Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第1号

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総説
自閉スペクトラム症の人への治療・支援―成人例に焦点をあてて―
池淵 恵美
帝京平成大学大学院臨床心理学研究科
精神神経学雑誌 125: 14-26, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-003
受理日:2022年9月23日

 成人としての社会機能が求められたとき,発達障害の人は壁にぶつかることがあり,そこで初めて発達障害と診断される人が増加している.本論では成人期の自閉スペクトラム症(ASD)に的を絞り,その特徴や支援方法を概観する.幼児期から学童期に症状が表れ,その後は環境や支援によってASDの診断基準を満たさなくなる例もあるが,限定した話題への固執や,共感能力の低さが残存する.不安症群をはじめ複数の精神障害の併発が起こりやすい.一部には良好な社会適応を示すものがいるが,知的障害の合併や特異な行動へのこだわりなどから,持続的な支援が必要な例が多い.ASDは多数の遺伝子がかかわる症候群と考えられている.心の理論の障害が注目されたが,発達早期からの共同注視の障害や,指示されれば表情認知ができるが自発的には行わないなどの知見が明らかになり,社会的動機づけの障害仮説が注目されている.ASDの中核的な特性への薬物療法はまだ開発されていない.抑うつや不安症状には,エビデンスに乏しいが通常の抗うつ薬が使用される.自傷行為,常同行為には非定型抗精神病薬が使われる.社会的学習を強化する社会生活スキルトレーニング(SST)が期待できるが,まだ十分なエビデンスがない.こうした医学モデルによる治療の一方で,ASDの人たちの特性に沿って合理的配慮を行い,力を発揮できるようにする社会モデルが有用である.就労支援の現場では障害者雇用が法的に義務づけられていることもあり,一般就労する人が増えてきている.当事者の主体的な価値観に沿い,非障害者中心の基準やルールを個々の状況に合わせて柔軟に変更することで,それ以外の人も働きやすくなる事例が増えている.

索引用語:成人の自閉スペクトラム症, 医学モデル, 社会モデル, 合理的配慮, 社会的動機づけ>

はじめに
 成人になってから初めて発達障害と診断される人が増加している.精神障害の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition:DSM-5)3)の診断基準が変わって成人でも診断できるようになった影響が考えられる.また「なんだか社会生活がうまくいかない」という人のなかに,知的能力や環境に恵まれて問題なく過ごしていたが,大学や会社で成人としての社会機能が求められたとき,壁にぶつかる発達障害の人が多いことに気づかれるようになった.スウェーデンで20年以上にわたり同一の診断基準で地域の子どもたちを評価した研究26)では,7歳児の自閉症の診断率は1983年には0.7%,1999年では1%であり,さまざまな社会文化的要因で,見かけ上の増加がもたらされている可能性がある.
 本論では発達障害のなかでも,成人期の自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)に焦点をあてて,どのような特徴があるか概観したうえで,治療や支援方法についてみていきたい.今のところ望ましい治療や支援について十分なコンセンサスが得られていないと思うからである.社会機能の特徴や社会脳の特性などについては,主に小児例で治験が積み重ねられており,治療についても同様であるため,必要に応じ小児を対象とする知見についても引用していく.DSM-53)(2013年)に準拠した論文の紹介ではASDとし,それ以前の論文では主に自閉症もしくはアスペルガー障害と記載する.なお,その他の精神障害については煩雑さを避けるためにDSM-5の用語を採用する(日本精神神経学会病名・用語翻訳ガイドラインに準拠).

I.ASDの概観
1.発達に伴う変化
 DSM-5によって,ASDは社会的なコミュニケーションと相互交流が障害されていることと,行動や興味や活動が狭く限定され,反復されることが,診断のうえで必須となり,アスペルガー障害なども含むスペクトラムとして定義された.コミュニケーションの障害は,言語表出や言語理解やジェスチャーの障害など多岐にわたる.スペクトラムであることからも,神経発達の異なる群が複数存在すると考えられている33)
 小児と成人とによらず,罹患率は1%前後とされている46).約30%の人が知的能力障害を合併する36).幼児期から学童期の初めにかけて症状が最も典型的に表れやすく,その後は環境や支援によって,さまざまな発達を遂げていく.5歳時と13歳時とで症状を比較した研究51)では,良好な発達で自閉症の診断基準を満たさなくなる例では,言語能力と社会関係の改善がみられた.自閉的孤立も半数例で改善し,積極的ではあるが,奇異な印象を周囲に与える社会への関心に変化する例がある.
 発達とともに変化するASDの症状は,社会的な交流が困難な群と,常同的であったり関心の幅が狭く特定の行動に執着する群があるのは幼児期と同じであるが,成長とともに重症度が軽快する例が多い62).発語や語の理解が改善しても,イントネーションが単調であるなどの特徴が残ることがある.視線を合わせることや他者との軋轢も改善することがある.一方で強迫行動が主症状である例がみられ,また衝動的行動や自傷行為や奇妙な興味への固執は変化がみられないことが多い7).ASDの成人例では,限定した話題への固執や,イントネーションの単調さ,共感能力の低さ,感情のニュアンスの弁別が難しいことなどがみられる.もともと男女比は約4対1で男性が多いが,男性と比べて,女性のほうがコミュニケーション能力が改善しやすい32)62)

