Advertisement第116回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第6号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
資料
出産・育児を経験した日本の女性精神科医の,医師として活動するための対処行動とニーズに関する質的研究
布施 泰子
茨城大学保健管理センター
精神神経学雑誌 121: 457-472, 2019
受理日:2019年1月19日

 日本では,出産・育児をきっかけに離職したり,何年も短時間の非常勤勤務を続けたりする女性医師が多数存在し,精神科医も例外ではない.高い志をもって医師になった女性が,なぜこのような状況になるのかを明らかにし,解決策を探るため,インタビュー調査を行った.出産・育児を経験した女性精神科医14名に調査への参加を依頼した.対象は機縁法(知人の紹介などによって対象者を選ぶ方法)によって選出した.インタビューは,半構造化面接(質問の概要をあらかじめ決めておくが,自由な応答を求める面接方法)の形をとった.データは質的データの分析ソフトMAXQDA12を利用して分析し,コードの抽出とカテゴリーの生成を行った.11名分のデータが得られた.分析結果から,出産・育児を経験した女性精神科医は,熱意をもって職務にあたり,周囲に気遣いをしつつ,多様な対処行動をとっていることが明らかとなった.また,さまざまなニーズをもっていることがわかった.なかでも,子どもが急に病気になったときの保育者の確保は困難で,自身や配偶者の親に頼っていることが多いという現状があり,そこには将来の課題が残されている.女性精神科医が保育の確保や働き方において困難を感じる背景には,性別役割分業意識の存在が大きいことも明らかとなった.一方で,精神科は,出産などによるブランクがあっても,比較的復帰しやすい科である.また,年齢や体力の変化に伴って,診療スタイルをあまり変えなくてもよい.さらに,病院以外での多様な仕事が比較的得やすい.このようなアドバンテージがあるという点では,女性医師にとって有利な診療科であると考えられる.精神医療界での「男女共同参画」が実現し,男女双方にとって無理のない形で継続していくためには,多くの課題が残されている.本研究が,課題解決の端緒となることを期待する.

索引用語:女性精神科医, ジェンダー, 対処行動, ニーズ, アドバンテージ>

はじめに
 現在,日本の医師に占める女性の割合は約20%であり,精神科においても,女性医師の割合は約20%である.医学部に入学する女子学生の割合は増加しており,女性医師の割合は当面増加することが見込まれる12)
 しかし,女性医師が十分活躍できていないという現状がある.日本の女性医師の離職率は高く8)17),就業比率はいわゆるM字カーブを描き,卒後11年(おおむね36歳)で就業率は76%と最低になる6)9)12)16).離職はしないか離職が短期間であったとしても,その後,常勤医には戻らずに,長期にわたり,短時間の非常勤勤務を継続する女性医師も多い14)17).精神科医も例外ではない.
 高いモティベーションをもって医師になったはずの女性が,なぜこのような状況になるのであろうか.女性医師が安定して就労を継続するために,どのような資源が不足していて,どのような支援が必要なのか.こうした問題を明らかにすることを目的として,過去にそれぞれの大学の医学部の卒業生を対象としたアンケートや,各医学会の会員を対象としたアンケートが行われ,離職のきっかけは,出産・育児が多いことが報告されている7)8)11)17).また,出産・育児に関連して女性医師が働きにくくなる要因として,以下の点が指摘されている.第1には,保育施設が不足していることである10)15)17).一般の保育園とともに,院内保育施設や,病児保育の充実が望まれている.保育施設は,女性医師が出産後に勤務を行ううえで必須である.第2には,再研修の機会が不十分であることである7).出産や育児のためにブランクがある場合,診療科によっては,技術的な不安が復帰の障害となることが多いと考えられる.第3には,常勤医としての多様な働き方が困難であることである.短時間勤務制度の導入10)や,当直免除17)などが望まれている.
 医師の業務内容や診療体制には,診療科によらない共通点と診療科による特性があり,女性医師のおかれている状況や,活躍のための課題にも各科共通の事項と診療科によって異なる事項があると考えられる.すなわち精神科には精神科特有の利点や課題がある可能性があり,それらを踏まえて対策が立てられるべきであると考える.本研究では,女性医師共通の実態や課題とともに,精神科に特有の利点と課題を明らかにすることを第1の目的として,精神科医を対象とした調査を行った.なお,本調査を始めた時点では,著者の知る限り,精神科に特化した調査報告はなかったが,日本精神神経学会の男女共同参画推進委員会が,会員を対象としたアンケート調査を実施し,2018年の第114回学術総会においてその結果の一部が公表された.詳細な報告が待たれる.また,これまでの調査の多くがアンケート調査であった.アンケート調査は多数のサンプルを得られるという利点がある一方で,アンケート作成者が想定しなかった意見を反映しにくいなどの欠点がある.本研究では,インタビュー調査を行い,アンケート調査とは異なる視点を提供することを第2の目的とした.
 聴き取った項目は多岐にわたるが,本稿では,出産・育児の経験をもつ女性精神科医が,①女性であること,②出産・育児と精神科医としての仕事を両立させる必要があること,に関連したものとして,どのような適応的対処行動(以下,対処行動)をとっているかに焦点を絞った分析結果を報告する.あわせて,常勤で復帰するためにはどのようなニーズがあるか,また,精神科医として,女性であることのアドバンテージやディスアドバンテージをどのように考えているか,についての分析結果を報告する.
 なお,子どもをもつ・もたないは個人やカップルの事情で決まることである.著者は,子どもをもつことを偏重したり,子どもをもたないことを否定したりする意図はもたない.

