精神科医が記載している書類は多岐にわたるが,医療保護入院者の入院届や定期病状報告書,自立支援医療(精神通院医療)診断書,精神障害者保健福祉手帳診断書といった,精神保健福祉法などの法律に基づく書類も数多くある.これらの書類は精神障害者の人権擁護,および精神障害者への適正な医療や福祉の確保につながる重要な書類である.しかしながら,精神保健福祉センターにおいて,それらの書類の審査判定を行う中で,記載内容が不十分な書類,記載内容が適切でない書類に遭遇することがある.精神障害者の人権擁護,および精神障害者への適正な医療や福祉の提供のためにも,精神科医には書類への丁寧かつ適正な記載を求めたい.精神科医が,日々の臨床の中で書類を記載する際に知っておくべきことを中心に述べる.
はじめに
精神科医が精神科臨床において記載しなければならない書類には,精神保健福祉法や障害者総合支援法などに基づく書類がある.医療保護入院者の入院届や定期病状報告書,自立支援医療(精神通院医療)診断書,精神障害者保健福祉手帳診断書などである1)3)4).これら法律に基づく書類は書式も定められており,その記載は適正に行わなければならない.これらの書類は精神障害者の人権擁護,および精神障害者への適正な医療や福祉の確保につながるものだからである.
いま,入院医療中心から地域生活中心へと精神保健医療福祉の改革が行われている.精神科医療から地域の様々な社会資源に適切につなぎ,連携していくための出発点となるのが精神科医の記載する一枚の書類であるとすると,その重要性は大きなものがある.書類の書き方ひとつで,精神障害者の生活や未来が変わってきてしまうとすれば,慎重かつ適正な記載が要求される.しかるに,実際は記載内容が不十分,適正さに欠ける書類が存在することが指摘されている8)9)10).精神科医が記載する書類で知っておくべきことについて述べていく.
I.精神保健福祉法改正と保護者制度廃止
精神科医療機関への入院は精神保健福祉法に基づいて行われ,医療保護入院の入院届や,措置入院,医療保護入院の定期病状報告書は都道府県知事(指定都市の市長)に提出される.その審査は各都道府県(指定都市)の精神医療審査会で審査されており,その事務は現在,精神保健福祉センターにおいて行われている.
平成25年,精神保健福祉法が改正され,平成26年4月に施行された2).今回の法改正では,保護者制度の廃止,医療保護入院の見直しが大きな改正点として注目される.医療保護入院による入院の際には,これまで保護者の同意を必要としていたが,保護者による同意に代わるものとして家族等による同意要件が残されている.家族等による同意については課題のあるところだが,保護者制度の廃止をはじめ,医療保護入院制度の見直しがされることで,精神障害者の医療と保護のあり方が大きく変わった.保護者制度が廃止されたことで,医療保護入院における精神科医(精神保健指定医)の責務はますます大きくなったといえる.これまで以上に,医療保護入院の入院届等,精神障害者の非自発的入院にかかる書類の作成は慎重かつ適正に行う必要があるだろう.
II.医療保護入院の入院届・定期病状報告書など
今回の法改正で,医療保護入院の要件は,①家族等のうちいずれかの者の同意があること,②指定医による診察の結果であること,③精神障害であること,④医療および保護のため入院が必要であること,⑤当該精神障害のために第20条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたものであることが要件となった.これらの要件が満たされないときには医療保護入院とはならない.
医療保護入院の要件が整っているかどうかは,精神医療審査会において,各医療機関から提出される「医療保護入院者の入院届」を審査することで確認している.そして,医療保護入院や措置入院を継続している精神障害者については,その入院の必要性などを記載して提出される「医療保護入院者の定期病状報告書」「措置入院者の定期病状報告書」を精神医療審査会で審査している.精神障害者の医療保護入院や措置入院などの入院の必要性については,行政が行う病院実地指導などでも確認されるが,実際には精神医療審査会での書類審査に多くが委ねられているのが現状である.つまり,本人の意思によらない精神障害者の入院において,その必要性や処遇の妥当性などの審査は事実上ほとんどが書類審査によって行われ,精神障害者の人権擁護が適切に行われているかを書類から読み取って確認していかなければならない.それゆえ,提出される書類は精神科医によって適正に記載されていることが求められる.
