Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第11号

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特集 精神科一般外来での自殺予防について考える
近年の精神疾患による自殺事例判決からみた留意点
大磯 義一郎
浜松医科大学医学部法学教室
精神神経学雑誌 121: 887-893, 2019

 浜松医科大学法学教室作成に係る医療訴訟判決データベースから1999~2018年までの精神疾患による自殺事例判決を抽出した.該当する判決は22件認められた.うち,10件が入院中の事例であり,10件が外来通院中の事例,2件が外泊中の事例であった.疾患名としては,うつ病が12件で最も多く,統合失調症の9件と続いた.入院中の患者が自殺した事例において,患者側が勝訴した事例は,10件中3件あったが,うち2件の認容額は,152万円,25万円と少額にとどまっていた.争点としては,巡回・監視義務が10件中8件で争われており,次いで,自殺の予見可能性が6件で争われていた.裁判所は,入院患者の自殺の予見可能性については,「単なる抽象的な可能性の認識だけでは足らず,自殺の具体的・現実的危険性があること」としている.また,巡回・監視義務については,原則として1時間毎の巡回・監視を求めている.ただし,直近の自殺企図や異食症,注射剤等薬物による鎮静中といった,より頻回の巡回・監視を要する特段の事情があった場合にはこの限りではない.外来通院中の患者が自殺した事例において,患者側が勝訴した事例は,10件中1件であり,かつ,唯一医療機関側が敗訴した事例は,カルテ改ざんを行うなど,医療機関の事後の対応が著しく悪質であったという特殊な事例であった.争点としては,処方内容についてが10件中9件で争われており,次いで自殺の予見可能性が5件と続いていた.裁判所は外来通院患者の自殺の予見可能性については,「再び自殺企図を行う差し迫った危険があるとまで具体的に予見すること」ができた場合に初めて,任意入院を見据えた対策をとるべきとしている.近年の精神疾患による自殺事例判決をレビューした結果,裁判所の判断は,精神診療の特殊性を理解した妥当な判断がなされているものと考えられる.

索引用語:医療訴訟, 自殺, 予見可能性>
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