Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第11号

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資料
川崎市の精神保健福祉法第23条通報における複数回通報事例の特性と地域生活支援の必要性について
小池 純子1), 柴崎 聡子2), 河野 稔明1)2), 熊倉 陽介2)3)4), 大塚 俊弘5), 小口 芳世2)6), 袖長 光知穂2)6), 小野 和哉2)6), 古茶 大樹2)6), 竹島 正2)
1)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部
2)川崎市精神保健福祉センター
3)東京大学大学院医学系研究科
4)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部
5)長崎県精神医療センター
6)聖マリアンナ医科大学神経精神科
精神神経学雑誌 123: 721-731, 2021
受理日:2021年8月6日

 【目的】3年間に2回以上の精神保健福祉法第23条通報〔警察官通報(以下,23条通報〕がなされた対象者の特性の把握と,地域で安定した生活を送るための方策の検討を目的とした.【方法】川崎市精神保健福祉センターに,2015年4月1日から2018年3月31日の3年間に23条通報となった748件(実人数668名)の匿名化データをリソースとした.3年間の被通報回数が2回以上の者(複数群)と1回限りの者(単数群)を比較した.本研究は,川崎市精神保健福祉センター研究倫理及び利益相反に関する懇談会に諮り,川崎市情報公開運営審議会の承認を得た.【結果】複数群の実人数は63名(9.4%),のべ通報件数は143件(19.1%)であり,措置診察は98件(68.5%)であった.複数群は,単数群に比して措置入院歴を有する割合が高く(39.7%,P<0.001),診断は精神病圏以外の障害であるF5(生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群,2.0%),F6(成人のパーソナリティおよび行動の障害,16.3%),F7(知的障害,8.2%)の割合が高かった(P=0.018).措置診察の結果,複数群と単数群の緊急措置入院,措置入院率に有意差はなかった.複数群は,措置不要判断後の対応において医療保護入院の割合が低く,入院外対応の割合が高かった(P=0.013).また措置解除後に入院継続をしない事例の割合が高かった(32.8%,P=0.021).【考察】複数群は,精神病圏以外の精神障害の割合が高く,入院の対象になりにくい事例が多いと思われた.この要因の1つに,通報の契機となった自傷他害行為は,生活環境や生活上の出来事への反応という側面が考えられるが,両群の緊急措置・措置入院率はほぼ同率である.通報となったことをクライシスコールととらえるならば,対象者のかかえる困りごとに沿った地域生活支援の視点が必要と考えられた.【結論】複数群は単数群に比べて精神病圏の障害は少ないものの,支援を要する事例もあり,精神医療以外の視点も含めた支援のあり方を検討していく必要があると思われた.

索引用語:警察官通報, 精神保健福祉法, 措置入院, 非精神病性障害, 地域生活支援>

はじめに
 わが国の精神保健医療福祉施策は,2004年に「入院中心から地域生活中心へ」と方策を転換し,現在では「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」に向けて,現実的な体制の整備に取り組んでいる6)7).そのなかで,『精神保健及び精神障害者福祉に関する法律』(以下,精神保健福祉法)の通報等制度は,地域生活の危機に対し,精神医療からの危機介入の役割を担っている.衛生行政報告例4)に示される通報等件数は毎年増加の一途をたどっており,過去10年間で倍増,最近は若干の減少傾向をみているものの,過去5年間の増加率は45%に及んでいた.通報等の種別では,精神保健福祉法第23条通報〔警察官通報(以下,23条通報)〕の増加が顕著であり,全体の件数の伸びは,23条通報の伸びを反映している.
 各通報等は種別ごとに対象特性がある16)17)26).とりわけ23条通報の場合では,措置入院の要否にかかわらず,何らかの医療福祉的支援が必要であると報告されていた23)24).また,2000年度と2010年度の全国の23条通報事例の調査を比較すると,措置診察不要の増加,緊急措置入院の増加,措置入院期間の短縮がみられ,23条通報による措置入院は精神科救急医療へのシフトが顕著であると指摘されている16).さらには,通報がなされた結果,措置入院が必要であると判断された者には,医療保護入院者に比して治療の困難性や経済的な困窮があり,家族等支援者に乏しく,近所でのトラブルを起こしやすく,行政介入の必要がある特性をもつと報告されている19).加えて,措置入院を含む精神科救急医療の利用者の実態調査のなかには,繰り返しの入院事例に着目した報告があり,このような場合でも,自傷他害のおそれは突然生じるのではなく,家族などとの関係性の問題や暴力が繰り返される背景の問題など,日常生活上のさまざまな困難が時間をかけて増大した結果であると述べられている18)
 以上のことを総合的に考慮すると,最近の23条通報は,精神保健福祉法上の警察官の通報が第24条に規定されていた頃の,司法と医療の狭間の問題を有する者への対応の機能から(議論が盛んであったのは1980~2002年頃)20)21),日常生活を送るうえでの困難を,自傷他害の形で表出している者への緊急的な医療アクセスの経路に変化していると考えられる.また,23条通報の機能の変化に伴い,通報対象者の通報に至る背景にある問題やニーズは多様化していることが想定される.このため最近の23条通報事例をもとに,多様な角度から事例特性や生活上のニーズを把握する必要がある.とりわけ複数回にわたって緊急かつ危機的な,いわゆるクライシスコールが行われている場合には,支援体制の運用を適正にする早急な対応が必要となる.
 そこで本研究では,川崎市の23条通報事例をもとに3年間に2回以上の通報がなされた対象者と1回のみの通報対象者の違いに着目し,前者の特性を明らかにするとともにその支援のあり方を検討することを目的とした.
 川崎市における措置入院制度の詳細は別稿に記載があるが25),23条通報は,神奈川県と県内3つの指定都市の4県市が協働して実施している精神科救急医療体制の一環として対応している.川崎市の通報件数に関しては図1に示した.平日日中の通報は,保健所(区役所)を経由して通報受理と事前調査がなされ,夜間休日の場合は,発生事例全件を神奈川県精神保健福祉センター警察官通報受付窓口が受け付け,24時間体制で措置診察の要否判断と移送業務を担っている.措置診察が決まったときは,基幹病院または輪番病院の1つの病院が受け入れ,要措置と判断された場合は当該病院に入院となる.
 措置不要と判断された場合は,措置入院制度としての手続きは終了となるが,措置診察を行った精神保健指定医の意見に基づき,医療保護入院などの医学的対応が提案されることがある.また,措置診察が不実施となった場合も,精神保健福祉法第47条に基づく相談支援業務として,通報対象者に対して川崎市から支援を提案することがある8)

図1画像拡大

I.対象と方法
 措置入院の運用実態のモニタリングの一環として収集されたデータベースのうち,川崎市精神保健福祉センターに,2015年4月1日から2018年3月31日の3年間に23条通報となった748件の匿名化データをリソースとした.データは,通報受理書,措置診断書,措置症状消退届に記載されている内容を用いており,項目は,被通報者のID(同姓同名で生年月日が一致する場合は同一IDを付与した),通報受理年月日,受理時間,年齢,性別,管轄警察署,居住区,保険種別,措置診察の実施・不実施,診察年月日,時間帯,診察の開始時間と終了時間,診察場所,受入医療機関,診察後の要措置・措置不要,措置不要時の医学的対応(医療保護入院,任意入院,入院外診療,医療不要),入院日,措置診察時の診断名,身体合併症,措置入院の場合の措置解除の年月日,措置解除時の診断名などである.本対象の過去の通報歴,入院歴については,本研究期間以前になされた通報,入院情報も包含されている.
 自傷他害の区分については,緊急措置診察時を含めた措置入院に関する診断書の「重大な問題行動」の欄において,他害行為はおおむね医療観察法の対象行為に相当する「1殺人」「2放火」「3強盗」「4強制性交等」「5強制わいせつ」「6傷害」の,自傷行為は「15自殺企図」「16自傷」の,いずれかのA(これまでの行動)またはB(今後おそれのある行動)に該当する記載が1枚でもある場合に,「あり」と扱った.そのうえで,他害行為があり,自傷行為がなかった事例を「他害コア群」とした.また,自傷行為があり,他害行為がなかった事例を「自傷コア群」に振り分けた.自傷行為と他害行為の両者を併せ持つ場合は「自傷・他害群」とし,これら3つの群に該当しない場合を「非コア群」とした.ただし,精神保健指定医の事実として認めた他害行為は,刑法上の同名罪の構成要件該当行為には,厳密には一致しないことを付言しておく.
 本研究では,23条通報対象者のうち,3年間に2回以上の被通報経験のある者を「複数群」,通報が1回限りの者を「単数群」と分類し,両者の2群比較を行った.その際に,対応などの相違については748件のデータを使用したが,事例特性の比較においては,最近の通報時のデータを用いて重複を削除し,668名について2群比較を行った.統計解析はクロス集計,検定ともSPSS ver. 26を用いた.検定では有意水準を5%とした.
 なお本研究は,川崎市精神保健福祉センター研究倫理及び利益相反に関する懇談会に諮り,川崎市情報公開運営審議会の承認を得た.

II.結果
1.複数群と単数群の通報件数
 3年間の通報件数はのべ748件(実人数668名),このうち複数群は143件(のべ件数の19.1%)であった.
 複数群の実人数は63名であり,全通報対象者668名の9.4%に相当した.性別は,男性が31名,女性が32名であった.通報回数は,2回が49名,3回が12名,4回,5回が各1名であった.

2.事前調査結果の群間比較と措置診察の不実施理由
1)事前調査の群間比較
 複数群143件と単数群605件の事前調査結果を比較したところ,複数群では措置診察不実施の割合が高かった(29.4%,χ2=6.902,P=0.032).
2)措置診察の不実施理由
 措置診察の不実施は186件に認められ,通報件数全体の24.9%に及んでいた.そのうち複数群では45件で,複数群の通報143件の31.5%に相当した.措置診察の不実施理由を表1に示した.複数群では,事前調査において,自傷他害を行ったときにアルコール・薬物による酩酊状態であると認められた者の割合が高く,単数群のそれよりも警察官による通報の取り下げが多い傾向がみられた.
3)通報ごとの診察結果,および措置解除後の転帰について(表2
 措置診察において,緊急措置入院,措置入院が必要であると判断された割合は,複数群と単数群間で統計上の有意差はなかった.措置不要後の対応についてみると,複数群では医療保護入院の割合が低く(7.0%),入院外の対応の割合が高かった(20.9%,χ2=12.661,P=0.013).また,措置入院をした場合の措置解除後の対応では,措置解除後に直接退院となっている事例の割合が高かった(32.8%,χ2=9.703,P=0.021).自傷他害行為の区分では,有意な差がみられなかった.
4)複数群と単数群の事例特性について(表3
 複数群では,単数群に比して措置入院歴を有する場合が高率にみられた(39.7%,χ2=80.206,P<0.001).診断では,F5(生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群,2.0%),F6(成人のパーソナリティおよび行動の障害,16.3%),F7(知的障害,8.2%)の割合が,単数群に比して高かった(χ2=24.467,P=0.018).
 年齢階級について,年齢階級不明群の有意差以外に差を確認できなかった.ただし,年齢は複数群のほうが低いことが示された(t=3.981,P<0.001).

表1画像拡大表2画像拡大表3画像拡大

III.考察
1.複数群の事例性と再通報の要因の検討
 通報件数全体の2割に相当する通報を1割の事例が占めていた.全通報と対応等(748件)を複数群と単数群に分けて比較すると,緊急措置入院者と措置入院者の割合はほぼ同じであった.一方で,複数群では措置診察不実施の割合が高く,措置診察後に措置不要となった後の医学的対応では,入院外診療となる事例の割合が高かった.これに比して単数群では,医療保護入院をする事例の割合が高かった.複数群は,措置入院にならない割合が5割以上に及ぶ実態はあるが,措置入院歴を有する4割は再度の通報に至っていた.また,措置入院をした後の措置解除後の対応においても,複数群は直接退院の割合が高く,単数群では入院形態を変更しての入院継続の割合が高いという相違がみられた.措置入院が決定した措置診察時の精神科診断では,単数群と比較してF5~7の割合が高かった.
 これらの結果から,複数群は,F5~7の非精神病圏の者の通報時の問題行動が,生活環境や生活の出来事への反応としての自傷他害であったことが考慮され,措置診察の不実施や入院外の対応となりやすいことが考えられた.とりわけF6に関しては,従来から精神病圏の幻覚妄想状態や精神運動興奮状態を想定している措置入院14)15)への馴染みにくさがあり,措置入院を回避する傾向が指摘されている14).F7の診断の場合では,限られた社会化,衝動性,学習能力の低さ,自尊心の低さ,および教育と職業能力の欠如などの特性から,攻撃的行動など問題行動が発生しやすい特性がある1)2)11).このため,行われた自傷他害行為は,生活環境や生活上の出来事への反応と診たてられやすく,措置診察不実施や入院外対応になりやすいと推測される.
 一方で,実際には,単数群にも非精神病圏の診断をもつ者がいるため,非精神病圏の者の特性ばかりが複数群になる要因ではないと考えられる.杉山らの報告によれば19),措置入院者の抱える問題には,①精神症状の難治性,②経済的困窮,③家族等支援者の非協力や不在などがある.経済的な問題(就労にかかわる問題)や家族等支援者にかかわる問題を抱えている場合では,必ずしも精神保健医療福祉による支援だけでは解決できない場合もあるであろう.
 以上を踏まえ複数群においては,自傷他害を招いた安定しない精神症状への治療の不足のみならず,精神保健医療福祉による支援だけでは解決できない困りごとが未解決のまま残されていることが,再通報の一因になるとも推察される.このため,通報を契機に,精神症状の不調の引き金となった生活上の事態の安定化に向けた支援の必要性のアセスメントが望まれる.同時に,不足していた支援提供体制に対しては,通報を緊急的な医療アクセス手段としない保健体制の強化を図る体制構築を検討する必要がある.

2.23条通報にかかわる事情と再通報の要因の検討
 前項では,複数群の特性を踏まえ再通報の要因を検討したが,23条通報にかかわる事情からも,再通報の要因となる事象をとらえておきたい.
 23条通報数は(図2),2011年頃から増加が目立ち始めた.2012年以降の通報数の増加の背景には,2012年4月に,都道府県の救急医療体制整備の努力義務規定が施行された影響があると思われた.精神科救急の整備による間口の広がりは,23条通報の増加に影響する因子として指摘されている10).また警察が犯罪や事故,子ども・女性・高齢者から寄せられる相談に対し,心情,境遇などに配意した相談体制の強化を図ったことは,23条通報の増加と対象者の多様化につながったと考えられている16)22)27).実際,『平成25年版警察白書』3)によれば,犯罪や事故にかかわる相談件数は,2010年に139万8,989件,2011年には146万1,049件,2012年には155万3,189件と毎年7万件程度増加している.
 他方,現行の通報等制度は,精神保健福祉の改革ビジョン(2004年)発出前のままになっている.通報がなされ,事前調査で措置診察実施の必要性が認められた場合に,精神保健指定医の診察を受ける手続きがとられるが(精神保健福祉法27条),措置診察不実施の判断がなされた者や措置入院不要者に対し,支援を講じることは規定されていない13).神奈川県の精神科救急医療体制では,措置不要となった後の医学的対応として医療保護入院や任意入院ないしは入院外(要外来治療)の同意に基づく治療が提案されるが,これは措置入院制度の範囲外で行われる部分である.すなわち,地域生活上の危機状態に陥り,23条通報という形でクライシスコールを発した者に対し,原則的には,措置入院医療以外の支援が予定されていない.このような支援体制は,通報等制度が制定された入院中心の医療の時代であれば十分であったかもしれないが,地域生活が中心となり,入院期間が短期化しながら通報数が増えた現在においては不足であり,再通報を招きやすくなっているのではないかと思われる.
 過去20年間の精神疾患を有する人の推移を概観してみると(図35),精神疾患を有する人の人数は2倍に増えている.診断の曖昧さや軽症化も考量すると9)12),器質性精神病(認知症を除く)や内因性精神病という,いわゆる精神病圏の疾患をもつ人の人数はほぼ一定で推移しているため,精神病圏以外の精神疾患をもつ人が増えたのではないかと思われる.すなわち,入院をして薬物療法を中心とした治療をするよりも,日常生活を営みながら,薬物療法や心理社会的療法を行うほうが功を奏す人たちである.入院中心の医療から地域生活中心に進む今日,対象者の抱える困りごとに沿った生活支援の視点が必要と考えられ,通報等制度が「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」の検討のなかで地域精神医療の充実の一角に位置づけられることが望まれる.
 以上のことからは,複数群に対して,障害特性や精神症状を呈した背景にある地域生活を送るうえでの複合的な困難に着目した生活支援の必要性のアセスメントを行い,地域生活を継続しながら支援を受けられる体制を構築することが重要になるのではないかと思慮された.現実的には初回通報の時点で将来「複数群」になるかどうかを判別することは困難であるが,F5~7の障害をもつ者や措置診察不実施,入院外の判断がなされた者,措置解除後に直接退院をした者に注目して,生活支援の必要性のアセスメントの試行が望まれる.その際には,通報対象者の特性と精神保健医療福祉支援体制のみでは解決できない生活支援の視点を含めることが重要であり,将来的には,通報を招かない保健体制の構築ないしは整備へと切り替える必要性があると考えられた.

3.本研究の限界
 本研究は,一政令指定都市で行われた研究である.通報等制度の運用には地域差があるため,本研究結果をただちに他の地域に一般化することはできない.今後に向けては,診察不要者や措置不要者について,通報に至る経緯を含めて事例の詳細な分析をしていくことが課題である.

図2画像拡大
図3画像拡大

おわりに
 本研究は,3年間に2回以上の23条通報がなされた対象者の特性を把握し,地域で安定した生活を送ることができるための方策について検討することを目的とした.その結果,複数群の対応などとしては,「診察の不実施」「入院外や医療不要」「措置解除後の直接退院」の割合が高い結果が示された.また事例特性では,措置入院歴を有し,措置診察時の診断としてF5,F6,F7の占める割合が高いことが明らかになった.
 複数群に精神病圏以外の精神障害の割合が高く,入院の対象になりにくい事例が多かった背景要因の1つに,通報の契機となった自傷他害行為に,生活環境や生活上の出来事への反応という側面が考えられる.しかし,両群の緊急措置・措置入院率はほぼ同率である.通報となったことをクライシスコールととらえるならば,対象者の抱える困りごとに沿った地域生活支援の視点が必要と考えられた.23条通報の複数群は単数群に比べて精神病圏の精神障害は少ないものの,支援の必要な状況にある事例も少なくないことから,精神医療以外の視点も含めた支援のあり方を検討し,将来的には通報を招かない保健体制の強化へと転換していく必要があると思われた.

 利益相反
 匿名化されたデータの分析には,平成30年度厚生労働行政推進調査事業費補助金「精神障害者の地域生活支援を推進する政策研究」(研究代表者:藤井千代)の協力を得た.なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 本研究にご協力くださった川崎市精神保健福祉センター職員に,心より感謝申し上げます.

文献

1) Haut, F., Douds, F., O'Brien, G.: Assessment and treatment of offenders with psychiatric comorbidity. The Wiley Handbook on Offenders with Intellectual and Developmental Disabilities: Research, Training, and Practice (ed by Lindsay, W. R., Taylor, J. L.). Wiley-Blackwell, Hoboken, p.346-364, 2018

2) Jones, J.: Persons with intellectual disabilities in the criminal justice system: review of issues. Int J Offender Ther Comp Criminol, 51 (6); 723-733, 2007
Medline

3) 警察庁: 子供・女性・高齢者と警察活動―子供・女性・高齢者を守る総合的な取組―. 平成25年版警察白書, 2013 (https://www.npa.go.jp/hakusyo/h25/honbun/html/pf252000.html) (参照2021-06-09)

4) 厚生労働省: 衛生行政報告例. (http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001031469) (参照2021-06-09)

5) 厚生労働省: 患者調査. (https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html) (参照2021-06-09)

6) 厚生労働省: 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築について. (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chiikihoukatsu.html) (参照2021-06-09)

7) 厚生労働省: 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会. (https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai_322988_00007.html) (参照2021-06-09)

8) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長: 「措置入院の運用に関するガイドライン」について. (http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/shakai/jp/syakaifukki/doc/02.pdf) (参照2021-06-09)

9) 松浪克文: 「内因性うつ病」という疾患理念型をめぐって. 精神経誌, 115 (3); 267-276, 2013

10) 西山 詮: 堅い精神科救急(緊急鑑定)の実態と改革. 精神経誌, 86 (2); 89-119, 1984

11) Platt, J. M., Keyes, K. M., McLaughlin, K. A., et al.: Intellectual disability and mental disorders in a US population representative sample of adolescents. Psychol Med, 49 (6); 952-961, 2019
Medline

12) 齋藤利和: わが国におけるアルコール依存症の診断・治療の変遷. 精神経誌, 119 (10); 784-790, 2017

13) 精神保健福祉研究会監: 四訂精神保健福祉法詳解. 中央法規出版, 東京, p.265-274, 2016

14) 瀬戸秀文, 藤林武史, 吉住 昭: 精神保健指定医の措置入院要否判断に影響する因子について. 臨床精神医学, 36 (9); 1067-1074, 2007

15) 瀬戸秀文, 藤林武史, 吉住 昭: 精神保健指定医の措置入院要否判断の因子の組み合わせによる影響について―措置入院に関する診断書の決定木分析による検討―. 臨床精神医学, 38 (4); 469-478, 2009

16) 瀬戸秀文, 吉住 昭: 医療観察法施行前後の措置入院の変化―特に警察官通報の現状ならびに指定医の判断傾向について―. 臨床精神医学, 43 (9); 1325-1334, 2014

17) 瀬戸秀文: 精神保健福祉法第26条に基づく矯正施設長通報の現状把握に関する研究. 厚生労働行政推進調査事業障害者政策総合研究事業(精神障害分野)「精神障害者の地域生活支援を推進する政策研究(研究代表者: 藤井千代)」平成30年度総括・研究分担報告書. p.525-614, 2019

18) 白石弘巳, 五十嵐禎人, 池原毅和ほか: 措置入院制度を含む精神科救急医療の適正な供給に関する研究. 平成18年度厚生労働科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究事業)「措置入院制度の適正な運用と社会復帰支援に関する研究(代表研究者: 浦田重治郎)」分担・総括報告書. p.149-166, 2007

19) 杉山直也, 長谷川 花, 野田寿恵ほか: 精神科救急入院患者レジストリを用いた措置入院者の臨床特徴の緊急解析. 精神医学, 59 (8); 779-788, 2017

20) 武井 満: 医療と司法の狭間の問題をいかに考えるか. 精神科治療学, 16 (7); 663-668, 2001

21) 武井 満: 日本の精神医療と触法精神障害者問題. 犯罪と非行, 137; 23-46, 2003

22) 竹島 正, 小山明日香, 立森久照ほか: 精神保健福祉法による通報実態から見た触法精神障害者の地域処遇上の課題―全国の都道府県・政令指定都市へのアンケート調査をもとに―. 日社精医誌, 21 (1); 22-31, 2012

23) 竹島 正, 下田陽樹, 立森久照ほか: Unmet needsの把握のための通報等調査. 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)「新たな地域精神保健医療体制の構築のための実態把握および活動の評価等に関する研究(代表研究者: 竹島 正)」平成24~26年度総合研究報告書. p.55-64, 2015

24) 竹島 正, 小池純子, 立森久照ほか: 精神病床数と23条通報の関連からみた地域精神医療におけるunmet needs. 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)「地域のストレングスを活かした精神保健医療改革プロセスの明確化に関する研究(代表研究者: 竹島 正)」平成27年度総括・分担研究報告書. p.23-27, 2016

25) 竹島 正, 小池純子, 河野稔明ほか: 川崎市における精神保健福祉法第23条通報への対応状況の系統的分析. 日社精医誌, 30 (1); 35-44, 2021

26) 吉住 昭, 尾島俊之, 野田龍也ほか: 医療観察法導入後における精神保健福祉法第25条に基づく検察官通報の現状に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)「医療観察法導入後における触法精神障害者への対応に関する研究(代表研究者: 吉住 昭)」平成21年度総括・分担研究報告書. p.9-44, 2010

27) 吉住 昭: 医療観察法導入後における触法精神障害者への精神保健福祉法による対応に関する研究その1―医療観察法導入後における精神保健福祉法第24条に基づく警察官通報の現状に関する研究―. 平成23年度厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)「重大な他害行為をおこした精神障害者の適切な処遇及び社会復帰の推進に関する研究(代表研究者: 平林直次)」平成24年度総括・分担研究報告書. p.69-91, 2013

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