I.方法
 対象は,機縁法(知人の紹介などによって調査対象者を選ぶ方法)によって選出した.
 調査は2017年1月から2018年1月にかけて行われ,同意の得られた対象者に著者が個別に面会した.場所は,対象者の勤務先に個室が確保できる場合はそれを利用し,確保できない場合は,近隣の喫茶店などを利用した.文書と口頭にて改めて調査の趣旨を伝えたのち,調査への参加について文書で同意を得た.あらかじめ作成したインタビューガイドに基づき,半構造化面接を行った.半構造化面接では,大筋の質問はあらかじめ決まっているが,対象者は質問から大きく外れない範囲で,自由に発言することが求められる.1件の面接時間は,約1時間であった.面接は同意を得てICレコーダを用いて録音した.対象者のうち1名は,最年少の子どもがすでに高校生であり,実質的な育児期間は終了していたが,育児を行っていた時期を回想する形での発言を得た.また,今回の分析の対象とはしなかったが,結婚はしているが出産経験のない女性精神科医,配偶者が女性精神科医である男性医師,精神科以外の診療科の女性医師,配偶者が女性医師(精神科以外)である男性医師を対象とした半構造化面接も並行して行っており,出産・育児経験をもつ女性精神科医のデータを分析するための比較・参考とした.
 分析焦点者(質的研究において,インタビュー対象者内の特定の個人ではなく,抽象化された個人を指す)は,「出産・育児経験をもつ女性精神科医」とした(以下,便宜的に女性精神科医と記載する).録音したデータを文字に起こし,逐語録を作成し,熟読したのち,質的データ分析ソフトであるMAXQDA12を利用して,コードを抽出し,カテゴリーの生成を行った.必要に応じて,カテゴリーの下位にサブカテゴリーが生成された.以下,発言例は“ ”,コードは「 」,サブカテゴリーは< >,カテゴリーは【 】で囲む形で表記する.具体的には1番目のインタビューの逐語録から,①対処行動,②ニーズ,③女性であることのアドバンテージやディスアドバンテージ,のそれぞれに該当する発言を抽出して,その発言が具体例の1つとなるようなコード名を付与した.類似の発言があった場合は,同一のコードに分類した.2番目のインタビューの逐語録に認められた類似の発言は,1番目と同一のコードに分類し,また,1番目の逐語録に類似の発言が認められなかった場合は,新しいコードとして名称を付与した.コード名は適宜吟味し,コードに含まれる具体例を代表する,よりふさわしい名称が見つかれば変更した.このように,順に最後までのすべての逐語録から,該当する発言を抽出してコードを付与した.続いて,すべての逐語録について,各コードに該当する発言が他にないかどうか再度チェックし,あればコードを付与した.次に,コードのうち共通要素をもつものをまとめ,サブカテゴリー・カテゴリーを生成した.この段階でも,コード名・サブカテゴリー名・カテゴリー名は,適宜よりふさわしいものに変更し,また,必要に応じてコードの統廃合を行った.古典的な質的研究においては,発言内容をカードに書き取って分類する方法がとられていた.しかし,MAXQDAなどのQDAソフトを用いることによって,逐語録の文章をコンピューター上で見ながら作業ができる.このため,1つの発言に複数のコードを付与することができ,また,発言の文脈を参照しつつ,コードの付与や変更,サブカテゴリー・カテゴリーの生成,カテゴリー間の関連の検討を行うことが可能である.
 対処行動については,各サブカテゴリー・カテゴリーに分類された発言例が,何番目の逐語録のどのような文脈上のものかという情報や,発言例に他のコードが付与されている場合どのコードかという情報をもとに,サブカテゴリー・カテゴリー間の関係を検討した.
 本研究は,茨城大学生命倫理委員会の承認を得て行われた(許可番号160200).

II.結果
1.対象者の属性など
 14名の女性精神科医にインタビューを依頼し,11名の協力を得てインタビューを行い,11名を分析対象とした.3名からは協力を得ることができなかった.分析対象者の年齢は41.1±6.9歳,結婚年齢は30.2±3.2歳,子どもの人数は1人ないし2人で,平均1.4人であった.配偶者の職業は7名が医師であった.勤務形態は常勤が5名,非常勤が6名であったが,非常勤のうち2名は,身分は非常勤だが同一医療機関に週3日を超えて勤務していた.勤務地はいずれも関東地方であった.

2.分析結果
1)対処行動
 出産・育児経験をもつ女性精神科医が,医師という職業を選択し,精神科医として活動するうえで,また,出産・育児と精神科医としての仕事を両立させるためにどのような対処行動をとったか,という点については,11名分の逐語録からあわせて26のコードが抽出され,【進路選択】【育児上の必要性からとった対処行動】【経済的な面を考慮した対処行動】【 家族の性別役割分業意識に影響された対処行動】【配偶者への配慮・配偶者の尊重】【プロ意識・責任に基づく対処行動】【ワークライフバランスを考えた判断・行動】の7つのカテゴリーが生成された.また,カテゴリー【育児上の必要性からとった対処行動】は,<両立可能な居住環境の確保> <配偶者とのコミュニケーション> <保育者の確保> <働き方の選択>の4つのサブカテゴリーに分けられた.カテゴリー,サブカテゴリー,コード,発言の具体例を表1に示した.
 以下,カテゴリーごとに具体的な説明を加える.
 カテゴリー1【進路選択】
 女性精神科医が,医学部を選択する理由の1つとして,将来「自立できる資格をもつことを考慮して医学部を選択」する,が挙げられている.卒業後に専門とする診療科の選択理由には,最も興味があった科だから,といった一般的な理由に加えて,“最初は外科を考えたが,体力的に無理だと思った” “結婚したり子どもが産まれたり年をとっても,自分なりの診療ができる”など,相対的に「女性が働きやすい診療科であることを考慮して,精神科を選択」するという要素もある.
 カテゴリー2【育児上の必要性からとった対処行動】
 <保育者の確保>は重要な問題である.
 「育児休暇の取得」は,できる場合もあり,できない場合もある.制度上は存在しても,実質的に取得できない場合もある.「保育園や学童保育の利用」は,利用の条件は厳しい場合もあるが,できるだけ活用している.その他,ベビーシッターなど,「お金を払って人を雇う」ことも考慮されている.「配偶者の協力を得る」については,ほとんど育児をしない配偶者がいる一方で,非常に協力的な配偶者もいる.保育施設を確保できない場合や,通常は確保できていても子どもが病気のときなどは,対応できず,「自分や配偶者の親の協力を得る」ことになる.
 育児中の女性精神科医は,<働き方の選択>を迫られる.進んで仕事を辞めたいとは考えず「キャリアの中断を避ける」のが基本である.しかし,「仕事を減らす,休業する」という選択をする場合もある.「定時で終わって当直のない職場を選択」したり,「一般臨床以外を選択」したりする場合もある.
 カテゴリー3【経済的な面を考慮した対処行動】
 「経済的な自立を確保」することは,配偶者と対等であるために大切なことであると考えられている.その一方で,「夫の収入が安定しているので,退職したり非常勤で働いたりという道を選択」するということが,産後の休業や短時間非常勤を長く続ける理由の1つになっている場合がある.
 カテゴリー4【家族の性別役割分業意識に影響された対処行動】
 対等に家事育児を分担することは難しく,どうしても,「自分が主に家事や育児をする」という結果になっていたり,“夫の母が専業主婦だったこともあって,専業主婦になることを望まれ”て,「仕事を減らしたり辞めたりするのが当然という風潮のなかにおかれて対応」しなければならないこともある.
 カテゴリー5【配偶者への配慮・配偶者の尊重】
 カテゴリー6【プロ意識・責任に基づく対処行動】
 同僚や上司など,「他の医師にできるだけ負担をかけまいとする」行動をとっている.また,“給料分の働きはきちんとしないといけないと考えた”など「雇用主である病院に対する責任感」がある.また,勤務先が非常に忙しく,周囲の医師に負担をかけないために「妊娠を控えるという選択」「休職ではなく退職を選択」といった,引く形での対処行動もある.
