Advertisement第117回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第6号

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精神医学のフロンティア
定型発達児と自閉スペクトラム症児における20 Hzと40 Hzの定常聴性反応
小野 靖樹1)2), 菊知 充2)
1)弘前大学医学部精神医学講座
2)金沢大学附属病院神経科精神科
精神神経学雑誌 123: 311-316, 2021

 【目的】自閉スペクトラム症の早期発見は適切な療育やケアのために不可欠であるが,診断のためには専門家による詳細な観察,面談が必須であり時間もかかる.したがって簡便で客観的な指標を得ることが望まれている.すでに定常聴性反応は統合失調症や成人の自閉スペクトラム症で健常者との有意差が報告されており,今回は5~7歳の幼児期にも応用できないか検討した.【方法】5~7歳の23人の自閉スペクトラム症児と32人の定型発達児を対象とした.小児用に作成されたMEGを用いて,20 Hz,40 Hzの定常聴性反応を群間で比較した.またK-ABCを用いて測定した知能との関係を評価した.【結果】両群で明らかな有意差はなく,20 Hz,40 Hzともに定常聴性反応を認めた.過去の報告に一致して,両群とも右側で40 Hzの定常聴性反応を有意に認めた.定型発達児では40 Hzの定常聴性反応は年齢と相関を示していた.両群においてK-ABCの同時尺度と左側の定常聴性反応に相関を示した.【結論】幼児期にも定型発達,自閉スペクトラム症とも定常聴性反応を認めたが,両郡間で明らかな有意差を認めなかった.しかし定型発達児では右側の定常聴性反応は年齢と相関した.また左側の40 Hzの定常聴性反応は両群において知能と相関を示した.

索引用語:自閉スペクトラム症, 定常聴性反応, MEG, 時間周波数解析>

はじめに
 定常聴性反応は周期的な刺激によって,一次聴覚野に誘発される.40 Hz刺激において最も強い定常聴性反応を認めるが,その要因については十分に解明されていない16).局所の皮質のネットワークにおけるγ帯域の産生能力を評価するための指標として,統合失調症4),双極性障害6),自閉スペクトラム症15)20)といった精神疾患に用いられてきた.
 定常聴性反応は小児期には比較的小さいが,年齢を追うごとに増加する12)13).特に40 Hzの誘発パワーやphase locking factorは8~16歳の間は単調に増加し,その後20~22歳までは減少する2).一方,20 Hzの誘発パワーやphase locking factorは8~16歳の間は平坦か減少傾向である2).Edgar, J. C.らは7~14歳の定型発達児と自閉スペクトラム症児において,微弱な40 Hzのγパワーを報告しているが,群間の有意差は認めていない3).一方,Uddin, L. Q.らは年齢に依存して,fMRI(functional magnetic resonance imaging:fMRI)にて測定できる脳の機能結合性の減少,あるいは増大を報告しており,自閉スペクトラム症児では思春期に内因性の結合性の増大が,低結合性にシフトする異常な発達の傾向を推測している18).したがって小児期においては年齢の要因が重要であることを示唆している.今回はこれまで検討されていなかった5~7歳の時期の定型発達児と自閉スペクトラム症児における,20 Hz,40 Hzの定常聴性反応を測定することが目的である.

I.研究の方法および結果
1.対象者
 23(男18,女5)人の自閉スペクトラム症児と32(男20,女12)人の定型発達児を対象とした.本研究は金沢大学附属病院倫理委員会によって承認され,児の両親より参加について文書によるインフォームド・コンセントを得て行われた.自閉スペクトラム症の診断はDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の自閉スペクトラム症の診断基準に基づいて,Diagnostic Interview for Social and Communication Disorders21)とAutism Diagnostic Observational Schedule8)を用いて行われた.

2.評価項目
 子どもの認知機能については日本版K-ABC(Kaufman Assessment Battery for Children)7)を用いて行った.認知処理と習得度の2つの尺度に分けられ,特に前者は継続尺度,同時尺度に分類され,IQに相当するものと考えられた.

3.計測と分析
 検査は午前中に行われた.全頭型の151チャンネルの幼児用脳磁計(magnetoencephalography:MEG,PQ1151R model,リコー,金沢)を用いた.幼児は横になってリラックスし,聴覚刺激は音のないアニメーションをスクリーンに映した状態で提示された.MEG検査の後,信号解析のための頭部モデルを作成するため,MRI(GE横河,Milwaukee,IL,USA)にてT1強調画像を130枚撮影した.

4.聴覚刺激
 長いシリコン製のチューブを使ったイヤフォン(ER-30,Etymotic research Inc., IL,USA)を両耳につけた.刺激はクリック音で1 kHzの単独サイン波でPresentation(Version 18.3,Neurobehavioral Systems,CA,USA)を使って20 Hz,40 Hzの周波数を作成した.1秒の持続,70 dBの大きさ,刺激の間隔は1秒,ジッターはランダムにした(-100~100ミリ秒).

5.MEG前処置
 Brainstorm17)とMATLAB(The Math Works,Inc., USA)を用いてデータを解析した.データは2,000 Hzでサンプリングし,200 Hzのlow-pass filterを使用した.

6.スペクトル解析
 信号源は最小ノルム電源推定と,各人の頭部MRIをもとにoverlapping-spheres algorithm5)を用いて推定した.関心領域はDesikan-Killiany gyrus atlasから作成した.時間周波数解析はMorletウエーブレットを用いて,ある時間的な空間のみに焦点をあてた周波数解析を行い,振幅の強さとしてERSP(event-related spectral perturbation),位相からどれだけずれているかを,ITPC(inter-trial phase coherence)として求めた.すなわちERSPは刺激前の200ミリ秒に対しての事象に関連した信号の%変化を示す.一方,ITPCは各試行の位相の変化を意味し,ITPC=1は位相の乱れのない状態で,ITPC=0は位相の乱れが最大になった状態を示す.

