Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第9号

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総説
病態形成を探求する精神病症候学の系譜
倉知 正佳
有沢橋病院
福島県立医科大学会津医療センター
精神神経学雑誌 118: 653-665, 2016
受理日:2016年3月4日

 精神症候学の役割は,さまざまな臨床症状を,その病態形成(pathogenesis)には立ち入らずに,記述することと考えられている.これには,Jaspers, K.の精神病理学総論の影響があるのかもしれない.しかし,19世紀半ばから20世紀初頭にかけての近代精神医学の成立期には,精神病症状の病態形成について,優れた仮説が提案されていた.当時は技術的な制約から,それらの仮説を検証することは困難であったが,その基本的考え方は,今日の研究の方向を示し続けていると思われる.本論文の目標は,病態形成を探求する精神症候学の系譜を辿ることである.Griesinger, W.は,病因と病態形成を区別し,精神疾患は脳の疾患であることを宣言した.以後の研究者は,この考えを具体化していった.Wernicke, C.は,精神疾患は,脳の連合路の障害であろうという仮説を提唱した.Flechsig, P.は,髄鞘形成の遅い連合野(この命名はFlechsigによる)が,精神活動の基盤であろうと述べた.Jackson, J. H.は,中枢神経系の進化論的,階層的組織を提案した.Kraepelin, E.は,早発性痴呆の精神病症状の病態形成について,前頭皮質―Jacksonの用語では,脳の最高中枢―の低活性と側頭言語皮質の高活性を推測し,それは60年以上を経て実証された.近年では,精神症状の病態形成は,前頭-辺縁回路,前頭-視床回路,あるいは皮質-線条体-視床-皮質回路など神経回路障害の観点から,研究が進められている.

索引用語:グリージンガー, W., ウェルニッケ, C., ジャクソン, J. H., フレクシッヒ, P., クレペリン, E.>
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