 カテゴリー7【ワークライフバランスを考えた判断・行動】
 サブカテゴリー・カテゴリー間の関係
 それぞれのカテゴリーやサブカテゴリーの間に認められた関連のうち,主なものをに示す.楕円はカテゴリー,楕円内の四角形はサブカテゴリーを表す.また,二重線は相互的な関係,矢印は一方が他方に影響を与える関係を表す.カテゴリー【育児上の必要性からとった対処行動】のサブカテゴリー間では,<働き方の選択>や<両立可能な居住環境の確保>は,<保育者の確保>の影響を受けている.また,<保育者の確保>は,カテゴリー【プロ意識・責任に基づく対処行動】の影響を受けている.さらに,【育児上の必要性からとった対処行動】や,<女性が働きやすい診療科であることを考慮して,精神科を選択>したことは,【ワークライフバランスを考えた判断】や【家族の性別役割分業意識】の影響を受けている.
2)ニーズ
 どのようなニーズをもったか,という点については13のコードが抽出され,【子育て・教育に関するニーズ】【働き方に関するニーズ】【性別役割分業意識の軽減・解消】【情報に関するニーズ】の4つのカテゴリーが生成された.カテゴリー,コード,発言の具体例を表2に示した.
 以下,カテゴリーごとに説明を加える.
 カテゴリー1【子育て・教育に関するニーズ】
 「育児休暇」は,とりにくいこともあり,第一子を出産したときには取得した場合でも,次はとれるとは限らない状況である.
 子どもが健康なときは「保育園・学童保育」を利用しているが,「病児保育」が不足しており,子どもが病気のときの対応には苦慮している.子どもが小学校に入学してからも,“子どもの小学校の保護者会とか学校行事が平日の昼間にある”場合に休暇がとりにくいなど,不自由を感じている.
 カテゴリー2【働き方に関するニーズ】
 女性精神科医は,当直免除など,「柔軟な働き方を認める体制づくり」を望んでいる.保育園の行事などで半日休みをとることにさえ批判的な職場もあり,「女性医師が増えることに伴う意識改革」が必要であると感じている.同時に,医師同士の夫婦の場合,夫がほとんど家にいない場合もしばしばあり,「医師全体の働き方改革」が必要だとも感じている.特に子どもが幼い場合,臨床を続けるだけでも手一杯であり,本当は「研究を行う時間の確保」ができたらよい,という気持ちもある.
 カテゴリー3【性別役割分業意識の軽減・解消】
 性別役割分業意識には,3段階ある.“2人の子なのだから,どちらが休んでも同じなのだが,夫(医師)に仕事を休んでもらうのは申し訳ないという気持ち”といった「自分自身の性別役割分業意識」,“夫(医師)は,自分は仕事優先にして,育児と家事はしないのが当然だという考えだ”といった「家庭での性別役割分業意識」,そして「社会の性別役割分業意識」があり,“職場では差別しない人も,家に帰ったら専業主婦がいるのでは,本当には問題は解消しない”と考えている.
 カテゴリー4【情報に関するニーズ】
 「キャリア教育」の機会があるとよかったと考えている.また,「先輩女性医師からの情報」もあるとよかったと考えている.
 ニーズの4つのカテゴリー間にも,相互に関連が認められる.
3)女性精神科医であることのアドバンテージやディスアドバンテージ
 女性精神科医であることのアドバンテージやディスアドバンテージをどのように考えるか,については,6つのコードが抽出され,2つのカテゴリーが生成された.カテゴリー,コードと発言例を表3に示した.
 以下,カテゴリーごとに説明を加える.
 カテゴリー1【精神科医として,女性であることのアドバンテージ】
 女性精神科医は,“家庭・子どものある患者さんに共感できる部分が大幅に増えた”“児童精神医学にしろ,母親の心理にしろ,身近に感じるようになった”など,精神科では,「育児の経験を臨床に生かすことができる」と感じている.また,「女性の性質に向いている仕事」「女性のライフスタイルや体力にあう仕事」であると考えている.
 カテゴリー2【精神科医として,女性であることのディスアドバンテージ】
 女性精神科医は,「押しが弱い」「救急など,体力の必要な分野には弱い」ことをディスアドバンテージと考えている.また,“子どもができてから,仕事だけに集中はできなくなった”など,「育児のため仕事を優先にできないことがある」ことをディスアドバンテージと考えている.

