Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第8号

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特集 Pros and Cons 統合失調症における持効性注射剤の有用性
長時間作用型注射製剤の安全性:LAIは本当に危険な治療薬なのか?―賛成の立場から―
稲垣 中
青山学院大学国際政治経済学部
青山学院大学保健管理センター
精神神経学雑誌 118: 589-597, 2016

 2013年11月19日から2014年5月18日までの半年間にパルミチン酸パリペリドン(PAL-P)が使用された約11,000人(推定,平均投与期間は4ヵ月)のうち,少なくとも32人(0.29%)が死亡していたことが市販直後調査により示されたことを契機として,多くの精神科医がPAL-Pに対してはもちろん,長時間作用型注射製剤という剤形の安全性に対しても不信の念を抱くに至ったようである.本稿では,臨床試験および使用成績調査における死亡データ,先進国で実施された統合失調症の大規模生命転帰調査に関する文献レビューを行った上で,今回報告された死亡リスクがどの程度重大であるかについて検討した.結果としては,①臨床試験の段階における長時間作用型注射製剤投与下での死亡リスクは1,000人年あたり3.56~7.95件で,経口抗精神病薬投与下(5.00~8.55件)と比較して高いとはいえないこと,②臨床試験の段階では,リスペリドン,およびアリピプラゾールの長時間作用型注射製剤の投与下での死亡リスク(6.34~7.95件)と比較して,PAL-P投与下での死亡リスク(3.56件)が高いともいえないこと,③PAL-Pの市販直後調査で観察された死亡率(3ヵ月あたり0.22%相当)は,リスペリドン長時間作用型注射製剤,経口パリペリドン,ブロナンセリンの使用成績調査で観察された3ヵ月死亡率(0.19~0.31%)とおおむね同等と考えられること,④生命転帰研究の結果からは先進国の統合失調症患者の4ヵ月死亡率は0.35~0.68%と推定され,PAL-Pの市販直後調査で観察された死亡率の方が高いとはいえないことが示された.市販直後調査の性質上,今回問題となった0.29%という死亡率には過少見積もりの可能性が否定できないが,その可能性を考慮に入れても,今回の市販直後調査で観察されたPAL-P投与下での死亡率に臨床的意味があるとは考えにくいように思われる.

索引用語:抗精神病薬長時間作用型注射製剤, 死亡率, 市販直後調査, 使用成績調査, コホート調査>
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