Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第123巻第12号

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連載 ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ
各論⑨
衝動制御症群と秩序破壊的または非社会的行動症群
宇佐美 政英
国立研究開発法人国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科
精神神経学雑誌 123: 842-848, 2021

 ICD-11における「衝動制御症群」には「放火症」「窃盗症」「強迫的性行動症」「間欠爆発症」「衝動制御症,他の特定される」および「衝動制御症,特定不能」が含まれる.これらの疾患は,個人生活,家族生活,社会生活,学業,職業上の問題が長期的に生じているにもかかわらず,放火,盗み,性行動,および爆発的な攻撃的暴発など,強い衝動に繰り返し抵抗できないことによって特徴づけられる.一方で,「秩序破壊的または非社会的行動症群」には「反抗挑発症」「素行・非社会的行動症」「秩序破壊的または非社会的行動症,他の特定される」および「秩序破壊的または非社会的行動症,特定不能」が含まれる.これらの疾患の特徴は,秩序破壊的,すなわち顕著かつ持続性の挑発的な,不従順な,挑発的な,または悪意のあるものから,非社会的,すなわち持続的に他者の基本的権利を侵害する,または年齢相応の主な社会規範,規則または法律に違反したりするものまである.これらの疾患群の行動は社会的問題にもなりやすく,時に法に触れることがあるだろう.実臨床の現場では,これらの疾患群の評価にICD-11を用いる場合,その診断基準を丁寧に確認することが重要であるが,その特徴的な行動の背景には,抑うつ気分,不安,退屈,孤独など,さまざまな感情が隠れていることがある.臨床医は診断だけに注目するのではなく,その背景にある感情および行動との関係を理解することが,患者を理解するうえで肝要であろう.

索引用語:ICD-11, 衝動制御症群, 秩序破壊的または非社会的行動症群>

はじめに
 本稿では,ICD-11の「精神,行動または神経発達の疾患群」に分類されている「6C7 衝動制御症群(Impulse Control Disorders)」と「6C9 破壊的または非社会的行動症群(Disruptive Behaviour or Dissocial Disorders)」の2つについて概観する.
 「衝動制御症群」には,「6C70 放火症」「6C71 窃盗症」「6C72 強迫的性行動症」「6C73 間欠爆発症」「6C7Y 衝動制御症,他の特定される」および「6C7Z 衝動制御症,特定不能」が含まれる().これらの疾患は,個人生活,家族生活,社会生活,学業,職業上の問題が長期的に生じているにもかかわらず,放火,盗み,性行動,および爆発的な攻撃的暴発などの強い衝動に繰り返し抵抗できないことによって特徴づけられる.一方,「秩序破壊的または非社会的行動症群」には,「6C90 反抗挑発症」「6C91 素行・非社会的行動症」「6C9Y 秩序破壊的または非社会的行動症,他の特定される」および「6C9Z 秩序破壊的または非社会的行動症,特定不能」が含まれる().これらの疾患は,秩序破壊的,すなわち著しくまた持続的に挑発的な,不従順な,挑戦的な,または悪意のある行動から,他者の基本的権利を侵害する,または年齢相応の主な社会規範,規則または法律に持続的に違反することから非社会的とみなされる行動まである.
 なお,「衝動制御症群」と「秩序破壊的または非社会的行動症群」は,DSM-5では「秩序破壊的・衝動制御・素行症群」という一群にまとめられている.

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I.ICD-10からの変化
 これら2つの疾患群をICD-10の「第5章 精神および行動の障害」を照らし合わせると,衝動制御症群に関しては,「F6 成人のパーソナリティおよび行動の障害」に含まれる「F63 習慣および衝動の障害」のうち,「F63.1 病的放火(放火癖)」と「F63.2 病的窃盗(窃盗癖)」があてはまる.これまで「F6 成人のパーソナリティおよび行動の障害」の下位群として扱われてきた衝動制御の問題が,ICD-11では独立した疾患群として扱われている.
 間欠爆発症はICD-10になかった診断カテゴリーである.強迫的性行動症はICD-11で初めて登場した疾患である.ICD-10の「F63.3 抜毛症[抜毛癖]」と「F63.0 病的賭博」は,それぞれ「強迫症または関連症群」に含まれる「向身体性反復行動症群」と,「嗜癖行動症群」に移されている.
 強迫的性行動症に関しては,ICD-10では「F52.7 過剰性欲」が過剰な性衝動に対する診断だが,強迫性には言及されていない.
 「秩序破壊的または非社会的行動症群」の主な疾患である反抗挑発症と素行・非社会的行動症は,児童・思春期を主に扱っている精神科医にとって,ICD-10の反抗挑戦性障害や行為障害として馴染みのある疾患群である.注意欠如・多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:ADHD)から反抗挑発症を経て素行症へと継時的に移行することがしばしば指摘されており,これらはICD-10ではF9に分類されていた.ICD-11では,ADHDはDSM-5と同様に神経発達症群のなかに再分類され,「秩序破壊的または非社会的行動症群」は独立した群となっている.

