Advertisement第121回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第11号

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教育講演
第111回日本精神神経学会学術総会
被虐待者の脳科学研究―発達障害や愛着障害の脳科学研究―
友田 明美
福井大学子どものこころの発達研究センター
精神神経学雑誌 117: 928-935, 2015

 児童虐待への曝露と,うつ病やPTSDなどを含む精神疾患や認知機能低下,脳形態や脳機能の変容との関連性があることは,すでに広く知られている.筆者らのこれまでの検討でも,児童虐待が脳構造(灰白質容積や皮質の厚さ)に影響を及ぼすことが明らかになってきた.最近の脳形態画像解析により,不適切な養育に起因する反応性アタッチメント障害(RAD)では,左半球の一次視覚野(ブロードマン17野)灰白質容積が有意に減少していることがわかった.視覚野は知覚や認知処理だけではなく,視覚的な感情処理に関連する領域である.その障害およびその心的機能の問題に関与する脳構造異常は,感情制御機能に問題が生じるだけでなく,精神疾患に寄与することが予想される.一連の知見から,単独の被虐待経験は一次的に感覚野(視覚野や聴覚野など)の障害を引き起こすが,より多くのタイプの虐待を一度に受けると大脳辺縁系(海馬や扁桃体など)に障害を引き起こすことが示唆される.

索引用語:児童虐待, マルトリートメント, トラウマ, 反応性アタッチメント(愛着)障害, 脳科学>

はじめに
 昨今,急増している児童虐待には,①殴る,蹴るといった身体的虐待,②性的な接触をしたり,性行為やポルノ写真・映像にさらしたりする性的虐待,③不適切な養育環境や食事を与えないなどのネグレクト,④暴言による虐待,子どもの目の前で家族に暴力をふるうなど家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス:DV)を目撃させる行為などの心理的虐待が含まれる.こうした虐待により命を落とす子どもがいるという痛ましい事実を,多くの人が知っていることだろう.養育者の暴力の結果,生涯に及ぶ障害を負う子どももいる.しかし何とか虐待環境を生き延びた子どもたちであっても,他者と愛着を形成する上で大きな障害を負い,身体的および精神的発達に様々な問題を抱えている.その上,児童虐待によって生じる社会的な経費や損失が,2012年度で少なくとも年間1兆6,000億円にのぼるという試算も発表されている24).児童虐待が子どもの心に与える影響だけでも重大であることはもちろんだが,その負債は確実にわが国全体を覆いつつある.
 児童虐待への曝露と衝動抑制障害,薬物・アルコール乱用,非社会性パーソナリティ障害,全般性不安障害などを含む精神疾患との関連性は,すでに広く知られている.7万人以上を対象とした疫学調査で,精神疾患の一部は児童虐待に起因することがわかり,児童虐待をなくすと,物質乱用の50%,うつ病の54%,アルコール依存症の65%,自殺企図の67%,静脈注射薬物乱用の78%を減らすことができるという結果が出た9).これは,医療費の削減にもつながる.また,虐待への曝露と薬理的な関係もみられている.被虐待歴がある人は,被虐待歴がない人に比べ,抗不安薬を処方されるリスクが2.1倍,抗うつ薬では2.9倍,向精神薬では10.3倍,気分安定薬では17.3倍であるとされる.さらに,被虐待経験者は,老化のマーカーであるテロメアの侵食がみられ,寿命も平均に比べ20年も短いなど,医学的な影響もみられている4)
 本稿では,様々なタイプの児童虐待の脳発達に及ぼす影響について,被虐待と脳発達の感受性期との関係も含めて概説する.また,最近わかってきた愛着形成障害の脳構造異常について概説する.

