Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第126巻第2号

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総説
オープンダイアローグの実装とその展望
斎藤 環
筑波大学医学医療系社会精神保健学
精神神経学雑誌 126: 79-89, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-016

 オープンダイアローグ(以下,OD)は,1980年代からフィンランドで開発・実践されてきた,統合失調症に対する統合的アプローチである.現在,発祥の地である西ラップランド地方のトルニオ市では,統合失調症に限らず,あらゆる精神障害を対象に対話実践が行われ,良好な成果をおさめているとされる.ODにおいてセラピストは,クライアントやその家族から電話などで依頼を受けると,24時間以内に数名からなる治療チームを編成し,クライアントの自宅を訪問する.治療チームは本人とそのネットワーク(家族,友人知人らの関係者)とともに「開かれた対話」を行う.重要な原則として「クライアントについて,スタッフだけで話すのをやめる」というものがあり,このほか「即時対応」「柔軟性と機動性」「心理的連続性」「不確実性の耐性」など7つの原則がある.また「リフレクティング(クライアントの目の前で専門家が意見交換をする)」もODにおいて重要な位置を占めている.ODのエビデンスに関して,現時点で最も有力なものとして,Bergström, T. らによる報告がある.トルニオで実施された後ろ向きコホート研究(OD群)と,通常通りの治療を経験したフィンランド国民コホート全体とを比較したもので,入院日数,抗精神病薬使用率,障害年金手当受給率などの項目において,OD群で有意に良好な成果を挙げていた.しかし一方で,従来のOD研究には開発者がかかわるバイアス,サンプルサイズ,アウトカムの選択と測定方法,無作為割り付けの未実施などの問題もあるとする指摘もある.ODは国際的にも高い注目を集めており,特に欧米諸国で導入が進められている.本稿ではイギリスでの大規模RCT(ODDESSI)をはじめ,ドイツ,イタリア,アメリカ,日本における実装状況を紹介した.今後さらなるエビデンスの蓄積が俟たれるが,治療よりもケアに照準したODの「新しい人間主義」についても,さらなる深化と発展が期待されている.

索引用語:オープンダイアローグ, 対話実践, リフレクティング, ポリフォニー, 7つの原則>
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