II.衝動制御症群
 衝動制御症群は,強い衝動に繰り返し抵抗できないことによって特徴づけられる.衝動制御症に伴う行動エピソードは,しばしば緊張や感情的興奮の高まりが先行するが,これは行動に抵抗しようとするときにも生じる.典型的には,行動エピソードに続いて快感,満足感,緊張からの解放感が生じる.しかし,この疾患の経過中に,これらの感情の自覚が減少すると報告されることもある.行動後,罪悪感や恥ずかしさを感じることもある.
 臨床的に,放火や窃盗は法的問題にかかわる場合があり,その診断は慎重さが求められる.鑑別診断として,特に児童・思春期のADHDでは,衝動的な放火や窃盗が認められることがあるが,その場合は行動前の緊張や感情的興奮の高まりや,行動後の満足感や解放感がないことを確認しなければならない.これらの行動は双極症I型の躁エピソードや混合エピソード中に生じることがある.妄想や幻覚に左右された放火や窃盗にも,これらの診断をあてはめるべきではない.顕著な非社会性を伴うパーソナリティ症では,緊張や感情的興奮からの解放感のためというよりも,個人的利益や復讐など確認可能な動機から,放火や窃盗を行うことがある.また精神作用物質の使用中に放火や窃盗を行う場合,この診断を与えるべきではない.ただし,衝動制御症の人がアルコールや物質使用に伴って放火,窃盗,強迫的性行動を行うこともあり,その臨床判断は難しい.

1.放火症
 放火症では,放火に対する強い衝動を繰り返し制御できない結果,所有物や他の物品への放火が複数回行われる,または試みられる.放火に対する外見上の動機は欠如している.火および関連刺激に対する持続性の魅了やとらわれがある(例えば,火事をみること,火事を起こすこと,消火設備に対する魅了).放火やその試みの前に,緊張感や感情的興奮の高まりを体験する.放火し,その効果を目撃し,その影響に加わるという行為の最中と直後に,快感,興奮,解放感または満足感を体験する.
 火に対する関心は,幼少の児童ではよくみられる.児童は放火症の診断要件を満たすことなく,偶発的(例えば,マッチを使って遊ぶ)または意図的に火を付けることがある.

2.窃盗症
 窃盗症は,物品を盗む強い衝動を繰り返し制御できないことである.物品を盗むことに対する外見上の動機は欠如している(例えば,物品の入手は個人的使用や金銭的利益のためではない).窃盗行為やその試みの前に,緊張感や感情的興奮の高まりを体験する.窃盗行為の最中および直後に,快感,興奮,満足感または解放感を体験する.
 物質使用やギャンブルの経済的影響による金銭的利益を目的とした盗みは,窃盗症と診断すべきでない.
 窃盗行動はよくみられるが,ほとんどの人の盗む理由は,買う余裕がないが必要または欲しいから,いたずら行為として,または怒りや報復の表現としてである.窃盗症の診断は,その物品が必要でなく,買う余裕もあるが,盗む衝動に抵抗できないことが要件である.

