Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第118巻第12号

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特集 東洋的叡智と心理療法―思想,方途と目的地―
ユング心理学はどう日本で進化したか
山中 康裕
京都ヘルメス研究所/京都大学名誉教授
精神神経学雑誌 118: 916-924, 2016

 日本のユング心理学は,すでに昭和6年に中村古峡によって紹介されたのが嚆矢であるが,昭和35年ころの高橋義孝らの紹介は,Jungの根本思想にふれるものではなかった.1967年の河合隼雄によって,ユング思想の本格的な移植が開始されたといってよい.Jung以降の,ほとんどのユング派学者は,西洋では,Neuman, E.,Guggenbühl-Craig, A.,Kalff, D. M.,Spiegelman, M.,Meier, C. A.,Hillman, J.そして,Giegerich, W.らほんの少数を除いて,全くJungを超えていないが,日本の河合は『明恵 夢を生きる』で,一定程度の深化と進展をみせたが,その仏教理解は,鈴木大拙の『禅仏教入門』以上に出るものではなかった.つまり,禅も真(浄土真宗)も,仏教一般の中に埋没して抽象化された分,汎化したが,深化はなかった.著者は,Jungを日本に導入するにあたって,例えば,JungのいうSynchoronizitätを,河合は「共時性」と訳したが,著者は,「縁起律」とし,これは,いわゆる因果律と真っ向から対立する理論体系と考えた.仏教の縁起論は,因果論を内包する体系であり,著者のいう「縁起律」とは,異なる概念である.また,華厳経を写経し,パリ郊外ベレバでの第2回国際華厳経学会に出席して,このインドに発し,中国で深化した思想が,先の縁起律と相俟って,その世界観の延長上に,Jungを超えていく,東洋的叡知の成果と考えた.さらに,浄土教の深化による親鸞によって洞察された阿弥陀佛と,先の華厳経の毘盧遮那佛とは,2世紀から4世紀の中国思想によって,もともと釈迦によって思念されたものが,「抽象佛」として結晶化したものであり,つまり,毘盧遮那佛を,万物生成の根源たる«昇る太陽»,阿弥陀佛を,すべての生きとし生けるものを救いとる«沈む太陽»として位置づけ,その世界観は,Einsteinやα・β・γ理論などを包含する現代宇宙物理学をも包括する宇宙論に匹敵すると考えて,ユング心理学を超克したのである.

索引用語:ユング心理学, 縁起律, 因果律, 華厳経, 毘盧遮那佛>
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