近年,日本では自然災害が多発しており,その影響を受けた住民に対する心理的支援の必要性は認識されつつある.被災者支援には公衆衛生としての視点が必要であり,多くの場合は地域の市町村役場,保健所,精神保健福祉センターがその役割を担う.しかし,コミュニティー全体が甚大な被害を被った場合,既存の精神保健だけでは支援がまかないきれず,その都道府県に「心のケアセンター」が設置されることがある.日本では,阪神・淡路大震災後の兵庫県こころのケアセンターを皮切りに,今までに6つの心のケアセンターが設立され,被災者の心のケアに取り組んできた.2011年の東日本大震災では,宮城県は広汎な被害を受け,同年の12月にみやぎ心のケアセンターが設立され,およそ10年間にわたり被災者の心のケアにあたっている.本稿では,みやぎ心のケアセンターの2013年度から2019年度までの7年間の活動統計を提供する.総支援数は毎年6,000~7,000件で推移しており,2015年までは経年的に増加し,以降は減少に転じていた.震災後の数年間はスクリーニングにより抽出された住民に対する家庭訪問が多く,経年的に自ら支援を求めて来所する住民が増加した.また,精神疾患を有する対象者の疾患としては,ICD―10におけるF1,F2,F3,F4が多く,この4疾患で各年の過半数を占めていた.経年的に震災後に発症したF3が増加する傾向がみられた.復興のフェーズによって支援につながる住民が抱える課題,地域が支援団体に求めるニーズが変化すると考えられた.支援団体は地域の変化を丁寧に観察し,適切なタイミングで必要としている支援を提供する必要があると考えられた.災害後中長期の支援を念頭におき,国や都道府県で継続的な人材育成が必要と考えられる.また,全国にある心のケアセンターの活動を分析することにより,回復時期によるニーズを把握することが必要である.
大災害後のコミュニティー支援に何が必要なのか―みやぎ心のケアセンターの活動分析からみえること―
1)東北医科薬科大学精神科学教室
2)宮城県精神保健福祉協会みやぎ心のケアセンター
3)岩手医科大学附属病院児童精神科
4)東北大学大学院教育学研究科
5)宮城県精神保健福祉センター
6)医療法人東北会東北会病院
2)宮城県精神保健福祉協会みやぎ心のケアセンター
3)岩手医科大学附属病院児童精神科
4)東北大学大学院教育学研究科
5)宮城県精神保健福祉センター
6)医療法人東北会東北会病院
精神神経学雑誌
124:
839-848, 2022
受理日:2022年8月19日
受理日:2022年8月19日
<索引用語:東日本大震災, 心のケア, 心のケアセンター, アウトリーチ>