2.パーソナリティ障害との類似性
 パーソナリティ障害と通底する症状が知られており62),クラスターAに属するシゾイドパーソナリティ障害や統合失調型パーソナリティ障害にみられる硬さ,衝動性,孤立などや,他者への関心の薄さ,情動的反応の乏しさ,双方向の対人関係の乏しさ,コミュニケーションの統合や結末をつけることの困難などがみられる.またクラスターC(回避性,または強迫性パーソナリティ障害)と同様の,批判への過敏,神経症傾向,回避傾向,強迫行動がみられることがある.DSM-5の操作的診断基準によれば,いずれかの精神障害の症状と考えられる場合にはパーソナリティ障害の診断はつけないと規定しているために,ASDの診断がつけられることになる.ASDの診断がついた人の家族には,こうした特徴をもつ人が多く,broader autism phenotype(BAP)とみる人もいる35).多次元診断を取り入れるにはエビデンスがまだ乏しいところから,こうした問題が起こっているとはいえ,今後の課題となっている.

3.精神障害の併発
 成人のASDでは気分障害をはじめとする複数の精神障害の併発があることはよく知られている.Lever, A. G.ら34)は成人ASDでは,抑うつ障害群ないし双極性障害の生涯罹患率は26~57%であり,さらに不安症群,ことに社交不安症の併発は一般的であるとしている.また注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)との併病率は14%と報告されている.前景にある症状のためにASDが見逃されてしまうことがあり,また知的能力障害を伴うASDでは,自傷行為や攻撃的行動などによって抑うつ症状などが定型的ではなくなってしまい,診断が難しいことがある.摂食障害群や強迫症もよく併発することが知られている.診断や治療の工夫について,特集39)が刊行されているので,興味のある方は参照されたい.Leverら34)は,若年よりも熟年の成人のほうが,一般的に精神疾患の併発が少なくなるとしている.

4.行動異常
 ASDを特徴づける行動異常には,常同運動,いつも同じ状態であることへのこだわり,通常と異なる関心,限定された興味・関心,強迫行動などが知られている.Uljarević, M.ら61)は,オーストラリアで公開されているデータベースで,ASDの代表的な尺度4種類のいずれかの評価を受けた結果を用いて,構造分析(exploratory structural equation modeling)を実施した.3因子構造モデルが抽出されたが,常同運動,いつも同じ状態であることへのこだわり,通常と異なる関心や限定された興味・関心がその3因子であった.なぜ特有の行動異常と,コミュニケーションや相互交流の障害が当初からともに存在するのかについては,まだ明確な答えが見つかっていない.

5.遺伝的要因
 近年,ASDに関連すると推定される遺伝子は多数報告があるが,それぞれの遺伝子はASD全体のごく一部にしかかかわっておらず,したがってASDは多数の遺伝子がかかわる症候群であると考えられている.孤発例(10~20%)も多くみられる.親もしくは兄弟が自閉症であれば,そこに生まれた子どもの10%前後がASDと診断される15).Baron-Cohen, S.ら32)のグループは,ASDは広いラベルであり,多様な機能障害を包含しているところから,特定の遺伝子もしくは神経ネットワークの異常を探すのは困難であるとしている.
 一卵性双生児における自閉症の一致率は,二卵性双生児よりも高いという一貫した結果が示されている45)
 Vivanti, G.ら65)は,ASDとウィリアムズ症候群(Williams syndrome)とは,社会認知の障害は共通しているが,社会的興味は正反対であり,双方の症状の機序を検討することで,社会性を構成する要素や神経ネットワークが明確になる可能性があると述べている.なおウィリアムズ症候群は,稀な遺伝子疾患であり,症状には知能低下,心臓疾患などがあり,原因は7番染色体上の遺伝子欠失である.