7.結 果
 2群間ではK-ABCのスコアに有意差を認めたほかは,年齢,性に差はない().40 Hz刺激によるERSPの時間周波数マップの平均では,右側頭回に40 Hzにおいて明確なERSPを認める(図1).しかしP<0.05でt検定を行うと,群間では有意差は認めない.ただし定型発達児では170 ms付近のγ帯域(30 Hz近傍)が,自閉スペクトラム症児に比べ有意に低いことが示された(図2).
 ITPCでは右側頭回において,40 Hzで明らかなピークを認める(図3).定型発達児では右側の40 HzにおけるITPCと年齢に正の相関を認める(図4).一方,両群において,K-ABCの同時処置と左側の40 HzにおけるITPCとの相関を認めた(図5).

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II.考察―本研究の意義,苦労,工夫したことなどを含めて―
 5~7歳の幼児においても20 Hzと40 Hzにおける定常聴性反応を認めることができたが,定型発達児と自閉スペクトラム症児では有意差を認めなかった.このことは7~14歳での同様の検討と一致する2).両群で定常聴性反応に有意差を認めなかったが,40 HzのERSPでは右側頭回で170 ms付近に,30 Hzのγ帯域で自閉スペクトラム症児が定型発達児に比べ有意に大きいパワー値を呈した.1 kHzのサイン波を刺激として用いたRojas, D. C.らも同様の報告をしている14)
 これまでは幼児期を対象とした定常聴性反応の研究がなく,今回は23人と比較的多い人数の自閉スペクトラム症児を定型発達児と比較できたことが本研究の意義である.幼児用のMEGが世界に数台しかなく,また幼児に特化した検査体制をもつことは大きなアドバンテージである.またそのアドバンテージのゆえに,さまざまな分野の優秀な人材も集まりやすく相乗効果が生まれている.
 定常聴性反応は一定の明らかな反応が得られるため,以前より注目されていた.
 定常聴性反応の機序についてはsuperposition理論が主流である.すなわち中潜時の40 Hzの反応が重なって形成され,特に皮質の反応の関与が推測されている1).聴覚野の発達は時間がかかり,小児期の早期から晩期に及び,解剖学的に複雑な構造で,特に言語の獲得には数年を要すため10),定型発達児と自閉スペクトラム症児で有意差が生じるには時間を要すのかもしれない.
 結論的には発達の途上にある幼児では,疾患の鑑別には用いることはできないことが判明したが,逆に何歳から違いがでるのかという疑問がわく.Wilson, T. W.らは12歳において早期の両群の有意差を報告している20)
 K-ABCの同時尺度は左側の40 Hzの定常聴性反応と,定型発達児と自閉スペクトラム症児群ともに弱い相関を認めた.行動実験からは視覚刺激は聴覚に著明な影響を及ぼすといわれている.
 今回の対象者である子どもは,自分の好きなアニメーションを見ながら,刺激音を聞いていた.子どもはアニメーションに集中するため,定常聴性反応の音を無視しようと努める.視覚と音刺激が同時に提示された場合,左側優位になりやすいといわれている9).こうした背景があって,同時尺度と左側の定常聴性反応に相関を認めた可能性が考えられた.
 すでに金沢大ではバンビプランを立ち上げて10年になり,数日にわたって心理検査,MRI,MEGを行う体制が構築されており,今回の研究もその枠組みのなかで行うことができた.
 いかに幼児に検査に協力してもらうか,医師,研究者だけでなく,スタッフの工夫,アイディアが出され試行錯誤のなかで培われたものである.
 すでに少数では幼児期にも定常聴性反応が認められるものの,定型発達児と自閉スペクトラム症児に有意差は認めず,今回の検討前から有意差がでない可能性は予測されていた.特に統合失調症においては40 Hzの定常聴性反応が減少するのを補う意味で20 Hzの反応が増加するという報告もあり19),40 Hzのほか20 Hzについての刺激を追加したが,発達の途上であり有意差は認めなかった.

おわりに
 いつ頃より定常聴性反応に有意差がでるのか,あるいはそもそも,定常聴性反応とは何なのかを明らかにすることは今後の課題である.なお早期に出現するγパワーには有意差があるので,今後はこの差の由来や,年齢による差異も検討する価値があると考えられる.定常聴性反応を理解することは自閉スペクトラム症に限らず,統合失調症,双極性障害の病態の解明につながるものである.

 本論文はPCN誌に掲載された最新の研究論文11)を編集委員会の依頼により,著者の1人が日本語で書き改め,その意義と展望などにつき加筆したものである.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Bohórquez, J., Ozdamar, O.: Generation of the 40-Hz auditory steady-state response (ASSR) explained using convolution. Clin Neurophysiol, 119 (11); 2598-2607, 2008
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2) Cho, R. Y., Walker, C. P., Polizzotto, N. R., et al.: Development of sensory gamma oscillations and cross-frequency coupling from childhood to early adulthood. Cereb Cortex, 25 (6); 1509-1518, 2015
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15) Rojas, D. C., Teale, P. D., Maharajh, K., et al.: Transient and steady-state auditory gamma-band responses in first-degree relatives of people with autism spectrum disorder. Mol Autism, 2; 2-11, 2011
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