表1画像拡大
画像拡大
表2画像拡大表3画像拡大

III.考察
 女性精神科医は,①女性として,同時に医師として活動するために,②過去においては将来の出産・育児の可能性を考えて,③現在進行形で精神科医としての仕事と家庭を両立させるために,さまざまな対処行動をとっていることがわかった.その対処行動の真摯さや多様性からみても,女性精神科医の就労に対するモティベーションの高さがうかがえた.

1.進路選択に関して
 進路選択では,「自立できる資格をもつことを考慮して医学部を選択」し,興味・関心に加え,相対的に「女性の働きやすい診療科であることを考慮して精神科を選択」する場合があることがわかった.日本は,健康寿命が長く,教育水準が高いにもかかわらず,ジェンダーギャップ指数が諸外国に比べて低く(2017年は144ヵ国中,114位),女性が活躍しにくい社会であるといわれている.資格をとって経済的な安定と身分の安定を確保し,相対的にジェンダーによる差別が少ない形で就労する道として,医学部進学・医師という進路が選択されている.診療科の選択に関連する要素は多様と考えられるが,精神科への興味・関心とともに,「女性が働きやすい診療科であることが考慮」されている.
 女性医師の診療科の選択に関しては,産婦人科や小児科を志望する者が多く,救急や外科系は少ないことが報告されている20).また,女子医学生や女性の研修医は結婚や出産を考慮して診療科を選択する者が多いと報告されている6)20).また,診療科の選択に関する性差は,海外でも報告されている1).精神科を選ぶこととは異なるが,「女性が働きやすい診療科を選択」する行動としては共通点があると考えられる.

2.育児のための資源に関連して
 保育者の確保は,精神科に限らず,医師として活動を続けるうえで重要かつ困難を伴う事項である10)15)17)21)23).女性精神科医も,保育者の確保のために,さまざまな対処行動をとっている.一般の「保育園」のほか,院内保育施設やベビーシッターを利用している.そして,働き方の選択や両立可能な居住環境の確保にも影響している.特筆すべきことは,「自分や配偶者の親の協力」である.精神科に限らず,医師という仕事は,少なくとも現在の日本の医師の働き方では,定時で勤務が終わらないことを想定していなければならない.“育児中は当直が免除されている”こともあるが,免除されていない場合もあり,当直の代わりに“休日の日直勤務”を行っている場合もある.こうした状況のため,日中の決まった時間帯以外にも子どもを預けられる人・場所を確保することも必要となる.また,精神科外来は時間予約制であることが多く,それをキャンセルしたり代診を頼んだりすることは,“患者との治療関係を損なう”という考えが一般的で,“子どもが病気のときに非常に仕事を休みにくい”.「他の医師にできるだけ負担をかけまいとする」努力とも相まって,仕事には穴をあけまいとして対処している.
 こうした事情により,「自分の親や配偶者の親に頼っている」現状が示された.本研究は質的研究であり,特定の発言の数や割合を重要視するものではないが,「自分や配偶者の親の協力を得る」のコードに分類される発言は,分析対象者11名中10名から得られた.女性医師が,育児に親の助けを借りているという現状は,これまでの報告でも言及はされたが5)10),あまり議論されてこなかった点である.
 ニーズのコードにも「病児保育」「保育園・学童保育」があるが,今特に足りないといわれている「病児保育」は,実家の親(多くは母親)を頼ることで,表に出ない形で解消されてきた部分が大きく,実際には見かけ以上に不足していると考えられる.育児世代の社会参加のために,「病児保育」は本来ならば公的に用意されるべきである.しかるに女性精神科医の社会参加が,私的に,しかも場合によっては,その一世代前の女性の社会参加を抑制する形で成り立っていることになる.また,今後も職業をもつ女性が増加することが見込まれ,現在30代,40代の女性と異なり,現在20代の女性精神科医や,未来の女性精神科医が子どもをもつ時代には,その母親たちの多くは職業をもっている可能性が高い.すると,自分や配偶者の親の協力を得ることは不可能となりうる.それに伴って「病児保育」の不足が加速していくことは,ぜひとも避けなければならず,このことを組み込んで対策が立てられる必要がある.

