Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第9号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
連載 21世紀の「精神医学の基本問題」 ― 精神医学古典シリーズ
Ernst Kretschmer―心の理解,多次元診断,精神療法―
久江 洋企
桜ヶ丘記念病院
精神神経学雑誌 125: 808-817, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-114

 Kretschmer, E. の業績を,心の理解,多次元診断,治療の各テーマに沿って紹介するとともに,彼に対する批判や彼による再批判をとりあげ,現代のわれわれが学ぶべき点について述べる.彼は心を直接体験と定義し,体験は,自我と外界との間で起き,性格に特有な加工を経ていると指摘した.そして体験反応(体験に対する反応)を,原始反応と人格反応に分類した.特定の人格に作用し,その人格に特有の反応を起こさせるのが鍵体験である.反応には動機があり,動機にはいろいろな成分からなる動機の束を想定している.強い感情を伴う体験は,コンプレクスとして心の動きに影響を及ぼし,または優格観念を形成して人格の核心を占め,関係妄想を生じる.体験反応を理解することで,正常心理における「心の動き」と,その病的な発展を知ることができる.敏感関係妄想には性格,体験,環境の各要因が関与し,反応の観点から了解は可能で,精神療法により寛解しうる例があることをKretschmerは示した.彼の精神療法論では,能動的・積極的・段階的に取り組むべきことが強調されており,ヨガ,激励法,分画的積極的催眠法,Schultz, J. H. の自律訓練法に言及している.Kretschmerの多次元診断構想は相対性をその特徴としている.そして彼が体系としての厳密さを欠くという批判を受けながらも相対的な立場をとり続けた理由は,治療に役立つ理論であるべきという,目的を意識していたことにあると考える.彼の反応学説や,多次元診断構想を,臨床場面で応用すると,治療者としてより患者を「わかる」ことが実感できるだろう.各業績の紹介を通して,多次元診断と治療への志向が,彼の研究を貫く軸であることが理解できると思う.

索引用語:Ernst Kretschmer, 体験反応, 多次元診断, 敏感関係妄想, 精神療法>
Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology