Advertisement第121回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第126巻第8号

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資料
ベンゾジアゼピン受容体作動薬関連障害の類型化と大量使用からの減量法の検討
宇佐美 貴士1)2), 村上 真紀3), 松本 俊彦2)
1)北九州市立精神保健福祉センター
2)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部
3)こころ診療所吉祥寺駅前
精神神経学雑誌 126: 510-520, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-083
受理日:2024年3月1日

 目的:benzodiazepine受容体作動薬(以下,BZDs薬)に関連する医学的問題として,3つの臨床類型が存在すると考えられる.臨床用量範囲内のBZDs薬の長期服用によって中止が困難な状態となる常用量依存,常習的に大量のBZDs薬を服用しコントロールを喪失した依存症,挿話的な過剰服薬などが問題となる有害使用である.本研究では,3類型の臨床的特徴を明らかにし,大量使用からの減量法について検討した.方法:2015年4月~2019年12月に国立精神・神経医療研究センター病院薬物依存症センターを初診したBZDs薬関連障害患者67名を対象とし,「常用量群」「依存症群」「有害使用群」の3類型に分類し,診療録から収集した臨床的情報(性別や年齢,就労状況,服用BZDs薬の種類・使用期間・使用量,併存精神障害,アルコール・薬物問題に関する重症度尺度得点,治療転帰など)に関して3群間で比較を行った.さらに,依存症群のうち,BZDs薬の減量もしくは中止を目的に入院治療を行った8名の患者に関して,入院時における服用BZDs薬のdiazepam換算量と置換や漸減のペースといった減量方法に着目し,経時的な推移を記述した.結果:常用量群(n=25)は,平均年齢が51.3歳と高く,使用年数が平均14.7年と長く,併存精神障害として神経症性障害をもつ者が多かった.依存症群(n=24)はdiazepam換算量の平均が82.8 mgと高く,入院治療を要した者が多かった.有害使用群(n=18)は女性や若い世代が多く,diazepam換算量の平均は22.4 mgであった.減量法についてはdiazepam換算量50 mgを超えれば入院加療を行う目安とし,長時間作用型のBZDs薬へと置換し,週に5~20%の減量を行い,diazepam換算量50 mgを目安に減量のペースを緩めた.結論:依存症群は,使用BZDs薬量が著しく多く,社会的な障害も大きくなり,入院治療を要する場合が多い.有害使用群は,日常に使用するBZDs薬の量は少ないが,挿話的な過剰服薬が引き起こす社会的障害は小さいとはいえない水準であった.本研究では,入院治療で長時間作用型BZDs薬への置換,ならびに,diazepam換算量50 mg/日を目安に減量ペースを緩めるという二段階の方法でBZDs薬の減量に成功していた.

