Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第124巻第10号

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資料
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大が依存症に関する全国の精神保健福祉センターの支援体制,民間支援団体,およびその相談者に与えた影響
片山 宗紀1), 杉浦 寛奈1), 藤城 聡2), 小原 圭司3), 本田 洋子4), 天野 託5), 小泉 典章6), 田辺 等7), 白川 教人1)
1)横浜市こころの健康相談センター
2)愛知県精神保健福祉センター
3)島根県立心と体の相談センター
4)福岡市精神保健福祉センター
5)栃木県精神保健福祉センター
6)長野大学社会福祉学部
7)北星学園大学社会福祉学部
精神神経学雑誌 124: 700-709, 2022
受理日:2022年6月13日

 精神保健福祉センターでは,アルコール,薬物,ギャンブルなどの依存症に対して,地域の自助グループや民間支援団体などと連携しながら相談,当事者向け集団認知行動療法,家族会などを実施しており,地域の依存症支援において大きな役割を果たしている.本研究では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が精神保健福祉センターの依存症支援体制や,連携している民間支援団体,対応している当事者にどのような影響を与えたか調査を行った.回答率は100%(69/69)であった.調査の結果,精神保健福祉センターが行う個別相談・当事者向け集団認知行動療法プログラム・家族会いずれも中止や規模を縮小していたが,個別相談はグループの代わりとして継続して実施される傾向にあった.また,民間支援団体も同様に活動中止や縮小したケースがあったほか,緊急事態宣言後も会場の確保が難しいなどの理由で活動が再開できないことや,当事者が感染を恐れて利用を躊躇するといった影響が確認された.加えて,精神保健福祉センターが行う事業でも民間支援団体との連携がとれない状況が確認された.一方の当事者への影響では,精神保健福祉センターが支援する当事者では自死を含む症状が悪化・嗜癖行動が再発したとの報告が多かったが,一部の嗜癖対象では症状の改善を認めたケースもあった.これらの結果より,同感染症の流行拡大が続くなかで依存症当事者の支援を途切れさせないために,当事者向け認知行動療法プログラム・家族会・自助グループといった治療資源の地域での実施状況を踏まえ,一律にすべての機関が家族会のみ中止するなどといった支援の偏りを極力生じないように連携することが求められる.加えて,日々の臨床においてもCOVID-19による影響を個別にアセスメントし,治療資源へのアクセスが抑制されている当事者に対しては,治療資源の変化か,当事者の生活環境によるものかなど,その理由を明らかにし適切な治療資源につながることができるよう支援することが求められる.

