Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文全文

第122巻第10号

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特集 ICD-11 に収載された複雑性PTSD の理解と治療―トラウマケア技法の実際―
複雑性PTSDに対するスキーマ療法の適用可能性
伊藤 絵美
洗足ストレスコーピング・サポートオフィス
精神神経学雑誌 122: 773-780, 2020

 スキーマ療法(ST)はYoung, J. E.が構築した統合的な心理療法であり,当初の対象は主に境界性パーソナリティ障害(BPD)であった.STには,「早期不適応的スキーマ(EMS)」および「スキーマモード」という2つの理論モデルがある.EMSとは,人生の早期に形成され,当初は適応的でありえたが,後にその人を生きづらくさせるスキーマのことである.Youngは18のEMSを同定した.一方スキーマモードとは,スキーマが活性化された際の「今・ここ」の状態であり,それを①チャイルドモード,②不適応的コーピングモード,③非機能的ペアレントモード,④ヘルシーアダルトモードに分類する理論モデルである.STでは,成育歴を振り返り,どのようなEMSをクライアントが有しているかを理解し,諸技法を駆使してそれらのEMSを手放していくこと,そして「傷ついたチャイルドモード」を癒し,「ヘルシーアダルトモード」を強化することをめざす.STでは「治療的再養育法」という技法を特に重視するが,これはセラピストがクライアントに養育的にかかわり,修正感情体験を提供するというものである.BPDに対するSTのエビデンスは複数のランダム化比較試験(RCT)において確認されている.一方,ICD―11に初めて収載される複雑性PTSDに対してはどうか.本診断の提唱者であるHerman, J. L.によると,そもそもBPDと複雑性PTSDは大きく重なり合う.また人生早期の傷つき体験によって形成されるEMSという理論モデルにはトラウマが含まれ,STの諸技法にはトラウマへの介入が含まれている.さらにスキーマモードという理論モデルは,ネガティブな自己概念や感情調節障害,あるいは解離といった複雑性PTSDの症状をよく説明し,介入の道筋を示すものである.以上のことからSTは複雑性PTSDに対する治療法として可能性があり,今後の臨床研究が期待される.本論では複雑性PTSDに対するSTの適用可能性を論じ,事例を提示する.

索引用語:スキーマ療法, 複雑性PTSD, 早期不適応的スキーマ, スキーマモード, 治療的再養育法>

はじめに
 認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)は従来うつ病や不安症などの精神症状に対して構築された比較的短期の心理療法である.そのCBTをパーソナリティ障害,特に境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder:BPD)に拡大適用する試みのなかで構築され,エビデンスが示されているのがスキーマ療法(schema therapy:ST)である.ところで,Herman, J. L.10)の書籍に端を発し,さらにICD-11に収載されることとあいまって注目を集めているのが,複雑性心的外傷後ストレス障害(complex posttraumatic stress disorder:複雑性PTSD)である.HermanもいうようにBPDと複雑性PTSDは診断的に重なり合う部分が大きいので,STがBPDに効果があるのであれば,複雑性PTSDにも奏効する可能性が高いと推定される.本論では,STの概要を示した後,PTSDおよび複雑性PTSDとSTとの関連性について検討し,複雑性PTSDに対するSTの適用可能性について論じる.最後に,複雑性PTSDに対するSTの自験例を紹介する.

I.スキーマ療法とは
 STは米国の心理学者Young, J. E. が1990年代から2000年代にかけて構築,発展させた心理療法であり,アタッチメント理論,ゲシュタルト療法,力動的アプローチなどをCBTに有機的に組み込んだ統合的なアプローチである.今世紀に入り,Youngらの包括的な治療マニュアルが出版され,それが世界中で翻訳され15),さらにオランダにて,BPDに対するランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)を通じて,そのエビデンスが明らかにされたことによって9),STは世界的に注目されることとなった.

1.スキーマ療法の理論モデル
 STの柱となる理論モデルは「早期不適応的スキーマ(early maladaptive schemas:EMS)」と呼ばれるが,このモデルの根底には「中核的感情欲求」という概念がある.これは,幼少期,学童期,思春期にある子どもが,周囲の人たち(特に養育者)に対して抱く感情的な欲求のことで,「愛されたい」「守ってほしい」「上手にできるよう導いてほしい」「楽しみたい」「一人の人間として尊重してほしい」といったものである.これらの欲求は,ある程度健全な養育環境であれば自然と満たされるが,一方で,例えば虐待的な家庭環境で育ち,ケアされなかった子どもや,学校でいじめられ誰にも助けてもらえなかった子どもは,満たされないままになってしまう.その結果,EMSが形成される.
 Youngは18のEMSを定式化した15).具体的には,①情緒的剝奪,②見捨てられ/不安定,③不信/虐待,④欠陥/恥,⑤社会的孤立/疎外,⑥依存/無能,⑦損害と疾病に対する脆弱性,⑧失敗,⑨巻き込まれ,⑩服従,⑪自己犠牲,⑫評価と承認の希求,⑬否定/悲観,⑭感情抑制,⑮厳密な基準/過度の批判,⑯罰,⑰権利要求/尊大,⑱自制と自律の欠如,である.幼少期や思春期においてすべての中核的感情欲求が完全に満たされる,ということは想定しづらく,人は誰でもこれらのEMSのいくつかを大なり小なり有すると考えられる.しかし,特にBPDなどパーソナリティ障害を有する人には,これら18のスキーマがより多く,より強く形成され,その結果,多大な生きづらさを抱えたり,健全な対人関係を築けなかったり,生きること自体に虚無感を抱いたりするというのがこの理論モデルにおける仮説である.STでは,EMSについて,その成り立ちも含めて十分に理解したうえで,それらを弱めたり手放したりし,より適応的なスキーマを再形成することをめざす.
 ところでその時々の状況や対人関係によって活性化されるスキーマは異なる.EMSを多く有するほど,その時々に活性化されるスキーマが異なるので,それに応じて生じる自動思考や感情が異なり,当然行動も異なってくる.またその人が自らのEMSにどう対処するかによって(STでは「服従」「回避」「過剰補償」という3種類の「コーピングスタイル」を想定する),その時々に生じる自動思考や感情や行動は異なる.すなわち活性化されるのが同一のスキーマであっても,そのスキーマに服従するか,回避するか,過剰補償するかで,その人の反応は大きく異なる.このような「活性化されたスキーマ」と「スキーマへのコーピングスタイル」の掛け合わせにより,その人の「今・ここ」での状態はさまざまである.STではそれを「スキーマモード」と呼び,EMSと並ぶもう1つの理論モデルとして重視している.
 スキーマモードは,①チャイルドモード(脆弱なチャイルドモード,怒れるチャイルドモード,衝動的・非自律的チャイルドモード,幸せなチャイルドモード),②不適応的コーピングモード(遮断・防衛モード,過剰補償モード,服従モード),③非機能的ペアレントモード(懲罰的ペアレントモード,要求的ペアレントモード),④ヘルシーアダルトモードの4つに分類される.この理論モデルに基づくと,多くの状況においてヘルシーアダルトモードが「健全な自我」として機能し,他の諸モードを司令塔的に統括できている人はより健やかであるということになる.一方でBPDや複雑性PTSDや解離性同一性障害(dissociative identity disorder:DID)を有する人は,ヘルシーアダルトモードが機能せず,さまざまなモード(特に非機能的かつ不適応的なモード)に乗っ取られやすく,かつ各モードが統合されておらずバラバラである,ということが指摘されている14)15).そのため,これらの障害を有する人は,場面や状況によってさまざまな強烈な感情状態を示したり,さまざまな極端な行動をとったりする.そしてあるときは解離してしまうのである.

2.スキーマ療法の進め方と技法
 STの進め方はCBTと同様で,前半が「ケースフォーミュレーション(スキーマとモードへの気づきと理解)」,後半が「諸技法を用いた介入(より健全なスキーマとモードを手に入れる)」である.スキーマやモードを理解するにあたっては,クライアントの幼少期や思春期の傷つき体験(主にトラウマ体験)を共有することが不可欠だが,それはかなり侵襲的である.したがって本格的なフォーミュレーションに入る前に,治療関係を安定させたり,「安全なイメージや儀式」といったワークを実施したり,自殺企図や深刻な自傷行為がある場合はそれらに対する応急処置を行ったりする必要がある11).これらのお膳立てが整ったらフォーミュレーションを開始する.過去体験をじっくりと振り返り,自らの生きづらさを「スキーマ」「モード」という概念で理解し,「それらが形成されたのは自分のせいではないが,生きづらさを減らしより幸せになるためにはそれらを手放す必要がある」と思えるようになるのがフォーミュレーションの目的である.後半の介入では,認知的技法,体験的技法,行動的技法を駆使して,不適応的なスキーマやモードを手放し,適応的で健全なスキーマやモードを手に入れることをめざしていく.
 STはオーダーメイドのセラピーなので,ケースフォーミュレーションとそれに伴う介入は,クライアントによってさまざまに異なるが,Farrell, J. M.とShaw, I. A.8)は,BPDによくみられるスキーマとモードとそれらに関連する諸要因を図式化した().このような図式それ自体をクライアントと共有し,自らの生きづらさのメカニズムを理解していくことが,トラウマインフォームドケアにもなり,治療的に機能する.
 STにおいて特に重要なのが,治療関係である.協同作業を重視するCBTとは異なり,STでは子ども時代の傷つき体験を扱い,早期不適応的スキーマを乗り越えるためには,セラピストが養育的にクライアントにかかわることが求められる.これを「治療的再養育法」という.治療的再養育法を通じて,まずはセラピストがクライアントの傷ついたチャイルドモードを癒し(修正感情体験),不適応的コーピングモードや非機能的ペアレントモードを減らし,幸せなチャイルドモードとヘルシーアダルトモードを育む.そのようなセラピストのあり方がクライアントに内在化されることによって,今度は同様のことをクライアントが自分自身でできるようになる.その結果,早期不適応的スキーマが緩和され,より適応的なスキーマが形成される.最終的にはクライアントの行動や対人関係のパターンがより健全な方向へと変化し,生きづらさが解消される.終結に至るまでにかかる期間はケースによって異なるが,通常は年単位での回復となる.
 STでもう1つ重視するのが,体験的技法である.体験的技法とは,イメージや感情を最大限に動かし利用する技法のことをいい,ゲシュタルト療法のチェアワークや,「イメージの書き換え」といった技法が多用される.特にトラウマを扱う場合,トラウマ記憶に関する「イメージの書き換え」が非常に効果的であり,現在,そのメカニズムと効果が基礎研究を含め検討されている1)

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II.複雑性PTSDに対するスキーマ療法の適用可能性
 ここで複雑性PTSDに対するSTの適用可能性について検討したい.BPDに対しては,先述したGiesen-Bloo, J.ら9)以外にも,複数のRCTにおいてSTの効果が示されている現状を踏まえると7)13),BPDに対するSTのエビデンスレベルは比較的高いと考えられる.それでは複雑性PTSDに対してはどうだろうか? 現時点で,トラウマ関連のSTの臨床研究はさほど多くはない.単発性PTSD(ベトナム帰還兵)に関しては,早期不適応的スキーマの有無や強度とPTSDの発症に相関がみられること,そしてPTSDを発症した帰還兵に対してSTがCBTに比べて有意に治療効果が高かったことが示されている5).一方,複雑性PTSDに対するSTの臨床研究について現時点で結果が公表されているのは著者が知る限り1つだけである14).これは複雑性PTSDの入院患者に対する4週間のグループSTのオープントライアルであるが,脱落率が低く,精神症状の有意な改善のみならず,感情状態やQOLがポジティブに変化した,といった結果は,これまでのBPDに対するSTの臨床研究の結果と一致する.これらの先駆的な研究を踏まえると,複雑性PTSDに対するSTの効果については大いに期待がもてるものの,エビデンスという意味ではRCTを含むさらなる臨床研究が必要だということになるだろう.
 理論的にはどうだろうか? そもそもHerman10)は,複雑性PTSDと診断されるべき当事者の多くが,BPDとレッテル貼りされてきたと論じている.つまり多くのBPDは複雑性PTSDとみなすことができるという主張である.近年の疫学研究によると,複雑性PTSDは,単発性のPTSDに比べて,PTSD症状それ自体が重症であること,そしていわゆる「自己組織化領域」における3つの問題(感情調節障害,ネガティブな自己概念,対人関係上の問題)に特徴づけられることが見いだされているが3),これらの3つの問題はBPDにも必ずといってよいほどみられるものであり,ここからも複雑性PTSDとBPDの病態が大きく重なり合うものと推定することができる.またCloitre, M.ら4)の別の疫学研究によれば,複雑性PTSDをより特徴づける症状と,BPDをより特徴づける症状は,ある程度鑑別可能であると論じているが,一方でそれらは併存しうる.STにおけるモードモデルに基づくと,BPDや複雑性PTSDやDIDは,スキーマに対する回避的コーピングスタイルに基づく「遮断・防衛モード」のスペクトラム上に位置づけられ,BPD→複雑性PTSD→DIDの順に,このモードがより強固になっていくと想定している7).つまりBPD,複雑性PTSD,DIDをスペクトラム上のひと続きの病態であるとみなしている.これらを総合すると,BPDに効果のあるSTは,複雑性PTSDにも奏効する可能性が高いと考えられる.
 そもそも「幼少期や思春期に他者(主に養育者)に与えられた傷つき体験によって早期不適応的スキーマが形成され,それが現在の生きづらさにつながっている」というSTの病理モデルそれ自体が,複雑性PTSDの病因と病態にほぼ重なり合う.しかも,複雑性PTSDに対して提唱されている統合的な治療アプローチ(安全の確保,治療関係の重要性,トラウマを語ることとトラウマ処理,解離へのアプローチ,多様な症状に合わせた経時的で多様なアプローチ,エンパワメント,新たな対人関係の形成など)2)6)10)は,ほぼそのすべてが統合的なアプローチであるSTに含まれている.となると,複雑性PTSDに対してSTを適用することにはむしろ必然性があるといえるのではないだろうか.

III.複雑性PTSDに対するスキーマ療法の適用例
 以下に事例を紹介する(なお,本事例は拙著12)に掲載した架空事例である).M(女性)はセラピー開始時に32歳,独身.第一子として出生している.母親はいつも不機嫌でヒステリックであった.父親はMに無関心で,5歳時に両親が離婚し,父親がMを連れて実家に戻り,養育を両親(Mの祖父母)に委ねた.7歳時に父親が再婚して家を出る.その頃から祖母の暴力(身体,言葉)が始まり,9歳時より祖父による性的虐待が始まった.この頃から解離症状が生じる.学校では大人しく友だちがいなかった.高卒後上京し就職したが,上司にレイプされ妊娠する.退職して中絶し,その頃より抑うつ症状など精神症状が生じ,断続的に通院しつつ,20代は荒れた生活を送った.自殺を試みるものの死にきれず,「死ねないなら何とか生きていくしかない」と看護学校に進学し,資格を取って病院に就職したのが31歳時である.表向きは適応しているようにみえるものの,心理的には苦しいままで,何とか自分を立て直そうとして,セラピーを受けに来た.
 初回面接時のMの主訴は以下の3点である.①気分の波が激しすぎる.②自分の行動をコントロールできない.③人とまともにかかわれない.人を信じられない.セラピー開始当初,そもそも予約時間に来られない,セラピストに対する感情的なゆらぎ,慢性的な希死念慮と自殺企図の危険,アルコール乱用,危険な自傷行為など,いわゆる「問題行動」に対してハームリダクション的なかかわりを行った.そのなかで明らかになったのは,STでいうところの「遮断・防衛モード」が強力で,そのおかげで仕事中は「看護師ロボットモード」として稼働できるが,そのモードのせいで感情が遮断され,内的な体験にまったくアクセスできないということである.そこでマインドフルネスのワークを導入し,身体感覚や感情や自動思考など,生々しい内的体験にアクセスできるようになってもらった(ここまでで約1年が経過).
 その後,本格的なSTが開始された.STの心理教育を行い,治療的再養育法のなかでセラピストが養育的なかかわりをすることについて了承を得た(例えばチャイルドモードを「Mちゃん」と呼ぶなど).また,毎回セラピストが渡すアロマコットンや,動物のぬいぐるみを移行対象および「安心安全」を確保する儀式として使用することにした.そして幼少期や思春期の体験を詳細に共有し,満たされなかった中核的感情欲求は何か,形成された早期不適応的スキーマは何か,それが普段の生活でどのように活性化し,どのようなスキーマモードに入りやすいのか,といったケースフォーミュレーションを行った(ここまでで約3年が経過).その後,スキーマを手放し,「脆弱なチャイルドモード」を癒し,「幸せなチャイルドモード」を育み,「ヘルシーアダルトモード」を強化するための,さまざまな介入を行った.特に祖母からの暴力,祖父からの性的虐待,就職後のレイプ被害については「イメージの書き換え」のワークを行い,セラピストがMのイメージに入り込み,暴力を未然に防いだり,祖父母の家を出て行ってセラピストと安全に暮らしたり,レイプ加害者を撃退したりする書き換えを行い,トラウマが処理された.健全なスキーマやモードが十分に確立され,職場やプライベートで新たな対人関係が形成されたり,日常生活を楽しんだり,仕事にやりがいを感じられたりするようになったことを見届けて終結となった(ここまでで約6年が経過).
 Mの診断はBPDと複雑性PTSDの併存と考えられる.当初Mは他者と安定した関係を築けず,解離症状が顕著だった.セラピー開始後1年は,安定してセッションに訪れ,解離せずにセラピストとかかわれるようになるのに費やされた.解離症状を有し,対人関係を築くのに問題を抱える複雑性PTSDの治療では,この最初のステップが不可欠だと思われる.本格的なSTにおいては,さまざまな技法が用いられたが,治療的再養育法とイメージの書き換えによって修正感情体験を得ることがMの回復に大きく寄与したと考えられる.6年という長い年月を要したが,STとしてはさほど珍しくない事例である.

おわりに
 当初BPDを対象に構築されたSTについて,早期不適応的スキーマおよびスキーマモードという2つの理論モデルを提示した.次に治療的再養育法やイメージの書き換えといった技法を紹介し,BPDに対するエビデンスを示した.それから,複雑性PTSDの病因と病態がBPDと大きく重なることを示し,両者が併存する事例を提示した.現時点で複雑性PTSDに対するSTの臨床研究は数が少ないものの,幼少期や思春期の傷つき体験に焦点をあて,それらの影響から脱し,当事者がよりよく生きることを支援するSTは,複雑性PTSDに対する治療法として,BPDに対するエビデンスを鑑みても,非常に希望のもてるものであると考えられる.そのためにも,今後は複雑性PTSDに特化したSTのエビデンスの積み重ねが不可欠であろう.一方,提示した事例もそうであったが,STは個人のセラピーとしてはかなり長い年月を要する.今後はグループ設定を用いるなど,より短期に同様の効果を得られるべく,臨床的工夫を重ねていく必要があるだろう.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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15) Young, J. E., Klosko, J. S., Weishaar, M. E.: Schema Therapy: A Practitioner's Guide. Guilford Press, New York, 2006 (伊藤絵美監訳: スキーマ療法―パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ―. 金剛出版, 東京, 2008)

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