Clozapine(CLZ)治療はわが国の精神科医療全体では十分に普及したとはいえないが,『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律』(以下,医療観察法)による医療においては,CLZ治療が高い割合で行われており,医療観察法医療の特徴の1つといえる.医療観察法において対応に苦慮しやすい触法精神障害者は,治療抵抗性統合失調症に自閉スペクトラム症や知的能力障害,パーソナリティ障害,物質関連障害を併存するいわゆる「重複障害」であり,指定通院医療への移行後を見据えてCLZ治療が積極的に導入されている.治療抵抗性統合失調症治療では,薬物療法に並行して行われる心理社会的支援が重要であるが,CLZ治療は服薬アドヒアランスを改善させるだけではなく,地域生活において治療同盟を良好に維持し長期的な支援の継続を可能にする.本法における心理社会的支援では,クライシス・プランを用いた共同意思決定(shared decision making)を重んじ,防止要因としての生活機能に着目し,スキルトレーニングに取り組みながら,触法精神障害者の社会復帰を促進することをめざしている.また,琉球病院では一般精神医療においても,医療観察法と同様に多職種チーム医療による心理社会的支援の実践により,重度の精神障害をもつ患者の地域生活の安定を実現している.医療観察法で取り組まれる適切な治療抵抗性の見極めとCLZ治療の早期導入,地域生活を見据えた多職種チームによる心理社会的支援の実践を活かすことにより,わが国の精神科医療改革が促進されることを期待したい.
医療観察法におけるクロザピン治療―地域生活を見据えた治療抵抗性統合失調症治療―
1)国立病院機構琉球病院
2)琉球こころのクリニック
2)琉球こころのクリニック
精神神経学雑誌
125:
1040-1048, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-148
https://doi.org/10.57369/pnj.23-148
<索引用語:医療観察法, クロザピン, 治療抵抗性統合失調症, 重複障害, 共同意思決定>