3.強迫的性行動症
 強迫的性行動症はICD-10の「F52.7 過剰性欲」に代わるICD-11の新たな疾患カテゴリーである.これは反復的性行動を生じる強烈な反復的性衝動の持続性パターンであり,長期間にわたって現れる(例えば,6ヵ月以上).反復的性行動のパターンは,生活上著しい苦痛や有意な支障を生じる.反復的性行動を行うことが生活の中心的関心となり,自身の健康,他の関心事,活動,責任をないがしろにする.反復的性行動を制御する,または減少させようと何度も努力するが,そうすることができない.有害な結果(例えば,性行動による配偶者との衝突,経済的または法的結果,健康に与える悪影響)にもかかわらず,反復的性行動を行い続ける.満足がほとんどまたはまったく得られないときも,反復的性行動を続ける.
 性衝動があってはならないと信じる女性,自慰行為を決してすべきではないと信じる信心深い若年男性,自分の同性愛的な魅力や行動に苦しむ人のように,性衝動や性行動に関する道徳的な判断と不満に関係する苦痛が存在する場合は,そのことに基づいて強迫的性行動症と診断すべきではない.
 思春期によくみられる高い性的関心および行動(例えば,自慰行為)に対しては,それが苦痛を伴う場合でも,この診断を与えるべきではない.
 「強迫的」という語が病名に含まれているが,強迫的性行動症における性行動は,真の強迫とみなされない.強迫症における強迫行為は,内在的に快感を伴うものとは体験されず,侵入的な,望まない,典型的には不安を惹起する思考に対する反応として生じることが多い.
 強迫的性行動症の一部の人は,性行動を始める目的で,あるいは性行動から得る快感を高めるために,物質を使用する.したがって,強迫的性行動症と,関連する性行動を伴う物質使用の反復的パターンとを区別することは,関連行動の時間順,状況および動機の評価に基づく複合的な臨床的判断が必要である.
 特定の処方薬や違法物質の使用は,中枢神経系に対する直接の作用によって,性衝動の制御を損なうことがある.その場合,強迫的性行動症と診断すべきではない.

4.間欠爆発症
 間欠爆発症は,6歳以上(あるいは同等の発達水準)の人における,言語的攻撃(言葉による他者への攻撃,かんしゃく発作,叫び声など)や身体的攻撃を伴う,反復性で短期の爆発エピソードのパターンである.爆発的暴発は長期間(例えば,3ヵ月以上)にわたって定期的に起こらなければならない.他者に対する身体的暴行など重大な結果を伴う著しい暴発については,頻度の閾値はこれより低くてもよい(例えば,1年間に数回).攻撃的行動は衝動的あるいは反応性であり,攻撃衝動を制御できないことを示している.つまり,攻撃行為は希望する結果を得るために計画されたものではない.その頻度と程度は,年齢と発達水準から予想される正常範囲を外れている.とくにストレス下では,攻撃的暴発,なかでも言葉によるものがよくみられるが,それ自体は精神病理を示すものではない.この診断は,爆発の強さや攻撃性の程度が,誘因となる出来事や状況と著しく不釣り合いであり,長期間にわたって定期的に続き,そのため攻撃的行動の持続性パターンを示す場合にのみ考慮すべきである.
 攻撃的行動を伴う爆発的暴発は,自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)でも起こることがある.ただし,ASDでは,そうした暴発は通常,ルーチンの変化,嫌悪的な感覚刺激,思考や行動が中断されたときの硬直など,その中核症状に関係する特定のきっかけに関連して生じる.間欠爆発症の人は,ASDの特徴である社会的コミュニケーションの困難や制限されたまたは反復性の行動を示さない.
 ADHDと間欠爆発症はいずれも衝動的行動によって特徴づけられるが,間欠爆発症はADHDでみられることのある持続的な全般性の行動衝動性ではなく,間欠性の重度の攻撃的暴発によって特徴づけられる.
 とくに権威的な人からの要求に反応して,重度のかんしゃく暴発を起こす場合,反抗挑発症が検討される.
 間欠爆発症をもつ人々は,その爆発的暴発のために他者や法施行と衝突することがあるが,素行・非社会的行動症に特徴的な反社会的行動の全般的パターン(例えば,規則違反,嘘言,窃盗)はみられない.
 間欠爆発症の一部の人は,神経学的検査や脳波検査で非特異的異常を示すこともある.
 間欠爆発症の人の多くは,心的外傷的出来事,暴力の目撃,または児童期の身体的虐待の既往がある.
 この衝動制御症群には,セカンダリ・ペアレントとして,「6C50 ギャンブル行動症」と「6C51 ゲーム行動症」の2つの重要な疾患が含まれている.これらはインターネットの普及した現代社会で大きな問題となる疾患群であり,いずれの疾患も「主にオンライン」と「主にオフライン」に下位分類される特徴がある.すなわち,競馬やパチンコなどのリアルワールドでのギャンブルだけでなく,インターネット上のさまざまなゲームも対象としている.これらの疾患群に関して,今後の診断および治療に関するエビデンスの蓄積が期待される.

