し,ICD-11では同症はパーソナリティ症に含まれていない(上記WEBサイトやWHOのICD-11に関するサイト8)で確認すると,ICD-11草案では,2021年1月現在,パーソナリティ症には軽度,中等度,重度という分類しかない).
 DSM-5が統合失調症の亜型を廃止したのと同様,ICD-11でも統合失調症の亜型は廃止されている.急性の精神病性障害の疾患概念の発展において,ICDとDSMは歴史的には異なる背景をもつが3),ICD-11における急性一過性精神症は,DSM-5における短期精神病性障害と類似している.しかし,症状の持続期間は異なる(ICD-11では最長3ヵ月,DSM-5では1ヵ月未満).また,DSM-5の統合失調症様障害(Schizophreniform disorder)に該当する診断名はICD-11にはない.
 DSM-5では緊張病に関する記載が「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」の章に含まれている.一方,ICD-11の草案には,本章にカタトニアや緊張病の疾患名の記載はない.ICD-11で「カタトニア」は,「神経発達症」や「統合失調症または他の一次性精神症群」などと同列の独立した群としてコードされる.ここには「他の精神疾患に伴うカタトニア」(6A40),「物質または医薬品誘発性カタトニア」(6A41),「特定不能のカタトニア」(6A4Z)が含まれる(この情報はサイト9)から確認できる).カタトニアは精神症群以外の疾患にもみられるため,診断体系におけるカタトニアの扱いはDSM-5よりもICD-11のほうが合理的であり,実際的であろう.
 DSM-5では「減弱精神病症候群」や「妄想性障害を有する人のパートナーにおける妄想症状」は,「他の特定される統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害」に分類されるが,ICD-11では,前者は本章に疾患名としては記載がなく,後者は妄想症に含まれる.また,DSM-5では「他の医学的疾患による精神病性障害」として器質的疾患を基盤にもつ精神病を該当章に含んでいる.一方で,ICD-11は「一次性」精神症のみを扱っており,こうした器質性精神病は本章に含まれていない.その代わり「他に分類される障害または疾患に関連する二次性精神または行動症候群」のなかに「二次性精神症症候群(6E61)」の項がある.
 DSM-5では,精神病症状をもつ患者を以下の8つの領域で評価する.すなわち,①幻覚,②妄想,③まとまりのない会話,④異常な精神運動行動,⑤陰性症状,⑥抑うつ,⑦躁,⑧認知機能障害,である.このような多軸評価のアプローチは,上述したようにICD-11でも導入されている.ICD-11ではその領域は6つ(陽性症状,陰性症状,抑うつ気分症状,躁気分症状,精神運動性症状,認知症状)であり,DSM-5に比べ簡略になっている.
 ICD-11において,DSM-5と診断名は同じだが,その診断の背景にある考え方の違いが最も表れたものが,統合失調感情症であろう4).ICD-11,DSM-5ともに,統合失調感情症は,統合失調症の精神症の特徴に加え,気分症状の特徴を同時期にもつことによって特徴づけられるという点では同等である.しかし,診断がもつ安定性についての考え方がICD-11とDSM-5で異なっている.DSM-5では,DSM-IVからの改訂に際して,統合失調感情障害をより縦断的な診断となるよう,そして,診断の信頼性,安定性,妥当性が向上するよう,その診断基準が変更された.すなわち,DSM-5では一度,統合失調感情障害の診断がつけば,その患者の経過においてその診断が変わらないように配慮されている.一方で,ICD-11では統合失調感情症の診断は横断的なものとされている.例えば,かつて統合失調症をもつと診断された患者が今回のエピソードで一定以上の精神症症状と気分症状とを同時期に一定以上の期間もつことが示されれば,その患者はその時点では統合失調感情症と診断される.そして,次のエピソードで精神症症状のみを呈し気分症状の程度が診断基準を満たさなければ,その時点では統合失調症と診断されることになる.すなわち,同一患者がその生涯のうち統合失調症と統合失調感情症の2つの診断をもつ場合があるが,これらの診断を同時に2つもつことはない,ということになる.

I.「統合失調症または他の一次性精神症群」に含まれる疾患
 ここでは,ICD-11診断ガイドライン草案における本章に含まれる疾患とその内容を紹介する.なお,本章に含まれる疾患は「一次性」であるため,すべての疾患の診断に,その症状が他の医学的疾患や中枢神経系に作用する物質や医薬品の作用やその離脱作用によるものではないことが求められている.

