Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第8号

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精神医学奨励賞受賞講演
第118回日本精神神経学会学術総会
双極性障害におけるデノボ変異解析と将来への展望
西岡 将基1)2)3)
1)順天堂大学医学部精神医学講座
2)順天堂大学医学部気分障害分子病態学講座
3)理化学研究所脳神経科学研究センター分子精神病理研究チーム
精神神経学雑誌 125: 702-708, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-099

 双極性障害や統合失調症などの精神疾患は高い遺伝性をもつことが知られているが,その遺伝情報の実体は長らく謎であった.しかし,近年のゲノム解析技術の発展によってDNAにコードされた情報を網羅的に読み取り解析することが可能になり,精神疾患と関連するゲノム特徴が徐々に明らかになってきた.統合失調症・自閉スペクトラム症については,ゲノム解析技術の発展により,効果の大きな関連レアバリアントが見いだされてきたが,双極性障害に対する理解は相対的に遅れており,特に関連レアバリアントに未知が多い.われわれは,レアバリアントのなかでも,特に稀な変異であるデノボ変異に注目し,発端者のみが双極性障害で両親が非罹患という孤発例を中心に,双極性障害に関連する遺伝子・変異を354家系から探索し,この報告により精神医学奨励賞をいただいた(Nishioka, et al., Nature Communications, 2021).本研究により,双極性障害デノボ変異の特徴として,(i)進化的に自然淘汰を受けやすい遺伝子,high pLI遺伝子の機能喪失変異が多いこと,(ii)シナプス・イオンチャネル関連遺伝子の機能障害変異が多いこと,(iii)XKR6機能障害変異が双極性障害で2例あり,広義の精神疾患・神経発達障害で有意に多いこと,(iv)KMT2Cをはじめ,体細胞モザイク性の機能障害変異は,発達障害原因遺伝子上に多く,SRCAP遺伝子で2例検出した.これまでのゲノム研究により双極性障害と関連するバリアントの特徴が明らかになってきた一方で,双極性障害と呼ばれる疾患群のなかでの異質性と,統合失調症や神経発達障害との疾患をまたいだ共通性も同時に明らかになってきた.ゲノム特徴と表現型の対応づけを,従来の診断分類より詳細に,あるいはそれを横断して行う必要性も示されたともいえる.本稿では,双極性障害デノボ変異研究を中心に,その背景と今後の展望を述べたい.

索引用語:双極性障害, デノボ変異, エクソーム, 体細胞変異, ゲノミクス>
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