III.秩序破壊的または非社会的行動症群
 「秩序破壊的または非社会的行動症群」は,反抗挑発症と素行・非社会的行動症からなる疾患群である.ICD-10では「F9 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害」に分類された「F91 行為障害」は,ICD-11では本群を用いることによって生涯を通じて診断可能である.「F91 行為障害」の下位分類のうち,「反抗挑戦性障害」は「反抗挑発症」に訳語が変更され,他は「素行・非社会的行動症」に統合される.
 秩序破壊的または非社会的行動症群の特徴は,秩序破壊的,すなわち顕著かつ持続性の挑発的な,不従順な,挑戦的な,または悪意のあるものから,非社会的,すなわち持続的に他者の基本的権利を侵害する,または年齢相応の主な社会規範,規則または法律に違反するものまである.
 大半の人は,生涯のある時点で単発の攻撃的行動や規則違反を行うが,これは秩序破壊的または非社会的行動症群の診断の十分な根拠にならない.したがって,殺人事件など単発の重大犯罪行為は,必ずしもこの診断の対象とはならないことを忘れてはならない.秩序破壊的または非社会的行動症群のすべての疾患に特徴的な行動は,社会文化的状況を考慮しても,その人の年齢と性別にとっての正常範囲から明らかに逸脱していなければならない.
 本群の疾患は,複数の状況にわたる持続性の行動上の問題が特徴である.発症は児童期であることが多い.
 この行動症群は他の精神,行動または神経発達の疾患と併存することがある.しかし,秩序破壊的行動が,他の精神疾患のエピソード中に限られる場合や,物質または医学的疾患によるものである場合,秩序破壊的または非社会的行動症の診断の十分な理由にはならない.
 これらの疾患群は,家庭機能不全,仲間・同僚・交際相手との問題,学校や職場での失敗などの心理社会的環境としばしば関連する.仲間からの拒絶,逸脱した仲間集団からの影響,親の精神疾患など,他の心理社会的リスク要因もよくみられる.その人の環境状況を考慮すれば適応的である行動(例えば,虐待家庭からの逃走,生きるための窃盗)は,これらの診断の唯一の基盤として用いるべきではない.

1.反抗挑発症
 反抗挑発症は,同等な年齢,発達水準,性別および社会文化的状況の人に比べて非典型的な,著しく不服従的,挑発的および不従順な行動パターンである.こうした行動パターンには,他者とうまくやっていくことの持続性の困難,挑戦的な,悪意のある,または報復的な行動,極度の苛立ちまたは怒りがある.行動パターンは長期(例えば,6ヵ月以上)にわたって持続している.
 反抗挑発症の下位分類である「6C90.0 反抗挑発症,慢性の苛立ち・怒りを伴う」では,支配的な持続性の苛立った気分や怒りを伴う.それは次の特徴のほとんどを含むものである.しばしば怒りや憤りを感じる.しばしば気にしやすく,すぐにむかつく.しばしばかんしゃくを起こす.慢性の苛立ちと怒りは,ほぼ毎日その人の機能を特徴づけており,複数の状況や機能領域(例えば,家庭,学校,対人関係)で観察され,親や保護者との関係に限定されない.
 「6C90.1 反抗挑発症,慢性の苛立ち・怒りを伴わない」は,持続性の怒りや苛立った気分を伴わないものである.
 苛立ちや怒りを伴う一過性の不服従,挑発および不従順は,定型発達の一部として,または発達途上の児童に対する要求増大や環境変化に対する反応として,または特定の課題や状況(例えば,初めて登校し親から離れる)における規範的不安の表れとして生じることがある.こうした行動の存在は,反抗挑発症の診断を推定する根拠とすべきでない.
 挑発的行動が,不安,恐怖またはパニックを引き起こす状況や刺激に対する反応としてのみ生じる場合,反抗挑発症と診断すべきではない.
 秩序破壊的行動が不注意や多動-衝動性によってより十分に説明できる場合,反抗挑発症ではなくADHDと診断すべきである.
 反抗挑発症の不服従や他の秩序破壊的行動は,ASDによくみられる行動上の問題と区別すべきである.ASDでは,秩序破壊的行動はしばしば特有の環境要因(例えば,ルーチンの突然の変化,嫌悪的な感覚刺激)と関連している,あるいは不服従は挑戦的または悪意があることの表れというよりも,ASDの中核症状(例えば,社会的コミュニケーションの欠如や,制限された,反復的な,柔軟性のない行動パターン,感覚過敏)の結果である.
 とくに児童・思春期では,気分エピソードの症状として不服従のパターンと苛立ち・怒りの症状が出現することがよくみられる.行動上の問題が気分エピソード中にのみ生じる場合,反抗挑発症の診断を追加すべきでない.