索引用語:ベンゾジアゼピン受容体作動薬, 減量法, 薬物依存症, 過剰服薬, 常用量依存>

はじめに
 わが国において,診療科を問わず広く処方されている向精神薬といえば,benzodiazepine受容体作動薬(以下,BZDs薬)であろう.BZDs薬は1950年代に登場するや,その安全性からbarbiturates系睡眠薬やmeprobamateなどの抗不安薬にとって代わった.
 しかし,まもなく長期大量投与に伴う依存症発症症例が報告され20),さらに1980年代以降になると,たとえ臨床用量範囲内の使用であっても中止困難となる事態,いわゆる「常用量依存」の報告がなされるようになった9).英国では,製薬会社や医療機関,保健当局に対しBZDs薬に関連した集団訴訟が起こされるなど社会問題となった8).わが国でも,1990年に『麻薬及び向精神薬取締法』が改正され,BZDs薬を向精神薬に指定することで規制がなされるようになり,処方日数の上限が定められた.さらに,2010年には国際麻薬統制委員会の報告書6)において,わが国におけるBZDs薬消費量の多さに関する批判が記載されたことを受けて,2012年以降,診療報酬改定のたびに,多剤処方や長期処方に対する減算算定など,さまざまな処方抑制の試みがなされた.
 常用量依存をただちに治療を要する病的状態とみなすべきか否かはさておき,確かにBZDs薬が規定された用量・用法から逸脱した不適切使用がなされれば,さまざまな医学的問題を引き起こす.今日,BZDs薬の不適切使用に起因する医学的問題として,次の2つが臨床上の問題となっている.1つは,大量かつ常習的な使用,すなわち依存症である.わが国唯一の薬物関連精神障害に関する経年的かつ悉皆的調査,「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」(以下,病院調査)によれば,BZDs薬を主たる乱用薬物として精神科医療にアクセスする薬物関連精神障害患者の割合は2010年頃より増加し,2022年の病院調査では,BZDs薬は覚醒剤(49.7%)に次ぐ第2位(17.6%),1年以内に乱用がみられた患者に限れば覚醒剤をわずかに抑えて最も多い薬物となっている(BZDs薬28.7%,覚醒剤28.2%)12).もう1つは,間欠的もしくは挿話的に行われるBZDs薬の過剰服薬であり,不快感情への対処や他者に対するコミュニケーションの意図,あるいは,自殺の意図から行われる2).これは,救急医療現場において事例化し,すでにわが国では,救急搬送された過剰服薬患者が服薬する薬剤として最も多く選択されているのがBZDs薬であるとの報告がある14)
 以上をふまえると,BZDs薬使用に関連する医学的問題として,臨床場面で遭遇する使用様態には,次の3つの類型を想定することが可能である.第1に,臨床用量範囲内のBZDs薬を長期間服用することで服用中止が困難となっている状態(いわゆる常用量依存)であり,第2に,常習的に大量のBZDs薬を服用し,薬剤を入手するために複数の医療機関を受診するなど,使用コントロールを喪失した状態(依存症)である.そして最後に,間欠的もしくは挿話的な過剰服薬が問題となる有害使用である.しかし,われわれが知り得た限りでは,これらの3類型の臨床的特徴や各類型間の差異を検証した研究はなく,さらには,近年における薬物依存症臨床の重要課題であるBZDs薬依存症に関して,その治療過程を詳細に記述した文献も少ない.
 そこで,本研究では,今後のわが国におけるBZDs薬関連障害に対する治療法確立のための基礎資料作成を目的として,以下の2つのことを行った.1つは,BZDs薬関連障害患者3類型の臨床的特徴を明確化・記述することであり,もう1つは,薬物依存症臨床における中核的な臨床類型である依存症水準の患者に関して,後方視的検証を通じてその治療経過を描写することである.
 なお,本稿では,benzodiazepineではなく,一貫してbenzodiazepine受容体作動薬(BZDs薬)という用語を採用している.その理由は,benzodiazepine受容体に作用しながらも「非benzodiazepine系」と称されるZ-drugsに関して,あたかも安全であるかのような誤解を与えかねないと危惧するからである.事実,前出の病院調査でもzolpidemは,つねに乱用頻度の高い睡眠薬・抗不安薬の上位に入っている.

I.方法
1.国立精神・神経医療研究センター病院薬物依存症センター
 国立精神・神経医療研究センター病院(以下,NCNP病院)では,2009年10月より薬物依存症外来が開設され,薬物の問題を抱える患者の外来および入院治療を行い,依存症回復プログラムであるSMARPP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program)を提供してきた.その後,2017年9月には薬物依存症センターへと組織拡大がなされ,病院と研究所の連携を強化し,専門治療プログラムの開発,診療体制の充実に取り組んでいる.
 なお,同外来を受診する患者の問題となる薬物は,覚醒剤や大麻などの違法薬物から,抗不安薬や睡眠薬などの処方薬,鎮咳薬や総合感冒薬などの市販薬まで多岐にわたっている.

2.対 象
 2015年4月~2019年12月にNCNP病院薬物依存症センターを初診した563名の診療録を後方視的に参照し,問題となる薬物がBZDsである患者67名を抽出し対象とした.なお,著者らは,対象患者の外来および入院治療に際して担当医として関与している.

3.方 法
 本件研究における情報収集は,NCNP病院の診療録より,個人を特定できない以下の臨床情報を転記する形で行った.すなわち,初診時の性別や年齢,就労状況,教育年数,内服しているBZDs薬の内容とその内服期間,ならびに,当外来初診時にルーチンで実施している薬物・アルコールに関する自記式尺度である,DAST-20(Drug Abuse Screening Test, 20 items)18),およびAUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)3)の総得点に関する情報を収集した.初診前約1ヵ月間におけるBZDs薬の1日服用平均量を,Inada, T. らの等価換算4)を用いてdiazepam換算値を算出した.
 また,治療転帰に関する情報も収集した.具体的には,初診から半年経過時点における治療状況(継続・中断・終結),ならびに,その半年間における入院治療歴を調べた.初診半年経過時点で通院を継続していた者,もしくは,入院治療歴がある者については,併存精神障害の有無,および,そのICD-10診断カテゴリーも調べた.
 さらに,対象患者67名を以下の3群に類型化した.類型化にあたっては,病歴やBZDs薬の使用様態,各担当医の意見を参照し,最終的には筆頭著者が判断した.

