Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第8号

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特集 Pros and Cons 統合失調症における持効性注射剤の有用性
持効性注射剤使用の安全性:持効性注射剤はあった方がよいですか?―反対の立場から―
鈴木 雄太郎
新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野
精神神経学雑誌 118: 584-588, 2016

 第2世代抗精神病薬のlong-acting injection(LAI)が本邦で登場し,症状安定期におけるLAI治療が注目されているが,一方でpaliperidone-LAIによる死亡がセンセーショナルに報道され,LAIの安全性に関心が集まっている.本稿では,LAI使用に反対する立場から,症状安定期における第2世代抗精神病薬LAI使用について以下の3点から問題提起をしたい.①LAIの副作用で特に問題となるのが,急性に発症し,場合によっては致死的となる副作用であり,これには悪性症候群,糖尿病ケトアシドーシス,心電図QT延長によるtorsade de pointes,白血球減少症などが考えられる.どの抗精神病薬にもこれらの副作用リスクがあり,投与前に副作用出現を予測できず,一旦発症すれば速やかに原因薬剤を減量・中止し,体内から薬剤を除去する必要があるが,LAIではこれができないため,こうした致死的副作用が遷延する可能性がある.また,米国ではolanzapine(OLZ)-LAIと関連して報告された,post injection delirium/sedation syndrome(PDSS)という副作用がある.これはLAI筋肉内投与後に薬剤が急速に血中に入り,血中濃度が急激に上昇して著しい鎮静(昏睡の場合もある)および/またはせん妄を伴う重篤な症状を呈する病態であり,このリスクを最小化するために,米国FDAはOLZ-LAIに対してREMS(Risk Evaluation and Mitigation Strategy)というモニタリングシステムを義務づけている.この現象がOLZ-LAIだけに発生するのかは不明であるが,注意が必要であろう.②本邦の精神科臨床現場,特に外来において抗精神病薬の副作用モニタリングが十分行われていない現状があり,こうした状況で症状安定期にあえて経口薬をLAIに置換することを推奨することに疑問が残る.③症状安定期において経口薬をLAIに置換した場合,治療費が大幅に上昇し,受診回数も増えてしまう.治療費上昇と受診回数増大はアドヒアランスに大きく影響する可能性がある.

索引用語:抗精神病薬, long-acting injection, 副作用, 治療費, アドヒアランス>
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