Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第6号

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連載 21世紀の「精神医学の基本問題」 ― 精神医学古典シリーズ
Emil Kraepelin―現代精神医学の通奏低音―
渡辺 哲夫
グレースデンタルメディカルクリニック
精神神経学雑誌 125: 530-539, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-074

 19世紀の末,Kraepelin, E. が疾患単位学説を礎石にして精神医学の体系を打ち立てて以来,現代に至るまで,この体系は精神医学の通奏低音であった.内因性精神病のなかでは早発性痴呆と躁うつ性精神病,そしててんかん性精神病という三大内因性精神病が確固たる真理と見なされた.しかしこの論はわずか20年で崩壊した.Kraepelin自身が破壊したのである.この成り行きの理由は,3つある.第1にKraepelinが疾患単位学説から症候群学説に立場をかえたこと.第2に,早発性痴呆が細分化されて自壊したこと(『精神医学教科書・第8版』).第3に,てんかん性精神病が排除されて(『精神医学教科書・第9版』),精神病像産出に必要な発作的生命力が消去されたこと,である.Kraepelinの創造性は『精神医学教科書・第6版』(1899)と『第7版』(1904)で頂点に達した.しかし「精神病の現象形態」(1920)と題された症候群論文ののち,彼が何を考えていたのか,これはわからない.五里霧中の気分だったのかもしれない.1990年,DSM-IIIが世界的に普及してから約10年後,「新Kraepelin主義(neo-Kraepelinian)」という呼称が使われだしたが,この言葉はKraepelinの業績の深刻さも彼の苦悩も表現してはいない.彼の謎めいた人格と業績は,冷酷陰鬱な外見にもかかわらず,その内面には熱帯雨林の如き祝祭性が持続していたという矛盾において露見している.

索引用語:疾患単位学説, 症候群学説, 三大内因性精神病構想, Kraepelinの気質>
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