Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第3号

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特集 東日本大震災からの復興に向けて―災害精神医学・医療の課題と展望―
福島第一原子力発電所事故の影響―避難者のメンタルヘルス―
丹羽 真一
福島県立医科大学会津医療センター精神医学講座
精神神経学雑誌 116: 219-223, 2014

 東日本大震災と福島第一原発事故から2年が経過した時点で,なお15万人ほどの人々が避難生活を余儀なくされ,うち5万人は福島県外での避難生活を送っている.平成24年2月時点での朝日新聞調査によれば,避難者の感じている生活の不安材料は,放射能(56%),収入(48%),住まい(43%),病気(25%),子どもの就学(21%)という順になっている.県民健康管理調査の中の「こころの健康度・生活習慣調査」によれば,K6の通常のカットオフ値である13点以上を用いた場合には,平成24年6月現在で回答した成人の14.8%がハイリスク者と判定され(対照の先行研究では3%),SDQの通常のカットオフ値である16点を用いた場合,回答した子どもの21.5%がハイリスク児と判定された(対照の先行研究では9.5%).避難者の不安の第一は放射能である.低線量ではあるが放射能汚染が健康へ及ぼす影響に人々が不安を抱くことは自然なことである.大切なことは,「正しく怖がる」ことであるといわれる.科学的な事実を尊重し,正しく危険を避ける行動をとるけれども,それ以上に無闇に怖がらないという態度である.それにもかかわらず客観的な数値が示されただけでは不安が解消しない人もいる.子どもをかかえた親の判断で県外へ子どもを転居させるケースも多い.幼児をかかえる親が,子どもを安心して遊ばせられる場所がほしいと希望することに対して,自治体が大きな室内遊び場を作って提供し,そこで母親同士のコミュニケーションが広がり,リスクコミュニケーションが進むというようになっている.阪神淡路大震災後のこころの回復と東日本大震災後の回復とを比べた場合,東日本大震災後の回復は全体として阪神淡路のときより遅く,福島は岩手・宮城に比して遅い印象があることが指摘されている.福島の場合,原発事故の処理に時間がかかり,汚染水問題などで頻回に懸念事項が報道されることなど,回復の妨げになる出来事があまりにも多いせいで回復に時間がかかっているのであろう.

索引用語:東日本大震災, 福島第一原発事故, 避難者, 放射能汚染, メンタルヘルス>
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