3.働き方について
 女性精神科医の職業意識は高く,周囲や患者に対して強い責任感をもって医療を行っていることがわかった.場合によっては,同僚医師の過重な負担を考慮して「妊娠を見送る」などの選択もしている.
 育児中の女性精神科医は,キャリアの完全な中断を積極的に望んでいるわけではない.中断期間は最低限とし,それが可能となるような柔軟な働き方を認める体制を求めている.そして,「定時に終わる職場や当直のない職場」を選んで勤務している.あるいは「一般臨床以外を選択」している.病院などの医療機関は,女性精神科医が増えていくことを前提とした体制づくりをする必要がある.しかし,女性精神科医が増加することが,男性精神科医の負担を増やすことになってしまっては,本質的な改革にはならない.「ワークライフバランスを考えた判断・行動」というカテゴリーも,抽出された.ワークライフバランスという考え方が浸透していって4)19),医師全体の働き方改革という大きな課題への取り組みにつながっていくことが必要である.家庭が大切であると教える医学教育,非常勤でも専門医資格の取得を可能とする制度など2),日本よりも女性医師の割合が多い国の先例から学べることがあると考える.現状でも精神科医の20%は女性であるが,女性医師は精神科医として働くことのアドバンテージを感じており,働きやすいという実感をもっている.よって,今後女性精神科医の割合は増加していくことが予想され,早い体制づくりをすることは,精神医療全体に資するところが大きいと考えられる.
 女性精神科医は,「一般臨床以外を選択する」という対処行動もとっていることがわかった.精神科医は,精神科病院や総合病院の精神科のほか,企業の常勤の産業医,医学部以外の教員(大学の保健管理センターや心理学科),精神保健福祉関係の行政職など,一般臨床以外での働き方の選択肢が比較的多い.こうした職種も女性に選ばれており,今後も女性精神科医の活躍の場となる可能性がある.

4.性別役割分業意識について
 性別役割分業意識とは,性別により,役割や労働に差があるのが当然と思っていることである.夫婦においては,夫は外で働き,妻は家を守って家事や育児にあたるのが当然という考え方である.
 今回の結果から,性別役割分業意識は,女性精神科医の周囲においても,なお根強いことが確認された.また,からは,性別役割分業意識が,保育者の確保,働き方の選択や両立可能な居住環境の確保,進路選択に影響していることが明らかとなった.すなわち,女性精神科医自身も,その意識から解放されていない.ニーズのコードに示された,自身・家庭・社会のすべての段階での性別役割分業意識が軽減・解消されなければ,真の男女共同参画社会は実現しないし,女性精神科医は真に力を発揮することができない.しかし,実際には女性が配偶者よりもはるかに多くの家事や育児を行っている.また,特に配偶者も医師である場合,どちらかが仕事を減らさなければ家庭が成り立たないとき,仕事を減らすのはたいてい女性のほうである.この問題は,先行研究でも取り上げられている6)15)23)
 女性精神科医は家庭(自分自身と配偶者の親を含む拡大家族)と職場からの,相矛盾した要求に応えようとしている.すなわち,家庭にあっては,たとえ職業をもっていても,家事や育児をこなすことを求められ,職場にあっては,女性精神科医が勤務していることが不利益にならないよう努力することを求められている.

5.情報や教育について
 「先輩女性医師からの情報」もニーズとして抽出されている.ロールモデルの不足を指摘する意見がこれまでにもあり20),各医師会や医学会は,雑誌の特集やホームページを通じてロールモデルの提供に努力している.こうしたロールモデルとあわせて,女性精神科医からは,身近な「先輩医師からの必要に応じた情報」提供が求められている.女性精神科医同士の年代を超えたネットワークづくり3)ができれば,有益と考えられる.
 キャリア教育として,男女共同参画やワークライフバランスに関する授業を行っている大学も増えている4).男子学生も女子学生も一緒に問題を考える体制には,期待がもたれる.