索引用語:新型コロナウイルス感染症(COVID-19), 依存症, 精神保健福祉センター, 自助グループ>

はじめに
 新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の流行とその対策は,世界の人々の社会生活に影響を与えている.日本では2020年1月16日に国内初のCOVID-19感染例が確認されたのち,同4月7日に緊急事態宣言が発令され,多くの国民や事業者の生活様式が大きく変化した11)12)14).2021年8月時点でCOVID-19の流行は続いており,これまでに合計4度の緊急事態宣言が発令されており,その都度飲食店の休業,テレワークの推進,外出自粛など社会活動が制限されている.
 こういった社会生活の変化は,アルコール,薬物,ギャンブルなどの依存症の問題を抱える当事者にもまた多大な影響を生じている.諸外国では,ロックダウンによる酒類の提供禁止に伴いアルコール離脱症状を訴える患者が2倍に増加したとの報告10)や,オピオイド使用者におけるオーバードーズのリスク増加17)といった報告がなされている.2020年4月に1,190人を対象にロックダウンによる飲酒・ギャンブル行動の変化を調べたニュージーランドの調査では,ロックダウンの期間中41%でギャンブル行動に変化がなく,50%が減少し,ギャンブル行動が悪化したのは9%であったと報告した4).飲酒行動では,同調査によれば47%は飲酒習慣に変化はなく,34%が飲酒量が減り,19%が飲酒量が増えたと回答した.また,アメリカで薬物のオーバードーズの動向をリアルタイムでモニタリングしているOverdose Detection Mapping Application Program(ODMAP)によれば,同調査の対象としている施設の61.84%がオーバードーズが増加したと回答し,報告されるオーバードーズの総数も前年の同じ期間と比較して16.56%増加したと報告した13)
 また,支援体制も影響を受けており,アメリカの一部の州では回答施設の65%がCOVID-19により物質使用障害治療プログラムの規模を縮小した1).本邦でも感染症の拡大や緊急事態宣言の発出による受診控えの報告3)などがあり,COVID-19の流行が依存症当事者の治療回復の大きな妨げとなっていると推測する.同様の影響は全国の精神保健福祉センター(以下,センター)をはじめとした支援機関にも及んでいるものと思われる.特に,依存症の治療はSerigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(SMARPP)8)やShimane Addiction recovery Training program for Gambling disorder(SAT-G)7)に代表される集団認知行動療法プログラム以外にも,自助グループ・集団精神療法など集団形式で実施されるものがあり,COVID-19の流行の影響をより大きく受けていることが推察される.このような集団の治療形態は,参加者同士の距離の近さを特徴としているが,一方でCOVID-19の感染対策である「人の密集・近距離での会話の回避」14)に相反する形態となってしまうことがある.しかしながら依存症が「孤立の病(disease of isolation)」とも呼ばれており6),社会的な孤立が当事者の予後不良の要因としても認識されている2)9)ことを踏まえると,COVID-19の感染拡大や,いわゆる「三密」の回避などの感染対策が依存症者の治療回復の弊害となる可能性が考えられる.
 それゆえ,本稿では,全国69のセンターを対象に行った調査を用いて,COVID-19の感染拡大に伴う治療体制や治療資源の変化,およびこれらの変化によって依存症の当事者にもたらされる影響を把握し,COVID-19感染拡大状況下における依存症当事者の治療回復の持続性を担保する方法や体制を考察する.

I.センターの依存症事業体制
 依存症の診療体制は地域格差が大きく,すべての都道府県・政令指定都市に配置されているセンターは,各地域の依存症支援において重要な役割を果たしている5).2017年に厚生労働省より開始された「依存症対策全国拠点機関設置運営事業及び依存症対策総合支援事業」により,全国のセンターは各地域の「アルコール健康障害,薬物依存症,ギャンブル等依存症に関する相談の拠点」に位置づけられている.
 これらの相談拠点では,管轄する自治体における関係機関の連携推進のための会議開催や相談・医療体制の整備,地域の支援者の研修事業,依存症専門相談支援として地域の依存症問題を抱える当事者やその周囲の者への直接の支援事業(個別の相談事業,認知行動療法などの当事者向け回復プログラム,家族支援事業)の実施が求められている.2020年9月1日時点で薬物依存症を対象に47センターが当事者向け回復プログラムを,49センターが依存症の家族教室を実施しており,ギャンブル依存症では53センターが当事者向け回復プログラムを,44センターが家族教室を実施している15)16).また,多くのセンターではこれらの事業を地元の医療機関,自助グループ,ダルクなどの回復支援施設と共同で実施しており,相互の人員交流や連携の機会も多い8).なお,相談拠点としての指定の有無にかかわらず,全国のセンターは厚生労働省の定める「精神保健福祉センター運営要領」に基づき,アルコール依存症ならびに薬物依存症に関する特定相談事業を行っている.

II.調査方法
 全国すべてのセンター(69ヵ所)に対して,全国精神保健福祉センター長会のメーリングリストを用いて2020年10月に調査票を配布し,電子メールでの返信を依頼した.
 調査票では2020年1月16日の国内でのCOVID-19感染確認以降,(i)それぞれのセンターの依存症3事業(個別相談事業・当事者向け回復プログラム事業・家族教室などの家族支援事業)にどのような影響があったか,(ii)平時に連携している依存症の自助グループや民間支援団体(ダルクなど)との連携に変化はあったか,(iii)センターで相談を受けている相談者がCOVID-19によりどのような影響を受けたか,(iv)各センターが把握する範囲で,そのセンターの管轄地域の自助グループや民間支援団体の活動にどのような影響があったかを尋ねた.
 本調査は全国精神保健福祉センター長常任理事会倫理委員会の承認を受けている.

III.結果
 すべてのセンター(69/69)から回答を得た(回答率100%).

1.センターの各種依存症事業への影響(表1
 センターが依存症の当事者やその家族に対して行う個別の相談,当事者向け回復プログラム,家族会などの家族支援事業のいずれにおいても,事業の一部の休止・延期・中止・短縮など,規模を縮小したとの回答があった.また,規模の縮小以外にも対面での事業実施を電話などに切り替える,グループでの事業を個別対応に切り替える,対面による事業で換気・消毒・広い部屋を使用するなどといった感染対策を行っていた.当事者を対象とした依存症の回復プログラム事業と家族支援事業では上記のほかに,参加人数の制限,新規受付の停止といった回答のほか,外部機関スタッフの受け入れを一時的に停止した機関もあった.

2.自助グループや民間支援団体への影響(表2
 センターが管轄している地域の自助グループや民間支援団体では,緊急事態宣言による施設の利用停止などにより集合形式のミーティングが中止されたが,宣言解除後も施設の利用制限が続きミーティングを開催できないこともあった.ミーティング再開後も人数制限,オンライン形式への変更を認めた.ミーティングが中止の期間に,電話で参加者同士が連絡を取り合ったり,グループのリーダーがメンバーの様子を確認していたグループもあった.また,院外外出できないために院外のミーティングに参加できない,利用者自身が感染を恐れて参加を躊躇する,オンライン化に対応できないなどのため参加者が減少した.オンライン化に対応できない理由としては,インターネット環境がない,同居している家族がいるため安心・安全に参加できないなどであった.ミーティング以外もアウトリーチ活動,新規相談の受付,集合型のイベントなどを中止したほか,活動資金が集まらず施設運営が困難になったとの報告もあった.一方で,開催頻度を増やしたとの回答もあった.

3.自助グループや民間支援団体との連携への影響(表3
 センターと自助グループ・民間支援団体が共同で実施している事業も中止や延期,人数制限,開催形式の変更を行った.ほかにも,センターのプログラムへの民間支援団体の参加見合わせもあった.両者間の連絡会が中止となるなどにより情報共有が難しくなり,活動変更を把握できず,センターが自助グループや民間支援団体に相談者を紹介できないこともあった.また,オンラインでの活動にセンターが対応していないために自助グループなどの活動と連携できないこともあった.

4.相談者への影響(表4
 センターを利用する当事者やその家族から当事者の症状が悪化したとの相談があった.理由としては,利用していた自助グループが利用できなくなったこと,在宅勤務や外出自粛による在宅時間の増加,学校の休校,特定定額給付金の支給,家族と過ごす時間が増えたことによる関係の悪化などが挙がった.また,外部機関が新規の受け入れを停止していたため相談者を適切に紹介できないこともあり,なかには自死に至ったケースも報告された.
 ほかにはパチンコからオンラインカジノに移行,薬物の入手方法を変更などの依存対象の変化や,在宅でより家族と接するようになり家族が本人の飲酒を強く認識するようになったとの回答もあった.一方で,ギャンブル(パチンコや競馬など)問題をもつ相談者ではCOVID-19に感染するのではないかという恐怖感や競馬場の閉鎖といった要因により施設から足が遠のき,結果的に症状が軽快した例も確認された.

