薬物依存症は「精神疾患」である.しかし,精神科医療に敬遠され,「病気」ではなく「犯罪」として捉えられる傾向が今も続いている.専門治療機関は全国に10ヵ所程度しかなく,需要を全く満たしていない.薬物依存症患者が忌避される理由として,治療継続が困難,治療意欲が低い,指示やルールに従わない,暴力的・攻撃的などが挙げられる.これらの問題は治療者が疾患の特徴を理解し,適切に対応することで解決は可能である.薬物依存症の治療は,①治療関係づくり,②治療の動機づけ,③精神症状に対する薬物療法,④解毒・中毒性精神病の治療,⑤疾病教育・情報提供,⑥行動修正プログラム,⑦自助グループ・リハビリ施設へのつなぎ,⑧生活上の問題の整理と解決援助,⑨家族支援・家族教育に集約される.これらは何ら特殊なものではない.専門病棟やプログラムがなくても治療は可能である.忌避感情をもたずに外来で短時間かかわるだけでも治療効果が期待できる.薬物依存症患者の薬物使用は,一般に「興味本位に快楽を求めた結果」で自業自得とされるが,実際は「人に癒やされず生きにくさを抱えた人の孤独な自己治療」とみることが適切である.彼らの多くは,虐待,いじめ,性被害の経験をもち,深く傷ついている.「病気」である依存症患者に必要なのは,「罰や懲らしめ」ではなく,「治療・支援」であろう.薬物依存症の治療を困難にしている最大の原因は,治療者の患者に対する陰性感情・忌避感情である.患者が治療を求めてきたときに,断薬を強要せず,再使用を責めず,受容的にかかわり信頼関係を築いていくことが大切である.治療者が「ようこそ」という思いでかかわり続けることで,治療継続率や断薬率が高まることを示した.
はじめに
これまで,わが国の問題薬物は覚せい剤と有機溶剤が主であり,ともに精神病状態を引き起こすことから,精神科医療では中毒性精神病の治療は行われてきた.しかし,その基にある依存症の治療はほとんど行われていない.薬物依存症は「病気」ではなく「犯罪」としてのみ捉えられる傾向が今も続いている.「ダメ.ゼッタイ」に象徴される薬物乱用防止対策,なかでも取締りは世界一流である反面,依存症の回復支援は三流以下と言わざるをえない.薬物依存症の専門医療機関は全国に10ヵ所程度しかなく,治療システムはなきに等しい.依存症は慢性疾患であり,その治療・支援は地域で進められる.しかし,地域での回復の受け皿は,一民間リハビリ施設であるダルクのみであり,ダルクに過大な負担が課せられている.
欧米先進国に比べて,違法薬物の生涯経験率が一桁低いわが国であるが,取締り一辺倒で対処してきた稀有な国でもある.薬物乱用防止対策は,取締りと依存症の回復支援の両立が求められる.2016年6月,覚せい剤事犯者を主な対象とする「刑の一部執行猶予制度」が施行された.司法が回復支援に舵を切った画期的な一歩である.ただし,社会の受け皿が整備されなければ,この制度は機能しない.本稿では,薬物依存症の外来治療を,通常の医療として提供するために必要な対応について提案したい.
I.薬物患者が忌避される理由
わが国の薬物依存症治療の著しい遅れの原因として,精神科医療機関の薬物依存症患者に対する根強い陰性感情・忌避感情が挙げられる.
全国の有床精神科医療機関の調査29)によると,薬物関連患者の治療に消極的な理由として,頻度の高いものから「トラブルが多い」「パーソナリティ障害合併例が多い」「治療のドロップアウト例が多い」「回復の社会資源が乏しい」「暴力団関係者が多い」「暴言・暴力が多い」「司法対応が優先されるべき」などであった.