医療保護入院は,対象となる患者に,①医療および保護を必要とする問題行動や精神症状があること,②患者本人が自らの病気を理解できていないこと,③入院について患者本人の同意が得られないことが必要とされている.決して,医療保護入院とする判断は精神症状の重さや問題行動の激しさだけで判断されるのではなく,患者本人の病気に対する理解,病識の有無などが適正に判断されていることが必要である.第20条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたものであること,つまり任意入院が行われる状態にないと判断した理由を明確に記載することが入院届等に求められる.例えば,知的障害者や認知症の人が,入院の意味や必要性について適切に判断できないにもかかわらず,入院の説明をしたときに明確に拒否しなかったというだけで任意入院にするには問題がある.本人が自身の病気や入院の意味について理解せず,またいつでも自らの意思で退院できることについても理解できないまま,長期の入院生活を余儀なくされるようなことがあれば,かえって医療保護入院などの非自発的な入院よりも人権侵害につながりかねない.任意入院の場合は報告書などを行政へ提出する必要もなく,入院の実態がおもてに出にくいところがあり,不要な入院が継続されるおそれがある.そういう弊害を防ぐ意味でも,適切な判定によって,精神障害者への医療および保護がなされなければならない.
ここからは,「医療保護入院の入院届・定期病状報告書」の記載のしかたについて述べる.
①病名
病名は,現在,ICD-10(国際疾病分類第10版)に基づく病名を記載することが求められる.入院時には診断が確定していない場合などは,状態像診断名や,疑い病名を記載することでも認められることもあるが,12ヵ月後の医療保護入院の定期病状報告書を提出するときには,確定した診断名をつけることがのぞましい.
②生活歴および現病歴,現在の精神症状,医療保護入院の必要性
医療保護入院の必要性について明確に記載しなければならない.単に,精神症状の重さや問題行動があることによって入院させるべきと判断したということだけでは理由にはならない.患者自身の病気への理解の程度を含め,任意入院が行われる状態にないと判断した理由を明確に診断書に記載することが必要である.入院後は,本人が病気を理解し,主体的に治療を受けることができるような取り組みを医療機関が努力することとなる.定期病状報告書には,過去12ヵ月間の治療をどのように行ったか,治療を適切に行ったにもかかわらず,通院や任意入院に変更できなかった理由をわかりやすく記載しなければならない.
今回の精神保健福祉法改正では,医療保護入院の入院届に,選任された退院後生活環境相談員を記載し,退院に向けた入院診療計画書を添付して提出することが義務づけられている.定期病状報告書にも,退院に向けた取り組みの状況を記載する欄が設けられている.入院当初から退院に向けて,入院医療中心から地域生活中心の取り組みに向けて取り組むべく位置づけられているといえる.医療保護入院に関する書類は,入院のための手続き書類から,精神障害者の地域生活につなげるための書類へと変わってきている.地域精神保健福祉への確かなつなぎのためにも,精神科医には書類記載を適切に行っていただきたい.
III.自立支援医療(精神通院医療)診断書
自立支援医療(精神通院医療)の制度は,通院精神科医療を必要とする精神障害者に適正な医療を提供するための制度である.この制度を利用するときには,適正な公費支出となるように審査判定が行われる.自立支援医療(精神通院医療)の対象となる精神疾患があるか,通院による継続した精神科医療が必要であるか,その病態は公費を支給すべき病態であるかなどが,精神保健福祉センターにおいて審査判定される.
対象となる精神疾患は,精神保健福祉法第5条に規定される精神疾患であって,ICD-10のFコードに分類されるが,G40に該当するてんかんについても精神通院医療の対象として認められている.医療の範囲としては,精神障害および当該精神障害に起因して生じた病態に対して病院または診療所に入院しないで行われる医療となっている.また,症状がほとんど消失していても,軽快状態を維持したり,再発を予防したりするために通院医療を続ける必要がある場合も対象となる.