 1)常用量群:後述の2群に該当せず,他院で処方されたBZDs薬の減量や中止が困難であるが,治療に必要な臨床用量範囲内のBZDs薬を内服している群.25名が該当した.
 2)依存症群:ICD-10 F13.2の依存症候群に該当し,渴望があり,離脱や耐性を認め,やめたくてもやめられず,社会的な障害を生じている群.24名が該当した.
 3)有害使用群:ICD-10 F13.1の有害な使用に該当し,主に間欠的で挿話的な過剰服薬といった不適切な使用(乱用)がある群.18名が該当した.

 さらに本研究では,この3類型において依存症群に該当し,かつ,BZDs薬の減量もしくは中止を目的とした入院治療を行った8名に関して,入院時における服用BZDs薬のdiazepam換算量と減薬方法(置換手続き,漸減ペース)に着目し,治療経過を検討した.なお,著者らの多くはこれらの8症例の入院治療に担当医,もしくは指導医として関与している.

4.統計学的解析
 常用量群,依存症群,有害使用群の3群間において,それぞれ性別,年齢,就労状況,教育年数,初診時までの薬物の使用年数,半年後の治療転帰と入院の有無,初診前1ヵ月間における内服BZDs薬の種類とその1日服用平均量のdiazepam換算量,DAST-20の得点,AUDITの得点について比較を行った.併存精神障害についても3群間の比較を行った.
 統計学的解析にはIBM SPSS Ver. 25を用い,質的変数の比較にはPearsonのχ2検定および残差分析を行った.また,連続量の比較にあたっては,まずは一元配置分散分析を行い,有意差がみられた項目については,いずれの2群間で有意差があるのかを明らかにするために,Bonferroni法によるpost-hoc testを実施した.いずれの場合も有意水準を両側検定で5%に設定した.
 なお,本研究は国立精神・神経医療研究センター倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号A2019-095).

II.結果
1.3群間の属性の比較
 3群間の初診時の属性の比較について表1に示す.3群間において初診時の平均年齢は,常用量群が51.3歳(SD:14.20),依存症群が36.2歳(SD:9.26),有害使用群が36.3歳(SD:13.09)であり,3群間で有意差がみられた(P<0.001).Bonferroni法によるpost-hoc testでは,常用量群と依存症群(P<0.001),および常用量群と有害使用群(P=0.001)の2群間において有意差がみられた.また,初診時までにBZDs薬を使用していた平均使用期間については,常用量群が14.7年(SD:12.41),依存症群が8.1年(SD:4.91),有害使用群が7.1年(SD:4.16)であり,3群間で有意差がみられた(P=0.013).Bonferroni法によるpost-hoc testの結果,常用量群と依存症群(P=0.032),および,常用量群と有害使用群(P=0.026)の2群間においてそれぞれ有意差がみられた.
 半年経過時点における治療転帰は,常用量群では終了が14名(終了率56.0%),依存症群では継続例が多く17名(継続率70.8%),有害使用群では継続例と終結例がそれぞれ7名(継続率・終了率ともに38.9%)であり,3群間で有意差がみられた(P=0.002).半年以内における入院治療歴については,常用量群が3名(12.0%),依存症群が13名(54.2%),有害使用群が2名(11.1%)であり,3群間で有意差がみられた(P=0.001).残差分析では,入院治療歴は常用量群に少なく,依存症群に多いという結果であった.
 内服するBZDs薬の種類に有意差はなく,どの群も半数以上が1種類となっていた.そのなかでも頻度が高い順にetizolam,zolpidem,flunitrazepam,triazolamとなり,これは3群で同様の傾向であった.初診前1ヵ月間における内服BZDs薬のdiazepam換算量の1日あたりの平均値は,常用量群が12.0 mg(SD:15.38),依存症群が82.8 mg(SD:90.49),有害使用群が22.4 mg(SD:16.97)であり,3群間で有意差がみられた(P=0.001).Bonferroni法によるpost-hoc testの結果,依存症群と有害使用群(P=0.032),および,常用量群と依存症群(P=0.001)の2群間においてそれぞれ有意差がみられた.DAST-20の平均得点については,常用量群が7.6点(SD:4.70),依存症群が12.9点(SD:3.11),有害使用群が10.8点(SD:3.95)であり,3群間で有意差がみられた(P=0.001).Bonferroni法によるpost-hoc testの結果,常用量群と依存症群(P=0.001)の2群間において有意差がみられた.
 本研究の対象中,初診から半年経過時点で通院継続がみられた者,もしくは,半年以内に入院歴が認められた者は,合わせて33名であった.この33名に関する併存精神障害に関する比較の結果を表2に示す.常用量群については,「F4神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害」(以下,神経症圏)を併存する者が4名(80.0%)で,その割合が突出して多かった.依存症群では,併存精神障害が認められない者が6名(28.6%)おり,一方で,最も多く認められた併存精神障害は「F6成人のパーソナリティおよび行動の障害」(以下,パーソナリティ障害圏)で7名(33.3%)であった.また,有害使用群では,最も多く認められた併存精神障害は「F3気分障害」で3名(42.9%)であった.3群間比較においても有意差がみられた(P=0.002).