6.社会適応水準,生活の質
 Tayler, J. L.ら59)は,もともとの重症度によって異なるものの,2~15%が健常者と同等の社会適応を示すとしている.ASDの診断を小児期に受けており,調査時点では若い成人である1,266名の調査29)では,規則的な昼間の活動を行っていない者が約5分の1存在した.知的能力,学校時代の状況,どのような支援を受けてきたか,パートタイムの仕事などが影響していた.
 米国ウィスコンシン州とマサチューセッツ州で成人の自閉症180名(23~60歳)のQOLが調査された9)が,周囲への依存群,心身の健康良好群,独立生活群の3群が同定され,日常生活のスキル,遂行機能,母親のあたたかい態度が群の違いと関連していた.英国で成人ASDコホート370名について調査が行われ38),健常者と比較してQOLが低く,QOL良好を予測する因子として就労があった.自閉症状の重症度や精神的な健康の問題は,QOL不良を予測していた.
 Magiati, I.ら37)は成人の自閉症の転帰について,系統的なレビューを行った.対象者が10名以上,転帰調査の年齢が平均16歳以上,少なくとも16歳以前に診断を受けているという条件で25研究が抽出された.研究によって転帰には大きな相違があったが,多くの研究で社会適応の改善がみられた.ASDに特徴的な行動の障害は,年齢とともに改善するとの報告が多かった.小児の頃のIQや言語機能の獲得が早い年齢で行われたことが,転帰の良さを最もよく予測していた.これは他の研究でも共通して指摘されている22)
 Farley, M.ら17)は米国において,一般人口のなかでASDの診断を受けている成人(平均年齢35.5歳)169名を調査し,約75%の人は知的障害を伴っていた.20%の人は多くの生活領域で自立していたが,46%の人はほとんどの生活領域で継続した支援が必要であった.
 欧州の6ヵ所のリサーチセンターで,ASDの診断を受けた437名の小児と成人,および300名のコントロールを調査したところ12),症状の多様性が大きかったが,成人のほうが社会的な行動および情動的な行動の障害が軽度であった.ADHDを併発している場合にも,成人は症状が軽度であった.双方の症状はともに男性のほうが重い傾向があった.
 どのように調査の母集団を設定し,そのなかからどうサンプリングするか,調査時の対象者の年齢などによって,結果が左右されると思われるが,良い社会機能を示す成人ASDは全体の2割程度であり,知的障害の併発など,経過に影響する要因は共通していた30).加齢とともに障害が軽くなる(非定型だが発達する)傾向も報告されているが,反面社会人としての行動を要求されるなどから二次的な精神疾患が起こってくることを防ぐ方策も重要と思われる.

II.成人ASDの人が抱えている困難―脳科学の視点から―
1.「心の理論」
 1940年代の半ばに,Kanner, L.とAspergerによって,それぞれ独自に自閉症が報告された28)が,この時代は精神分析学が隆盛であり,早期の発育にかかわる母親が自閉症を引き起こすとして,「冷蔵庫母親説」が流布し,「抱っこ療法」などが提案された.しかしその後の家系研究により,遺伝規定性が高いことが実証され,力動的な仮説は力を失っていった.
 1990年代に入って社会脳が注目され,Baron-Cohenら4)による「心の理論」の障害仮説など,社会認識や相互コミュニケーションにかかわる脳内ネットワークについての研究が盛んになった.心の理論とは,他者の信念などの心の状態を推測し,それをもとに他者の行動予測を行う能力を指している.Baron-Cohenらは,言語発達に関する検査によって算出された言語年齢(定型発達であれば何歳の言語発達をしているか)が4歳前後の自閉症児群,ダウン症児群,定型発達児群に対して,誤信念課題(サリー・アン課題)を提示したところ,自閉症児群のみが誤答することを示した.この課題では,他者がどう考えているかを理解できないと正答に至らないところから,心の理論を理解するシステムに障害があると考えられた.
 ところがその後,知的能力が高いなど,高機能の自閉症者では誤信念課題を通過する場合があることがわかり,さらに言語精神年齢が11~12歳を越える自閉症者のほとんどが誤信念課題を通過することがわかった18).また,「心の理論」課題を通過しても,社会的な行動やコミュニケーションが改善するわけではないことから,心の理論だけでは自閉症者の障害を説明できないこともわかってきた.

2.自発的な向社会的関心
 心の理論課題は言葉を獲得していないと実施できないが,Senju, A.ら54)は誤信念課題を見せ,そのときの目の動きをアイトラッカーで追跡することで,1歳半~2歳でも定型発達児では,他者の誤信念に基づく行動予測を行っている一方で,自閉症児ではそれがみられないことを明らかにした.さらにSenjuら53)は,知的能力が定型発達者と同等のアスペルガー者では,古典的な誤信念課題は容易に通過する一方で,自発的な行動予測は行わないことを実証した.つまり構造が明確で何をすべきかが明示されている場面では能力が高いが,より自由度の高い実際の対人場面では困難があるという結果であり,実世界での能力と合致していた.臨床の現場でも,高校までは大きな破綻なく生活していたASDの人たちが,大学に入って自己選択を迫られる状況で破綻することは,しばしば経験される.さらに千住55)は,定型発達者との心の理論の働き方の違いは,発達の段階で形成されたものではないかと推測している.
 自閉症者は他者の表情の模倣や,あくびなどの無意識的行動の伝播が起こりにくく52),ミラーニューロンの活動による共感能力が低下しているということもわかっている.そして顔写真の注視点を明示したり,どんな表情か答えさせるなど,顔にしっかり注意を向けるように教示した場合には,自発的な表情模倣が起こることも示されている50).ミラーニューロンの活動はそうした場合にはみられるため,ミラーニューロンの活動欠如が社会的な機能の原因とはいえないことになる.

3.発達早期にみられる障害
 前述のようにまだ言語が発達していない乳児でも,アイトラッカーなどを用いることにより,外界の認識の仕方が把握できるようになった16).自閉症の診断を受けている年長の同胞をもつ乳児(約19%の小児が後に自閉症と診断される48))を調査することで,ASDと診断ができる年齢に達する前から,発達の過程を調査することが行われるようになった.そして生後6~12ヵ月には定型発達児では,視線の追従と共同注視がみられるようになるのに反して,将来自閉症の診断を受けることになる乳児はそうした傾向がみられないことがわかった5).これらの機能は母親などの周囲と外界の現象を共有することで,社会認知,表情認識,相手の意図の理解などを学んでいく前提となる.また共同注視や社会認知は,自己に関連した情報や他者に関連した情報を相互に取り入れながら,統合していく基礎となっていると考えられている66).こうした差異は小学校に入学する前にはより明確になり68),成人においてもそうした傾向がみられるとの報告がある68)
 ASDでよく知られている行動特徴は,視線が合わないということである.2歳の時点では定型発達児と同様に相手の目を見るが,4歳の時点では顔をあまり見なくなり,非定型な発達の過程で起こってくる事象と考えられている13).ただし視線を怖がらないASDの人もいて,対人不安などの二次的な障害がもたらされる可能性も報告されている14).表情認知もそれ自体の障害というよりは,視線を向けることがうまくできないことに起因すると考えられている58)
 アイコンタクト効果も発達早期から弱いことがわかっている.アイコンタクト効果は,自身に向けられた視線を受け止め,覚醒度を高め,刺激の強度を見定め,意欲を高める影響を指しており,刺激から150~170 msで認められ,通常は乳児から成人にまで共通して認められる47).また人よりも物により注意が向けられる,いったん向けた注意を切り替えることが難しいなどの特徴もよく知られている.
 こうした注視やアイコンタクトの障害は,成人になってのちも困難が継続するとの報告が多い41).成人ASDの社会認知の障害は,相手の行動や意図を推量することの困難,すなわちmentalizingの障害へと結びつく.またそのために社交不安が高まることが知られている.しかしこうした能力は,実験室のなかでの社会認知のテストよりもむしろ,実世界での相互交流の際に,自発的かつ速やかに相手の意図や感情を了解する能力の障害として明確になる56).ただし発達の過程での個人差は大きいと考えられ,さらなる研究が必要である.

4.社会的動機づけの障害仮説
 こうした知見をもとに,社会的動機づけ(social motivation)の障害仮説が注目されるようになった.線条体-扁桃核-眼窩回のネットワークで,社会刺激の強度を調整し,顔や目への注意を動機づけるものであり,ドパミンシステムやオキシトシンがかかわっていると考えられている57).顕在的な行動ではなく,社会的な刺激に対する脳内の報酬系の活動が焦点となり,ASDでは非社会的な刺激のほうが報酬価が高く,社会的刺激はむしろ「罰」として作用するなど複数の仮説が生まれている.ASDの診断においては,相互交流の障害とともに限局的な反復行動などがみられることが必須であるが,それぞれ異なる脳内ネットワークの障害によって起こるとする仮説と,社会的動機づけの障害から間接的に引き起こされるとの仮説などがある.こうした障害から,ASDの人に社会でのふるまい方を訓練しても,実世界でそれを使いこなすことは難しいことがわかる.
 Bottini, S.ら10)は,社会的動機づけの障害理論について系統的レビューを試みた.2011~2017年の27件の研究が抽出され,実験のパラダイム,報酬への評価方法,用いられた刺激の種類などが実験によってさまざまであることから,得られた結果も相反するものが含まれており,明確な結論は得られなかった.しかしなんらかの報酬系の異常があることは共通しており,どの報酬系の異常であるかは個人によって異なる可能性が残された.
 Mundy, P.ら43)は,社会的注意と動機づけにかかわる7つの仮説を検討し,生後間もなくよりみられる共同注視の障害などから始まる,社会的注意や動機づけの障害について,その機序の解明が必要であることを提言している.
 Vinckier, F.ら64)は,成人ASD群19名と定型発達群19名とで,人の顔か,物体を見せ,fMRIによる脳の活性化を比較したが,顔を見て年齢や大きさを推測する課題を与えると,両群で背内側前頭前野(価値システムの一翼を担うと推定されている)の活性に有意差を認めなかった.ところが顔について特に課題を与えず自発的な反応に任せたところ,ASD群では有意に活性化が低下していた.

