包括的暴力防止プログラム(CVPPP)は『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律』(以下,医療観察法)の施行に伴って開発され,医療観察法の指定入院医療機関を中心に展開されてきた.その後徐々に一般精神医療にも導入され,現在では厚生労働省の精神科医療体制確保研修事業にも取り入れられている.欧米では暴力をマネジメントするトレーニングプログラムはAggression Management Training Program(AMP)と総称され,数多くのモデルがあるが,エビデンスが得られにくいこと,身体介入による事故の問題,その他強制的な介入によって起こるネガティブな心理的作用などについて,さまざまな議論がある.英国の保安病院におけるControl and Restraint(C&R)法をモデルにしたCVPPPも欧米と同じような課題を抱えており,これは強制性を伴う精神科医療のなかで,安全管理の重視か,ケアとしてのperson―centeredなアプローチの重視かという二項対立的な問題や,暴力の定義の複雑性がもたらす判断の難しさに関係している.さらに医療者,当事者双方が被害者,加害者いずれにもなりうるため,「誰の目からみた暴力なのか」という点も併せて考えていくべきである.CVPPPは近年,recovery-orientedでperson-centeredな理念をもったプログラムへと進みつつあるが,依然として存在する課題の解決には当事者と医療者が共同主体となっていくことが求められる.本稿では現在一般精神医療にも浸透しつつあるCVPPPについて,その背景や開発に至る経緯を振り返り,欧米の流れを概説するとともに,精神科における暴力のマネジメントプログラムについての将来的な展望について述べた.
包括的暴力防止プログラム(CVPPP)の一般精神医療への展開
信州大学学術研究院保健学系
精神神経学雑誌
125:
1049-1057, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-149
https://doi.org/10.57369/pnj.23-149
<索引用語:攻撃性, 暴力, 精神科看護, CVPPP>