表1画像拡大表2画像拡大表3画像拡大表4画像拡大

IV.考察
 本調査より,全国のセンターの依存症相談支援事業は調査時点でCOVID-19により中止・縮小・変更をしていることが認められ,利用者の依存症との付き合い方にも影響があった.同様の傾向はセンターが連携する自助グループや民間支援団体でも確認されたほか,支援実施機関同士で連携がとれず相談者がさまざまな社会資源につながることができずに予後不良となるケースもあった.

1.COVID-19による依存症の支援体制への影響
 センターが実施する当事者向け回復プログラムや家族支援事業,自助グループや民間支援団体が行うミーティングは中止ないし規模を縮小していたケースが目立ったが,これは集団で事業を実施することによりCOVID-19感染者のクラスターが発生することを危惧した結果であり,依存症の治療資源はCOVID-19のような感染症の影響を受けやすい脆弱性を有しているといえよう.また,特に自助グループでは会場を借りてミーティングを実施することが多く,会場が借りられず支援が再開できないというハード面の問題があることがわかった.これは,それぞれのグループが借りている会場の対応次第であり,特に病院や教会などの民間施設を利用しているグループと,公的施設を利用しているグループとでは感染状況によってグループの開催頻度などに差を生じる可能性があるため,相談者を紹介する際に考慮する必要がある.加えてセンターなどがミーティング会場を確保できるよう支援する,あるいは会場を提供することも支援事業の再開もしくは継続につながると予想される.
 センターでは集団プログラムの代替として個別の対面相談や電話相談を行っているようだが,個別相談への切り替えによる人的・時間的コストの増加は無視できず,また集団プログラムで期待される支援効果が達成されうるか不確かである.加えて,センターが民間支援団体や自助グループのメンバーと協働で行う支援事業は,個別対応となると民間支援団体を活用できず,支援が不十分となる危険がある.ゆえに,外部の支援機関のメンバーのオンラインでの参加を促進することや,センターの職員がトレーニングを受けスキルを高めることの重要性は高い.
 また,センターにおいて家族支援事業が中止されていた点について考えてみると,家族への支援は医療機関では診療報酬算定が難しく,これを実施している医療機関が限定的である16)ことから,センターが依存症の家族支援事業を行う意義は特に大きい.それゆえ,感染症の流行によりセンターの家族支援事業が中止されてしまうことは,当事者よりも利用できる資源がさらに限られている家族にとり,回復に寄与する活動へのアクセスが極端に制限されることになる.このような懸念に対し,感染症の流行拡大に伴って集団での活動が制限されるなかでは,センターにおける家族支援事業の持続性を担保することと,当該地域の依存症の回復支援体制におけるセンターの家族支援事業・当事者向け回復プログラムの位置づけや役割に留意しつつ,中止すべきかなど各事業の対応を検討することが重要となる.

