Jaspers, K. の発生的了解は従来その主観的曖昧さや了解可能性の限界などの批判にさらされてきた.人間学的立場からvon Baeyer, W. はそれを「コモンセンスに定位した普通の了解性」と否定的に表現したが,Jaspersのテクストを改めて検討すると,(i)遡及不可能な明証性,(ii)非個人的な一般性,(iii)具体的現実からの遊離,という普通ではない側面が見出された.Jaspers自身が認めているように,その了解概念が形成されていく過程でWeber, M. の果たした役割は看過できない.このためJaspersが言及しているWeberの著作にあたることを通して先の3側面について考察し,そのいずれに関してもWeberからの少なからぬ影響が,とくに現実の意味連関を模写するのではなく構成する手段として概念を用いる構成主義的な傾向が見出された.それとともにJaspersの了解は普通でないようにみえて,実際のところ精神科臨床と精神病理学の営みを的確に把捉していることを確認した.Jaspersは精神科学の方法論に関して,一般概念によって対象化されうる事象しか扱わないという点でWeberと共通の立場にあった.ただし精神療法的アプローチに関してはWeberから離反して,理念型という一般概念による了解を拒むこの今における一回性を帯びた単独的な事象を重視していた.
Karl Jaspersの発生的了解について―Max Weberの方法論という観点から―
もみじヶ丘病院
精神神経学雑誌
125:
365-382, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-053
受理日:2022年12月15日
https://doi.org/10.57369/pnj.23-053
受理日:2022年12月15日
<索引用語:カール・ヤスパース, マックス・ウェーバー, 発生的了解, 一般性, 単独性>