排泄症群は,ICD-10ではF98「小児期および青年期に通常発症する他の行動および情緒の障害」の項目に,「F98.0非器質性遺尿症」「F98.1非器質性遺糞症」として挙げられている.同じ項目内には,「乳幼児期および小児期の哺育障害」「乳幼児期および小児期の異食症」「常同運動障害」「吃音[症]」「早口症」などが挙げられ,他に入らない診断を雑多に集めた感が否めない.これらはICD-11では,排泄症群の遺尿症Enuresis,遺糞症Encopresisとしてまとめられた.その概要は「ベッドや衣服に繰り返し排尿してしまうこと」(遺尿症)および「不適切な場所への繰り返しの排便」(遺糞症)である.不随意の場合も意図的な場合も含んで排泄コントロールが確立すると考えられる年齢を超えても生じることが条件である.ICD-11では診断名から「非器質性」の言葉が消えたが,説明文に「非器質性」であることが示されており,概要に大きな変化はないが,小児期・青年期に限らず成人でも診断できる点がこれまでと異なる.また「正常との境界」「経過」「発達論的観点」「性差」「他の疾患との鑑別」が記され,概念が整理されてより詳細で実臨床に沿った使いやすい内容となっている.
はじめに
排泄症群は,ICD-10ではF98「小児期および青年期に通常発症する他の行動および情緒の障害」の項目に,F98.0非器質性遺尿症,F98.1非器質性遺糞症として挙げられている.同じ項目内には,「乳幼児期および小児期の哺育障害」「乳幼児期および小児期の異食症」「常同運動障害」「吃音〔症〕」「早口症」などが挙げられ,他に入らない診断を雑多に集めた感が否めない3).これらはICD-11では,排泄症群の遺尿症(Enuresis),遺糞症(Encopresis)としてまとめられた.その概要は「ベッドや衣服に繰り返し排尿してしまうこと」(遺尿症)および「不適切な場所への繰り返しの排便」(遺糞症)である.不随意の場合も意図的な場合も含んで排泄コントロールが確立すると考えられる年齢を超えても生じることが条件である.ICD-11では診断名から「非器質性」の言葉が消えたが,説明文に「非器質性」であることが示されており,概要に大きな変化はないが,小児期・青年期に限らず成人でも診断できる点がこれまでと異なる.また「正常との境界」「経過」「発達論的観点」「性差」「他の疾患との鑑別」が記され,概念が整理されてより詳細で実臨床に沿った使いやすい内容となっている(表).
1.遺尿症(Enuresis)
ICD-103)の「非器質性遺尿症」は,ICD-11では「遺尿症」となり,遺尿の生じる時間帯によって「夜間遺尿症」「昼間遺尿症」「夜間および昼間遺尿症」に分けられた.これはICD-10の研究用診断基準であるDCR-10(WHO,1993)を踏襲している.遺尿の頻度についても,ICD-10とDCR-10では一部異なり混乱した記載であったが,ICD-11ではこれが整理され「週に数回かつ数ヵ月にわたって遺尿が生じる」ことが診断要件となった.
臨床的特徴も,ICD-10に記載のある「遺尿症にまつわる恥ずかしさの感覚から,遺尿症が二次的に情緒的な問題を生じる可能性がある」ことに加えて,遺尿症が公共のトイレを使うことに関する社交不安症や,楽しい活動をやめることへの拒否などから生じる可能性があること,遺尿は他の精神および行動の疾患や,神経発達症の症状発現の一部として生じることもあれば,これらと並行して生じることもあることが記載された.
知的発達症との関連では個人の発達のレベルが5歳相当に達していることが診断のために必須とされた.また認知症などを患う場合にも遺尿症がよくみられることが記載され,成人でも診断が可能となっている.
「文化に関する特徴」の項目ではトイレット・トレーニングに関して,文化によりトレーニングが完了する年齢や,何を正常とするかについての期待・基準が異なり,遺尿の経過や,遺尿症の患者が受ける恥ずかしさや偏見が異なることが記載されている点もICD-10との違いである.
2.遺糞症(Encopresis)
遺尿症と同様,ICD-10の「非器質性遺糞症」は「遺糞症」へ名称が変更された.ICD-10では鑑別診断に「共存することがある」とされていた便の通過障害を含む便秘であるが,ICD-11は遺糞症自体を「便秘および溢流性便失禁を伴う遺糞症」と,「便秘および溢流性便失禁を伴わない遺糞症」に二分した.遺糞症の多くが,「便秘および溢流性便失禁を伴う遺糞症」であり,多くがトイレを避けることによる便秘の既往があるとされる.また排便をこらえること(その結果便秘へとつながる)は,排便時の痛みや腸の動きによる痛みを避けようとすることの結果である可能性や,特定の恐怖症や社交不安症(公共のトイレを使用することへの恐れなど)から生じることもあるとされた.
一方「便秘および溢流性便失禁を伴わない遺糞症」は,社会的に適切とされる場所へ排便する社会規範に従えない,または従うことへの抵抗という性格がみられ,反抗挑発症や素行・非社会的行動症による可能性があるとされた.
遺尿症と同様,遺糞症も認知症などの成人にも生じ成人での診断も可能とされた.知的発達症との関連では,個人の発達のレベルが一般的に排便のコントロールが確立する年齢(おおよそ4歳)相当に達していることが診断に必須である.
おわりに
子どもの遺糞症の多くは慢性の便秘からきている1).また,便を漏らす子どもは,親の怒りや他の子ども達の嘲りにさらされることを常に恐れ2),心理的な問題も抱える可能性が高い.ICD-11の排泄症群の記載ではこれらの臨床的知見が取り入れられ,臨床の場で使いやすいものとなっている印象を受けた.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
1) Bracey, J.: Solving Children's Soiling Problems: A Handbook for Health Professionals. Churchill Livingstone, Edingburgh, 2002
2) Buchanan, A.: Children Who Soil: Assessment and Treatment. John Wiley, Chichester, 1992
3) World Health Organization: The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. World Health Organization, Geneva, 1992 (融 道男, 中根允文ほか監訳: ICD-10精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン―, 新訂版. 医学書院, 東京, 2005)