外傷性悲嘆は1990年代後半にPrigersonによって主張されたが,その後,遷延性悲嘆,複雑性悲嘆などの概念に取って代わられた.病理としては愛着対象の喪失が重視される傾向にあるが,喪失の出来事がPTSDの出来事基準を満たすようなトラウマ的性質をもっている場合にはトラウマ的性質については忘却を,故人については追想を願うという矛盾した心理が生じ,臨床的にもトラウマ反応の視点を取り入れた格別の配慮が求められる.DSM-5の持続性複雑死別障害の診断基準においても外傷性死別が下位項目として挙げられているゆえんである.外傷性死別に続発する場合を特に外傷性悲嘆として意識する必要がある.しかし,臨床カテゴリーとしての意義については治療反応性,病態についての今後の研究を待たなくてはならない.
外傷性悲嘆とトラウマ
国立精神神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部
精神神経学雑誌
118:
516-521, 2016
<索引用語:悲嘆, トラウマ, PTSD>