I.様々な虐待経験が及ぼす脳への影響
 近年,MRIを用いた脳の画像解析により,小児期に虐待を受けた経験をもつ心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)患者では,健常者と比較して海馬のサイズが小さくなっていることが確認された3).さらに,情動や刺激の嫌悪性の評価などに重要な働きをもっている扁桃体や,理性的な判断など高次の精神機能を担う前頭前野などでも,虐待による変化が指摘されている.
 筆者は,米国ハーバード大学との共同で,性的虐待や厳格体罰,暴言虐待,両親間のDV曝露がヒトの脳に与える影響を調べ,脳の容積や髄鞘化が変容する現象を報告してきた1)15)18-22)図1).
 こうした脳の損傷は「後遺症」となり,将来にわたって子どもに影響を与える.トラウマ(心的外傷)体験からくるPTSD,記憶が欠落したりする解離など,その影響は計り知れない.これらの症状に対して適切な治療を施さなければ,うつ病の発症や自殺行為,衝動的な行動につながることがあり,薬物やアルコール依存のほか,性犯罪の加害者にも被害者にもなりうるなどの事態に至ることもある.既報では児童虐待による薬物乱用,うつ病,アルコール依存,自殺企図への進展は50~78%の人口寄与リスクがあるといわれている16)

1.性的虐待による脳への影響
 一般市民から公募した554人の学生から体験を聞き取り,「子ども時代に性的虐待を受け,他の種類の虐待は受けていない」女子学生23人を選び出した.子ども時代に性的虐待を受けた人は,大脳皮質の後頭葉にある「視覚野」の容積が18%も減少していた19).特に影響が大きいのは11歳以前の被虐待経験であった.視覚野はそもそも「目の前のものを見る」だけでなく,ビジュアルな記憶の形成と強くかかわっている.視覚野の容積減少は「視覚的なメモリ容量の減少」につながっている可能性がある.
 特に影響が目立つのは,視覚野の中でも顔の認知などにかかわる「紡錘状回」で,対照群よりも平均18%も小さかった.
 また,脳は右半球と左半球からなっているが,そのうち左の視覚野で影響が際立っていることがわかった.これは何を意味するのか? 右の視覚野は物の全体像をとらえる働きをし,左は細部をとらえる働きをしている.性的虐待被害者の左の視覚野が小さくなっているのは,詳細な画像を見ないですむように無意識下の適応が行われたのかもしれない.この領域では,視覚的な感情処理も行われている.嫌な出来事が終わっても,それを視覚的に想起するたび活性化することが考えられる.

2.暴言虐待による脳への影響
 言葉による虐待(暴言虐待)が脳に与えるダメージを見逃してはいけない.一般市民1,455人から抽出し,母親から「ゴミ」と呼ばれたり,「お前なんか生まれてこなければよかった」というような言葉を浴びせられたりするなど,物心ついた頃から暴言による虐待を受けた被虐待者たちを集めて脳MRIを調べた調査では,スピーチや言語,コミュニケーションに重要な役割を果たす,大脳皮質の側頭葉にある「聴覚野」の一部の容積が増加していた20).なかでも左脳の聴覚野の一部である上側頭回灰白質の容積が平均14.1%も増加していることがわかった.そして暴言の程度が深刻であるほど,影響は大きかった.暴言の程度をスコア化した評価法(Parental Verbal Aggression Scale)による検討では,同定された左上側頭回灰白質容積は母親(β=0.54,p<0.0001),父親(β=0.30,p<0.02)の双方からの暴言の程度と正の関連を認めた.一方で,両親の学歴が高いほど同部の容積はむしろ小さいことがわかった(β=-0.577,p<0.0001).
 聴覚野は他人の言葉を理解したり,会話することなど,コミュニケーションの鍵となる聴覚性の言語中枢(ウェルニッケ野)がある場所でもある.被暴言虐待者脳の拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Image:DTI)解析でも,あるタイプの失語症と関係している領域(弓状束)を含めた聴覚野の拡散異方性の低下が示されている6)
 以上の結果から,親から日常的に暴言や悪態を受けてきた被虐待児においては,聴覚野の発達に影響が及んでいることが推察された.暴言を受け続けると,聴覚に障害が生じるだけでなく,知能や理解力の発達にも悪影響が生じ精神疾患を発症することも報告されている10)18).言葉の暴力は,身体には傷をつけないが脳に傷をつけることを看過してはならない.