最近,著者らは,全国の精神科救急入院料認可病棟担当者に対するアンケート調査23)25)を実施した.それによると,治療が困難な理由として,「治療の継続が困難」63.2%,「患者の治療意欲が低い」46.1%,「患者が指示やルールに従わない」46.1%,「患者が暴力的・攻撃的」39.5%,「スタッフの抵抗が強い」35.5%,「治療的雰囲気を悪くする」30.3%などであった.
一方で,最近の薬物依存症患者は診やすくなっている.その理由は,粗暴な患者や激しい興奮をきたす患者の減少(怖くない),非合法薬物から合法薬物へのシフト(司法対応が不要),処方薬患者の割合の増加(処方薬には慣れている),「ふつうの患者」の増加(抵抗感が少ない),「薬物渇望期」概念の導入(入院治療が容易になる),簡便な認知行動療法の導入(誰でも治療できる)などである15)21)27).
II.依存症の治療とは
薬物依存症治療は,下記の要素から構成される.これらは決して特別なものではない.
1.治療関係づくり
他の多くの精神疾患の対応と同様,依存症治療においても,信頼に裏づけられた良好な治療関係の構築が最も大切である.
2.治療の動機づけ
治療の動機づけは治療者の重要な役割であり,動機づけ面接法13)31)などを積極的に取り入れる.良好な治療関係ができると,患者の治療の動機づけは自ずと進んでいく.
3.精神症状に対する薬物療法
バルビツール酸系やベンゾジアゼピン系の薬剤は,容易に処方薬依存を引き起こすため注意を要する.随伴する症状に対して薬物療法を適切に行う.
4.解毒・中毒性精神病の治療
薬物の連続使用や精神病症状が活発化した場合は入院治療を行う.その際に依存症に特有な「薬物渇望期」17)18)21)22)の特徴を知っておく.
5.疾病教育・情報提供
他の精神疾患に対して行われる疾病教育・情報提供と同じである.簡便なワークブックを利用してもよい.
6.行動修正プログラム
依存症に関する講義やミーティング,ワークブックの利用,自助グループからのメッセージなどを提供できれば十分に治療的である.
7.自助グループ・リハビリ施設へのつなぎ
薬物依存では,ナルコティクス・アノニマス(NA)などの自助グループやダルクなどのリハビリ施設の情報提供とともに,メンバーやスタッフとの接点を設定する.
8.生活上の問題の整理と解決の援助
依存症患者は,さまざまな生活上の問題を抱えている.患者自身が問題解決能力に乏しく,適切な援助資源をもたないことも多い.患者とともに問題の整理と解決を進める.
9.家族支援・家族教育
家族は患者対応により疲弊しているため,適切な支援を行うことは重要である.家族が家族会や家族グループにつながり続けるとストレスは軽減し,患者に対して適切な対応ができるようになる16).
III.新たな薬物依存症の治療
1.これまでの依存症治療の問題点
依存症の治療において,これまで正しいと信じられてきたことが,実は何の根拠もなかったという事実が次々と明らかになっている.原田2)の報告を基に示す.私たちはこれまで科学的根拠のない誤った治療を行ってきたことになる.
①依存症の治療には底つきが必要である:治療者は,これを理由に動機づけをせずに患者を放置してきた.援助を断ち切って患者につらい思いを強いることにエビデンスはなく非常に危険である.
②回復にはミーティング(自助グループ)しかない:治療者は,これを理由に自助グループにつながらない患者を排除してきた.自助グループは有効であるが,自助グループにつながれなくても他の有効な治療介入を行う.
③自分から治療を受ける気持にならないとダメ:米国の例をみるまでもなく,強制であっても適切な治療を受けることにより効果が期待できる.そして,動機づけこそが治療者の最も重要な役割である.
④依存症の治療は続かない:治療者は,治療中断の原因を患者に帰していた.依存症は慢性疾患である.糖尿病など他の慢性疾患も同程度の脱落率であることが報告されている.
⑤何が何でも断酒・断薬をめざすしかない:これをにわかに受け入れられない患者は,治療から排除されてきた.患者に良い方向に変わりたいという思いがあれば,害を減少させる方法(ハーム・リダクション)から試みるべきであろう.
2.エビデンスに基づいた新たな依存症治療の考え方1)
米国の国立薬物乱用研究所(National Institute of Drug Abuse:NIDA)が提唱している物質使用障害治療の原則9)14)では,①司法的対応よりも治療的対応が有効である,②多様な治療の選択肢が必要である,③包括的な治療が必要である,④治療は質よりも提供される期間の長さが重要である,⑤治療は高い頻度で提供されるべきである,⑥否認や抵抗と闘わない,⑦どのような段階でも介入は可能である,⑧非自発的な治療でも効果はある,などとされている.
また,米国マトリックス研究所が開発・実践しているマトリックスモデル6)10)30)では,①すべての依存症患者は治療に対する疑念や両価的な思いを抱いていると心得る,②最初の問い合わせ電話に迅速に対応する,③最初の予約をできるだけ早い時期に設定する,④治療プログラムについての明確なオリエンテーションを提供する,⑤患者に選択肢を与える,⑥患者に敬意をもって接する,⑦治療者は共感をもって患者に懸念を伝える,⑧否認や抵抗と闘わない,⑨正の報酬を用いて治療参加を強化するなどが挙げられている.
マトリックスモデルの特徴としては,①治療継続性を重視し,②乱用が止まらない責任は治療者側にあると考える,③尿検査は治療状況を把握するためで,警察には絶対に通報しない,④プログラムでは明るく受容的な雰囲気を重視する,⑤ワークブックを用いて具体的な「やめ方」を集中的に学ぶというものである.
これを範として,わが国でSMARPP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program)4)7)11)が開発された.勉強会形式なので参加しやすく,経験の浅い治療スタッフでも一定の成果を期待できる.現在,精神科医療機関,精神保健福祉センター,司法機関,ダルクなどでも実施されている.
新たな治療の考え方を要約すると,依存症に否認があるのは当然であり,底つきを待つのではなく,動機づけを積極的に行う.その際に,動機づけ面接法や随伴性マネジメントなどを使った介入を行う.治療の中心は認知行動療法的スキルトレーニング,リラプス・プリベンション5)であり,患者のハイリスク状況を明らかにして,適切な対処法を身につける.自助グループ参加は重要であるが,参加できない場合でも他の有効な治療手段を積極的に導入する.「依存症は慢性疾患である」という認識に立って,患者が「治療から脱落しないように配慮する」ことが大切である,となろう.
IV.当センターでの薬物依存症治療の実際
具体的な当センターでの治療的な工夫について以下に示す.
1.「ようこそ外来」の徹底21)27)
当センターでは,依存症外来を「ようこそ外来」として,患者が治療から脱落しないサービスと工夫を行っている.患者に対して陰性感情をもたず歓迎の意を伝え,再飲酒や薬物の再使用を決して責めず,対処法を検討することに重点を置く.
治療者が留意することは,①来院したこと自体を評価・歓迎する,②本人が問題に感じていることを聞き取る,③本人がどうしたいか,に焦点をあてる,④薬物使用によって起きた問題点を整理する,⑤依存症についての知識を提供する,⑥依存症は慢性の病気であり治療継続が重要であることを伝える,⑦外来治療が続くよう治療者側が十分配慮する,⑧必要であれば入院を検討するが無理強いしない,⑨家族には苦労をねぎらい家族会・家族教室などへつなぐなどである.
患者が信頼関係の上に安心して正直に話せることが大切であり,覚せい剤使用・所持については医療者に通報の義務はないことから,「再使用は依存症の症状として捉え通報はしない」旨,保障して治療を行う19).