2.素行・非社会的行動症
 素行・非社会的行動症は,これまで素行症(行為障害)として広く知られてきた疾患概念である.人や動物に対する攻撃,器物破損,詐欺や窃盗,重大な規則違反など,他者の基本的権利を侵害する,または年齢相当の社会規範,規則,法律に違反する反復的な持続性の行動パターンである.その行動は,個人生活,家族生活,社会生活,学業,職業または他の重要な機能領域において有意な支障をもたらす.非社会的行動は持続性かつ反復性であり,長期(例えば,1年以上)にわたって複数回発生していなければならない.
 下位分類に「6C91.0 児童期に出現」と「6C91.1 青年期に出現」があり,青年期前(例えば,10歳以前)に1つ以上の症状が明らかに存在し,かつ児童期を通じて持続性であったか否かによって分けられる.児童期に出現する病型は青年期に出現する病型と比較して,成人になっても反社会的行動が持続する危険性が高く,その予後が不良であるとされている2).行動様式による分類よりも,その予後に焦点をあてた病型の分類は,素行・非社会的行動症を1つの疾患としてより治療的な観点でとらえ,早期に介入する機会を広げようとしている点で意義がある.
 児童・思春期における家庭内暴力においても,その診断の要件を満たすことがある.この疾患では法的または矯正的対応を必要とする可能性があるが,犯罪行為の多くは,衝動的に起こる,または物質使用や中毒に関連して起こる.この疾患の特徴である反社会的行動パターンを長期的かつ反復的に示したかについて,丁寧な評価が求められる.臨床的評価および診断は,社会的影響,合法性,さらには司法的な判断を踏まえて考慮するのではなく,行動のより広範なパターンと反復性に焦点をあてて行うべきである.
 ADHDの人は,衝動性または多動性の結果として秩序破壊的行動を示すことがある.しかし,こうした行動は典型的には,主な規則や法律に違反する,他者の権利を侵害するといった非社会的性質を伴わないため,素行・非社会的行動症の診断を追加する十分な根拠はない.
 素行・非社会的行動症はパーソナリティ症ではないが,臨床および研究のための名称上は,特定のパーソナリティ症に関連している(例えば,ICD-10で指すところの非社会性パーソナリティ障害,DSM-5の反社会性パーソナリティ障害).しかしながら,パーソナリティ症は,その人が自分自身,他者および外界をどのように体験し解釈するかに関する,持続する広範な障害を特徴とし,それは認知,情動体験,情動表出および行動における不適応的パターンを生じる.この不適応的パターンは,さまざまな対人および社交状況で現れ,心理社会的機能の有意な問題を生じる.パーソナリティ症の人は,パーソナリティ特性の一側面として,著しい非社会的特徴を有することがある.素行・非社会的行動症はパーソナリティ症と併存しうるのであり,両者の診断要件を満たす場合,両方の診断を与えてよい.
 非社会的行動パターンが違法物質の入手や使用に限られる場合や,その行動が中毒,依存または離脱の作用のみに関連している場合は,素行・非社会的行動症と診断すべきでなく,物質使用症を考慮すべきである.