3.厳格体罰による脳への影響
 小児期に過度の体罰を受けると様々な精神症状を引き起こすことが知られている.一般市民1,455人から「深刻な体罰を経験し,他の種類の虐待は受けていない」男女23人を抽出した.「厳格な体罰(頬への平手打ちやベルト,杖などで尻をたたくなどの行為)」を長期かつ継続的に受けた人たちの脳では,対照グループに比べて,前頭前野の一部である「右前頭前野内側部」の容積が平均19.1%も小さくなっていた18).この領域は,感情や思考をコントロールし,犯罪の抑制力にかかわっているところである.さらに集中力・意思決定・共感などにかかわる「右前帯状回」も,16.9%の容積減少がみられた.物事を認知する働きをもつ「左前頭前野背外側部」も14.5%減少していた.
 これらの部分が障害されると,気分障害(感情障害)や,非行を繰り返す素行障害などにつながるといわれる.体罰と「しつけ」の境界は明確ではない.親は「しつけ」のつもりでも,自分たちのストレスが高じて過剰な体罰になってしまう,これが最近の虐待数の増加につながっているのではないかと思われる.

4.両親間のDV目撃による脳への影響
 夫婦間のDVを目撃させる行為が心理的虐待の1つにあたることが,児童虐待防止法でも定義されている.両親間のDVを目撃した子どもには様々なトラウマ反応が生じやすく,知能や語彙理解力にも影響があることが知られていた.DVを平均4.1年間目撃して育った人は,視覚野(ブロードマン18野:舌状回)の容積が平均16%減少していた21).その一方で,視覚野の血流は8.1%増加していた.これはつまり,この部位が過敏・過活動になっていることを示す.
 なかでも11~13歳の頃にDVを目撃した人で,こうした影響が際立っていた.さらに注目すべき事実がある.DVには殴る・蹴るなどの身体的暴力だけでなく,罵倒するなど言葉の暴力もあるが,こうした「言葉によるDV」を目撃してきた人の方が,身体的DVを目撃した人より,脳のダメージが大きかった.具体的には,視覚野の一部で夢や単語の認知に関係する舌状回の容積が,身体的DVは3.2%の減少に対して言葉によるDVでは19.8%の減少と6倍にもなっていた.さらに複数のタイプの虐待を受けた場合,脳へのダメージはより複雑になり,深刻化する.よって,非身体的虐待と身体的虐待を分けるのはナンセンスであろう.

図1画像拡大

II.被虐待ストレスと脳の感受性期
 以上で述べた被虐待者たちは,様々な虐待の中でも単一なものを選んで集めたものである.これらの結果からいえることは,単独の被虐待経験は一次的に感覚野(視覚野や聴覚野など)の障害を引き起こすが,より多くのタイプの虐待を一度に受けるともっと古い皮質である大脳辺縁系(海馬や扁桃体など)に障害を引き起こす21)
 一連の脳の変化は,過酷な状況の中でも何とか適応して生きてきたその証であろう.視覚,聴覚,身体感覚などにかかわる部分が過剰に活動しているのは,外界の刺激に対して敏感になっていることを示す.周囲の世界が戦場のようにいつ何が起きるかわからないとしたら,こうした敏感さが必要になるのであろう.
 深刻な虐待を体験した人では恐怖をつかさどる扁桃体が過活動になるが,これも常に警戒して危険に備えておくためだろう.また,虐待を受けた人では性的な行動が早くから始まる傾向がある.危険に満ちた世界の中を生き延びて,少しでも子孫を残せるように,という適応ではないだろうか.
 虐待ストレスを受けると,そのダメージから回復するためのホルモンが分泌される.抗炎症反応をもつ「コルチゾール」だ.しかし,あまりに多量のコルチゾールにさらされると,神経細胞が変形したり破壊されてしまう.特にダメージを受けやすいのが,コルチゾール受容体がたくさんある海馬である.扁桃体が興奮することが続くと,キンドリング現象と呼ばれるものが起きる.これは,神経細胞が何度も刺激にさらされることで,少しの刺激でも反応が起きるようになっていくしくみである.わかりやすく言えば,繰り返しのストレス体験によって,ストレスに弱い脳になっていく.このキンドリング現象は,幼い脳ほど起こりやすい.
 いずれにしても,短期的にみれば生き延びるために不可欠な反応が,長期的には様々な困難や不都合を引き起こす.成人してからのアルコール・薬物依存や,うつ病,摂食障害,自傷,自殺企図などの精神的な問題の原因の少なくとも一部は,脳の発達段階で負荷がかかることであろう.
 自ずと,重度の小児期の被虐待歴と精神疾患を併せもつ患者と,被虐待歴がなく同じ診断名をもつ患者が,神経生物学的,そして遺伝学的にどのように違うのかがわかってくる.最近では,被虐待経験者にみられる疾患は「生態的表現型(ecophenotype)」と呼ばれている17).うつ病でもPTSDでも,背景にトラウマがあるケースは,そうでないケースに比べて発症年齢が低く,多重診断が多く,初期治療への反応がよくないことがわかっている.これらの違いに気づいてトラウマへの対応を行うことが,全体の治療経過を高め,また,発達精神病理学の生物学的基礎研究を促進することにつながるであろう.
 では虐待を受けた年齢によって脳が受ける影響はどのように違うのか.性的虐待を受けた時期の違いによる脳灰白質容積を重回帰分析で検討したところ,視覚野以外にも,性的虐待の影響があると考えられる脳の部位があり,その部位は,虐待を受けた年齢によって異なっていた1).記憶と情動にかかわる「海馬」は3~5歳の虐待で重大な影響を受けており,左右の脳の情報をつなぐ「脳梁」は9~10歳の虐待による影響が大きい.意思決定を行う「前頭前野」は14~15歳頃の虐待による影響が目立ち,虐待ストレスによって様々な脳部位の発達がダメージを受けるには,それぞれに特異な時期(感受性期)があることがわかった.

III.愛着形成障害の脳形態異常
 愛着(アタッチメント)は,「子どもと特定の母性的人物に形成される強い情緒的な結びつき」である.乳幼児期に家族の愛情に基づく情緒的な絆,すなわち愛着が形成され,安心感や信頼感の中で興味・関心が拡がり,認知や情緒が発達する.Bowlbyは,生後1年以内の乳児にもその乳児における母性的人物に対する特有の愛着行動パターンが生得的に備わっていると考えた2).子どもは養育者に愛着行動を示すことにより,養育者を自分の方に引き寄せ,養育者との距離を近くに保つことによって,欲求を充足し外敵から身を守っていると考えられる.
 一方,愛着形成障害は基本的に安全が脅かされる体験があっても愛着対象を求められない状態である.文字どおり,養育者との愛着関係(きずな)がうまく形成されないことによる障害で,深刻な虐待がその背景にあるとされる.コミュニケーション上の問題や行動上の問題など,一見すると従来の発達障害の子どもと似た特徴を示す場合も多い.子どもの基本的な情緒的欲求や身体的欲求の持続的無視,養育者が繰り返し変わることにより安定した愛着形成が阻害されることが病因とされている.特に,不適切な養育(マルトリートメント)に起因する反応性アタッチメント障害(reactive attachment disorder:RAD)は,感情制御機能に問題を抱えており,多動性行動障害,解離性障害,大うつ病性障害,境界性パーソナリティ障害などの重篤な精神疾患へ推移するとされる23)
 筆者らは,RADの脳形態異常を探るために,DSM-5基準を満たしたRAD児21人の脳皮質容積を調べてみたが,定型発達児22人に比べて,左半球の一次視覚野(ブロードマン17野)の容積が20.6%減少していた(図213).その視覚野の容積減少は,RAD児が呈する過度の不安や恐怖,心身症状,抑うつなど,「子どもの強さと困難さアンケートの内向的尺度」と明らかに関連していた.子ども時代に虐待を受けた成人は視覚野の灰白質容積減少19)21)があり,しかもそれらの成人は後頭から側頭領域を結ぶ下縦束(inferior longitudinal fasciculus:visual limbic pathwayの一部)の白質線維が減少していた7).視覚野は知覚や認知処理だけではなく,下縦束を介して大脳辺縁系(扁桃体や海馬)とともに先述した視覚的な感情処理に関連する領域である.一連の異常は,HubelとWieselが報告した仔ネコの視覚野に関する歴史的な発見8)を思い起こさせる.同様に,ヒトにおいても生後の視覚的経験,おそらく視覚刺激の減少が生後の脳発達における活動依存的な神経回路変化を引き起こし,同部位の形態学的変化が生じたと推測される.さらに,その形態学的変化はRAD児が呈する内向的な問題行動または感情調整機能の低下に影響を及ぼしていることが示唆される.しかし,シナプス可塑性の観点から考えると,この変化は可逆的であろう.

