Advertisement第117回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第1号

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精神医学のフロンティア
自閉スペクトラム症における両親の高齢化と脳形態特徴の関係
山末 英典1), Walid Yassin2), 児島 正樹2)
1)浜松医科大学精神医学講座
2)東京大学大学院医学系研究科こころの発達医学講座
精神神経学雑誌 123: 3-10, 2021

 自閉スペクトラム症(ASD)では,社会的コミュニケーションの障害や常同的反復的な行動様式などの中核症状が,精神機能の非定型発達として2~3歳から表現される.そしてこうした精神機能の非定型発達の背景には,体積レベルでの脳の非定型発達が基盤をなしていると考えられている.1990年代以降に高解像度MRIが普及し,コンピュータ技術の飛躍的な進歩とともにvoxel based morphometryなどの画像解析も発展したことで,ASD当事者における脳の非定型発達について国内も含めて報告が蓄積されてきた.一方でこの脳形態の非定型発達は,その成因については明らかでない.健常成人においては脳灰白質体積の個人差の8割以上は遺伝的に規定されていると報告されているため,ASDの脳形態所見も,少なくともその一部はASDの遺伝要因の中間表現型である可能性がある.またその一方で,胎生期から幼年期ぐらいまでを中心とした環境要因を反映している部分も少なからず存在しているはずである.そこで著者らは,ASDの早期の環境要因であることが示されている出生時の両親の高齢化とASDの脳形態所見の関係を検討した.本総説論文では,これらの研究成果について簡単に紹介した.これらの研究の結果は,ASDの脳形態特徴の形成には,両親,特に父親の高齢化などの社会的環境的要因も関与していることを示していた.今後は,早期の環境要因のASDの脳病態形成への関与について,さらに成因や形成の脳神経メカニズムに迫るためには,ハイリスク児を対象にして,妊娠期や周産期などのさまざまな環境要因の調査と出生後の脳形態学的MRIを縦断的に追跡する調査とを組み合わせた研究などが必要と考えられる.

索引用語:親年齢, 環境要因, 自閉スペクトラム症, 脳形態画像解析>

はじめに
1.自閉スペクトラム症の脳形態画像研究
 自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)では,①社会的コミュニケーションの障害,②常同的反復的な行動様式などの中核症状が,精神機能の非定型発達として2~3歳から表現される.そしてこうした精神機能の非定型発達の背景には,体積レベルでの脳の非定型発達が基盤をなしていると考えられている7).1990年代以降に高解像度MRIが普及し,コンピュータ技術の飛躍的な進歩とともにvoxel based morphometry(VBM)などの画像解析も発展したことで5),近年はこのASD当事者における脳の非定型発達やその遺伝背景について国内も含めて報告が蓄積されてきた3)11)

2.ASDの脳形態所見
 高解像度MRIを用いて,定型発達(typically developed:TD)の対照とASDとの脳体積の比較を行う研究が多数行われている.脳局所の所見としては,表情認知などに関連する扁桃体,顔の認知や視線処理などに関連する紡錘状回,ヒトミラーニューロンシステムの構成要素として模倣や共感に関連すると考えられている下前頭回や上側頭溝,他者の意図や感情の理解に関与する内側前頭前野など,対人的情報処理の基盤をなす脳部位についての報告が多い.また,行動や運動の調整を行い認知機能への関与も指摘される小脳にも体積異常の報告が多い.しかしながら,報告によって,体積がTDの対照よりも大きいか小さいかにおいて不一致が認められる.近年では発表論文数が多くなり,ASD当事者を対象としたVBM研究のメタ解析の結果だけでも10編以上の論文が発表されているが,こうしたメタ解析レベルで有意差を認める脳部位は扁桃体や前頭前野の一部などの狭い領域に比較的限局しているものが多くなっている6)8)

3.非定型発達の時間軸
 前出したような脳形態異常の報告における一貫性の乏しさについて,こうした横断面での観察による所見の不一致が,時間軸を加えて考慮することによって解決するという可能性が指摘されている.すなわち,年齢とともに対照となるTD者についても脳が発達して脳体積が変化するなかで,ASD当事者との比較による差異も変化するという理解が広い支持を得てきている.つまり,TDにおいても脳体積は時間とともに曲線を描いて増減する.例えば脳灰白質体積は,生後徐々に体積を増していくが,思春期にピークを迎え,その後は体積が緩やかに減少していく4)図1).この曲線を描くTDを基準として,ASD当事者での脳体積の相対的な変化を時系列で描いたのが図2である7).これによれば,ASD当事者では生後1~2年の間にTD児よりも脳体積が急激に増大する.しかし,その後ゆるやかにTD児のレベルに近づいていき,最終的に成人ではTDと差がなくなっていく.そして成人後には,脳全体としてはTDの対照と差は少なく,局所的にはむしろ体積減少の報告が多い.こうした年齢による相対的な脳形態所見の増減が,発達途上におけるASD当事者とTD児との比較を困難にしていると考えられている.

4.脳形態異常の成因
 上述してきた,TDの対照との比較から示されたASDにおける脳形態異常は,その成因については明らかでない.健常成人においては脳灰白質体積の個人差の8割以上は遺伝的に規定されていると報告されているため,ASDの脳形態所見も,少なくともその一部はASDの遺伝要因の中間表現型である可能性がある.またその一方で,胎生期から幼年期ぐらいまでを中心とした環境要因を反映している部分も少なからず存在しているはずである.そこで著者らは,ASDの早期の環境要因であることが示されている出生時の両親年齢の高齢化1)とASDの脳形態所見の関係を検討した2)12).本総説論文では,これらの研究成果について簡単に紹介した.

図1画像拡大
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I.研究の方法および結果
1.研究方法と研究参加者
 両親の高齢化とASDに特徴的な脳形態特徴の関係を検討するために,39名の高機能のASDと診断された男性と39名の年齢,知的レベル,両親の社会経済状況尺度に差のないTDの男性に研究参加していただいた.参加者からは,研究を行った東京大学医学部の倫理委員会で承認(No. 397)された方法で説明して,全員から文書で同意を得た.
 これらの研究参加者から3テスラMRスキャナー(GE Signa HDxt,Waukesha,WI,USA)を用いて撮像した三次元高解像度のT1強調画像と拡散テンソル画像について,voxel-based morphometry(VBM),surface-based morphometry(SBM),tract-based spatial statistics(TBSS)を用いて脳形態解析を行い,ASD群とTD群の比較および,脳形態指標と両親年齢の関係を検討した.

2.脳局所体積,皮質厚,および表面積についての検討
 まず,VBMを用いた全脳解析の結果では,ASD当事者の群では両側後部帯状皮質と楔前部の局所灰白質体積がTD群に比較して有意に小さいことが見いだされた(P=0.014,false discovery rate corrected;図3).さらに,この体積偏移の内訳を検討するためにSBMを行うと,ASD当事者では,診断と側性および診断と側性と脳部位の有意な相互作用をもって(P<0.01),右半球の腹側後部帯状皮質の皮質厚が菲薄であることが示された(P=0.014).また診断と脳部位の有意な相互作用をもって(P=0.008),両側楔前部の表面積が小さいことが統計学的有意に示された(左半球:F=12.30,P=0.001;右半球:F=4.01,P=0.049).そして,ASD当事者では,右の腹側後部帯状皮質が菲薄であるほど出生時の父親の年齢が高いという相関関係を認めた(r=-0.35,P=0.028;図4).しかし,この右の腹側後部帯状皮質は出生時の母親の年齢とは相関せず(r=-0.059,P=0.72),母親の年齢の影響を考慮した偏相関でも,右の腹側後部帯状皮質と出生時の父親の年齢の関係は認められた(r=-0.40,P=0.012).

3.白質微細形態についての検討
 一方で,拡散テンソル画像に対するTBSSを用いた解析では,下前頭後頭束,下縦束,上縦束,鉤状束,帯状束などの連合線維や,前視床脚や皮質脊髄路などの放射線維などの広範な領域において,ASD当事者の平均拡散係数と放射拡散係数がTD者に比べて有意に上昇していた(図5, 図6P<0.05,family wise error corrected).平均拡散係数(図5)と放射拡散係数(図6)の有意差を認めた部位はおおむね類似していた.一方で拡散異方性や軸方向拡散係数については両群で有意差を認める部位が見いだされなかった.前述のASDとTDで有意差を認めた部位における平均拡散係数の上昇は,出生時の父親の年齢(F=9.324,r2=0.112,Padjusted=0.006)および母親の年齢(F=5.245,r2=0.066,Padjusted=0.05),さらに両親の年齢の合計が(F=8.373,r2=0.102,Padjusted=0.028),高いほど顕著という相関関係を認めた(図7).同様に放射拡散係数についても,出生時の父親の年齢(F=8.635,r2=0.104,Padjusted=0.008)および両親の年齢の合計(F=6.316,r2=0.079,Padjusted=0.036)との相関を示したが,母親の年齢については(F=2.891,r2=0.038,Padjusted=0.186)相関を示さなかった(図8).さらに出生時の母親の年齢の影響を制御した際の偏相関を検討すると,平均拡散係数についても(r=0.234,n=76,P=0.023)放射拡散係数についても(r=0.273,n=76,P=0.009),母親の年齢の影響を制御しても,出生時の父親の年齢はこれらの白質の微細な形態異常に関連することが示された.

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II.考察
 上述した研究成果は,ASDの脳形態特徴の形成には,父親の高齢化などの非遺伝的環境要因も関与していることの一端を示したものである.今後は,早期の環境要因によるASDの脳病態形成への関与について,さらに成因や形成の脳神経メカニズムに迫るためには,ハイリスク児を対象にして,妊娠期や周産期などのさまざまな環境要因の調査と出生後の脳形態学的MRIを縦断的に追跡する調査とを組み合わせた研究などが必要と考えられる.

おわりに
 これまで著者は統合失調症や心的外傷後ストレス障害あるいはうつ病などでもVBMなどの脳形態学的MRI研究を行ってきたが9)10),ASDはこれらの精神疾患に比較するとVBMにおける脳形態特徴についての結果が不明瞭で一貫性が乏しいという印象をもっている.発達段階における所見の変化という問題や併発症の問題,そして原因の多様性を含めて,生物学的異種性の高さがASDでは顕著で,VBMの結果にも影響しやすいのではないかと思われる.そのため,今後は併発症の交絡を制御して,中核症状のなかでも表現型を絞り込むこと,発達段階の統制を厳密にすること,遺伝要因や環境要因などとの関係を考慮することなどが重要になると思われる.また,すでにASDとTD者の比較についてのVBM研究では,メタ解析論文だけでも10編ほど発表されている段階であるため,ASDとTD者の脳局所体積の差の局在同定から,米国で行われているようなハイリスク児の出生コホート研究のように脳形態所見の成因に迫るような研究など,次の段階に進んでいくべきであると考えている.

 本論文はPCN誌に掲載された最新の研究論文12)を編集委員会の依頼により,著者の1人が日本語で書き改め,その意義と展望などにつき加筆したものである.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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8) Via, E., Radua, J., Cardoner, N., et al.: Meta-analysis of gray matter abnormalities in autism spectrum disorder: should Asperger disorder be subsumed under a broader umbrella of autistic spectrum disorder? Arch Gen Psychiatry, 68 (4); 409-418, 2011
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9) Yamasue, H., Kasai, K., Iwanami, A., et al.: Voxel-based analysis of MRI reveals anterior cingulate gray-matter volume reduction in posttraumatic stress disorder due to terrorism. Proc Natl Acad Sci U S A, 100 (15); 9039-9043, 2003
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11) Yamasue, H., Ishijima, M., Abe, O., et al.: Neuroanatomy in monozygotic twins with Asperger disorder discordant for comorbid depression. Neurology, 65 (3); 491-492, 2005
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12) Yassin, W., Kojima, M., Owada, K., et al.: Paternal age contribution to brain white matter aberrations in autism spectrum disorder. Psychiatry Clin Neurosci, 73 (10); 649-659, 2019
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