Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第10号

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精神医療奨励賞受賞講演
第118回日本精神神経学会学術総会
IPS個別就労支援の効果と必要性
林 輝男
社会医療法人清和会西川病院
精神神経学雑誌 125: 891-898, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-126

 精神疾患を経験した者にとって就労は,自信の回復から保障や保護への過度な依存の回避など多岐にわたる恩恵を与え,パーソナルリカバリーの促進因子となることが期待される.近年,精神障害者の就労目標は福祉就労にとどまらず,一般企業での就職,いわゆる一般就労へ拡大しているが,その支援体制は不十分である.現行の就労支援は,主に訓練を段階的に経たのちに一般就労をめざす,いわゆるtrain-place modelに基づいてデザインされているが,その効果は科学的に検証されていない.われわれは,米国で開発され,従来型の支援と比べ一般就労率を2倍以上高めることが検証されているIndividual Placement and Support(IPS)をオリジナルの形を守りながら2016年に導入した.IPSは,従来型の支援と異なり,就労前訓練を必須とせず,本人のストレングスや好みにマッチングした一般企業を地域で開拓し,直接就職することを支援し,就職後も利用者,雇用主に継続的な援助を提供する(place-train model),高度に個別化されたアウトリーチ型就労支援である.われわれは除外基準を設けず,希望するすべての当事者に支援を提供しているが,2021年末までに計148名がIPSを利用し,そのうち101名が1回以上の就職を実現した.また,同期間で島根県浜田市圏域にある計322社の職場開拓を行った.IPSの効果は,高い一般就労率を実現することだけでなく,当事者,治療者,雇用主の意識を変え,スティグマの軽減が期待できることにもある.今後,どの町でも精神障害者が希望さえすれば,一般就労もあたり前の目標として応援し支援される,そのような体制が整えば,社会的包摂は間違いなく進むであろう.

索引用語:IPS, パーソナルリカバリー, 就労, 雇用, 精神障害者>
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