悪性緊張病は,統合失調症や気分障害などの精神疾患のみならず,さまざまな身体疾患を背景に生じる精神症候群であり,緊張病の徴候に加えて,頻脈や高血圧,異常発汗などの自律神経症状や発熱を呈する.致命的な転帰となる可能性の高い病態で,速やかな修正型電気けいれん療法(ECT)の実施が望まれる.今回,われわれは,悪性緊張病を発症したが,血栓症の身体合併症のためにECTを速やかに実施できず,発症直後に良好な反応性を示したベンゾジアゼピン系薬剤の投与を継続したところ良好な治療効果が得られた1例を経験した.症例は,思春期発症の統合失調症の60歳代男性.亜昏迷状態で医療保護入院となったが,間もなく昏迷を呈し,カタレプシーなどの緊張病の徴候に加えて,高熱や高血圧,頻脈,異常発汗などの自律神経症状を伴った.当初は悪性症候群が疑われ,向精神薬の中止とダントロレンの投与が行われたが無効だった.ジアゼパム投与で疎通性が一時的に改善したことから悪性緊張病と診断され,ECTの施行目的に当院に転院した.転院後に,浮動性血栓を伴う深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症が見つかり,ECTの施行に伴う肺動脈閉塞の危険性から,速やかな実施が困難であった.そのため,ベンゾジアゼピン系薬剤で治療継続した結果,病態の改善が得られた.本症例は,身体合併症のため速やかにECTを実施できない悪性緊張病において,発症後2日以内にベンゾジアゼピン系薬剤に良好な反応を示す場合,その継続が有用な治療法となる可能性を示唆しており,文献的考察を加えて報告する.
ロラゼパムが奏効した肺血栓塞栓症を伴った悪性緊張病の1例
金沢大学医薬保健研究域医学系精神行動科学
精神神経学雑誌
126:
791-798, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-128
受理日:2024年7月29日
https://doi.org/10.57369/pnj.24-128
受理日:2024年7月29日
<索引用語:緊張病, 悪性緊張病, 悪性症候群, 統合失調症>