5.神経認知機能
 成人のASDの人たちの神経認知機能については,64名の高機能ASDと53名の健常者を比較した研究42)で,ASDの人は聴覚課題でコントロール機能が低く,抑制する能力や注意機能の柔軟性は,日常の限局した反復行動と関連を認めた.特に,視覚情報への反応を抑制することと,聴覚情報に対して注意を遷移する能力の低下の程度が,運動および感覚における常同的な行動を予測していた.
 Velikonja, T.ら63)の系統的レビューとメタ分析では,1980年(自閉症の診断がDSM-IIIに初めて収載された)から2018年までの間で,16歳以上の自閉症/ASDが対象として含まれ,神経認知機能もしくは社会認知の検査が行われた研究を対象とした.75件の研究で3,361名の自閉症(平均年齢32歳)と5,344名の定型発達の成人が含まれるが,障害の程度は,「心の理論」>情動認知および処理>処理速度>言語学習と記憶であった.注意とビジランス,ワーキングメモリの障害は軽かった.Trevisan, D. A.ら60)のメタ分析では62件の研究で,表情の認知能力は,年齢,言語および非言語知能,「心の理論」,適応機能と有意な正の相関があり,アレキシサイミアやASD症状の重さと有意な負の相関を認めた.
 これらの結果から,知的障害を合併しない場合には,事物処理の能力はかなり保たれていると考えられ,人よりも物への関心が高い傾向からも,仕事として事物処理を扱うことに適性があると思われる.著者が経験した事例でも,周囲に挨拶をしないなどの問題を抱えながらも,律義な仕事への向かい方や入力作業が正確で,根気よく続けられるところから,会社で戦力として認められ,永年勤続している.隣の席に落ち着かないADHDの人が配置された際には,イライラしてしまい仕事をやめようかと思ったとのことだが,職場の配慮で,席を離し,ついたてを立てることで集中力を取り戻すことができた.帰宅時に好きなお菓子を買って帰ることを楽しみに,無遅刻・無欠勤で通している.なお本論で紹介する事例は個人を保護するためにデティールを修正し,また論文掲載について承認を得ている.

III.治療・支援方法
1.薬物療法
 英国では年齢にかかわらず,ASDの人のうち29%が投薬されており,睡眠薬,精神刺激薬,抗精神病薬が多い44).1990年代には抗うつ薬の投与量が大きく増加した1)
 National Institute for Health and Care Excellence(NICE)によるガイダンス45)では,ASDの中核的な特性,例えば相互交流の障害に対して,抗けいれん薬,抗精神病薬,抗うつ薬,オキシトシン,認知機能改善薬などは用いるべきではないとしている.コクランレビュー67)では,併発する精神疾患に対しては,例えば抑うつ症状であれば抗うつ薬を投与するが,特異な反応がみられることがあり,注意が必要としている.
 攻撃的な行動,興奮性については,米国ではFood and Drug Administration(FDA)で承認されて,aripiprazoleとrisperidoneが使用されているが,わが国では成人への適応が認められていない.抑うつ症状や不安症状は併発しやすいが,エビデンスに乏しいため,通常のうつ病などの治験で有効性が証明されている薬剤を使用することになる.
 自傷行為,情動行動など多くの行動の障害に対しては,非定型抗精神病薬が使われる.特に5-HT受容体作動薬が有効であるとの治験がある40).十分なエビデンスはないが,双極性障害の併発に対しては,気分調整薬が使用される.特に双極性障害の家族歴があり,活動性の亢進,焦燥感などの症状がみられるときには,リチウムが使われることもある.
 英国の精神薬理学会でコンセンサスミーティングが開かれ,2018年にガイドラインが公表されている23).以下,このガイドラインによれば,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)については治験の対象者の数が少なく,結論も一貫していない.ただしコクランレビュー67)では,小児への投与のエビデンスはないが,成人では使用する根拠となるデータがあり,特に反復行動に有用としている.グルタミン酸系に関与する薬剤(memantineなど),GABAに関与する薬剤(pregnenoloneなど)については,使用するエビデンスがない.オキシトシンはより大きなサンプルでの効果研究が必要である.抗精神病薬,特にrisperidoneとaripiprazoleについては,衝動性などに対して使用されるが,投与の目標と副作用を絶えずモニターする必要がある.成人ASDで合併するうつ病に対しては,fluoxetineしか効果研究がなく,プラセボとの優位性は示されなかった.不安症,睡眠障害,易刺激性,ADHDなどの合併に対して,それぞれ単独の場合に有効性が示されている薬剤を,個々のケースで注意深く検討しながら使用することを勧めている.
 ASDはADHDと合併することが多く,21%の合併率との報告がある21)ため,英国のエキスパートが治療のコンセンサスを公表69)しており,成人では環境調整や行動療法が優先であるが,イライラなどに非定型抗精神病薬を短期間使うことがある.いずれの向精神薬も副作用が出やすく注意して使用するべきであるとしている.また,心疾患の既往がある中年以上では,中枢刺激薬は慎重に投与する.投薬への同意を得る際には,視覚情報を利用することが有用である.
 Yamasue, H.らのグループ20)は,経鼻腔オキシトシン投与の効果を報告しているが,18~48歳までの106名のASDの人たちへの治験を総括して,知的障害やてんかんを併発しているASDの人たちにオキシトシンは有効であり,副作用もプラセボ群と比較して有意な差異はなかったとしている.ただしてんかんをもつ人で,オキシトシン投与中もしくは投与後に発作がみられた例が3名あった.日常生活への影響を評価すべきであると彼らは述べている.