6.アドバンテージとディスアドバンテージから
 女性精神科医は,「育児の経験を臨床に生かすことができる」というアドバンテージがあると考えている.また,女性らしさとは何かを定義することは難しいが,精神科医にはパワーよりは細やかさが要求され,「女性の性質に向いている仕事」だとも考えている.女性精神科医がこのようなアドバンテージを自覚できることは,活躍の資源となる.進路選択に関しての項で述べたように,精神科が女性医師によって積極的に選択され,アドバンテージが自覚されている点を考慮すると,精神医療界は,他科に率先して女性医師が活躍できる方向で発展の道を歩んでいく意義があると考えられる.
 一方で,「育児のため仕事を優先にできないことがある」ことがディスアドバンテージと考えられている.夜遅い時刻の対応や子どもが病気のときの対応などは,複数主治医制やグループ診療制がとれれば,他の主治医に任せうる.しかし,一対一の医師患者関係が治療の基本である精神医療においては,これは困難であろう.

7.先行研究との比較
 先行研究で得られた結果のうち,本研究と関連する事項を表4にまとめた.
 保育園の不足,病児保育の不足,性別役割分業意識,柔軟な働き方が選びにくいことなどは,本研究においても問題点として浮かび上がった項目であり,各科共通の問題点であることが確認された.また,海外の報告からは,時期や程度の差はあっても,女性医師の増加とそれに伴う医師の就業環境の改善は,世界的な問題であることがわかる1)2)
 本研究で新たに明らかになった点をまとめると,以下のとおりである.
 ①分析焦点者である「出産・育児を経験した女性精神科医」は,熱意をもって職務にあたり,周囲に気遣いをしつつ,多様な対処行動をとっている.
 ②子どもが病気のときの保育を自身や配偶者の親に大きく頼っているという現状があり,それに関連する将来の課題がある.
 ③精神科には,いくつかのアドバンテージがある.ブランクがあっても比較的復帰しやすいこと,年齢や体力の変化に伴って診療スタイルをあまり変えなくてもよいこと,病院以外での仕事が比較的得やすいことなどである.

8.限 界
 本研究は,インタビュー対象を機縁法によって選んで行った質的研究である.また,現在医師としての活動を継続している女性精神科医を対象とした.これらの理由により,必ずしも日本の女性精神科医の平均的な状況を反映するものではない.

表4画像拡大

おわりに
 女性精神科医を対象としたインタビュー調査から,仕事と家庭の両立のためにとった対処行動,ニーズ,女性精神科医がアドバンテージ・ディスアドバンテージと感じている点に絞って報告した.後進の女性精神科医の進路選択や意思決定の参考になれば幸いである.
 精神医療界での男女共同参画が実現し,男女双方にとって無理のない形で継続していくためには,男女ともに取り組むべき多くの課題が残されている.女性医師支援に関する質的研究は少なく,また,精神科に特化した論文は,著者の知る限り現時点では発表されていない.本研究が課題解決の端緒となることを期待する.

 本研究は,文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特色型)」に基づく茨城大学女性エンパワーメント支援制度の助成を受けて行われた.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 インタビューにご協力くださった医師の皆様,インタビューの候補者を紹介してくださった医師の皆様に,心より感謝申し上げる.

文献

1) Alers, M., Verdonk, P., Bor, H., et al.: Gendered career considerations consolidate from the start of medical education. Int J Med Educ, 5; 178-184, 2014
Medline

2) Fegert, J. M., Liebhardt, H.: Family and career-conscious hospitals-problem areas and necessary steps. GMS Z Med Ausbild, 29 (2); Doc35(20120423), 2012
Medline

3) Fitzgerald, J. E., Tang, S. W., Ravindra, P., et al.: Gender-related perceptions of careers in surgery among new medical graduates: results of a cross-sectional study. Am J Surg, 206 (1); 112-119, 2013
Medline

4) 福與なおみ, 青谷裕文, 赤平百絵ほか: 日本小児科学会男女共同参画推進委員会報告―ワークライフバランスの取り組みに関する全国大学医学部における調査報告書―. 日本小児科学会雑誌, 120 (4); 818-821, 2016