2.減量方法のまとめ
 依存症群のなかでBZDs薬の減量を目的に入院した8名の初回入院の減量についてまとめた結果を表3に示す.8名の平均入院日数は49.6日(SD:38.78)であった.原則としてBZDs薬をdiazepamおよびclonazepamに置換し減量を行った.表3にはこの置換したdiazepam換算値を記載している.入院し置換したdiazepam換算値の合計の平均値は134.6 mg(最大値360 mg,最小値30 mg,SD:103.23)であった.また,退院時処方の平均diazepam換算値は52.8 mg(最大値135 mg,最小値7 mg,SD:38.97)であった.入院中,一部の患者で高度な便秘(症例6)や頭痛(症例8)など離脱が疑われる症状がみられたものの,離脱けいれんのような重篤な離脱は認められなかった.なお,一部の症例では,患者自身の希望から,すべてのBZDs薬をdiazepamやclonazepamに置換しない場合があった.症例1は少量のestazolamとzopicloneを,症例3は少量のquazepam,triazolam,flunitrazepamを,症例7はetizolamを残した.
 入院中の減量経過についてに示す.入院中の治療方針については,すべての症例において担当医と患者本人の間で定期的に意向を確認しており,患者の同意と納得のうえで治療が進められていた.また,すべての入院症例に共通していたことが2つあった,1つは,外来担当医が入院治療を提案した時点で,すべての患者が1日あたりの服用BZDs薬量がdiazepam換算量にして50 mgを超えていたことであった.そしてもう1つは,入院最初の1週間は,患者が服用するBZDs薬を等価量のdiazepamやclonazepamへと置換して減薬はせず,次の週より1週間あたり5~20%の量を減薬している点であった.他の特徴としては,おおむね1週間に2回減薬のタイミングを設定して,diazepam換算量にして50 mg程度になったところで,減薬のペースを緩和していたこと,また,離脱や減薬に対する不安の改善に向けてquetiapineやchlorpromazineを併用した.
 なお,併存する精神障害に対しては適切な薬物療法を実施した.

