薬物の影響により安全運転が困難となった状態での運転は,道路交通法で禁止されている.新設された自動車運転死傷行為処罰法では,薬物の影響により安全な運転が困難であると認識して死傷事故を起こした場合,危険運転への故意として重罰とすることが定められた.この法の別項は,政令で定められた疾患(てんかん,統合失調症など)にある人の治療薬の服薬を義務とし,症状による死傷事故時には服薬をしていないことが適用要件となるとしている.これらの治療薬の添付文書には,服薬中の運転禁止と医師の説明義務が明記されている.これらの相矛盾した注意義務を厳格に遂行すると,自動車運転を断念するほかないという本末転倒の結果に至る.この矛盾に満ちた状況にどう対処するのか,議論を深めたい.
精神疾患患者の自動車運転と服薬にかかわる注意義務
みのクリニック
精神神経学雑誌
119:
493-499, 2017
<索引用語:道路交通法, 運転免許欠格, 自動車運転死傷行為処罰法, 添付文書>