Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第12号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 周産期メンタルヘルスの国際標準化に向けて
向精神薬の催奇形性・胎児毒性に関する近年の国際的評価
渡邉 央美
国立成育医療研究センター妊娠と薬情報センター
精神神経学雑誌 116: 996-1004, 2014

 妊娠中の精神疾患は稀ではなく,向精神薬によって治療することが多い.近年妊婦の向精神薬,特に抗うつ薬の使用が増加している.向精神薬の子宮内曝露の影響についての情報は限られている.抗うつ薬使用についての研究は比較的多いが,母体疾患,飲酒・喫煙など出生転帰に影響する可能性のある他の因子を適切に調整していないものが多い.本稿ではうつ病の治療に最も多く使用される抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を中心に,妊娠中使用の影響について述べる.妊娠中の薬物療法の評価を行うときには,催奇形性と胎児毒性を考慮するべきである.妊娠初期のSSRI使用に関するほとんどの研究では大奇形全体のリスク増加は認められなかったが,一部の研究で心血管奇形発生率の増加と関連する可能性があることが示されている.また,SSRIは胎盤を通過するので,出生前曝露による胎児や小児への短期的または長期的な影響の懸念がある.疫学研究では,分娩直前にSSRIに曝露した新生児の10~30%に新生児不適応症候群がみられたと報告されている.また,いくつかの研究で抗うつ薬子宮内曝露と新生児遷延性肺高血圧症との弱い関連が示されている.最近の研究では,妊娠中の抗うつ薬使用と長期的な神経行動発達への影響との関連についての問題が提起されており,自閉症スペクトラム障害との関連を示した研究が複数ある.一方では,うつ症状も早産,胎児発育遅延,産後うつなどと関連する可能性がある.よって治療方針を決定するときには,未治療の母体疾患による母児双方の転帰に対するリスクを考慮する必要がある.蓄積されたエビデンスをまとめると,母親の抗うつ薬投与による母児の有益性は危険性を上回る可能性がある.今後も,母親の精神疾患,他の曝露などの交絡因子を適切に調整した大規模な前向き研究が望まれる.また,子どもの発達を評価するために十分な追跡期間が必要である.

索引用語:妊娠, 抗うつ薬, 催奇形性, 胎児毒性, 新生児不適応症候群>
Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology