Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第9号

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特集 曲がり角に立つ精神科入院医療―マクロ状況と精神科臨床から―
精神科領域における実効的な行動制限最小化の普及について
杉山 直也
公益財団法人復康会沼津中央病院
精神神経学雑誌 125: 779-787, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-110

 精神保健福祉資料によれば,わが国の行動制限量(隔離・身体的拘束)は増加傾向にあり,政策面からも優先的に対策すべき喫緊課題と認識される.その要因は多岐にわたるが,治療文化が大きな部分を占め,実態調査では把握しにくい.米国で発表されたコア・ストラテジーは,行動制限の最小化策を集約し,世界の各地で成果を上げているが,わが国での普及は途上にある.これらの現状をふまえて「精神科領域における実効的な行動制限最小化の普及に関する研究」が実施された.看護師アンケートの結果から,わが国の行動制限最小化活動は十分ではなく,人員配置不足は決定的な要因であり,現場従事者の問題意識や向上意欲はあるものの,知識も学習機会も体制も限られる実態,行政関与の重要性への意識の希薄さが判明した.このため,精神保健福祉資料を活用したモニタリング体制の構築を試み,諸外国での成果を参考に,行政支援による実効的な行動制限最小化の普及ツールである「政策パッケージ(案)」を具体的な成果物として開発した.これにより,行動制限最小化課題について,わが国特有の状況を明らかにしたうえで,科学的に根拠を有す人知と見識を最大限援用した,実効性の期待できる方策を提案した.行政担当者の受け止めにもよるが,今後の普及と取り組みにより,本来的な最小化活動の推進と成果に期待したい.関連して,著者らによる行動制限最小化の取り組みを紹介した.「身体拘束ゼロ化」では,リーダーシップを活用し,組織変革を推進し,やがて個人レベルでの取り組みの浸透や意識変化が観察され,実効性とともにカルチャーチェンジを体験した.早期作業療法は行動制限を要す集中治療期から開始する作業療法で,実行可能性が示され,治療の統合化,アセスメント精度の向上,患者の負担軽減や治療参加意欲の向上などが観察され有意義であった.

索引用語:隔離・身体的拘束, 看護師アンケート, コア・ストラテジー, 政策パッケージ>
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