1.統合失調症
 本症の「診断に必須の特徴」は,下記のうち少なくとも2つの症状が1ヵ月以上の期間,ほとんどいつも出現していなければならない.該当する症状のうち,少なくとも1つは以下のリスト中の項目a)からd)のいずれかでなければならない.
 a)持続性の妄想
 b)持続性の幻覚
 c)解体した思考(思考形式の障害)
 d)被影響体験,させられ体験,作為体験
 e)陰性症状
 f)ひどく解体した行動
 g)精神運動性障害
 ICD-11では,それぞれの項目について簡単な説明が追加されているが,一般的な内容である.DSM-5同様,ここでは妄想が奇異であるか,幻覚がシュナイダーの一級症状の形をとる幻聴であるか,は問われない.それでもなお,ICD-11では,d)に一級症状の記載が継承されている.これはDSM-5の統合失調症では診断基準に含まれていない項目である.一方で,統合失調症の亜型は廃止されており,これはDSM-5と同様である.
 本症の「特定用語」には,①初回エピソード,②複数回エピソード,③持続性,があり,患者の経過に関する情報を追加できる.さらに①と②に関してはそれぞれ,①現在活動期,②現在部分寛解,③現在完全寛解,と現在の状態に関する情報を付加できる.
 「正常との境界」では,精神症様症状や普通でない主観的体験は一般の人々にも起こりうるということが明記されているが,それは通常,持続期間が短く,統合失調症の他の症状や心理社会的な機能低下を伴わない(ここは注意すべき点の1つであるが,ICD-11では認知機能障害や社会機能の障害が統合失調症の診断に必須ではない.これは,社会機能の障害をその診断に必要とするDSM-5と異なる点である).
 「他の疾患との境界」では,鑑別診断として,統合失調感情症,急性一過性精神症,統合失調型症,妄想症,うつ病,双極症,心的外傷後ストレス症および複雑性心的外傷後ストレス症が挙げられている.他の精神症とは,出現する症状の種類,数,程度,持続期間によって区別される.上述したように,統合失調感情症との診断の変更はエピソードにより起こりうることが明記されている.
 気分症群でみられる精神症症状の特徴が記載されているが,精神医学の一般的な内容である.鑑別はその精神症症状が気分症状の存在する期間にのみ認められることによる.心的外傷後ストレス症および複雑性心的外傷後ストレス症との鑑別が挙げられているのは,興味深い.これらの疾患では,一見,統合失調症の精神症症状とも捉えられるような「現在の周囲の状況認識の完全な喪失に至るほどの重度のフラッシュバック,幻覚のような性質を持つ侵入的なイメージや記憶,および被害妄想的にみえるほどの過剰な警戒が生じうる」とされる.しかし,これらの疾患でみられる認識の喪失や幻覚様の体験は,再体験という特定の文脈でのみ体験されるものであり,この再体験は統合失調症の特徴ではない,としている.
 「付加的特徴」として,統合失調症の特徴的な経過や前駆期における症状(ここで「減弱した精神症症状」への言及がある)などが記載されているが,一般的な内容である.また,この項目で,社会機能における苦痛や障害は,統合失調症でしばしばみられるものの,その診断に必須ではないことがあらためて明記されている.

2.統合失調感情症
 本症の「診断に必須の特徴」は,中等症または重症の気分エピソードと同時期に,統合失調症の定義要件をすべて満たし,それらの発症が数日以上のずれがなく,どちらのエピソードも少なくとも1ヵ月持続することである.なお,統合失調感情症と診断する際,抑うつエピソードは興味や喜びの減少だけでなく,抑うつ気分を含む必要がある,とされる.これは,陰性症状を抑うつエピソードに伴う症状と区別するための記載であろう.
 「特定用語」には,統合失調症と同等のものが用いられる.また,「他の疾患との境界」には,鑑別診断として,他の精神症,精神症症状を伴う気分エピソードが挙げられている.内容は一般的なものである.
 2020年12月の草案には,本疾患に関する「付加的特徴」や「経過の特徴」の記載もあるが,これらの内容がどういった診断要件によって得られたエビデンスに基づいたものであるのか疑問である.というのも,ICD-11における統合失調感情症の診断は新たに横断的なものに大きく変更された.そのため,これまで用いられた「統合失調感情障害」の診断のもと得られた知見を今回のICD-11における「統合失調感情症」にあてはめるのには注意が必要と思われる.本疾患の診断に関してはDSM-5との相違もあるため,臨床現場で「統合失調感情症」の診断名を用いる際には,混乱をきたさぬような配慮が必要であろう.

3.統合失調型症
 ICD-11における本症はICD-10におけるそれと同等である.その診断に必須の特徴は,長期にわたって持続する発話,知覚,信念および行動における普通でない様式である.これらは,統合失調症や統合失調感情症,妄想症の診断の要件を満たすには,その程度や期間が不十分であることが求められている.こうした様式の例として,感情の幅が制限されており,冷淡にみえる,行動や身なりが奇妙,風変わりで独特なものであり,所属する文化やサブカルチャーの規範にそぐわない,疎通性(ラポール)の不良,社会的引きこもりの傾向,普通ではない信念,魔術的思考,妄想様観念,などが挙がっている.これらはICD-10における記載と同等である.その症状は,持続的またはエピソード的に,少なくとも2年間認められ,社会性において重要な領域での機能に苦痛や障害を伴う.
 本症に「特定用語」はないが,「正常との境界」および「他の疾患との境界」の記載がある.正常との境界に関しては,本人が社会性において重要な領域での機能に苦痛や障害を伴うときにのみ診断されるべきであるとされる.鑑別診断には,統合失調症,自閉スペクトラム症,パーソナリティ症が挙げられている.統合失調症とは,症状の重症度と持続期間を満たさないこと,症状の安定性の違いで区別される.本症と自閉スペクトラム症は共通する特徴があるとしながらも,統合失調型症では,行動,興味または活動の限局的,反復的,常同的な様式はみられないとされる.社会機能や対人関係の障害を認めても,それが統合失調型症の症状による場合,パーソナリティ症の診断を追加してつけるべきではないとされる.しかし,パーソナリティ症の診断を付け加えることが適切な場合もあるとされている.「付加的特徴」として,その経過や統合失調症と生物学的関連など精神医学において一般的な内容が記載されている.

4.急性一過性精神症
 本症の「診断に必須の特徴」は,精神症症状の急性発症がみられ,その症状には妄想,幻覚,解体した思考,被影響体験,させられ体験,作為体験が含まれる.これらは前駆症状なく出現し,非精神症状態から明らかな精神症状態へ2週間以内に進展する.カタトニアを含め,精神運動性障害を伴うこともある,とされる.また,症状は性質と強さのいずれにおいても急速に変化し,エピソード中に,陰性症状がみられない,とされる.症状の持続期間は3ヵ月を超えず,多くの場合,数日から1ヵ月である.
 「特定用語」には,統合失調症とほぼ同等のものが用いられるが,定義上,「持続性」であることはないため,これは本症には含まれない.「他の疾患との境界」では,本症の特徴として「通常は多形性の性質を伴い,性質と強さのいずれにおいても変動」しやすいことが挙げられており,ICD-10の急性多形性精神病性障害の病像を継承していることを示す表現が残っている.鑑別診断として,統合失調症,統合失調感情症といった精神症や気分症群に加え,せん妄,急性ストレス反応と解離症といった器質性精神疾患や,いわゆる心因性の精神疾患が挙げられている.統合失調症,統合失調感情症とは,持続期間や前駆期の有無,症状の急速な変動,陰性症状の有無などで区別される.また,せん妄とは意識障害の有無で区別される.急性ストレス反応と解離症とは,定義上,ストレスと特に関連する疾患や解離症群では生じない幻覚や妄想といった精神症症状が本疾患では認められるとしている.「付加的特徴」としては,寛解後は病前の機能水準に回復すること,感情の障害,一過性の困惑ないし混乱,または注意および集中力の機能障害など多様な症状が出現すること,先行する急性ストレスのエピソードがしばしば認められることが記載されている.