図2画像拡大

おわりに
 児童虐待への曝露が脳に及ぼす数々の影響をみてみると,人生の早い時期に幼い子どもがさらされた想像を超える恐怖と悲しみの体験は,子どもの人格形成に深刻な影響を与えずにはおかない.このことは一般社会にも認知されてきたようである.子どもたちは癒やされることのない深い心の傷(トラウマ)を抱えたまま,様々な困難が待ち受けている人生に立ち向かわなければならない.それは厳しい道のりで,挫折してしまうことが多いということは先述のとおりである.
 しかし脳の傷は決して治らない傷ではない.環境や体験,ものの見方や考え方が変わることで脳も変化する.子どもの脳は発達途上であり,可塑性という柔らかさをもっている.早いうちに手を打てば回復するであろう.そのためには,専門家によるカウンセリングや解離に対する心理的な治療,トラウマに対する心のケアを,慎重に時間をかけて行っていく必要がある.トラウマによる傷つきが回復するのに必要なことは,子どもでも大人でも,基本的に同じである.安心・安全な環境,自分に起きていることの理解(心理教育),過去の体験と感情を安全な場で表現する,そして健康に生きるためのライフスキルを習得することが重要である11).ちなみに母子分離された子どものラットはストレス耐性が低くなるが,その後に十分な養育環境の中に移すと,ストレス耐性が回復することも報告されている5).この点を踏まえて,被虐待者たちの脳の異常も多様な治療で改善される可能性があると考えられる.
 近年,人生の最初期における愛着形成,信頼の形成が人間の発達にとって決定的に重要であるとの認識が広まっていることは意義深い14).というのは,そこから生まれてくるのは子どもたちに対する視点だけではなく,同時に,親になった者たちの困難さにも寄り添うことにつながるからである.少子化・核家族化が進む社会の中で,育児困難に悩む親たちは容易に支援を受けることができず,ますます深みにはまっていく.異世代間の児童虐待(いわゆる世代間連鎖)の発生率を予測した報告12)では,子ども時代に虐待を受けた被害者が,親になると子どもに虐待を行う傾向が指摘されている.自分の子どもに対して虐待する者がおよそ3分の1,普段問題はないがいざ精神的ストレスが高まった場合に自らの子ども時代と同様に,今度は我が子に対して虐待する者が3分の1いると見積もられている.親を社会で支える体制は,いまだ乏しいのが現実である.そういう意味では,虐待を減少させていくためには,多職種と連携し,また,子どものみならず親たちとも信頼関係を築き,根気強く対応していくことから始めなければならない.一連のエビデンスについての理解が,大人が責任をもって子どもと接することができる社会を築き,少しでも子どもたちの未来に光をあてることができればと願っている.

 第111回日本精神神経学会学術総会=会期:2015年6月4~6日,会場=大阪国際会議場,リーガロイヤルホテル大阪
 総会基本テーマ:翔たくわれわれの精神医学と医療―世界に向けてできること―
 教育講演:被虐待者の脳科学研究―発達障害や愛着障害の脳科学研究― 座長:飯田 順三(奈良県立医科大学医学部看護学科)

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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