IV.臨床的意義,問題点,使用上の注意点など
 これからの臨床現場において広く使われていくICD-11の衝動制御症群には,その衝動を制御できないという特徴があることを忘れてはならないだろう.緊張や感情的興奮の高まりとともに,抵抗しがたいさまざまな衝動に突き動かされ,その行為中に記憶がないと訴えることや,解離症状を経験し,行為の直前および直後の感情状態を思い出すことが困難な場合がある.この一連の内的な高まりこそ,衝動制御症群の特徴といえるだろう.しかしながら,行為後は,行為に対する罪悪感や恥ずかしさを感じることがある.特に強迫的性行動症では,自分の性行動について宗教的または道徳的な観点から,自分自身を「セックス依存症」などと卑下することがある.間欠爆発症は日常生活のなかで困難に直面する際にフラストレーションによって引き起こされることが多く,落ち込んだ気分や疲労感,後悔,罪悪感,恥ずかしさなどの否定的感情を抱くことが多い.特に児童期では,上記の感情を言語的に伝えることができないので,少ない語彙と非言語的な振る舞いに基づいて注意深く判断しなければならない.
 新たに登場する強迫的性行動症に関する系統的な調査はほとんど行われていないが,強迫症を患っている成人の外来患者539名を対象とした構造化臨床面接を用いた結果,強迫的性行動症の生涯有病率は5.6%であり,女性よりも男性で有意に高いことがわかっている1).強迫症における強迫的性行動症は,他の気分症,強迫症,衝動制御症と共存している可能性が高く,物質使用や習慣性行動による疾患とは共存していなかったと指摘されているが,今後のさらなる知見の集積が求められる病態である.
 一方で,秩序破壊的または非社会的行動症群は,顕著かつ持続性の秩序破壊的行動や非社会的行動のパターンによって定義される疾患群である.ICD-10では,「F9 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害」のなかでADHDと同じ疾患群とされていたが,ICD-11では秩序破壊的または非社会的行動症群に分類されることにより,衝動性よりも秩序や社会的行動に焦点がおかれた新たな疾患群として独立したといえる.しかしながら,分類が変わっても,秩序破壊的または非社会的行動症群ではADHDとの関係性に注目しなくてはならない.幼少期にADHDと診断される病態であった児童の一部が,その症状ゆえに周囲の大人から叱責されることを繰り返し,成長とともに自尊感情が低下していくことがある.そのような自尊感情の低下が抑うつ感や衝動性の亢進を招き,次第に反抗挑発症から素行症,そして反社会性パーソナリティ障害へと展開していくことが古くから指摘されている3).このような多岐にわたる疾患群との複雑な関係性のなかで,ADHD,反抗挑発症と素行症,反社会性パーソナリティ障害という経過が,その中軸に添えられている.そして,この疾患群は行動によって規定されていることから,その背景となる内的な情動の変化や状態は極めて多岐にわたるともいえる.臨床的には,反抗期と呼ばれる思春期年代の子どもが自立をめぐる葛藤とともに親に向けた,あからさまな反抗的・挑発的な態度とも,適切に区別する必要があるだろう.思春期の反抗性や挑発的な態度は,自立をめぐる葛藤の対象となる親に対するものであることが多く,学校などではそのような行動を示さないことが多い.

おわりに
 これらの疾患群の行動は社会的な問題にもなりやすく,時には法的な問題にも触れることがある.しかしながら,司法からの要請や社会的な重大性に左右されることなく,ICD-11が明示する診断ガイドラインを遵守することは臨床上とても重要である.センセーショナルな行動内容が多いだけに,常に診断ガイドラインを確認するよう心がけていくことがよいだろう.これらの疾患群の背景には,抑うつ気分,不安,退屈,孤独,または他の否定的感情が隠れていることもあり,ICD-11が登場しようとも臨床医たちはその診断だけに注目するのでなく,その背景にある感情および行動との関係を理解することが,患者を理解するうえで肝要であろう.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Fuss, J., Briken, P., Stein, D. J., et al.: Compulsive sexual behavior disorder in obsessive-compulsive disorder: prevalence and associated comorbidity. J Behav Addict, 8 (2); 242-248, 2019
Medline

2) Lahey, B. B., Applegate, B., Barkley, R. A., et al.: DSM-IV field trials for oppositional defiant disorder and conduct disorder in children and adolescents. Am J Psychiatry, 151 (8); 1163-1171, 1994
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3) Loeber, R., Burke, J. D., Lahey, B. B., et al.: Oppositional defiant and conduct disorder: a review of the past 10 years, part I. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry, 39 (12); 1468-1484, 2000
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