どの程度の病態であれば,自立支援医療(精神通院医療)の受給対象となるかは,国が定めた判定指針などで規定されている.原則的には,「精神病あるいはそれと同等の病態にあること」とされている.「精神病あるいはそれと同等の病態である」ことに加えて,その病態が「持続するか,あるいは消長を繰り返し,継続的な通院による精神療法や薬物療法を必要とする」場合とされている.長期間にわたって精神病やそれと同等の病態があり,継続的な医療を必要とする人が,経済的な負担などのために医療を受けられないということがないように負担を軽減する制度である.精神科の通院医療を利用するすべての場合の医療費を軽減する制度ではない.ごく短期間だけ通院する場合,たまに精神科を受診するという場合は対象にはならない.また,複数の医療機関を自由に利用するとか,緊急のときのために他の医療機関も利用できるようにしておきたいとかいった使い方はできない.
この制度が正しく利用されるために,自立支援医療(精神通院医療)のための診断書を記載する医師には,病状や状態像などが公費負担を要する程度であることが明確にわかる診断書作成をしていただきたい.診断書をただ書きさえすれば,すべて承認認定されるというわけではないことに留意していただきたい.
以下,記載のポイントについて挙げていく.
自立支援医療(精神通院医療)用の診断書には,①病名,②発病から現在までの病歴,③現在の病状,状態像など,④病状,状態像の具体的程度,症状,検査所見など,⑤現在の治療内容,⑥今後の治療方針,などを記載する.病名が適正であるか,ICDコードは正確に記載されているかどうかを確認する.これまでの病歴や現在の病状,状態像の記載から,自立支援医療(精神通院医療)の対象となる状態像かどうかが判定される.できる限り具体的に記載することが必要である.継続的な通院による医療が必要であることは,薬物療法は具体的な薬剤名とその用法用量,精神療法などは具体的な内容や頻度などを記載することで,審査判定のときに理解されやすくなる.医療のすべてが公費負担の対象とはならないので,精神科医療に関係するもののみを記載しなければならない.診断書の記載の不備によって,申請者である精神障害者が不利益を受けないよう,診断書を記載する医師が丁寧に記載することがのぞまれる.
IV.精神障害者保健福祉手帳診断書
精神障害者保健福祉手帳5)6)7)は,精神保健福祉法第45条に規定される精神障害者の保健福祉施策の要となるものである.1995(平成7)年に精神障害者保健福祉手帳の制度が創設された.2002(平成14)年からは,精神保健福祉センターにおいて手帳の交付の可否,障害等級の判定が行われている.2011(平成23)年からは,診断書様式が改正され,発達障害や高次脳機能障害の病状などが記載しやすい様式となった.精神障害者保健福祉手帳の申請は,診断書などを添えて,居住地の市町村長を経て都道府県知事に提出され,精神保健福祉センターにおいて審査判定される.その際,診断書の記載の不備などによって判定にかけられないものも出てくる.記載の不備などがあった場合には,診断書を作成した精神科医療機関,医師に問い合わせたり,返戻して内容の補正を求めたりしている.そのために,手帳の交付が遅くなったり,ときには交付されなかったりすることもある.診断書に記載された内容の不備については,申請した精神障害者にはいかんともしがたい.それゆえ,診断書を記載する医師には適正で丁寧な診断書作成がのぞまれる.どういう点に気をつけて診断書を作成しなければならないか,また,どういうところを審査判定の際に確認しているか,いくつかポイントを挙げていく.
①病名
原則としてICD-10にのっとった病名を記載する.旧来の病名をつけるとしてもICD-10コードは必須である.精神障害者保健福祉手帳は,診断が知的障害(精神遅滞)のみで他の精神症状のない場合には対象とはならない.
②初診年月日
診断書は,初診日から6ヵ月以上経過したものでないと認められない.
③発病から現在までの病歴および治療の経過,内容
発病のときからの現在までの病状などを詳しく書くことが必要である.ときに,前回と同じ内容をコピーしているかのようなものが提出される.前回から何の変化もないというのは考えられない.治療の経過や,内容を含め,治療にどれだけの努力が払われ,結果,どの程度の病状,そして生活能力の状態に至っているのかを読み解くためにもわかりやすい記載がのぞまれる.
④現在の病状,状態像
一時点での症状ではなく,過去2年間にみられたもの,今後2年間に予想されるものも含めて記載する.てんかんでは発作のタイプや頻度で等級判定がされるので,発作のタイプ,発作の頻度,最終発作の年月日が正確に書かれていることが必要である.
⑤ ④の病状,状態像の具体的程度,症状,検査所見など
病状や状態像が具体的に記載されることで,どの程度の生活障害を来たしているかが明らかにされる.同じ障害であっても,個人個人で具体的な病状,状態像は違っているはずであり,判で押したような同じ記載は本来ありえない.
⑥生活能力の状態
等級判定するために重要な部分であり,保護的な環境下でない状況での,本人の生活能力を適正に判定することが重要である.福祉的支援を増やすために実際より重めにつけてあげるとかいう行為は,公平公正な判定を妨げ,福祉制度を壊していくことにもなりかねない.適正な記載が求められる.
⑦ ⑥の具体的程度,状態像
⑥の記載は,項目を○で囲むだけになる.当然それだけでは詳細がわからない.この欄に具体的な記載をすることで,生活障害の状況が明確となる.
⑦現在の障害福祉などのサービス利用状況
現在どのような支援を受けているか,障害福祉サービスを受けて活動ができているかどうかが,等級判定の参考にもなるので,詳しい情報がのぞまれる.
精神障害者保健福祉手帳の審査判定をするとき,事実上,一枚の診断書を通してしか情報はない.そこから手帳交付の可否や障害等級が決定される.一人一人の生活能力を適正に記載していくことをこころがけてほしい.
おわりに
診断書などの書類の作成は,多忙な臨床の中で精神科医に大きな負担になっていると思われる.しかしながら,適正な精神科医療の確保,精神障害者の人権擁護,精神障害者の自立と社会参加の促進を図るためにも,精神科医には丁寧で適正な記載をお願いしたい.単なる書類作成ではなく,精神障害者への様々な支援につながる重要な書類であることを常に念頭に置いて書類を作成してもらいたい.
第110回日本精神神経学会学術総会=会期:2014年6月26~28日,会場:パシフィコ横浜
総会基本テーマ:世界を変える精神医学―地域連携からはじまる国際化―
教育講演:精神科医が記載する書類で知っておくべきこと―医療保護入院,自立支援医療,精神障害者保健福祉手帳など― 座長:山口 哲顕(医療法人正永会港北病院)
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
1) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知: 自立支援医療費 (精神通院医療) の支給認定判定指針. 平成18年3月3日障発第0303002号
2) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知: 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律の施行について. 平成26年1月24日障発0124第1号
3) 厚生省大臣官房障害保健福祉部精神保健福祉課長通知: 精神科病院に入院する時の告知等に係る書面及び入退院の届出等について. 平成12年3月30日障精第22号
4) 厚生省保健医療局長通知: 精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について. 平成7年9月12日健医発第1132号
5) 厚生省保健医療局長通知: 精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について. 平成7年9月12日健医発第1133号
6) 厚生省保健医療局精神保健課長通知: 精神障害者保健福祉手帳の診断書の記入に当たって留意すべき事項について. 平成7年9月12日健医精発第45号
7) 厚生省保健医療局精神保健課長通知: 精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準の運用に当たって留意すべき事項について. 平成7年9月12日健医精発第46号
8) 宮岡 等: 精神障害者保健福祉手帳の判定マニュアルの作成及び実態把握に関する研究. 平成24年度厚生労働科学研究費補助金 (障害者対策総合支援事業) 総括・分担研究報告書. 2013
9) 白澤英勝: 平成16~17年度厚生労働科学研究費補助金 (障害保健福祉総合研究事業)「精神障害者保健福祉手帳の判定のあり方に関する研究」総合研究報告書. 2006
10) 山下俊幸: 自立支援医療 (精神通院医療) の適正な給付に関する研究. 平成19年度厚生労働科学研究費補助金 (こころの健康科学研究事業)「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究」分担研究報告書. 2008