5.妄想症
 本症の「診断に必須の特徴」は,単一あるいは関連のある一連の妄想が進展し,妄想は少なくとも3ヵ月間持続し,気分エピソードを伴わないことである.妄想の内容は,個人差があるが,各個人のなかでは安定しており,妄想以外の精神症の特徴,すなわち,幻覚や陰性症状,被影響体験,させられ体験,作為体験を認めない.妄想内容に関連する幻覚は認められる場合もある.また,妄想体系に直接関連した言動を除けば,感情,発話および行動は障害されないのが典型的である.
 本症の「特定用語」には経過を同定する用語はなく,現在の状態を同定する用語(現在活動期,現在部分寛解,現在完全寛解)のみ規定されている.「正常との境界」では,妄想的信念,減弱した妄想的信念,優格観念,普通でない奇妙な信念は連続したものであり,一般の人々でも認められる,としたうえで,妄想症では,心理的苦痛,とらわれ,および確信の程度が,より強い場合がある,としている.鑑別診断として,統合失調症,精神症症状を伴う気分症に加え,強迫症,身体醜形症,自己臭関連付け症,心気症,神経性やせ症や,認知症,せん妄が挙げられている.統合失調症とは妄想以外の症状の有無,精神症症状を伴う気分症群とは気分症状が認められない時期の妄想の有無によって区別される.強迫症,身体醜形症,心気症,自己臭関連付け症,神経性やせ症においても妄想様の観念が出現し,時に妄想的確信にまで至る場合があるとしたうえで,これらの疾患では,こうした観念は症候学的に理解可能な文脈でのみ出現し,その疾患の他の臨床的特徴と完全な一貫性が認められる場合には,妄想症の診断をつけるべきではないとしている.「付加的特徴」として,本症で妄想に支配された行動がみられる場合があること,他の精神症より発症が遅く,症状の変動が少ないことが挙げられている.さらに,共有性または感応性妄想症,「二人組精神病(folie-à-deux)」も本症に含まれることが示されている.

6.他の特定される一次性精神症
 ここに分類される疾患の「診断に必須の特徴」は,精神症症状が認められるものの,特定の精神症の診断ガイドラインを満たさないことである.ここでも他の医学的疾患や物質/医薬品の直接の作用や離脱作用による精神症症状は除外される.ICD-10における「急性統合失調症様精神病性障害」や「統合失調症状を伴う急性多形性精神病性障害」などはここに分類されることになる.本症の「特定用語」には,統合失調症と同等のものが用いられるが,「持続性」の用語はない.また,「他の疾患との境界」「正常との境界」および「付加的特徴」の記載もない.

おわりに
 本稿でみてきたように,ICD-11への改訂により「統合失調症または他の一次性精神症群」において,診断は整理されその数は減少し,診断要件はより簡潔に明確に記載され,全体はより構造化されるようになった.そのため,ICD-11を用いる際,診断のプロセスにおける臨床家の負担は少なくなるであろう.これは,本改訂において,臨床的実用性の改善に焦点があてられた6)成果といえよう.ICD-11では,臨床的にも重要な疫学的特徴や発達的な観点からの記載が充実していることも特長であろう.また,DSMとの整合性も意識されており,現在,臨床現場や臨床研究に用いられている診断との大きな齟齬もないように思える6).しかし,本稿でふれたように「カタトニア」や「統合失調感情症」の扱いに違いがあり,注意も必要である.なお,ICD-11の正式な発表までに用語や内容に関してさらなる変更が加えられる可能性はある.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 本稿作成にあたり,松本ちひろ先生,神庭重信先生に多くのご支援とご指導を賜りました.感謝申し上げます.

文献

1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed (DSM-5). American Psychiatric Publishing, Arlington,, 2013 (日本精神神経学会 日本語版用語監修, 髙橋三郎, 大野 裕監訳: DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014)

2) Biedermann, F., Fleischhacker, W. W.: Psychotic disorders in DSM-5 and ICD-11. CNS Spectr, 21 (4); 349-354, 2016
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3) Fusar-Poli, P., Cappucciati, M., Bonoldi, I., et al.: Prognosis of brief psychotic episodes: A meta-analysis. JAMA Psychiatry, 73 (3); 211-220, 2016
Medline

4) Gaebel, W.: Status of psychotic disorders in ICD-11. Schizophr Bull, 38 (5); 895-898, 2012
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5) GCP: Network. (https://gcp.network.jp) (参照2021-01-20)

6) Reed, G. M., Keeley, J. W., Rebello, T. J., et al.: Clinical utility of ICD-11 diagnostic guidelines for high-burden mental disorders: results from mental health settings in 13 countries. World Psychiatry, 17 (3); 306-315, 2018
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7) World Health Organization: The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. World Health Organization, Geneva, 1992 (融 道男, 中根允文ほか監訳: ICD-10精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン-, 新訂版, 医学書院, 東京, 2005)

8) World Health Organization: ICD-11. (https://icd.who.int/en) (参照2021-01-20)

9) World Health Organization: ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics. 2018 (https://icd.who.int/browse11/l-m/en) (参照2021-01-20)

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