Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第12号

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特集 医療観察法医療における治療技法―一般臨床への般化・還元をめざして―
クライシス・プランによる協働的な病状管理―リカバリーに向かう協働計画―
野村 照幸
さいがた医療センター
精神神経学雑誌 125: 1058-1065, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-150

 2005年に施行された『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律』(以下,医療観察法)における処遇では,社会復帰と再他害行為防止を目的に多職種チームによるさまざまな取り組みが行われている.特に入院処遇においては,疾病教育や心理教育,内省・洞察の促進への取り組みから,対象行為に至るまでの病状悪化のプロセスをまとめ,再他害行為を防ぎ,社会復帰を進めるために病状の段階に応じた適切な自己対処や支援者の対応を対象者と協同してまとめる.そうした計画は「クライシス・プラン」と呼ばれ,全国の医療観察法入院医療機関において作成されるようになり,対象者の疾病自己管理や効果的な支援者の対応に役立てられるようになった.クライシス・プランは医療観察法対象者に限らず,一般精神科医療における患者にも応用できることから,近年では『改正精神保健福祉法』における退院支援や長期入院患者の地域移行,措置入院患者への支援に関しても重要なツールとして注目されている.背景には統合失調症や双極性障害のような慢性精神疾患は,病状をモニタリングすることに困難があったり,病状悪化に伴って病識が低下することがあったりするため,適切な対処がとれないことがあり,患者自身や周囲の支援者が精神症状の変化に気づいて協働的に対処,対応することが重要であることが挙げられる.また,病状悪化時の対処や対応を決めておくことは病状管理にとどまらず,権利擁護にもつながる.クライシス・プランを当事者と支援者が協働して作成し,活用するプロセスは支援方法の共同意思決定といえるものである.当事者と支援者が協力しながら当事者が主体的に希望や目標に向かうためのリカバリーのための手段として,広く精神医療保健福祉のなかで活用されることが期待される.

索引用語:クライシス・プラン, セルフモニタリング, 共同意思決定, リカバリー>
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