2.LIFEプログラムの実践20)21)26)
当センターでは,外来薬物依存症再発予防プログラム(LIFE)を,2008年より実施している.週1回90分のワークブックを用いたグループワークであり,全36回9ヵ月のプログラムである.終了後も参加は自由である.正しい知識を身につけること,欲求を高める危険な引き金へ対応できるようにすること,自己を知り自己肯定感を高めること,など多彩な内容を盛り込んでいる.
LIFEでは,断薬できていない,あるいは再使用リスクが高い患者を対象としており,参加者の84.2%に再使用を認めた.終了時点(9ヵ月)での3ヵ月以上の断薬率は,61.5%であったが,途中で中断した例では25.0%にとどまった(図1).断薬継続のためには,長期に継続したプログラム参加が必要である.
3.補助介入ツールの積極的活用21)
著者らは,用途に応じたさまざまな補助介入ツールをすでに20種類開発し活用している.使いやすい介入ツールがあることで,治療や回復が具体的に実感でき,治療を提供する側も受ける側も治療にかかわりやすくなる.
4.「ごほうび療法」の積極的導入21)27)
当センターでは,随伴性マネジメント10)を報酬に特化して,「ごほうび療法」と呼び積極的に実施している.治療者が高圧的・教示的に接するのではなく,患者に敬意をもって患者の健康なところを積極的に評価する.陰性感情から解放され,ポジティブなかかわりができるようになる.「ごほうび療法」を取り入れた最大の効果は,治療スタッフの患者に対する批判的・否定的な見方が排除され,肯定的に良い点を見つけて伝えようとする雰囲気になったことである.
V.薬物依存症の背景にあるもの
著者は薬物依存症患者の背景には共通した特徴があると考えている.それは,「自己評価が低く自分に自信がもてない」「人を信じられない」「本音を言えない」「見捨てられる不安が強い」「孤独でさみしい」「自分を大切にできない」の6項目に集約できる15)17)21)27).治療者は,この特徴を十分理解してかかわることが大切である.
薬物依存症は,これまで道徳的問題,性格上の問題,そして司法の問題とされてきた.アル中やヤク中のイメージに代表されるように,「不真面目で意志の弱い自己中心的な人格破綻者」という見方が一般的であろう.そして,彼らは周囲から非難されて追い詰められ,排除されて孤立していく.薬物依存症患者の83.3%が希死念慮をもち,55.7%が自殺企図の経験があるとする報告もある8).
薬物に手を出した人がみな依存症になるわけではない.依存症患者の薬物使用は,「人に癒されず生きにくさを抱えた人の孤独な自己治療」3)27)という見方が最も適切であると考えている.虐待やいじめ,性被害に遭い,深く傷ついた患者が驚くほど多い.しかし,多くはそのことを誰にも語らず,内に秘めている.そして放置されると薬物依存症は進行し,健康,自信,信頼,友人,家族,財産,希望,生きがい,命など大切なものを次々と失うことになる.
VI.薬物依存症の回復支援
患者に敬意を払い,対等の立場で患者の健康な面に働きかけていくというあたり前のことがなされていなかったという反省に立ち,著者が提案しているのが表1の10カ条15)21)27)である.これは,薬物依存症患者に特化したものではない.他の精神疾患患者に対して,さらには健常者同士のコミュニケーションにおいてもあたり前に重要なことである.治療者が,このあたり前の対応を薬物依存症患者にもできるか否かが問われる.
一般に薬物依存症治療に際して,治療者も患者も家族も断薬にとらわれやすい.治療者は必ずと言っていいほど,「薬物を使わないように」と釘を刺す.患者は「使いたい,でも使ってはいけない」と葛藤している.やめる方向に周囲から圧力がかかると,患者はやめない方向に傾き再使用に向かう.また,信頼関係ができていない状況での強要は,たとえそれが善意からであっても「支配・コントロール」である.「支配」に対して患者は抵抗するであろう.
