Advertisement第115回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第120巻第12号

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精神医学のフロンティア
慢性統合失調症患者における日本語版BACSスコアと全脳構造の関連:ボクセル単位形態計測および拡散テンソル画像研究
秀瀬 真輔, 太田 深秀, 松尾 淳子, 石田 一希, 平石 萌子, 寺石 俊也, 服部 功太郎, 功刀 浩
国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部
精神神経学雑誌 120: 1055-1059, 2018

 統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)は,統合失調症の認知機能障害の評価用に開発された簡易テストである.本研究はBACSスコアと全脳構造が関連する可能性を,核磁気共鳴画像法(MRI)を用いて比較的多症例で調べた.研究の対象は,日本語版BACSを施行した慢性期の統合失調症患者116名(平均年齢39.3±11.1歳,うち男性66名)と健常対照者118名(平均年齢40.0±13.6歳,うち男性58名)で,すべて日本人であった.MRIの容量と拡散テンソル画像のデータは,ボクセル単位形態計測と神経束空間統計でそれぞれ処理した.統合失調症患者群で,健常対照群と比べて,灰白質容量と異方性比率(FA)値に有意な低下を認めた.灰白質領域では,患者群において,作業記憶スコアが前部帯状回および内側前頭皮質の容量と有意な正の相関を示した.白質領域では,患者群において,運動速度スコアが脳梁,内包,上放線冠,および上縦束のFA値と有意な正の相関を示した.一方,健常対照群では,灰白質と白質領域に有意な相関はみられなかった.本研究の結果は,日本語版BACSの作業記憶と運動速度スコアが統合失調症患者の脳構造変化に関連することを示唆する.

索引用語:灰白質, 構造MRI, 全脳解析, 日本語版BACS, 白質>

はじめに
 統合失調症は,陽性症状,陰性症状に加えて,認知機能障害に特徴づけられる精神疾患である16).統合失調症認知機能簡易評価尺度(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia:BACS)は,統合失調症で特徴的に障害される認知機能を評価するために設計された簡便なツールである10).統合失調症の認知機能障害と脳構造異常の関連を核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging:MRI)で調べた一連の研究があり2),統合失調症に関連する白質領域の異常が,拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging:DTI)で検出されることが報告されている3).全脳神経束空間統計(tract-based spatial statistics:TBSS)による白質の研究では,25名の統合失調症患者で精神科認知障害スクリーニング(Screen for Cognitive Impairment in Psychiatry:SCIP)の処理速度スコアが局所的な異方性比率(fractional anisotropy:FA)値と正に相関し9),17名の統合失調症患者でMATRICS(Measurement and Treatment Research to Improve Cognition in Schizophrenia)コンセンサス認知機能評価バッテリー(MATRICS Consensus Cognitive Battery:MCCB)の処理速度,言語学習,視覚学習スコアが局所的なFA値と正に相関した12).全脳ボクセル単位形態計測(voxel-based morphometry:VBM)による研究では,17名の統合失調症患者でBACSの作業記憶,注意,実行機能スコアが灰白質領域の容量と正に相関したが19),BACSスコアとDTIの関連についてはまだ報告がない.

1.研究の位置づけ
 MRIを用いた認知機能と灰白質および白質の全脳相関分析は,包括的認知機能バッテリーSCIP,MCCB,BACSを用いて,アメリカ,アジア(中国),スペインで行われた9)12)19).しかし,それらの結果には差異がみられた.そのため,より多症例で灰白質と白質の両方を解析することは重要であり,有効なデータの蓄積に貢献すると考えた.本研究は,比較的多症例の統合失調症患者と健常対照者において,全脳VBMおよびDTIでBACSスコアと脳構造に関連が見出されることを仮説とした.また,これまで報告された知見がアジア(日本)の患者で再現されるか検証することを目的とした.

I.研究の方法および結果
1.方 法
1)被験者と臨床評価
 慢性期の統合失調症患者116名と(平均年齢39.3±11.1歳,うち男性66名)と年齢と性別がマッチした健常対照者118名(平均年齢40.0±13.6歳,うち男性58名)を対象とした.対象者はすべて65歳未満の日本人であった.日本語版Mini International Neuropsychiatric Interview(M. I. N. I.)14)を用いて,精神科医がI軸の精神疾患をスクリーニングした.診断は,精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)第4版の基準1)に準拠した.研究プロトコールは国立精神・神経医療研究センターの倫理委員会で承認された.すべての参加者から研究への同意が書面で取得され,参加者のプライバシーは保護された.データは最新版ヘルシンキ宣言21)に従い収集された.認知機能は日本語版BACS(BACS-J)8)を用いて,臨床心理士が評価した.
2)MRIデータの収集と処理
 1.5テスラMAGNETOM Symphony Scanner(Siemens,Erlangen,Germany)で,三次元T1強調画像と拡散強調画像が撮像された.VBMはStatistical Parametric Mapping(SPM)12内でVBM8ツールボックスを用いて行われた11).DTIの測定値はTBSSで計算された18).VBM解析の有意水準はピークレベルP<0.001(未補正)およびクラスターレベルP<0.05〔FDR(false discovery rate)補正〕に設定した.DTIからスケルトン化されたFA値は,Functional MRI of the Brain Software Library(FSL)のrandomizeメニューにおける10,000 permutationで補正され,有意水準はP<0.05〔FWE(family-wise error)〕に設定した.灰白質容量と白質FA値の患者群と健常対照群の差異は,年齢と性別を統制して比較した.BACS-Jスコアと局所的な灰白質容量と白質FA値の相関解析は,患者で年齢・性別・向精神薬使用を,健常対照者で年齢・性別を統制して行った.

2.結 果
1)VBMによる灰白質解析
 患者群で健常対照群と比べて容量が有意に減少した灰白質領域が前頭,側頭,傍辺縁皮質,および視床にみられたが(ピークレベルt=10.81,クラスターレベルFDR補正P«0.001,図1上段),有意に上昇した領域はみられなかった.その領域内で,患者群でBACS-Jの作業記憶スコアは前部帯状回および内側前頭皮質からなるクラスター容量と有意に正に相関したが(ピークレベルt=5.19,クラスターレベルFDR補正P«0.001,図1下段),健常対照群では有意に相関しなかった.その他のBACS-Jスコアは,患者群と健常対照群で,局所的な灰白質容量と有意に相関しなかった.
2)TBSSによる白質解析
 DTIでは,患者群で健常対照群と比べて白質領域のFA値が広範性に有意に低下していた(FWE補正P<0.05,図2上段).患者群でBACS-Jの運動速度スコアが白質FA値と広範性の領域(脳梁,内包,上放線冠,および上縦束)で有意に正に相関したが(FWE補正P<0.05,図2下段),健常対照群では有意に相関しなかった.その他のBACS-Jスコアは,患者群と健常対照群で,局所的な白質FA値と有意に相関しなかった.

図1画像拡大
図2画像拡大

II.考察―本論文の意義―
 BACS-Jスコアと全脳構造の関連を比較的多症例で調べ,BACS-Jの作業記憶スコアは,統合失調症患者において前部帯状回・内側前頭皮質の灰白質容量と,運動速度スコアは脳梁・内包・上放線冠・上縦束の白質FA値と関連していた.本研究は,BACS-Jで測定される認知機能障害と脳構造の相関関係を,日本人の統合失調症患者で初めて明らかにした.
 患者で灰白質容量が減少した脳領域は,メタアナリシス4)やメタレビュー17)で報告されていた前頭,側頭,傍辺縁皮質,および視床などの領域と一致していた.灰白質容量が減少した領域のうち,前部帯状回および内側前頭皮質が,慢性統合失調症患者における作業記憶スコアの構造的基盤として示唆された.運動速度スコアは,患者で広範性に減少した脳梁,内包,上放線冠,上縦束の白質統合性と関連していた.統合失調症における白質統合性の障害のなかで,脳梁の運動線維は両半球の一次運動野を結び20),内包と上放線冠の大線維は運動皮質を基底核や脊髄と結び13),上縦束の反回線維は頭頂皮質と運動前皮質を相互接続する15)という報告がある.統合失調症でこれらの白質線維の統合性が障害されることで運動速度が障害されることが示唆された.この結果は,著者らの統合失調症患者の手先の巧緻運動が白質のDTI測定値と相関するという続報と一致していた6).一方,BACS-Jの言語記憶,文字流暢,言語流暢,注意,実行機能,総合スコアと脳構造には相関がなく,SCIP9),MCCB12),BACS19)による,アメリカ,アジア(中国),スペインの知見は,アジア(日本)の患者では再現されなかった.その理由は明確ではないが,統合失調症の神経心理的異質性による可能性がある.健常対照者で,BACS-Jスコアと灰白質および白質構造に相関がなかったことは,BACS-Jスコア,灰白質容量,白質FA値が患者と比べて十分に高かったことによる天井効果を示唆した.
 リミテーションとして,本研究は年齢,性別,薬物の効果を統制した解析を行ったが,相関がみられたのは一部のBACS-Jスコアであったため,統合失調症の認知機能障害に寄与する脳構造とは別の多くの因子の存在が示唆された.関連して,著者らはBACS-Jスコアと握力が正に,体格指数が負に相関することを報告している7).また,本研究は比較的長い罹病期間の患者群を対象としており,慢性の経過や治療が,結果に影響した可能性がある.初回エピソードの統合失調症患者の研究が,その可能性を除外するうえで有用と考えられる.

おわりに―展望―
 本研究は,統合失調症の認知機能障害と脳構造変化の関係を,包括的認知機能検査バッテリーと全脳解析で総合的に調べた.精神疾患と高次脳機能への著者の関心から,統合失調症の認知機能の器質的基盤に着目して研究を始めたが,関連する局所解析研究は数多くあり,全脳解析に焦点を絞って引用するように工夫した.結果として,本研究は,患者群,健常対照群ともに100名以上の参加者からなる単一施設として最多症例の全脳解析となった.統計学的に第一の過誤,第二の過誤はともに症例数の影響を受けることから,今後は多施設によるより大規模な脳画像研究が重要になると考えられる.

 本論文はPCN誌に掲載された最新の研究論文5)を編集委員会の依頼により,著者の1人が日本語で書き改め,その意義と展望などにつき加筆したものである.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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