Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第10号

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特集 自閉スペクトラム症の臨床実践―過剰診断と診断見逃しのジレンマのなかで―
自閉スペクトラム症診断における先入観の克服
井上 勝夫
北里大学医学部精神科学地域児童精神科医療学
精神神経学雑誌 119: 719-726, 2017

 どの疾患の診断でも誤診の危険はあるが,自閉スペクトラム症(ASD)ではこれがより高まると考えられる.ASDが特性の強弱で定型発達から連続していることと,ASD個々人の状態像が発達段階や生活環境で変化するといったASDそのものの特徴が背景に挙げられる.加えて,近年の活発な啓発によって精神科医がすぐにいわゆる発達障害を思い起こしやすいとの,ある種の先入観に導かれている事情も考えられよう.先入観は,自由な思考を妨げる,はじめに知ったことによって作り上げられた固定的な観念や見解である.本論では,ASD診断における先入観の克服を論じるためスクリーニングと認知心理学の用語を援用して検討し,具体的工夫を述べる.スクリーニングでは,結果が陽性であったときの真に疾患である確率を陽性反応的中度と呼ぶ.真陽性/(真陽性+偽陽性)で示される.ASD診断にあてはめると,ASDを疑った患者に,さらにASDの特性を探し診断精度を高める姿勢にあてはまる.ところが,認知心理学では,誰でも陥りやすい認知バイアスの1つとして確証バイアスが知られている.これは,ある仮説を検証する際に仮説を支持する情報だけをより多く集めがちになり,解釈,想起も同様に偏ることをいう.先入観そのものである.克服には意識的反証の検討が重要である.スクリーニングなら1-偽陽性/(真陽性+偽陽性)で,反証を含めた検討で偽陽性を減らし,陽性反応的中度を高める姿勢にあてはまる.具体的工夫は以下である.①発達障害という曖昧な言葉は使わない.②現時点および発達歴での特性評価の際に,聴取内容の具体性を極力高める.評価尺度などで数値化してみるとASDは連続的だが,質的にみると定型発達との差異は明瞭なためである.ASDならではの特性かどうか反証しつつ評価する.③診断の際は,常にICD-10のF0からF9(F以外もありうる)のすべての可能性を一通り考える.これは,併存症の診断にも役立つであろう.

索引用語:自閉スペクトラム症, 先入観, 確証バイアス>
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