同様に,再使用を責めてはいけない.やめたいと思っていても使うことは,薬物依存症の症状であり謝罪するべきことではない.再使用という病気の症状が出たからといって治療者が患者を責めることはおかしい.責める前に患者は反省している.それをあえて責めることのデメリットは大きい27)28).
人の中にあって安らぎを得ることができなかったために,薬物によるかりそめの癒しを求め,のめりこんだ結果が依存症である.とすると,人の中にあって安心感・安全感を得られるようになったとき,薬物によって気分を変える必要はなくなる.依存症からの回復のためには,元にある対人関係の問題の改善が必要である.その回復を実践する場が,自助グループでありリハビリ施設(ダルク)である.
Millerら12)は,治療者の共感的態度こそが治療の効果を左右するとしている.「誰が治療するか」が,「どの治療を選択するか」よりも治療効果を左右する可能性がある.「誰が」とは,「共感性が高い治療者」,つまり「偏見や陰性感情から解放されている治療者」を指す.回復は,人である治療者・援助者・仲間とのかかわりにおいて生まれるものである.治療者・援助者は,心身ともに健康であり,患者の回復を信じられることが大切である.
自助グループやダルクにつながることであれ,認知行動療法であれ,その他の治療法であれ,結局は患者が「安心できる居場所」と「信頼できる仲間」ができたときに回復に向かう.治療に際して大切なのは,治療者・援助者が患者に対して陰性感情・忌避感情をもたず,共感と受容に基づいて適切な方向に導くことである.依存症者は健康な人とのかかわりにおいてこそ回復する.依存症者が人に癒されるようになったとき,薬物に酔いを求める必要はなくなっている.依存症は人間関係の病気である.回復とは,信頼関係を築いていくことにほかならない.
VII.誰にでもできる薬物依存症の外来治療成績24)
「ようこそ外来」を意識して対応した外来治療転帰について示す.
対象は,当センター外来において,2011年6月から2015年3月までの3年10ヵ月間に「ようこそ外来」を意識して著者が診察した薬物依存症(DSM-IV-TR)新規外来患者322名で,男性239名(74.2%),女性83名(25.8%),平均年齢35.7±12.4歳であった.このうち,入院歴のある例は82名(25.5%),外来薬物依存症再発予防プログラム(LIFE)参加者は15名(4.6%),ダルク利用者は19名(5.9%)であり,対象者の多くは,外来での通常の診療のみであった.主な乱用薬物は,覚せい剤169名(52.5%),危険ドラッグ92名(28.6%),向精神薬34名(10.6%),有機溶剤(ガスを含む)11名(3.4%),鎮痛薬7名(2.3%),鎮咳薬5名(1.6%)などであった.
対象者の外来治療継続期間は,3ヵ月以上75.8%,6ヵ月以上61.5%,1年以上46.3%,3年以上18.0%であった.転帰については,全322名のうち,「断薬:6ヵ月以上完全断薬」141名(43.8%),「改善:完全断薬ではないが問題行動なく社会生活が著明に改善」51名(15.8%),「不変・悪化」29名(9.0%),「死亡」10名(3.1%),「逮捕・服役」8名(2.5%),「不明・不詳」83名(25.8%)であった(図2).外来治療開始6ヵ月以上経過した時点で,薬物依存症改善率(断薬+改善)は59.6%(192/322),6ヵ月以上断薬継続率は43.8%(141/322),「不明・不詳」を除くと同断薬率は59.0%(141/239)となる.
外来治療継続期間と断薬率,改善率の関係を図3に示す.特別な治療を行わなくても,治療が継続すれば,断薬率,改善率が高くなることを示唆している.
おわりに
薬物依存症の治療については,依存症を病気として正しく認識し,忌避感情をもたずに,断薬を強要せず,良好な治療関係を維持できれば,予後の改善が期待できる.つまり特別な治療プログラムを持ち合わせなくても,一般精神科外来で薬物依存症の治療は可能である.
薬物依存症の治療を困難にしている最大の原因は,治療者の患者に対する陰性感情・忌避感情である.薬物依存症は何ら特殊な病気ではない.彼らは何ら特殊な人たちではない.
薬物依存症者が治療を求めたとき,他の多くの精神疾患と同様にあたり前に治療を受けられる日が来ることを切望している15)21)27).
第112回日本精神神経学会学術総会=会期:2016年6月2~4日,会場=幕張メッセ,アパホテル&リゾート東京ベイ幕張
総会基本テーマ:まっすぐ・こころに届く・精神医学
教育講演:誰にでもできる薬物依存症の外来治療 座長:三野 進(みのクリニック)
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
1) Emmelkamp, P.M.G., Vedel, E.: Evidence-based Treatment for Alcohol and Drug Abuse: A Practitioner's Guide to Theory, Methods, and Practice. Routledge, New York, 2006 (小林桜児, 松本俊彦訳: アルコール・薬物依存臨床ガイド エビデンスにもとづく理論と治療. 金剛出版, 東京, 2010)
2) 原田隆之: : エビデンスに基づいた依存症治療に向けて―Matrixモデルとその実践―. 第31回日本アルコール関連問題学会教育講演資料. 2009
3) Khantzian, E.J., Albanese, M.J.: Understanding Addiction as Self-Medication: Finding Hope Behind the Pain. Rowman & Littlefield Publishers, Lanham, 2008 (松本俊彦訳: 人はなぜ依存症になるのか―自己治療としてのアディクション. 星和書店, 東京, 2013)
4) 小林桜児, 松本俊彦, 大槻正樹ほか: 覚せい剤依存者に対する外来再発予防プログラムの開発―Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program (SMARPP)―. 日本アルコール・薬物医学会誌, 42; 507-521, 2007
5) Marlatt, G.A., Donovan, D.M.: Relapse Prevention: Maintenance Strategies in the Treatment of Addictive Behaviors, 2nd ed. Guilford Press, New York, 2005 (原田隆之訳: リラプス・プリベンション 依存症の新しい治療. 日本評論社, 東京, 2011)
6) Matrix Institute (http://www.matrixinstitute.org/index.html) (参照2016-01-10)
7) 松本俊彦, 小林桜児: 薬物依存者の社会復帰のために精神保健機関は何をすべきか?日本アルコール薬物医学会雑誌, 43; 172-187, 2008
8) 松本俊彦, 小林桜児, 上條敦史ほか: 物質使用障害患者における自殺念慮と自殺企図の経験. 精神医学, 51; 109-117, 2009
9) 松本俊彦: アルコール・薬物使用障害の心理社会的治療. 医学のあゆみ, 233; 1143-1147, 2010
10) 松本俊彦: 心理社会的治療. 依存症・衝動制御障害の治療 (精神科臨床リュミエール26). 中山書店, 東京, p.132-142, 2011
11) 松本俊彦, 小林桜児, 今村扶美: 薬物・アルコール依存症からの回復支援ワークブック. 金剛出版, 東京, 2011
12) Miller, W.R., Benefield, R.G., Tonigan, J.S.: Enhancing motivation for change in problem drinking. A controlled comparison of two therapist styles. Consult Clin Psychol, 61; 455-461, 1993
13) Miller, W.R., Rollnick, S.: Motivational Interviewing. Guilford Press, New York, 2002 (松島義博, 後藤 恵訳: 動機づけ面接法 基礎・実践編. 星和書店, 東京, 2007)