2.COVID-19による依存症当事者への影響
 センターの相談者のなかには,COVID-19感染拡大により自助グループや民間支援団体の活動が次々と休止したために症状が悪化し,なかには自死した相談者がいたことが確認された.依存症の支援では,自助グループや民間支援団体といった治療グループへの参加を支援の目標の1つと考える8)が,本調査の結果はCOVID-19のような感染症の流行が続く状況では治療グループにつながった当事者においても丁寧にアフターフォローをしていく必要があることを示唆している.感染症の流行が続き,支援体制や依存症の当事者の症状が不安定ななかでは,相談者を治療グループへとつなげることを目的とするのではなく,つながった後も当事者の体調やグループの開催状況にどのような変化を生じているか確認することが求められる.そして,それまで参加していた治療グループが休止してしまった場合は代替となるグループを提案するなど,治療資源とのつながりを維持するような対話が特に効果的になるであろう.また,感染への不安から参加を躊躇する対象者についても,具体的に何を危惧しているのかを確認し,必要に応じて知識の整理や不安を取り除くコミュニケーション,感染対策の確認などを行い,グループ参加の方法を対象者とともに考えていくことがきわめて重要となる.
 これ以外にも,COVID-19感染予防に伴う日時,場所,開催形態などの治療構造の変化を当事者個々のライフスタイル,家庭内暴力をはじめとした家族の関係性,インターネットや電子機器に関する知識と整備状況,アクセシビリティといった観点からアセスメントを行い,治療資源が十分な機能を果たしているか評価することが求められる.当事者の症状悪化の理由の1つに,家族と過ごす時間が増えたことによる心理的ストレスが挙がった.感染症蔓延予防のさまざまな行動変容・人流抑制策や経済活動の変容は家庭の内に強く緊迫・緊張した雰囲気を形成し,また当事者の嗜癖行動を悪化させる引き金となる可能性も考えられる.特に,近親者からの暴力や虐待が関連しやすい女性の依存症当事者や当事者家族にとっては,集団プログラムが同居人と距離をとって話をする場所として機能していることもあるが,オンラインでのミーティングでは近くに家族がいて安心して話ができないことになり,治療グループに十分な効果が期待できず,逆に治療資源から離れる要因となりかねない.加えて,デジタル化はなじみの薄い当事者にとっては参加への大きなハードルになること,オンラインによるプログラムの提供は十分なエビデンスの蓄積がなく試行的であることも留意すべきである.
 なお,本調査で当事者への影響として「症状が軽快した」といった報告もあった点にも着目したい.「感染が怖くてパチンコ屋に行かなかった」「競馬場が閉鎖されていて,ギャンブルをやめるには最適な環境だった」など,物理的にアクセスできない環境におかれたことが大きかったと語られている.COVID-19や社会活動の制限による依存症当事者の嗜癖行動は一様に悪化するものではなく,嗜癖対象やその入手しやすさ,利用している治療資源への影響,嗜癖行動の当事者の生活に照らし合わせた機能,嗜癖対象のもつ身体的依存性といった要因によって変化しうるものであり,時に緊急事態宣言の発出などによる社会状況の変化が対象者の依存症の症状の改善の契機となりうる可能性も示唆される.

3.本研究の限界
 本研究で対象となった期間は主にCOVID-19感染症流行の最初期(第一波)および第二期(第二波)に限定されている.世界・日本国内では本稿を執筆した2021年8月時点でCOVID-19の流行が続いており,すでに緊急事態宣言が複数回発出されている.対象者・センター・自助グループ・回復支援施設への影響はその都度変化していることが想定される.継続的に調査を行い,速やかに発表と提案を出すことができれば,より実践的であると考える.また,本調査は課題を知るために主に自由記述で回答を得ており,量的に頻度や分布を調査したものではない.したがって,特定の回答が多かったことが必ずしもその現象がほかよりも多く生じていたことを示すものではない点は,結果の解釈をする際に注意が必要である.今後の調査では,このような質的調査に加えて,定量的なデータの収集を行うことで,COVID-19およびその感染予防策による支援体制と利用者への影響の実態を把握することが可能となると思われる.また,当事者への影響はセンターが回答したものであり,今後の調査で当事者に直接尋ねることができれば,より多様な経験や課題が回答に挙がる可能性がある.

おわりに
 本調査では,COVID-19による国内のセンターの依存症の支援体制やその当事者への影響を初めて報告した.センターの実施する依存症支援プログラムや自助グループ・民間支援団体のミーティング活動はCOVID-19の影響で中止・縮小や開催形態の変更を余儀なくされており,これが依存症の当事者やその家族の回復を阻んでいることがわかった.COVID-19による社会への影響がいまだ続くなかでは,今後も多くの当事者がその影響を受けることが予想され,それまで治療グループへの参加を通して長期にわたって安定していた当事者の症状が再発するといった事態も想定すべきである.当事者に対する個別の支援と,安定的な治療グループ開催のための支援双方が依存症の支援機関に求められており,本稿がさまざまな取り組みの積み重ねの一助となれば幸いである.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 本調査は自治体における薬物依存症およびギャンブル障害への支援体制の構築を目的として調査や研修などを実施した,厚生労働科学研究費「薬物依存症者に対する地域支援体制の実態と均てん化に関する研究」および厚生労働科学研究費「ギャンブル障害の疫学調査,生物学的評価の保健・福祉・社会的支援のありかたについての研究」の一環として実施した.