2.薬物療法以外の身体治療
 診断は行動特徴によってなされるため,乳児の時点ですでに発達が定型的ではないということがわかっていたとしても,3,4歳の頃に診断基準に示された行動が顕現してこない限りASDとは診断できない,という難点がある.前述したように,生後6ヵ月頃からすでに共同注視の障害やアイコンタクト効果の障害がみられるところから,そうした乳児を対象としたニューロフィードバックなどの介入が発展する可能性はあるだろう.ただし発症しないケースもありうるため,統合失調症のハイリスク研究と同様に,倫理面の枠組みを家族や専門家,一般の識者などで議論し,合意を得ておく必要がある.
 Ameis, S. H.ら2)は遂行機能の改善を目標として,知的障害を伴わない16~35歳のASDの人40名を,反復経頭蓋磁気刺激群(20セッション4週間のコースで,20 Hzの刺激を背外側前頭前野に施行)とシャム刺激群に無作為に割り付けた.結果は両群で遂行機能の改善に有意差を認めなかったが,ベースラインの遂行機能が低い人たちでは,有意な改善を示したため,より障害の重い人に改善効果がみられる可能性が指摘された.

3.心理社会的治療
 NICEガイダンス45)では,問題行動に対して行動分析を行い,周囲の環境や家族の対応などの調整を行うこと,抗精神病薬の使用を考慮することを推奨している.当事者への介入については,認知への介入ではなく行動療法が基本であり,理解を助けるためにワークシートのような視覚からの情報提供を使用し,ルールを明確にし,家族や支援者の関与を推奨している.
 Bishop-Fitzpatrick, L.ら8)は心理社会的介入についての体系的レビューで6件の社会認知訓練についての治験を抽出した.社会認知,コミュニケーション,社会技能を効果指標としたとき,一定の効果はみられたが,サンプルサイズ,効果量などの点でまだ効果研究は不十分であるとしている.
 Pallathra, A. A.ら49)は,知的障害のない29名の成人ASDを対象に,これまで障害があることが知られている7領域(知的機能,ASD特性,社会に向けた動機,社交不安,社会認知,社会スキル,地域社会機能)から選んだ16種類の評価尺度を実施して,相関分析を行った.その結果,社交不安とASD特性,社会スキルと地域社会機能,社会スキルとASD特性に有意な相関がみられた.ただしそれ以外の相関がみられないところから,社会生活の障害について,異なるタイプがあることが示唆された.治療のうえでは社会に向けた動機がカギを握る可能性が考察されている.
 英国のエキスパートコンセンサス・ガイドライン23)では,薬物療法以外の治療法についてもレビューしているが,小児に対しては親や支援者とともに,共同注視や双方向のコミュニケーションを行動ベースで練習することや,親の接し方のトレーニングが推奨されている.成人ASDでは,学習障害を合併しない場合に,社会的学習を強化する社会生活スキルトレーニング(social skills training:SST)が期待できるが,まだ十分なエビデンスがなく,幅広い社会的学習プログラムの一環として行う必要がある.構造の明確なリクリエーション活動で,生活の質などが改善するという記載もみられる.合併する不安症や強迫症に対しては,認知行動療法が推奨されている23).個別の援助付き雇用は,仕事の獲得と維持に有用である.キーボードや手話などを併用してコミュニケーション力を高める試みは,まだ個別の報告にとどまっており,十分な効果研究が行われていない.
 同ガイドライン23)では,就学・就労支援においてASDとADHDを合併している人に対して,合理的配慮として試験の時間を延長するだけでは不十分で,途中休憩などの配慮が必要としている.また,同僚の理解を高めるための教育や情報提供が重要としている.当事者に対しては,目標や期限などを明確にする支援が有用である.知的障害を伴う場合には,支援についての説明と同意に注意を払う必要がある.また家族やケアをする人に対してケアについての情報提供や,長期的な経済的問題についても支援が必要になる.当事者とケアする人双方に心理教育や仲間同士の集団体験,認知機能リハビリテーションや認知行動療法も効果が期待できるとしている.
 ASDでは社交不安を併発しやすく,そのためさらに社会機能が低下することが起こる.Bemmer, E. R.ら6)は,78名の青年~若い成人のASDを約10名のグループに分けて,8週間の社交不安を標的とする修正版の認知行動療法(社会生活スキルトレーニング,不安への曝露,行動的実験など)を実施したところ,社交不安,社会への動機,興味の制限と反復行動のいずれも,エフェクトサイズは小さいが有意に改善していた.また参加者の満足度も高かった.
 ここまで,ASDの人たちの社会機能を社会の多数派の人たちのもつ社会機能に近づけるための介入について述べてきた.しかし定型的な社会性を治療目標とすることで,支援者や保護者と,当事者との間ですれ違いが生じる可能性がある.ある当事者は,「自分がつらかったとき,いろいろアドバイスを受けたが実際には実行できないので,きつかった.無理やり手を引っ張られる感じ.障害をもつ仲間といろいろ話したのが一番良かった.自分のことだけを考えることが大事.支援者のいうことを聞かない気持ちをもっていたほうがよい.ずっと引きこもっていてもよいと思っていてよい」と述べている.この当事者は定型的な社会生活を勧められてもできないことの苦痛や,かえって追いつめられる感じがあること,自分らしい考え方・生き方を大事にすることが結局は道を開くことになることを述べている.この点はASDの人への支援を考えるときに重要な点であり,社会モデルの項で後述したいと思う.

4.ガイドライン
 NICEでは成人(18歳以上)のASDについて診断とケアのガイダンスを2012年に公表している45)が,2021年にも一部改訂が行われているところから,最新のものといってよいだろう.まず冒頭で,当事者や家族やパートナーと連携すること,尊敬の念とともに支援すること,共感的・支持的・判断をさしはさまない関係を時間をかけて作ることを基本方針としている.そしてASDの人たちの特性に配慮した支援をすべきであるとしている.例えばIQで測られる能力と実際の社会適応能力には乖離があることへの理解や,彼らの役割について明示することなどである.そして自助グループや個人支援などに参加を促すが,そうした場では,十分な個人の空間が保証されていることや,情報を視覚から得られる工夫や,周囲の色彩,明るさ,騒音への配慮などを勧めている.そしてどのような支援が必要か書かれた「パスポート」を当事者が持参することを推奨している.学習障害がないか,または軽度な当事者には,グループ,もしくはグループが苦手な人では個人ごとに,社会的学習ができるように,モデリング,フィードバック,難しい状況にぶつかったときの対応法などを明確なルールに基づいて提供することを勧めている.また個人ごとに調整した援助付き雇用や,怒りのマネジメントの学習も推奨している.
 英国のASDとADHDを併発している人たちへのエキスパートコンセンサス・ガイダンス69)では,青年期には性衝動や行動化が出現しやすいので,心理教育や対処法を学習することが必要であり,薬物乱用などと並んで犯罪行動へと発展するリスクを考慮する必要があるとしている.

5.家族への支援
 Eklund, H.ら15)は,168名の発達障害をもつ青年~若い成人(14~24歳)とその親に,生活のうえでどのようなニーズがあるか調査したが,親と当事者との間で生活の25領域中21領域で不一致があり,親のほうがより高い水準のニーズをもっていた.親が学校でのいじめなどに気づかなかったり,「普通の子」としてのふるまいを要求したり(やる気を出せばちゃんとした行動がとれるはず,など),学校での不適応の責を母親が一身に背負ってしまったりするとき,親の不安や余裕のなさや罪責感が,結局はASDの人たちの桎梏になる.当事者と並行して,親やケアにあたる親族をサポートすることは,重要であり,また成果を上げやすい方向であるだろう.

IV.社会モデルと合理的配慮
1.医学モデル・相互作用モデル
 熊谷31)は「既存のASD概念は,コミュニケーション障害という概念によって,少数派と,多数派向けの情報交換やコミュニケーション様式との「間」に発生する障害(disability)を,少数派の中にあるショウガイ(impairment)であるかのように記述している点を再考する必要がある」と述べている.個人のショウガイを治療・ケアするという発想は医学モデルととらえられる.さらに熊谷はコミュニケーションがうまくいかないときに,当事者と定型発達者の間で何が起こっているか,そして両者がどのような工夫をすることによって障壁を乗り越えられるかを,当事者研究の枠組みにおいてさまざまな状況で検討しているが,ASDとひとくくりにすることはできないことを強調している.これは個別の事象のなかで起こってくる相互作用モデルと考えられ,同時に両者が共同創造(co-production)によって,障壁を乗り越える方向性である.

