Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第12号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 医療観察法医療における治療技法―一般臨床への般化・還元をめざして―
医療観察法医療のこれまでとこれから
竹田 康二
国立精神・神経医療研究センター病院司法精神診療部/福島県立ふくしま医療センターこころの杜精神科
精神神経学雑誌 125: 1032-1039, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-147

 重大な触法行為を行った精神障害者のうち,触法行為時に心神喪失または耗弱の状態であったと判断された者は,『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律』(医療観察法)の対象となることがある.法施行後,2020年までに累計4,000名以上の触法精神障害者が医療観察法の対象となった.日本には触法精神障害者を専門とする医療制度が存在していなかったため,司法精神医療分野で欧米先進諸国に遅れていた.しかし医療観察法施行後,その差は縮まっている.医療観察法施行初期の医療観察法医療の特徴として注目されたのは,多職種チーム医療,イギリスのCare Programme Approach(CPA)の概念を取り入れた地域関係者とのケア会議,多職種共働による多様な心理社会療法プログラム,Comprehensive Violence Prevention and Protection Program(CVPPP)に基づいた行動制限の最小化などであり,現在は一般精神医療に浸透しているものも多い.2010年代以降は,治療抵抗性統合失調症患者に対するクロザピン処方の積極的な導入,地域移行に向けたクライシス・プランの活用なども医療観察法病棟で広く実践されている.2017年には重度精神疾患標準的治療法確立事業によるデータ収集システムの運用が開始され,入院医療がデータベース化され,データをもとにした医療の改善がめざされているが,医療観察法病棟平均在院期間の長期化などが課題である.通院処遇対象者の重大な再他害行為の発生率は低い.もっとも通院処遇期間中に約半数が1回は精神保健福祉法入院を経験しているなど課題もある.今後,医療観察法病棟における重複障害に対する心理社会的療法の発展や,指定入院医療機関の活用などによる地域司法精神医療の専門性の向上が望まれる.また病状の改善や社会復帰の促進のためには,一般精神医療での新しい取り組みを医療観察法の通院医療にも取り入れていくことも望まれる.

索引用語:司法精神医療, 医療観察法, 触法精神障害者, 暴力, 社会復帰>
Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology