日本はもともと自殺率が高いうえに,社会に大きな衝撃をもたらすような事象が発生すると自殺が急増する特性をもつ.「山一ショック」があった1997年から1998年にかけて中高年男性の自殺が急増し,そして「コロナショック」により,女性と若者の自殺が急増した.そのときの社会情勢の負の影響を受けやすい人たちの自殺が急増する.社会情勢の影響による自殺の急増現象は東アジアを除く他の地域ではほとんど報告がなく,今回のコロナショックに関しては日本以外で自殺急増の報告はみられない.自殺急増に関係する背景要因として,軽いうつ状態でも自殺が起きやすいことと,そもそも自殺に対する心理的な閾値が低いことが挙げられると著者は考えている.自殺予防について考えると,臨床的には,うつ病・うつ状態の早期発見と適切な対応が重要である.うつ状態の人は最初に身体科を受診する可能性があるため,GPネット(general practitioner and psychiatrist network)の重要性をあらためて強調しておきたい.また,医療従事者,特に精神医療に携わる者は希死念慮をもつ患者への対応を知っておくべきである.最後に,社会全体として,自殺に対する心理的な閾値を高めるような教育や啓発活動が普段から必要であることを指摘しておく.
自殺の急増について考える―なぜ日本では自殺が急増するのか―
1)一般社団法人日本うつ病センター
2)六番町メンタルクリニック
2)六番町メンタルクリニック
精神神経学雑誌
125:
951-958, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-135
https://doi.org/10.57369/pnj.23-135
<索引用語:自殺, 自殺の急増, コロナ禍, 適応障害, GPネット>