14) National Institute of Drug Abuse (http://www.drugabuse.gov/PODAT/PODAT1.html) (参照2016-01-10)
15) 成瀬暢也: 薬物患者をアルコール病棟で治療するために必要なこと. 日本アルコール・薬物医学会雑誌, 44; 63-77, 2009
16) 成瀬暢也, 西川京子, 吉岡幸子ほか: アルコール・薬物問題をもつ人の家族の実態とニーズに関する研究. 平成20年度障害者保健福祉推進事業「依存症者の社会生活に対する支援のための包括的な地域生活支援事業」総括事業報告書. p.31-115, 2009
17) 成瀬暢也: 規制薬物関連精神障害の初期対応と連携のあり方. JAEP教育研修会テキストVol. 1. 日本精神科救急学会, 東京, p.48-61, 2009
18) 成瀬暢也: 精神作用物質使用障害の入院治療: 「薬物渇望期」の対応法を中心に. 精神経誌, 112; 665-671, 2010
19) 成瀬暢也: 覚せい剤依存症の治療に際しては, 患者に「通報しないこと」を保障するべきである. 精神科, 21; 80-85, 2012
20) 成瀬暢也, 山神智子, 横山 創ほか: 専門病棟を有する精神科病院受診者に対する認知行動療法の開発と普及に関する研究 (1). 平成24年度厚生労働省精神・神経疾患研究委託費「アルコールを含めた物質依存に対する病態解明及び心理社会的治療法の開発に関する研究」研究成果報告会抄録集. 2012
21) 成瀬暢也: 臨床家が知っておきたい依存症治療の基本とコツ. 依存と嗜癖―どう理解し, どう対処するか― (精神科臨床エキスパート, 和田 清編). 医学書院, 東京, p.18-48, 2013
22) 成瀬暢也: 覚せい剤使用障害の入院治療―渇望期を乗り切るために―. 物質使用障害とアディクション臨床ハンドブック. 精神科治療学 (増刊号), 28; 205-211, 2013
23) 成瀬暢也: 精神科救急病棟における薬物依存症治療導入の検討―全国の救急入院料算定認可病棟調査より―. 第112回日本精神神経学会学術総会特別号 (抄録集). p.335, 2016
24) 成瀬暢也: 薬物依存症専門外来の治療継続率と転帰―自験例からの報告―. 第112回日本精神神経学会学術総会特別号 (抄録集). p.331, 2016
25) 成瀬暢也: 精神科救急医療と連携したアルコール・薬物依存症治療システムの構築に関する研究. 平成27年度精神・神経疾患研究開発費「物質依存症に対する医療システムの構築と包括的治療プログラムの開発に関する研究」分担研究報告書 (主任研究者 松本俊彦). 2016
26) 成瀬暢也: LIFEワークブックVer. 4. 現在の薬物依存のトレンドに対応する認知行動療法の開発. 平成27年度日本医療研究開発機構委託研究開発費「危険ドラッグ等, 薬物依存のトレンドを踏まえた病態の解明と診断・治療法の開発に関する研究」分担研究成果物 (主任研究者 鈴木勉). 2016
27) 成瀬暢也: 物質使用障害とどう向き合ったらよいのか 治療総論. 精神療法, 42; 95-106, 2016
28) 成瀬暢也: 巻頭言 薬物依存症と精神医療. 精神医学, 58; 662-663, 2016
29) 尾崎 茂, 和田 清, 松本俊彦ほか: 薬物関連精神疾患の治療に関する実態調査. 平成19年度厚生労働省精神・神経疾患研究委託費「薬物依存症および中毒性精神病に対する治療法の開発・普及と診療の普及に関する研究」研究成果報告会抄録集. 2007
30) Rawson, R.A., Marinelli-Casey, P., Anglin, M.D., et al.: A multi-site comparison of psychosocial ap-proaches for the treatment of methamphetamine dependence. Addiction, 99; 708-717, 2004![]()
31) Rollnick, S., Miller, W.R., Butler, C.C.: Motivational Interviewing in Health Care. Guilford Press, New York, 2008 (後藤 恵監訳: 動機づけ面接法 実践入門「あらゆる医療現場で応用するために」. 星和書店, 東京, 2010)









