Advertisement第121回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第9号

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総説
向精神薬の副作用モニタリング・対応マニュアル―日本精神神経学会薬事委員会タスクフォース報告―
三浦 智史1)2), 中西 翔一郎3), 神庭 重信4), 内田 裕之2)5), 齊尾 武郎2)6), 鈴木 映二2)7), 鈴木 雄太郎2)8), 高橋 啓介2)9), 中川 敦夫2)10), 三國 雅彦2)11), 山田 和男2)12)
1)九州大学病院精神科神経科
2)日本精神神経学会薬事委員会向精神薬の副作用診断・治療対応マニュアルタスクフォース班
3)国立病院機構九州医療センター精神科
4)九州大学大学院医学研究院精神病態医学
5)慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室
6)フジ虎ノ門健康増進センター
7)国際医療福祉大学熱海病院心療・精神科
8)新潟大学医歯学総合病院精神科
9)群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学
10)慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター
11)国際医療福祉大学病院精神科
12)東京女子医科大学東医療センター精神科
精神神経学雑誌 116: 735-745, 2014
受理日:2014年4月18日

 近年,多くの向精神薬が上市されており,精神科薬物療法は目覚ましい発展をとげてきている.しかし,その一方で,安全性に関する情報も膨大となってきており,日々の多忙な日常診療において,そのすべてに精通して対応するのは困難である.もとより,副作用を完全に予防することは不可能であるが,一方では後方視的にみると予防可能な副作用も多く認められている.このような状況の中,日常診療で簡便に利用可能な,向精神薬の副作用診断と治療に関する対応マニュアルが希求されている.日本精神神経学会薬事委員会では,これらの問題に対応するために,各副作用に対する対応マニュアルを作成すべく「向精神薬の副作用診断・治療対応マニュアルタスクフォース」を立ち上げた.本総説では,そこで行われた議論を踏まえて,向精神薬の副作用に関する全般的事項をまとめ報告するものである.加えて,各種ガイドラインなどで推奨されている副作用モニタリングについて解説し,副作用により障害が発生した場合に利用可能な医薬品副作用被害救済制度についても概説する.

索引用語:向精神薬, 副作用, 薬物安全性モニタリング, 医薬品副作用被害救済制度>

はじめに
 オーストラリアの精神科医であるJohn Cadeがリチウムの抗躁作用を報告して以降,精神科薬物療法の発展には目覚ましいものがあった.しかし,その一方で,ますます複雑化する精神科薬物療法において,安全性に関する情報も膨大となり,多忙な日常診療で簡便に利用できる向精神薬の副作用診断と治療に関する対応マニュアルの作成が要請されている.そこで,日本精神神経学会薬事委員会では,「向精神薬の副作用診断・治療対応マニュアルタスクフォース」を立ち上げ,向精神薬の副作用モニタリング・対応マニュアルを作成してきた.その成果の一部を,それぞれの身体科の専門医に校閲を受けたうえで,日本精神神経学会webページにおいて公開している16).実際の診療は,個々の医師の裁量権に基づいて工夫して行われるべきものであり,多くの個別要因が臨床的判断に影響するので,これらのモニタリングマニュアル通りの診療でなければ正しい医療水準とはいえないとするものではない.また,現在の保険診療の範囲内でそのまま認められていないような検査も含まれているが,必要なモニタリング検査については,レセプト申請にあたって,その症例において検査が必要な理由を明記して申請するように推奨されている.今後,さらに多くの副作用についても,同様のマニュアルを作成する予定となっている.本稿では,タスクフォースの試みおよびその成果を紹介するとともに,タスクフォースで議論となった事項を踏まえて,その内容を総論としてまとめた.

I.医薬品副作用被害救済制度について
 はじめに,タスクフォースでたびたび話題となり,ぜひすべての処方医に知っておいていただきたい制度として,わが国における医薬品副作用被害救済制度について紹介する7).副作用は,細心の注意をはらって診療を行ったとしても,その発生を完全に予見することは不可能であり,完全に防止することは困難である.そこで,適正に使用されたにもかかわらず,副作用によって一定レベル以上の健康被害が生じた場合に救済を行う制度として医薬品副作用被害救済制度が制定されている.医薬品医療機器総合機構法に基づく公的な制度であり,現在の独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)の前身にあたる医薬品副作用被害救済基金により昭和55年より開始された.救済給付されるのは,医療費,医療手当,障害年金,障害児養育年金,遺族年金,遺族一時金,葬祭料の7種類と規定されている.
 特に強調しておきたいことは,副作用被害者がこの制度を利用するには,医薬品が「適正に使用」されていることが前提となるということである.PMDAのQ & Aには,個別の事例については,現在の医学・薬学の学問水準に照らして総合的な見地から判断されるとしながらも,原則的には医薬品の容器あるいは添付文書に記載されている用法・用量および使用上の注意に従って使用されることが基本となる,と記載されており,処方医が日ごろから薬剤添付文書の内容に精通しておくことが極めて重要であることを示している7).PMDAの報告によると,平成19年度から平成23年度までに同制度に申請された4,888件の事例のうち,不支給が決定されたのは14%にあたる663件であった.そのうちの23%は,使用目的または使用方法が適正とは認められないと判断されている11).精神科領域で本制度が適用される事例としては,皮膚関連障害,悪性症候群,セロトニン症候群,遅発性錐体外路系症状,リチウム中毒などが多いと報告されている24).特に近年,ラモトリギンによる重症皮疹において,適正に使用されていない事例が多く認められているとして,PMDAが注意を喚起している.具体的には,てんかんに対してバルプロ酸との併用でラモトリギンを使用した際に,最初の1週間は25 mg連日投与し,2週目から75 mg連日投与された症例,および双極性障害に対してバルプロ酸やグルクロン酸抱合を誘導する薬剤を併用していない状態で,1日50 mg連日投与で開始された症例などが,いずれも開始時用量が不適切もしくは,その後の増量間隔およびその増加量が不適切であるという理由で適正な使用ではないと判断されている11).また,リチウム中毒症例に関しては,長期間リチウム血中濃度を測定していない場合には,適正使用ではないと判断される可能性がある24).いずれも,精神科医が使用する頻度が高い薬剤であり,これらの薬剤を使用する際には,特に注意深い日常診療を心がけるべきであろう.本制度の仕組みや実際の請求手続き,請求書類など詳細については,PMDAのwebページを参照していただきたい7)

II.用語の定義
 一般的に,副作用とは,薬物による好ましくない作用のことを意味して使用されることが多い.しかし,本来は,薬物の主要な作用である「主作用」に対して,主作用以外の副次的な薬理作用のことを示す用語であり,そこには有害であるとか好ましいなどといった価値判断を含まない用語であった23).英語圏では,前者を“adverse drug reaction”(薬物有害反応)として“side effect”(副作用)とは明確に区別するようになってきており,わが国でも薬物有害反応という表現を目にする機会も多くなっている.ところが,「医薬品承認後の安全性情報の取り扱いについて,緊急報告のための用語の定義と報告の基準」を定めたICH E2Dガイドラインにおいて,“adverse drug reaction”の日本語訳として「副作用」が用いられており,「副作用とは医薬品に対する有害で意図しない反応をいう(訳注:日本では,投与量にかかわらず,医薬品に対する有害で意図しない反応を副作用という)」と定義されている10).本稿では,以後この定義に従って副作用という用語を用いることとする.
 一方,臨床試験で使用される「有害事象」も,副作用と混同しやすい用語である.ICH E2Dガイドラインでは,「有害事象とは,医薬品が投与された患者に生じたあらゆる好ましくない医療上の出来事であり,必ずしも当該医薬品の投与との因果関係があるもののみをさすわけではない」と定義されている.すなわち,有害事象は,投与された医薬品との因果関係の有無を問わないのに対して,副作用では,医薬品と事象の発生との因果関係が疑われるという点が異なっている10)

III.副作用の頻度と社会的な影響
 副作用の発生頻度を正確に見積もることは非常に難しい.Miguelらは,入院中に発生した副作用の頻度に関してメタ解析を行い,その頻度を16.88%であると報告している14).また,Lazarouらは,入院中に発生した副作用と副作用が原因で新たに入院となった症例を合わせて解析を行い,重篤な副作用の発生頻度が6.7%,致死的副作用の発生頻度が0.32%であったと報告した12).残念ながら,これらのメタ解析に,精神科病棟を対象とした研究は含まれておらず,筆者らの知る限りにおいて,精神科病棟もしくは外来における副作用発生頻度に関する報告はみられないようである.
 副作用による経済的な影響としては,入院の理由の中で副作用が占める割合は5.3%(0.16~15.7%)であり,そして,入院中に副作用が認められた場合,入院期間が1.2~3.8日長くなり,患者1人あたり2,284~5,640 USD余計に経費がかかると見積もられている9)19)
 一方で,Hakkarainenらのメタ解析によると,外来患者の2.0%および入院患者の1.6%は予防可能な副作用を有しており,外来および入院患者の副作用のうち,それぞれ52%および45%は,予防可能なものであったと報告されている6)
 このように,薬物の投与を受けている患者の多くが副作用を経験しており,それらが与える経済的なインパクトは決して少なくない.しかし,そのおよそ半分は予防可能なものであると考えられており,有効な副作用予防戦略の構築が希求されている.

IV.副作用の発生機序
 副作用の発生機序は,1)用量関連性副作用,2)非用量関連性副作用,および3)その他に分類される21).用量関連性副作用には,①過量,②不耐性,③標的外組織における標的分子,④標的分子の多機能性,⑤標的分子に対する低選択性,⑥二次的作用,⑦薬物相互作用が含まれており,一般的に投与量が過剰かもしくは投与量から想定されるよりも効果が過大であった場合に認められるものである.一方,非用量関連性副作用には,①特異体質,②薬アレルギーが含まれ,投与量に関係なく発現することが多い.その他の副作用発生機序には,①催奇形性,②発がん性,③適応性変化が含まれている.適応性変化とは,持続的に投与されることにより生じるもので,その薬物を急激に減量中断することにより出現する退薬症候群のことを指している21).一般的に予防可能な副作用は用量関連性副作用であるが,非用量関連性副作用や退薬症候群など,あらかじめ十分な説明を行い注意喚起することにより,そのリスクを軽減可能なものもある.妊娠可能年齢にある女性に対して薬を投与する場合には,常に妊娠の可能性を確認するとともに,催奇形性に配慮した薬物投与が必要になる場合もある.

V.特に注意すべき副作用について
 多種多様な副作用について,そのすべてを日常臨床において確認することは,現実的には非常に困難であるため,ある程度の優先順位をつけて副作用をモニタリングしていく必要がある.その際に,頻度が高い副作用に注目するという考え方は合理的にみえる.しかし,個々の副作用の頻度が,実際には明らかになっていない場合が多いため,現在入手可能な頻度情報をもとに優先順位を付けた場合に,誤解を生じる可能性が高い.よって,タスクフォースでは,「生死にかかわる副作用」および「重篤な後遺症を残す可能性のある副作用」,さらにそれらにつながる可能性のある副作用から,日常臨床で特に重要と思われる副作用について順次取り上げて,対応マニュアルを作成することとした.現在,総論に加えて「薬物性QT延長症候群」「無顆粒球症」「薬物性皮膚関連障害」「薬物性の体重増加・糖脂質代謝異常」「薬物性肝障害」についての対応マニュアル,および「薬物相互作用」に関するマニュアルを作成し,日本精神神経学会webページにおいて公開している(これらマニュアルを参照するには,現在のところ会員としてログインが必要)16).今後さらに内容の充実を図っていく予定であるので,ぜひ日常臨床の参考にしていただきたい.また,厚生労働省も重篤副作用疾患別対応マニュアルを作成公開している8).平易な表現で記載された情報も含まれているので,患者向けの説明文書として日常臨床で有効に活用できる内容となっている.
 これらの副作用に加え,催奇形性を含む妊娠中の向精神薬服用の問題については,タスクフォースでもたびたび話題となった項目である.対応マニュアルの総論に記載すべきであるとの意見も出たが,総論に含めるには分量およびその内容の重要性からも独立した対応マニュアルとして作成すべきであろうとの見解により,今後独立したマニュアルとして作成される予定である.基本的には,妊娠可能年齢の女性に向精神薬を投与する場合には,妊娠の可能性について確認を行うことが必要である.そして,催奇形性の高い薬物を投与する場合には,そのことについての十分な情報提供を行うことが重要となる.また,向精神薬服用中で挙児希望の女性には,計画的な薬物投与管理が必要となる.原則としては,妊娠中に薬物を服用するリスクと服用しないリスクのバランスを考慮し,患者およびその家族に対してそれぞれのリスクを十分に説明し,関係者間で合意納得が得られたうえで治療を進めていくことになる.産科医からも家族が意見を聞くことができる機会を作ることで,合意が得られやすくなる場合がある.特に,催奇形性については,産科医から説明を受けた方が,説得力がある場合がある.一般的には,妊娠中の薬物服用のリスクについて強調されがちではあるが,薬物療法を中断するリスクやその場合の代替治療法についての情報も提供する必要があろう.
 また,薬物療法による影響は,妊娠週数によっても異なっている.妊娠第1三半期は,重要な臓器が発生分化する時期にあたるため,催奇形性が問題となる.催奇形性については,向精神薬を服用している集団としてみた場合には,そのリスクを上げることが明らかな薬剤もあるが,薬物を未服用でも一定のリスクがあることから,実際には服用薬物との因果関係について言及することは困難であると考えられる.妊娠中期以降は,児の発育に対する影響を考慮し,特に,妊娠後期から分娩直前には,児に移行した薬物が出生後の児に与える影響について考慮した薬物療法計画が必要となるであろう.抗てんかん薬や気分安定薬の中には,妊娠経過に従ってその血中濃度が変化することが明らかとなっている薬物があるため,投与量の調整や適切な血中濃度モニタリングが必要となる場合がある.
 妊娠中の女性に薬物療法を継続する場合には,処方を単純化し,使用する薬物の種類を可能であれば単剤にするとともに,投与量も必要最低限にすることが望ましい.実際に,妊娠中の薬物のリスク評価については,いくつかの分類が用いられている.U. S. Food and Drug Administration(FDA)のリスク分類,オーストラリアの分類,わが国では添付文書の記載による山下の分類などがある25).FDAのリスク分類およびオーストラリアの分類の詳細は,それぞれのwebページから参照可能である4)22)

VI.副作用モニタリング
 薬物療法による副作用は,使用している薬および分類,併用薬との相互作用以外にも,服用開始や用量増減からの時間経過により,その種類や重症度が異なってくる.たとえば,SSRIによる悪心・嘔吐などの消化器系副作用は,通常投与開始初期もしくは増量後1週間程度に認められる副作用であるが,抗精神病薬による遅発性錐体外路系副作用は,長期投与にともなって出現してくる副作用である.よって,それぞれの副作用が出現するタイミングを考慮して,副作用モニタリングを行っていく必要がある.
 副作用モニタリングについては,各種疾患治療ガイドラインの中で記載されていることが多い2)17)18)20).また,特定の薬剤を使用している患者や特定の疾患を対象としたモニタリングガイドラインもいくつか公表されている1)5)13)15)
 これらの中で,もっともよく検討されているのは,統合失調症患者および抗精神病薬服用中の患者に対する副作用モニタリングガイドラインである.米国精神医学会が公開している統合失調症患者の治療ガイドライン第2版には,統合失調症患者で推奨される身体および検査評価項目が記載されている2)20).また,それらに加えて薬別に推奨される評価項目が本文に示されており,ベースラインの評価として,身長,体重に加え,脈拍,血圧などの基本的なバイタルサイン,さらに全血球数および血液生化学検査,一般感染症検査,脳画像検査,脳波などが推奨されている.抗精神病薬服用に際しては,薬剤性QT延長症候群のスクリーニングのために,ベースラインでの心電図検査および用量調整時のフォローアップ検査が推奨されており,また必要に応じて高プロラクチン血症のスクリーニングおよびフォローアップ検査も推奨されている.遅発性ジスキネジアを含む錐体外路系副作用については,受診日ごとに臨床的な評価を行うべきとされている.また,特に近年,第二世代抗精神病薬が統合失調症薬物療法の主流となるにつれて,代謝系副作用に対する関心が高まっており,体重測定,脂質プロフィール,空腹時血糖およびHbA1cの定期的なフォローアップ検査が推奨されている.代謝系副作用に関しては,とくにこれらに注目したモニタリングガイドラインもいくつか報告されている.De Hertらは,2000年から2010年までの10年間に公開された統合失調症患者における心血管系リスクに対するガイドラインの質を調査し報告している3).その結果,全世界で18のガイドラインが公開されており,それらはいずれも臨床で使用するのに十分な質を備えていた.米国精神医学会,米国糖尿病学会,米国臨床内分泌学会,北米肥満学会が共同で出した統一見解では,まずは問診でこれら副作用のリスク要因について明らかとし,体重,腹囲,血圧,空腹時血糖,空腹時脂質プロフィールを定期的に検査することを推奨している1)
 双極性障害患者については,国際双極性障害学会が「双極性障害の治療の安全性モニタリングに関する国際双極性障害学会(ISBD)の統一見解ガイドライン」をまとめている15).このガイドラインで推奨されているモニタリングのアルゴリズムは,治療実施前に全患者を対象として行う“基本的”パラメータに加え,各薬剤選択に応じた“追加”パラメータの二本立てからなる.基本的パラメータには,心血管疾患の危険因子を含む身体合併症,喫煙状態など問診によって聴取すべき項目に加え,腹囲,BMI,血圧,全血球数,電解質,腎機能検査,肝機能検査,空腹時血糖,空腹時脂質プロフィールといった臨床検査項目が含まれている.追加パラメータは,リチウムを使用する場合,バルプロ酸とカルバマゼピンもしくはラモトリギンを使用する場合,第二世代抗精神病薬を使用する場合の3つからなっている.リチウムを使用する場合には,ベースラインでTSHおよびCaの測定が推奨されており,治療中は3~6ヵ月ごとの血中濃度モニタリングと,電解質,腎機能検査,体重およびTSH,Caのフォローアップ検査が推奨されている.バルプロ酸とカルバマゼピンもしくはラモトリギンを使用する場合には,ベースラインで血液疾患と肝疾患の既往を聴取し,以後,体重,全血球数,肝機能,空腹時血糖,空腹時脂質プロフィール,骨密度測定などが推奨されている.ラモトリギンについては,発疹に注意するように記載されている.第二世代抗精神病薬使用時の推奨事項は,統合失調症で使用される場合と大きな違いはなく,体重,血圧,空腹時血糖,空腹時脂質プロフィール,心電図とプロラクチン濃度のモニタリングが推奨されている.詳しくは,同ガイドラインの日本語訳が日本うつ病学会のウェブページから入手可能であるので参照されたい15)
 また,うつ病患者を対象とした安全性モニタリングガイドラインについては,Doddらが提唱している5).BMI,腹囲,血圧など基本的な項目に加え,全血球数,肝機能検査,血清電解質,ビタミンや微量元素のチェックが推奨されている.抗うつ薬も薬剤性QT延長症候群の原因薬剤となりうるため,心電図検査も初回および用量変更時に確認することが推奨されている.また,臨床症状の中で,自殺傾向を特にモニタリング項目として改めて取り上げているのは,その結果の重大性にかんがみて妥当であろう.日本精神神経学会webページに掲載した副作用モニタリング対応マニュアル総論には,これらをまとめてタスクフォースとして推奨するモニタリングガイドを示しており,本稿でも表1として示す.日常臨床で役立てていただければ幸いである.

表1画像拡大

おわりに
 本稿では,向精神薬の副作用とそのモニタリングガイドラインについて,その概略を述べた.薬物の副作用は,どれだけ注意深く日常臨床を行っていたとしても完全に予見して予防することは不可能であるといわれている.しかし,ひとたび重篤な副作用が起これば,患者にかかる負担は極めて大きく,場合によっては重大な後遺症を残す可能性もある.我々臨床医は,常にこのことを念頭に置いて,副作用モニタリングに十分な関心を向けながら,向精神薬の適正使用を心がける必要がある.また,添付文書の記載の中には,その科学的な根拠が必ずしも明確に示されていないものもある.副作用の問題が司法の場で議論される際には,処方医が添付文書に記載されていることを遵守していなかったからといって,すなわち過失が認定されることはないであろうが,少なくとも過失が推定される可能性が高いため,明確な科学的根拠をもって有効な反論を行うことができない場合には,処方医にとって不利な状況に置かれる可能性が高い.実際に臨床現場で薬物を投与する場合には,医薬品添付文書の内容に精通しておくことは,極めて重要であるといわざるをえない.本稿およびタスクフォースの成果である副作用モニタリング対応マニュアルが,精神科日常診療の一助となることを期待したい.

 なお,本論文の共著者およびタスクフォース委員は,旭化成ファーマ株式会社,田辺三菱製薬株式会社,日本イーライリリー株式会社,グラクソ・スミスクライン株式会社,持田製薬株式会社より講演料,小野薬品工業株式会社より受託研究・共同研究費,グラクソ・スミスクライン株式会社,大塚製薬より奨学寄附金を受領していることを開示する.

文献

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