Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第6号

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症例報告
注意欠如・多動症と診断されていた若年性Alzheimer型認知症の1例―成人期ADHDと若年性認知症の類似点,鑑別点―
山口 世堯, 鳥居 洋太, 尾崎 紀夫
名古屋大学医学部附属病院精神科
精神神経学雑誌 123: 317-325, 2021
受理日:2021年1月30日

 成人期に初めて注意欠如・多動症(ADHD)と診断されることが増えており,成人後に顕在化するADHDの臨床症状として,不注意,不安,抑うつが重要視されている.一方で,これらの症状は気分障害や認知症といった他の精神疾患や身体疾患でも共通してみられ,鑑別に注意を要する.今回,われわれはADHDと診断され,向精神薬の投薬を受けていたが,発達,生育歴を含む問診や認知機能検査,神経画像検査により,若年性Alzheimer型認知症(EOAD)と診断した症例を経験した.症例は50歳代前半の男性.本人いわく,幼少期から忘れ物が多い傾向があった.X-2年,仕事のミスなどが増えてきたため受診を促され,X-1年,近医からADHDの診断を受けアトモキセチン40 mgが処方された.X年4月,転勤で引っ越し,転医となった.自宅でも落ち着かずに動き回る行動がみられ,メチルフェニデート18 mgが追加された.X年6月に急性心筋梗塞により入院,アトモキセチンとメチルフェニデートは中止となった.その後も,不注意と落ち着きのなさが続いたため,X年8月,当院初診.家族にも幼少期から成人期にかけての症状を確認すると,忘れ物以外の不注意・多動症状の指摘は受けていなかったことが確認された.ウェクスラー成人知能検査第3版では全検査IQ 85と知的能力は比較的保たれていたが,Mini-Mental State Examinationは21点と認知機能の低下があり,改訂ウェクスラー記憶検査でも記銘力障害がみられた.頭部機能画像検査では頭頂葉から後頭葉にかけての後連合野を中心に血流低下がみられた.臨床経過と検査結果からEOADと診断した.成人期におけるADHDの診断や投薬を行う際には,他の精神疾患や認知症を含む一般身体疾患との鑑別,併存に十分留意し,発達・生育歴を含む経過や認知機能検査,神経画像検査などを総合して,慎重な鑑別が必要と考えられた.

索引用語:注意欠如・多動症, 若年性Alzheimer型認知症>
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