2.社会モデル
 近年法整備が進められ,障害をもつ人たちの社会参加を推進しているのは,社会モデルの思想である.
 社会モデルでは「障害者と障害を持たない人との間の平等を実現するためには,非障害者中心の基準やルールを個々の障害者の状況に合わせて柔軟に変更することが必要」19)とする.さらに,世界保健機関(World Health Organization:WHO)による国際生活機能分類(International Classification of Functioning:ICF)による生活機能モデル24)から,妊娠や老齢化など,だれもが人生のなかで遭遇する生活のうえでの困難をすべて障害ととらえ,周囲に合理的配慮を求めている.例えば,妊娠中の女性が無理なく参加できるように,職場の会議を労働時間内に設定すると,子育てや介護をしている人も楽になる.それ以外の人でも就業時間後,自分や家族のための時間が増える.事業主の状況によって提供可能な合理的配慮には差が生じる.そのために厚生労働省などのWebサイトにおいて,多くの事業主が対応しうる事例を記載したり,就労支援機関や行政が中心となった研究会で,好事例をまとめて指針として発表している.最近では,人工知能を用いて,当事者の希望や能力と,学校や雇用側が可能な合理的配慮をマッチングする試みも報告されている25)27)
 環境調整が整い,うつや不安の治療が奏効すると,「発達障害らしさ」が薄れていくし,逆に危機的なときや逆境のなかで生活しているときには,「発達障害」らしさが顕在化してくるのは,日常の臨床でよく経験される.

3.社会モデルの制度への発展
 Bunt, D.ら11)は欧州連合(EU)加盟7ヵ国(英国は離脱まで)において,ASDを含む障害者への就労支援政策について,スコーピングレビューを行った.背景には自閉症の人で就労しているのは10%程度であり,仕事についていない人の77%が就労を希望している状況がある.雇用と障害(disability)およびASDをキーワードとして,219件の論文が抽出された.第二次世界大戦で多くの身体障害者が生まれ,経済的にも破綻した時期から,主に西ヨーロッパの国々で自閉症を含む障害者雇用の割り当て制度(Quotas)が実施された.その後フランスで割り当て制度に代わって障害の有無で雇用を差別することを禁止する法が整備され,1990年代に西ヨーロッパに広がった.こうした支援制度にもかかわらず,ASDの人の雇用率は大きな改善がなく,公的な雇用促進制度,職能訓練,雇用の試みへの助成などが議論されている.
 わが国では,障害をもつ人の社会参加を推し進めるための法制度が近年整備されており,2011年8月にまず「障害者基本法」が改正され,障害を理由とする差別禁止と合理的配慮の提供が定められた.さらに2013年6月に「障害者雇用促進法」が改正され,障害を理由とする差別の禁止が掲げられた.この法律は障害者を保護の客体としてとらえるのではなく,権利の主体としてとらえるものである25).ある青年はパソコンが得意で,趣味は数学の問題を解くことで,専門学校まではそれらの力量を頼りにされて元気に生活していた.しかし,就職してから会社で歓迎会などに出ない,仕事がわからなくても相談できないなどがあり,上司に叱責されて「言い訳」を長々述べてまた叱責され,抑うつ状態となった.精神科で発達障害であることが伝えられ,産業医や就労支援の専門家が青年と話し合い,学歴とは見合わないが,視覚情報で指示を与えるパソコンを片手に倉庫で出荷する商品のピッキング作業につくことになった.動いていたほうがまわりが気になって苦しくなることがなく,一人で仕事をこなせるので楽になった.効率的なピッキング作業について,彼から上司に提言するまでになった.人目が苦手なことから,満員電車を避けるために就業時間をずらし,ずいぶん仕事がしやすくなっている.会社全体でもフレックスタイムが検討されることになった.彼の苦手なことがきっかけになり,改めて適切な配置転換や雇用条件が見直されることになった.

おわりに
 これまで述べてきたように,ASDについてどのような発達の障害があるのか,脳科学の領域で進展がみられている.また親子でのトレーニングなど,実用性が高く有効な支援方法も広がってきている.一方で非定型の発達をした成人に対して,社会生活が大きく改善するような治療法はまだ開発途上である現状から,医学モデルと社会モデルの統合が必須であると著者は考えている25).具体的には多様な個性をもつ人に対して,合理的配慮があたり前のこととして行われ,それぞれ生きやすく満足感の高い生活がめざせるようにしていくことである.就労支援の現場ではすでにこうしたことが法制度の裏づけもあって行われており,著者も認知機能リハビリテーションを行って,いっしょに得意なこと・苦手なことを話し合い,それに合わせて職場を開拓し,企業の合理的配慮を設計していく支援をしている.支援の方向は当事者の主体的な価値観に沿う必要があり,ともすれば自分の世界に引きこもっていたい人たちなので,一般的に「よいこと」「やってほしいこと」を勧めても動いてもらえない.彼ら・彼女たちの興味や力を発揮できる方向で支援するなかで,学びたいことが生まれてくれば,例えばSSTなどを提供し,一方で対人交流は苦手でも,コツコツ正確に仕事をこなしていく持ち味を認めていく.そしてユニークな趣味を豊かな生き方ととらえる.当事者の関心のあること,やりがいを感じることについては大きな力を発揮することも,日常的に経験している.
 当事者・家族と,医療・福祉・地域ケア関係者・就労支援の専門家とは,それぞれ独自のモデルや支援方法をもち,異なる機関に属している.機能的にワンチームとして活動するためには,お互いの文化を理解し,実際の支援で成功体験を共有し,お互いの領域を行き来できることが望まれる.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

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