Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第10号

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症例報告
電気けいれん療法(ECT)後に生じるたこつぼ心筋症の早期発見には頻回の心電図評価が重要である
佐々木 雅明1), 玉田 有2), 大前 晋1)
1)国家公務員共済組合連合会虎の門病院精神科
2)国家公務員共済組合連合会虎の門病院分院精神科
精神神経学雑誌 121: 777-789, 2019
受理日:2019年6月1日

 うつ病の50代半ばの女性に対して電気けいれん療法(ECT)を施行した直後に非持続性心室頻拍を認めた.この心室頻拍はECTによって生じたたこつぼ心筋症が原因であると考えられた.この経験は,ECT後に生じる心室頻拍では,原因としてたこつぼ心筋症を精査する必要性を示唆する.
 症例は初診時50代半ばの女性,初診6ヵ月前に収縮性心膜炎に対し,心膜剝離術が施行された.初診2ヵ月前から考えのまとまらなさを訴え,自身を繰り返し責めるようになった.初診1ヵ月前より精神運動制止が顕著となり,2週間前より食事摂取や発語が困難となった.初診時,抑うつ気分,意欲低下,顕著な思考制止,体重減少を認めたため,重症うつ病エピソードと診断し,入院加療を行った.入院後,mirtazapineを開始したところ,肝機能障害をきたしたため,すぐに投薬を中止し,循環器内科と麻酔科へ相談のうえ,ECTを選択した.術前のバイタルサイン,心電図,心エコー,胸部CTで異常がないことを確認したうえで,週2回のECTを開始した.治療開始後,疎通性や活動性は改善に向かった.しかし4回目の通電直後に,約20秒間の非持続性心室頻拍が出現した.自然に洞調律へ復帰したため,電気的除細動は不要だった.その後,心室頻拍による意識障害は認めず,麻酔からの覚醒とともに意識水準は回復した.しかし翌日の心電図でQT時間の延長およびT波の陰転化を認めたため循環器内科に相談したところ,心電図,血液検査から心筋梗塞は否定されたが,心エコーでの左室の限局性壁運動低下を認めたためにたこつぼ心筋症と診断された.この間,胸痛などの自覚症状は認めなかった.診断12日後に壁運動は正常化し,精神状態も軽快したため,入院61日目に患者は自宅退院した.心室頻拍の再出現はなかった.
 本稿では自験例の経過を報告したうえで,ECTに関連したたこつぼ心筋症の既報を網羅的に調査し,比較検討を行った.無症状性のたこつぼ心筋症の早期発見には頻回の心電図の施行が重要である.

索引用語:たこつぼ心筋症, ストレス心筋症, 心室頻拍, 電気けいれん療法, うつ病>
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