表1画像拡大表2画像拡大表3画像拡大
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III.考察
1.3類型の特徴
 本研究では,3つの類型を仮定して対象を分類し,それぞれの臨床的特徴を比較,検討した.
1)常用量群
 常用量群は,平均年齢は顕著に高く,依存症群や有害使用群とは,人口動態的属性が明らかに異なる集団といえた.また,BZDs薬使用期間がきわめて長く,併存精神障害として80%にF4神経症圏の診断が認められた.このことから,その併存精神障害の治療目的からBZDs薬内服を開始し,それ以降,長期間服用を継続してきたという状況がうかがわれた.
 診療報酬データを用いた研究によると,BZDs薬が1年間以上継続処方がなされていた患者は15%程度おり,多剤併用となっている患者も15~30%になっているという7).このことから多剤併用や長期処方は決して稀ではないものと推察される.この臨床類型に該当する患者は,長期間の薬物療法によって症状はコントロールされているものの,患者自身の神経症的ないしは心気症的な不安により,「BZDs薬を中止できない」という事態に苦悩し,専門外来にアクセスした可能性が考えられる.なお,治療終結例が非常に高率となっているが,これは薬物依存症外来での治療適応と判断されず,これまでの治療関係の継続を助言して紹介元の医師に戻したケースが多かったことを反映した結果と推測される.
 一点やや奇妙に感じられるのは,この臨床類型では,BZDs薬服用量も臨床用量の範囲内であり,diazepam換算値も低いにもかかわらず,DAST-20平均得点は7.6点と,必ずしも低いとはいえない点である.村崎は,常用量依存患者が,長期間にわたり適正用量を使用することで,症状は改善し社会生活を問題なく生活できているものの,長期間の使用に対する「罪悪感」を覚えていることが多いと指摘している13).本研究でも,DAST-20における「薬物使用の後悔や罪悪感」や「愚痴をこぼす経験」といった項目で得点が加算された可能性,あるいは,自身の使用法を不適切な使用と思い込み,過剰評価した回答をした可能性がある.言い換えれば,この得点は,BZDs薬関連障害の重症度ではなく,患者の自覚的苦痛の大きさを反映したものかもしれない.
2)依存症群
 依存症群は,性差はなく,年代は20歳代から50歳代まで幅広く分布していたものの,特に30歳代が最も多かった.また,有意差はなかったものの,有職者の割合が比較的低い傾向にあり,このことは,BZDs薬使用による社会的機能障害の深刻さを反映した可能性が推測される.事実,この一群では,DAST-20平均点も12.9点と高く,この数値は,嶋根らの報告19)における民間薬物依存症回復施設ダルク(Drug Addiction Rehabilitation Center:DARC)利用者のDAST-20平均点(13.4点)と同水準である.このような重篤な病態であるがゆえに,初診から半年経過時点における治療継続率も高く,入院治療歴をもつ者も多いなど,高度な医療ニーズをもつ一群といえるであろう.
 また,この群では,内服BZDs薬の1日服用平均量はdiazepam換算量82.8 mgと,他の群に比較して顕著に高かった.一般的に,長期間の使用や使用量が増えるほど身体依存のリスクが上昇すると言われており10)16),この臨床類型では,われわれの定義どおり,大量のBZDs薬を習慣的に使用し,したがって,身体依存を形成している患者が多いことを反映した結果と思われる.2022年の病院調査の報告書12)によれば,BZDs薬関連精神障害の患者の薬物の入手先は80%が医療機関と圧倒的に多いが,連日これだけの量のBZDs薬を服用し続けるには,当然ながら単一医療機関からの処方では不足するであろう.おそらくは高頻度に複数の医療機関を受診するなどの薬物探索行動が日常的に繰り返されている可能性が高く,すべての診療科の医師への注意喚起が求められるところである.
 なお,同定された併存精神障害の内訳としては,F6パーソナリティ障害圏(33.3%)が比較的多く認められた.このことは,単に併存精神障害が引き起こす不安・焦燥,緊張といった症状の存在に加えて,こうした心理的苦痛への耐性や対処能力といった点にも問題を抱えている可能性が推測される.
3)有害使用群
 有害使用群では,女性の割合が高く,年代は10歳代から60歳代までと幅広く分布しつつも,20歳代の多さが突出していた.BZDs薬の1日服用平均量はdiazepam換算量22.4 mgであり,この数値は,稲垣ら5)による民間精神科病院通院中患者のBZDs薬服用量(diazepam換算量15.7±15.5 mg/日)よりもいくぶん多い程度であった.その意味では,本臨床類型の日常BZDs薬服用量は必ずしも逸脱的に大量とはいえないものの,挿話的な過剰服薬が引き起こす社会的障害は深刻であり,そのことが中等度のDAST-20得点に反映されたと考えられる.この臨床類型では,過剰服薬後に処方薬不足となって予約の前倒し受診をすることはあるにせよ,依存症群にみられるような,複数のクリニックを「はしご」するような薬物探索行動を呈することは比較的少ないと推測される.
 なお,同定された併存精神障害の内訳としては,F3気分障害圏の併存が多く認められた.過剰服薬と遭遇する場面が多い救命救急センターを対象とした研究11)では,過剰服薬を行った動機を調査したところ,自殺を目的とした過剰服薬と同程度の不快感情の軽減を目的とした過剰服薬があることがわかっている.この臨床類型では,抑うつ気分悪化時の自殺関連行動,あるいは,めまぐるしく変化する情動への対処としてBZDs薬の挿話的な過剰服薬がなされているのかもしれない.

2.依存症群の入院治療に際しての減量方法について
 BZDs薬の減量について,認知行動療法を併用することで成功しやすくなる,緩徐に週に25%程度減量するなどと報告する研究はあるが,これらの研究はいずれも常用量からの減量を想定したものである15)17)
 そうしたなかで,連日大量使用状態からの減量に際して参照できる資料としては,わが国では,唯一,田中らが邦訳した『アシュトンマニュアル』1)だけである.同マニュアルには,「患者とよく話し合い心理的なサポートを行いつつ,離脱症状の予防のために緩徐に減量すること」「離脱症状を緩和するために短時間作用型のBZDs薬ではdiazepamのような長時間作用型のBZDs薬へ置換し,置換薬を減量すること」などが提案されており,緩徐な減量スケジュールの具体例がいくつか例示されている.例えば,alprazolam 6 mg/日(diazepam換算量120 mg/日)の服用患者の減薬では,最初の4週間で徐々にdiazepamへと置換を行い,それから1回の減量を5 mg/日(6%程度)とし1~2週間かけて漸減し,それを10回繰り返し40 mg/日まで減量する方法が提案されている.
 しかしながら,こうした減薬方法の妥当性を検証した研究はない.また,NCNP病院薬物依存症センターを受診するBZDs薬関連障害患者のなかには,『アシュトンマニュアル』で例示されているdiazepam換算量をはるかに超える大量使用患者も稀ではないが,われわれの知り得た限り,わが国には,このようなBZDs薬の習慣的大量使用症例の減薬方法に関する指針や,エビデンスに基づいたBZDs薬依存症の治療ガイドラインもない.そうしたなかで,入院症例の治療経過は,著者らNCNP病院薬物依存症センターに所属する精神科医による試行錯誤的な臨床経験の後方視的検討に過ぎないが,今後,ガイドライン開発にあたっての基礎資料として重要な意義がある.
 直接治療を担当した医師としての立場から入院症例の概要と治療経過について整理しておきたい.入院時における8症例の平均diazepam換算量は134.6 mg/日と高用量であったが,いずれの症例においても,入院時治療の目標は,外来でも治療可能なdiazepam換算量50 mg/日程度までの減量を目標とした.この数値目標は,添付文書でdiazepamの処方は外来で原則15 mg/日までと規定され,clonazepamについては1 mg/日程度から開始して漸増し,維持用量は2~6 mg/日となっていることから,最小維持用量のclonazepam 2 mg(diazepam換算40 mg)と合わせdiazepam換算量50 mg/日程度として算出している.この治療目標に関しては,一部の症例を除き,おおむね目標は達成されており,入院日数は平均49.6日であった.
 われわれは,減薬にあたっては以下の手続きを意識してきた.まずは,(i)『アシュトンマニュアル』における提案と同様に,患者とよく話し合い,長時間作用型のBZDs薬に置換を行う.(ii)置換は,すべてのBZDs薬をdiazepamへの置換を原則としつつ,必要に応じてより高力価なclonazepamを併用して置換した.(iii)置換に要した時間は1週間以内で,diazepam換算量と同量を最初の処方タイミングで全量置換し,1週間程度その量で問題がないか経過をみて,(iv)置換終了後の減量ペースは週にdiazepam換算量の5~20%とし,(v)diazepam換算量50 mg/日以降の減量はペースを緩める,というものである.
 なお,まず置換薬としてdiazepamに加えてclonazepamを併用する理由については,入院期間を少しでも短縮するためである.確かに『アシュトンマニュアル』では置換するBZDs薬としてdiazepamが推奨されているものの,前述のようにわが国ではdiazepamは添付文書上,外来で原則15 mg/日と規定されており,外来処方可能量までdiazepamを減薬するとなると,入院期間が非常に長期に及んでしまう.そこで,高力価かつ長時間作用型のclonazepamを併用することで,早期に外来治療に戻すことが可能となる.
 上述した減薬ペースは,明らかに『アシュトンマニュアル』で推奨されているペースより早い.それを可能とした背景には,入院環境であるがゆえに,用量の微細な調整,ならびに,離脱症状や不安感にも迅速に対応できたこと,さらには,減量の目的や目標,具体的な減量方法について,頻繁に患者と話し合い,心理的サポートを提供できたことは無視できない.また,治療にあたっては,治療目標は必ずしも断薬とはせず,ときには併存精神障害の治療上,どうしてもBZDs薬を使用せざるをえない場合には,長時間作用型のBZDs薬を少量処方するなど,患者のニーズに柔軟に対応することで入院治療の中断を防ぐよう努めたことも言い添えておきたい.
 なお,入院中に減薬したとしても,当然ながら,退院後に再びさまざまな医療機関からBZDs薬の処方を受け,乱用を再開するリスクはつねにつきまとう.そこで,そうしたリスクを低減するために,著者らが入院中に行っている2つの工夫についても述べておく.1つは,あくまでも患者自身の同意が得られた場合に限られるが,処方を受けている医療機関名をすべて教えてもらい,それらの診察券の処分,ならびに,「薬物依存症の治療中なので,今後,患者が受診しても,睡眠薬・抗不安薬の処方はいっさいしないでください」という趣旨の診療情報提供を行うことである.そしてもう1つは,本人および家族との話し合いの場を設け,退院後,保険証を誰がどのように管理するのかについて決めておくことである.
 そのうえで,退院後には,医学的管理下のもと適正に処方薬の服用を維持するために,ダルクや薬物依存症の自助グループ(Narcotics Anonymous:NA)などの社会資源を適宜併用する.