文献

1) California Consortium of Addiction Programs and Professionals: The Disease of Addiction Thrives on Isolation: A Report to Governor Gavin Newsom and the California Legislature. The Impact of COVID-19 on the State's Fragile Substance Use Disorder Treatment System. 2020 (https://engage.thenationalcouncil.org/HigherLogic/System/DownloadDocumentFile.ashx?DocumentFileKey=3f6d2227-e3d2-40de-a6a9-aaa025826d09&forceDialog=0) (参照2021-04-01)

2) Christie, N. C.: The role of social isolation in opioid addiction. Soc Cogn Affect Neurosci, 16 (7); 645-656, 2021
Medline

3) 江澤和彦: COVID-19の医療機関経営に及ぼす影響と日本医師会の対応. 日精診ジャーナル, 46 (6); 868-873, 2020

4) Health Promotion Agency (Te Hiringa Hauora): The impact of lockdown on health risk behaviours. 2020 (https://www.hpa.org.nz/research-library/research-publications/the-impact-of-lockdown-on-health-risk-behaviours) (参照2021-04-01)

5) 片山宗紀, 田辺 等, 小泉典章ほか: 精神保健福祉センターにおけるギャンブル障害の相談体制の現状と課題. 日本アルコール関連問題学会雑誌, 20 (2); 56-61, 2018

6) Knopf, A.: NAATP on telemedicine and a 'disease of isolation'. Alcoholism & Drug Abuse Weekly, 32 (15); 6-7, 2020

7) 小原圭司: ギャンブル障害の治療―精神保健福祉センターにおける取り組み―. 日本アルコール関連問題学会雑誌, 21 (1); 77-81, 2019

8) 松本俊彦, 今村扶美: SMARPP-24 物質使用障害治療プログラム. 金剛出版, 東京, 2015

9) 松本俊彦: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により薬物依存症臨床から見えてきたこと. 精神科治療学, 35 (7); 673-678, 2020

10) Narasimha, V. L., Shukla, L., Mukherjee, D., et al.: Complicated alcohol withdrawal: an unintended consequence of COVID-19 lockdown. Alcohol Alcohol, 55 (4); 350-353, 2020
Medline

11) 日本放送協会: 特設サイト 新型コロナウイルス―第1波~第4波 感染者数グラフ―. (https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/) (参照2021-07-28)

12) 日本放送協会: 特設サイト 新型コロナウイルス―日本国内の感染者数(NHKまとめ)―. (https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/) (参照2021-07-28)

13) Overdose Detection Mapping Application Program: COVID-19 Impact on US National Overdose Crisis. (http://www.odmap.org/Content/docs/news/2020/ODMAP-Report-June-2020.pdf) (参照2021-04-01)

14) 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議: 新型コロナウイルス感染症対策の見解(2020年3月9日). (https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000606000.pdf) (参照2021-03-26)

15) 白川教人: 精神保健福祉センターにおける回復プログラムの効果検証. 厚生労働省科学研究費補助金障害者政策総合研究事業(精神障害分野)「ギャンブル等依存症の治療・家族支援に関する研究」(研究代表: 松下幸生), 第2報研究報告書. 2021

16) 白川教人: 薬物依存症者に対する地域支援体制の実態と均てん化に関する研究第2報. 厚生労働省科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野障害者政策総合研究「再犯防止推進計画における薬物依存症者の地域支援を推進するための政策研究」令和2年度総括・分担研究報告書(研究代表: 松本俊彦). p.91-144, 2021

17) Stowe, M. J., Scheibe, A., Shelly, S., et al.: COVID-19 restrictions and increased risk of overdose for street-based people with opioid dependence in South Africa. S Afr Med J, 110 (6); 434, 2020
Medline

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