Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第7号

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特集 神経症性障害と抑うつ―その相互作用と臨床的意義,治療について―
強迫症と抑うつ―その相互作用と臨床的意義―
松永 寿人
兵庫医科大学精神科神経科学講座
精神神経学雑誌 118: 522-530, 2016

 うつ病(MDD)は,強迫症(OCD)患者に最も高率に併存する精神疾患であり,そのlifetime comorbidityを有するものの割合は50%を超えている.この多くはOCD発症後に二次的に出現し,前駆衝動や不全感の解消,あるいは「まさにぴったり」感の追求など感覚現象を特徴とするmotoricタイプよりも,強迫観念や認知的不安増強プロセスを伴う典型例,すなわちcognitiveタイプのOCDでみられやすい.このような傾向は,OCD患者におけるMDDの発現に,眼窩前頭前皮質や扁桃体・海馬傍回,あるいは両者間の関係性の変異など,観念や不安,過度の憂慮,さらに認知的要素に関連する脳領域,もしくは神経回路の関与を示唆した従来の脳画像研究の所見と一貫するものである.一方,MDDの併存が,OCDの症候学的特徴といった臨床像,あるいは治療反応性などに及ぼす影響は,おおむね少ないものと考えられている.しかし洞察不良や自発性・活動性低下など認知・行動面にかかわるため,OCDの認知行動療法に対する抵抗性には影響しうる.このためこのような患者に対しては,まずは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などによる十分な薬物療法が必要である.しかしながら,OCDに併存するMDDは一様ではなく,対人関係といった環境要因やパーソナリティの病理などとの関連も少なからずうかがわれ,これが臨床像の複雑化や治療抵抗性を強調する可能性がある.さらに自殺リスクが高じることにも注意を要する.このように,MDDを併存するOCD患者に対しては,両者が及ぼし合う相互作用を考慮しつつ,臨床像を多角的に評価した上で,適切な治療選択を行うことが重要である.

索引用語:強迫症, うつ病, 選択的セロトニン再取り込み阻害薬, 認知行動療法, 治療抵抗性>
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