3.本研究の限界
 本研究にはいくつかの限界があるが,主な限界は3点である.第1は,対象の代表性に関する問題である.本研究の対象はNCNP病院薬物依存症センターという単一施設を受診したBZDs薬関連障害患者を対象としており,得られた結果の一般化には慎重であるべきであろう.第2に,情報の正確性に関する問題である.本研究の情報収集は診療録からの転記という後方視的な方法に依拠しており,各担当医の評価・判断の基準には当然ばらつきがあることは否定できない.
 そして最後に,最も重要な限界として,類型化モデルや入院治療の進め方に関する主観性を挙げておく必要がある.今回,提示した3つの類型は,われわれの臨床経験に基づいて便宜的に設定した仮説にすぎず,その実際性や有用性は自負しているものの,何らかのエビデンスに基づく類型ではない.また,入院治療の進め方についても,『アシュトンマニュアル』以外,これといった指針が存在しないなかで,試行錯誤しながら行ってきた経験的なものでしかない.その意味で,本論文で提示した入院治療はあくまでも1つの提案であり,今後,さまざまな検証によって改変させるべき「叩き台」に過ぎない点に注意する必要がある.
 以上のような限界がありつつも,本研究は,近年わが国の薬物依存症臨床において重要な課題となっていながら,いまだ明確な治療法が確立していないBZDs薬関連障害患者の治療に関して重要な貢献をするものと確信している.

おわりに
 本研究では,BZDs薬の問題でNCNP病院薬物依存症センターを受診した患者を,常用量群,依存症群,有害使用群の3群に類型化し,3群間の比較を通じて各群の臨床的特徴を明確化した.その結果,常用量群は,薬物の問題は目立たないものの,本人の主観的苦痛は無視できない水準であり,また,依存症群は,使用BZDs薬量が著しく多く,社会的な障害も大きくなり,入院治療を要する場合が多かった.一方,有害使用群は,日常に使用するBZDs薬の量は少なかったが,挿話的な過剰服薬が引き起こす社会的障害は小さいとはいえない水準であった.
 また,本研究では,NCNP病院薬物依存症センターにて入院治療を受けた依存症群8名に関して,入院中のBZDs薬減量プロセスを後方視的に振り返った.その結果,われわれの臨床的実感としては,長時間作用型BZDs薬への置換,ならびに,diazepam換算50 mg/日を目安に減量ペースを緩めるという二段階の減量方法をとることで,『アシュトンマニュアル』に示される減量法に比べて,早いペースで減量を行える可能性があるとの手応えを得た.こうした臨床経験は,今後のガイドライン開発に資する基礎資料になることが期待される.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 本研究は,国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費研究事業「薬物使用障害の病因・病態・治療反応性に関する多面的研究」(主任研究者:松本俊彦)の助成を受けて実施された.
データの収集や解析についてご助力およびご指導を頂いた国立精神・神経医療研究センター病院の船田大輔先生(2023年10月14日逝去)に深謝申し上げます.

文献

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