Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第12号

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症例報告
抗うつ薬治療中に非けいれん性てんかん重積状態(NCSE)が出現し,その頓挫後に躁状態を呈した自閉スペクトラム症の40歳代男性の1例
長岡 大樹1), 谷口 豪1)2), 藤岡 真生1), 庄司 瑛武1), 榊原 英輔1), 近藤 伸介1), 笠井 清登1)
1)東京大学医学部附属病院精神神経科
2)国立精神・神経医療研究センターてんかん診療部
精神神経学雑誌 125: 1023-1031, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-146
受理日:2023年8月22日

 高齢者が抗うつ薬の内服中に非けいれん性てんかん重積状態(NCSE)を呈した例はしばしばあるが,非高齢者の報告は少ない.今回われわれは抗うつ薬内服中の40歳代男性がNCSEによる多彩な症状を呈した1例を経験したのでここに報告する.症例は10年来うつ病として治療されてきた入院時40歳代の男性.X-48日に当科入院し,自閉スペクトラム症(ASD)の診断および心理教育,duloxetine 40 mg,mirtazapine 45 mgへの薬剤変更後に抑うつ症状は改善し,X-27日に退院した.X-10日頃より妻からみてきつい口調が増え,X-5日頃より変動性の意識障害,前頭葉機能障害(喚語困難,作動記憶障害)を呈し,X-3日に初回の強直間代発作で当院に救急搬送された.入院後も発作を起こしlevetiracetamが開始され,X日に発作後の経過観察目的に当科に転科した.長時間脳波検査では約30分周期で約15分間持続する前頭部優位の周期性放電が計測され,fosphenytoinの経静脈投与後に脳波異常と臨床症状が改善したため,NCSEと診断した.X+5日頃より多弁,易怒性亢進,乱費などの躁症状が前景化した.抗うつ薬の中止を含む薬剤調整でX+18日頃に躁症状は消失し,X+26日に自宅退院した.退院後の3年間は抗うつ薬を使用せずにうつ病エピソード,躁病エピソード,強直間代発作,NCSEの再発はない.強直間代発作とNCSEの原因として,てんかんを合併しやすいASDの脳基盤に抗うつ薬が作用しててんかん閾値を下げたことが考えられた.閾値を変化させる薬剤治療中の行動異常には,非高齢者でもNCSEを鑑別に挙げる必要がある.また,NCSE頓挫後の躁症状は,薬剤の副作用,新規の躁病エピソード,通過症候群の可能性が考えられた.NCSE治療後にも一過性に精神症状が生じる可能性があり,精神科医による観察と治療が有用である.

索引用語:非けいれん性てんかん重積状態, 抗うつ薬, 躁状態, 脳波検査, 通過症候群>
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