5) 星野真由美, 渡邊揚介, 後藤博志ほか: 女性外科医が育児をしながらキャリアアップするために必要なことは何か?―女性医師79名に対するアンケート調査―. 日本小児外科学会雑誌, 49 (7); 1209-1216, 2013

6) 星野奈生子, 青木弘枝, 神田明日香ほか: 医学生の結婚・家族観と診療科選択に関する調査―アンケートによる予備調査―. 医学教育, 47 (1); 23-28, 2016

7) 井手野由季, 菊地麻美, 田村遵一ほか: 復帰支援に求められること―「医師の生涯教育・復帰支援に関するアンケート調査」より―. 医学教育, 44 (4); 237-242, 2013

8) 片岡仁美, 野村恭子, 川畑智子ほか: 女性医師の離職と復職に関する現状と課題―岡山大学卒業生及び同大学臨床系講座入局者のアンケート調査より―. 医学教育, 45 (5); 365-375, 2014

9) 片岡仁美, 関 明穂, 川畑智子ほか: 女性医師のライフイベントを考慮したキャリア支援―岡山大学アンケート調査―. 医学教育, 47 (2); 111-123, 2016

10) 川瀬和美, 永田知映, 櫻井結華ほか: 大学病院常勤女性医師のキャリアおよび女性医師支援に対する意識について―東京慈恵会医科大学常勤女性医師アンケート結果から―. 東京慈恵会医科大学雑誌, 128 (4); 135-141, 2013

11) 小崎真規子, 檜山桂子, 早野恵子ほか: 総合内科専門医に対する質問紙調査から. 日本内科学会雑誌, 100 (7); 2020-2031, 2011

12) 厚生労働省: 女性医師に関する現状と国における支援策について. 2014 (http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000054006.pdf) (参照2018-06-01)

13) 宮城悦子, 奥田美加, 澤 倫太郎ほか: 産婦人科女性医師の継続的就労の課題2014. 日本外科系連合学会誌, 40 (2); 180-186, 2015

14) 西山 緑, 橋本充代, 稲葉未知世ほか: 本学同窓会員の勤務状況―女性医師支援を目指す予備的研究として―. Dokkyo Journal of Medical Sciences, 39 (3); 209-213, 2012

15) 野原理子, 松岡雅人, 齋藤加代子: 医科大学および同附属医療施設の勤務医師のワーク・ライフ・バランスに関する認識の男女比較. 東京女子医科大学雑誌, 80 (12); 363-369, 2010

16) 野村幸世, 川瀬和美, 萬谷京子ほか: 女性外科医支援の現状と課題. 日本外科系連合会雑誌, 40 (2); 187-195, 2015

17) 奥川 郁, 有田 泉, 洲崎 聡ほか: 女性医師が就業を継続していくための提言―「女性医師の就業とキャリアのためのアンケート」集計結果から見えてきた現状と就業継続のために今から必要なこと―. 滋賀医科大学雑誌, 28 (1); 9-12, 2015

18) 崎村千香, 江口 晋, 伊東昌子: 最近の新規女性外科医師数は増えているのか?減っているのか?―全国外科教室でのアンケート結果―. 日本外科学会雑誌, 115 (1); 44-49, 2014

19) Schueller-Weidekamm, C., Kautzky-Willer, A.: Challenges of work-life balance for women physicians/mothers working in leadership positions. Gend Med, 9 (4); 244-250, 2012
Medline

20) 鈴木 昌, 船曵知弘, 伊藤壮一ほか: 初期臨床研修医の専門分野選択に関する調査―男女共同参画の視点から―. 日本救急医学会雑誌, 20 (4); 181-190, 2009

21) 髙橋克子, 秋葉則子, 鹿島直子ほか: 大学医学部, 日本医学会分科会, 医師会の男女共同参画は進んでいるか―アンケート調査から見えるもの―. 日本医師会雑誌, 143 (6); 1232-1235, 2014

22) 冨澤康子, 川瀬和美, 萬谷京子ほか: 医学会分科会における女性医師支援の現状―アンケート調査から―. 日本外科学会雑誌, 110 (3); 154-161, 2009

23) 米本倉基: 女性医師のワーク・ライフ・バランスに関する質的研究. 日本医療・病院管理学会誌, 51 (2); 117-125, 2014

Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology